清水理史の「イニシャルB」
ファイル共有だけならルーターでもOK? 4ストリームMIMO対応ルーター4機種のNAS機能を比べる
(2015/7/13 06:00)
NASまでは必要ないものの、簡単にファイル共有できる環境が欲しい。そんなときに便利なのが無線LANルーターのNAS機能だ。最新の4ストリーム対応製品4機種のNAS機能を比べてみた。
NASまでは必要ない
今年の春ごろだっただろうか。とあるNASの製品説明の場で、集まった各媒体の記者に「個人的にどんなNAS使ってるの?」と尋ねたところ、そもそも「使っている」と応えた人がほんの数えるほどだった。
まあ、ほとんど家にいないから、というのがその理由だったが、意外だったのはルーターのNAS機能で十分と考える人が意外に多かったことだ。
多機能化した最新のNASに触れていると、ルーターのNAS機能は、機能名としても語られている通り「簡易」なものが多く、個人的には物足りなく感じてしまうのだが、よくよく考えれば、本格的なNASであろうと、メインの用途は複数台のPC間でのファイル共有やDLNA対応テレビでのメディア再生程度。
筆者のように自宅で仕事をしていれば、外部とのファイルのやり取りなどにも欠かせないが、実はそんなに多くの機能が必要とされているケースは少ない。
そう考えると、「簡易」と言ってもファイル共有やメディア共有ができるルーターのNAS機能でも十分と考えるのも妥当というわけだ。
とは言え、従来のルーターのNAS機能は、機能が少ないだけでなく、性能的にも物足りないものが多かった。ファイル共有のパフォーマンスはUSB 2.0のローカルHDD程度となると、大きなファイル、大量のファイルを扱うようなケースでは、少々物足りなく感じることも多かった。
しかし、無線LANの規格がIEEE 802.11acへと進化し、MIMOのストリーム数が増えたことで、ルーター自身に強力な処理能力が求められるようになり、この状況が変わり始めてきた。
現在では、1GHz以上、複数コアのCPUを搭載したルーターが当たり前となり、その余裕の性能を生かして、NAS機能のパフォーマンスも向上してきている。
実際、ルーターのNAS機能がどこまで使えるのか、4ストリーム対応のIEEE 802.11ac準拠無線LANルーター4製品で検証してみた。
基本機能を比較する
今回、用意したのは、NECプラットフォームズの「Aterm WG2600HP」、バッファローの「WXR-2533DHP」、ASUSの「RT-AC87U」、NETGEARの「R7500」の4製品となる。
いずれも4ストリームMIMOの1733Mbpsでの通信に対応した最新製品で、高性能なCPUやUSB 3.0などの高速なインターフェイスが特徴の製品だ。まずは、スペックから基本的な機能を比較していこう。
NECプラットフォームズ | Buffalo | ASUS | NETGEAR | ||
Aterm WG2600HP | WXR-2533DHP | RT-AC87U | R7500 | ||
インターフェイス | USB 3.0 | 1 | 2 | 1 | 2 |
USB 2.0 | × | × | 1 | × | |
eSATA | × | × | × | 1 | |
複数台接続(USBハブ) | × | ○ | △(USB2.0のみ) | ○ | |
基本機能 | 対応フォーマット | FAT/FAT32 | FAT/FAT32/EXT4 | FAT/FAT32/NTFS(圧縮対応)/EXT2/EXT3/EXT4/HFS+ | FAT/FAT32/NTFS(圧縮対応)/EXT2/EXT3/EXT4/HFS/HFS+ |
複数パーティション | × | ○(4まで) | ○(8まで) | ○ | |
ドライブフォーマット | ○ | ○ | × | × | |
ユーザー認証 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ユーザー数 | 単一(個別設定) | 複数(16) | 複数 | 単一(管理者) | |
アクセス制限 | RW/RO | RW/RO | RW/RO | RW/RO | |
共有フォルダー新規作成 | × | × | ○ | ○ | |
付加機能 | メディアサーバー | ○ | × | ○ | ○ |
iTuensサーバー | × | × | ○ | ○ | |
FTP | × | × | ○ | ○ | |
ブラウザ対応 | ブラウザアクセス | ○(15789) | × | ○ | ○ |
ダウンロード/アップロード | ○ | × | ○ | ダウンロードのみ | |
複数ファイル選択 | × | × | ○ | × | |
メディア再生 | × | × | ○(VLC利用) | × | |
モバイル対応 | アクセス | ○ | × | ○ | ○ |
アプリ | × | × | ○ | △(FTPなら) |
インターフェイス
インターフェイスについては、いずれもUSB 3.0に対応しているが、各製品でポート数などに違いがある。
もっとも充実しているのはR7500だ。USB 3.0ポート×2に加え、eSATAも搭載しており、大容量のストレージを複数台接続することが可能となっている。
少々、さみしいのはAterm WG2600HPで、こちらはUSB 3.0のみ1ポートとなっている。この機種は、USBハブの利用も不可となっており、USBハブ経由で接続しても最初に認識されたUSB機器しか利用できなかった。
ほかの機種では、USBハブを利用することも可能だが、電力の関係で基本的にはセルフパワーのハブが必要になる点に注意が必要だ。なお、ASUS RT-AC87UではUSB 3.0ポートではUSBハブが認識されず、USB 2.0でのみ動作を確認できた。
対応フォーマットとパーティション
対応するフォーマットは、RT-AC87UとR7500が充実している。Aterm WG2600HP、WXR-2533DHPがFAT/FAT32対応であるのに対して、NTFSやHFS+にも対応している。NTFSに関しては圧縮形式も利用可能で、とにかく豊富なフォーマットに対応している。
FAT/FAT32では容量が2TBまでに限られるが、NTFSの利用が可能なことで2TB以上の大容量のストレージの接続にも対応するのは大きな魅力だ。
パーティションの扱いは、一部、認識可能な数に制限はあるものの、Aterm WG2600HP以外の3機種は認識可能となっている。最近では、あまりパーティションを分割して利用するケースは多くないが、対応機種であれば、用途によってパーティションを分けることも可能だ。
ユーザー認証と共有設定
ユーザー認証に関しては、どの製品でも可能だが、Aterm WG2600HPとR7500に関しては、複数ユーザーの管理に対応しない。Guestアクセスで共有フォルダをすべてに解放するか、特定のユーザー(Aterm WG2600HP)もしくは管理者アカウント(Admin)で認証するかの2択となる。
これに対して、WXR-2533DHPやRT-AC87Uは、任意のユーザーを複数作成し、ユーザーごとにアクセス権を設定可能だ。設定できるアクセス権は、読み取りのみ、読み書きの2種類になるが、小規模なオフィスなどであれば、これでも十分だろう。
共有設定については、Aterm WG2600HPとWXR-2533DHPはストレージのルートを共有する方式で固定となるが、RT-AC87UとR7500は新たにフォルダを作成して、フォルダごとに共有機能を設定できる。
ここまで、基本機能についてまとめると、完成度が高いのは、RT-AC87UとR7500という海外の2製品となる。ただし、一長一短といった面もあり、R7500は大容量のディスクを管理できるわりにユーザー管理があまり充実していない。一方、RT-AC87Uは機能的には充実しているがUSB 3.0ポートが1ポートでUSBハブもうまく認識しない。容量(台数)を取るか、アクセス制御の柔軟性を取るかという選択になりそうだ。
明暗が分かれる付加機能
基本機能が、若干の違いはあるにせよ4機種で並列に比較できたのに対して、付加機能に関しては、機種によって明暗がはっきりと分かれる。
まず、WXR-2533DHPは、メディアサーバーやブラウザでのアクセス、モバイル対応などの付加機能は一切搭載せず、純粋にPCからのファイル共有のみになる。冒頭でも触れた通り、そもそも、それで十分という人がルーターのNAS機能を使うので問題ないのだが、こうして比較してしまうと、若干、物足りなく感じられてしまう。
Aterm WG2600HPも付加機能はあまり搭載しないが、メディアサーバーとして利用できるうえ、ブラウザからUSBストレージにアクセスすることも可能となっている。最低限の機能と言えるが、ここまで使えれば、自宅で保存したデータに外出先からアクセスすることも可能なので、実用性という点では問題ないだろう。
なお、Aterm WG2600HPには、ほかの製品にはないUSBカメラの接続もサポートしている。外出先から自宅の様子を監視するといった用途にも活用できるだろう。
統合的に見て、さまざまな機能に対応できるのは、やはりRT-AC87Uだ。R7500もDLNAサーバーやiTunesサーバー、FTPサーバーなどの機能は搭載しているが、リモートアクセスやモバイル対応が弱い。
ブラウザでのアクセスも可能となっているが、ダウンロードのみでアップロードはできないので、基本的にはFTPを利用することになるだろう。FTPをベースとすれば、スマートフォンなどでも汎用的なアプリを利用してアクセスできるので、外出先などからの利用も可能となる。
一方、RT-AC87Uは、各種サーバー機能の搭載はもちろんのこと、AiCloudというクラウドサービスとの連携が可能となっており、専用のサイトからUSBストレージ、さらにはLAN内のPCやNASなどにもアクセスできる。スマートフォン用のアプリも用意されており、使いやすさという点では、文句ナシだ。
PCだけでなく、スマートフォンからの利用、外出先からのアクセスといった用途を考えているのであれば、現状はRT-AC87Uが最適と言えるだろう。
パフォーマンスで選ぶなら海外勢
パフォーマンスに関しては、現時点では、やはり海外勢の実力が高い。以下は、有線LANで接続したPC(Core i3/RAM 4GB/32GB SSD)から、各ルーターに接続したSSD(ADATA SP600 256GB)に対して、Crystal Disk Mark 4.0.3を実行した結果と、1GBのビデオファイルをWindowsから読み書きした際の転送速度だ。
書き込み | 読み込み | |
Aterm WG2600HP | 11 | 50 |
WXR-2533DHP | 21 | 75 |
RT-AC87U | 51 | 71 |
R7500 | 51 | 91 |
結果を見ると、やはり値が高いのは海外勢のRT-AC87UとR7500だ。いずれもNAS並といって良い速度が実現できている。実際に1GBのファイルをコピーした際の結果も良好で、ギガクラスのデータもスピーディに読み書きできるため、ストレスを感じない。
WXR-2533DHPもベンチの結果としては優秀だが、読み込みが70~80MBと高いのに対して、書き込みが20~40MB/sと若干遅い。実際のファイルコピーでも20MB/sなので、バックアップのように大量のデータを書き込む必要がある用途には、少し物足りない印象だ。
Aterm WG2600HPも、読み込みに対して書き込みが遅く、こちらは1GBのファイルでも数分待たされてしまうため、ライバルと比べるとちょっと厳しい印象だ。
なお、RT-AC87Uに関しては、接続したストレージがUSB 3.0で認識されない場合が何度かあった。今回は、CenturyのCMB25U3BK6Gというケースに、ADATA SP600 256GBという組み合わせでUSB 3.0で認識されたが、ケースやHDDによっては、USB 2.0で認識されてしまうケースもあるので注意が必要だ。
また、設定画面で「USB 3.0の電波干渉低減」という機能があるのだが、これをオンにした場合もUSB 2.0で接続されてしまうケースが見られた。電波を優先するか、ストレージを優先するかという選択になる場合もあるので、こちらもちょっと悩ましいところだ。
決定版と言える機種は不在
以上、IEEE 802.11ac対応ルーター4製品のNAS機能を比較してみたが、冒頭で触れた通り、簡易的なファイル共有という目的であれば、どの機種も目的を達成できるものの、機能や性能にコダワリ始めると、機種選びが重要になってくる。
とは言え、文句ナシにおすすめできる製品というのは、現状ないというのが正直な感想だ。ファイル共有という点だけならR7500の完成度が高いが、ユーザー管理が単純なのと、スマートフォンなどからの利用があまり充実しているとは言いがたい。全体的にはRT-AC87Uが優秀だが、USB 3.0の性能が生かし切れないケースも見られる。
もちろん、ぜいたくを言えばキリがないが、簡易とは言え、USB 3.0のスピードを余すところなく活用でき、さらにユーザーでのアクセス制限とスマートフォンでのアクセスは欲しいところだ。そう考えると、いずれの製品とも、今の段階では少々物足りない。今後の進化に期待したいところだ。