清水理史の「イニシャルB」

IRリモコンやHDMIドングル付きの斬新なハイエンド機 ASRock 「G10」

 マザーボードメーカーとして知られるASRockから、今までにない斬新な無線LANルーター「G10」が登場した。尖った製品で知られる同社らしく、ゲームへの最適化、赤外線による家電制御、脱着式のHDMIドングル兼トラベルルーターと、機能満載の製品だ。その実力を検証してみた。

見せつけられたPCの世界の底力

 ASRockのG10を一口で表現するとすれば「荒削り」とでも言ったところだろうか。

 「よくぞここまで!」と、満載の機能に感心する一方、ところどころ甘い部分も残っており、良くも悪くも細かなことを気にしない大胆さを感じさせられる。

 子供のころ、あのヒーローとそのロボットの必殺ワザを組み合わせて……、こっちのゲームとそっちのゲームを混ぜ合わせて……、などと妄想した思い出が誰にでもあるかと思うが、本製品はまさにそんな夢を現実の形にしたようなもので、どことなく男の、いやどちらかというと「男の子」のロマン的なものがヒシヒシと伝わってくる。

 ゲームへの最適化は、まあその通り。赤外線リモコンのアイデアもいい。しかし、HDMIドングルとトラベルルーターを一体化し、さらにそれを無線LANルーター本体に合体できるようにするなどというのは、ちょっと普通の発想では生まれてこない。

 実売3万9000円前後というロマンの代償を目にすると、急速に現実世界に引き戻されてしまうが、こんなシロモノを実際に製品として市場に投入する同社の勇気には、素直に拍手を送りたいところだ。

 PCの市場は縮小傾向で、一時期の熱気のようなものがなくなりつつあるが、こういったメーカーが健在なら、まだまだPCの世界も捨てたモノではないと実感させられた。

 機能的にも価格的にも、決して大衆受けするような製品ではないが、同社にはぜひこういったチャレンジを継続してもらいたいものだ。

ASRock G10のパッケージと製品一式

ストリームMIMO対応のIEEE 802.11ac無線LANルーター

 それでは、製品を見ていこう。今回のG10は、付加機能が強烈すぎて本体がかすみがちだが、基本的にはIEEE 802.11ac(Wave2対応でMU-MIMOも利用可能)に対応した無線LANルーターだ。

 最近ではアンテナが外付けとなる製品が多い中、本製品は4×4の8本のアンテナすべてが内蔵されており、速度は4ストリームMIMO対応で5GHz帯が最大1733Mbps、2.4GHz帯が最大800Mbpsとなっている(チップは公表されていないがQualcomm Atheros製)。

IEEE 802.11ac対応の無線LANルーターASRock G10

 内蔵されたアンテナのおかげで、昨今のハイエンドルーターの中では、さほど巨大な印象はないが、デザイン的には非常に凝っており、その存在感はかなり高い。

 ゲーム機を思わせるようなシルエットは、複数の三角形を複雑に組み合わせた立体感のある表面で飾られており、上部にライン状に配置されたブルーのLEDとともに、SF映画にでも出てきそうな、未来の建造物のようなイメージさえある。

 とは言え、アンテナが出ていない分、実際に設置したときのスッキリ感は他社製品にはない特徴で、凝ったデザインの割に日常の風景の中での異質感があまりない。これはこれで優れたデザインと言えそうだ。

 インターフェイス類は、背面に集中しており、すべて1Gbps対応となる4つのLANポートに、回線接続用のWANポート1つ。ストレージやプリンター共有用のUSB 3.0ポート×2に加え、家電製品をコントロールするための赤外線ポート、さらに最上部にHDMIドングル兼トラベルルーターの「H2R」そのものが搭載されている。

 特徴的な部分について詳しくは後述するが、とにかく機能が多い本製品ならではの特徴をまとめておくと以下のようになる。

・アンテナ内蔵の4ストリームMIMO対応IEEE 802.11ac機
・Gaming Boostでゲームに最適化
・赤外線リモコンによる家電制御が可能
・HDMIドングル兼トラベルルーター「H2R」が付属

正面
右側面
左側面
背面

初期設定でGaming Boostを設定

 セットアップに関しては、一般的なレベルと言えそうだ。有線でPCを接続、もしくはWPS経由で無線LANでPCを接続後、ブラウザで「http://asrock.route」にアクセスすることで初期設定用のウィザードが開始される。

ウィザード形式での設定が可能。PPTPやL2TPクライアントとしても利用可能(VPNサーバー機能は搭載されない)

 ウィザードでユニークなのは、「ゲーミングブーストの帯域幅設定」画面だ。「Speedtest.net」を利用して回線の実効速度を計測し、その値を設定しておくことで、QoSによって帯域を割り当てる際の値として利用する。

 QoSは、通信時の帯域幅や優先度をコントロールすることができる機能だ。決して珍しい機能ではなく、これまでの無線LANルーターでも、専用のUIを用意した明示的な機能として、あるいはストリーミングモードなど意識せずに使える機能として搭載されてきたが、G10ではゲーム向けの「Gaming Boost」として提供されている。

初期設定でGaming Boostの設定が必要。機能自体は標準で有効になるうえ、特に設定は必要ない。速度を測定し、その結果を記入するだけでかまわない

 と言っても、標準で有効となっているうえ、設定らしい設定もウィザード時の帯域幅くらいしかないため、ほとんど意識せずに利用することができる。

 PCやゲーム機を接続して普通に通信していれば、その中からゲームやストリーミングなど優先的に処理するパケットを判断し、優先度を上げたり、多くの帯域を割り当てて通信させたりすることができる。

 一応、設定画面から優先順位を手動で変更することもできるが、基本的には何もしなくていい。逆に、効いているのかどうかの判断もしにくいが、実際にXbox OneでTitanfallをプレイしてみたところ、特に遅延を感じさせるようなこともなかった。

 もちろん、ゲームに関しては回線品質や混雑状況が影響することも多いため、一概に快適になるとは断言できないのだが、ゲームの品質を妨げる数々の要因のうち、少なくとも家庭内の要因を排除することができるのは大きなメリットと言えそうだ。

優先順位を手動で変更することも可能

 なお、回線にフレッツ光ネクストを利用する場合は、初期設定に注意が必要だ。ウィザードでPPPoEを選択して設定するとMTUが1480に設定される。1454以上を設定すると、正常に通信できない場合があり、ウィザードで上記のSpeedtest.netの設定ができない場合がある。手動設定でMTUの値を変更しておくといいだろう。

フレッツ光ネクストの環境ではMTUを1454に変更しないと正常に接続できない。パスワードが丸見えなのも改善の必要あり

 また、これは賛否両論あるかと思われるが、個人的にはUIのスイッチのカラーが逆なのではないかという違和感を感じた。

 ワイヤレスのオン/オフやQoSのオン/オフ(画面はストリームブーストとなっているがGaming Boostの設定)など、画面上にスライド式のスイッチがボタンが表示されているのだが、オンが黒で、オフが赤となっている。

 各機能ともオンが標準なので、オフのときだけ赤で目立つようにするという発想だと思われるが、家電などのスイッチの多くはオフで消灯(黒)、オンで点灯(赤)という感覚が身に染みついているので、パッと見たときにオンなのかオフなのかにとまどってしまうことがあり、少しだけ気になった。

感覚の問題だが、個人的にはオン/オフスイッチの色が逆なのではないかと思える

 さらに、細かい点を指摘しておくと、管理画面のアカウントパスワードが標準でadmin/admin(後述するUSBファイル共有のアカウントとパスワードもadmin/1234)になっているのも、今の時代の流れに反している。ルーターを狙った攻撃が現実のものとなっていることを考えると、初期設定時に任意のアカウントとパスワードをユーザーに設定させるのは必須と言えるだろう。

 インターネット接続用のパスワードが設定画面で丸見えなのも脇が甘い。これでは、設定画面から大切な情報が漏れてしまう。

ルーターの脆弱性が指摘されていることを考えると、管理者パスワードが標準設定のままなのは好ましくない

無線LANの実力は高い

 続いて、無線LANに関してチェックしていこう。クライアントの接続は、同梱されているシールや設定画面でSSIDと暗号キーを確認して手動で接続するか、背面のWPSボタンを使って接続するかの2通りとなる。

 国内製品では、QRコードを利用した接続方法なども提供されるが、本製品は、多くの海外製品と同じく、上記2つのオーソドックスな方法が採用されている。

 通信速度は、前述した通り、最大で1733Mbpsだ。試しに、ASUS EA-AC87を利用して接続し、iPerfによる速度を計測してみたのが以下のグラフだ。

 同一フロアで830Mbpsというのはかなりの実力で、ほぼ有線並と言っていい実力となっている。2階では、もう少し速度が出てもよさそうだったが、筆者宅の環境では551Mbps止まりとなった。一方、3階での結果は優秀で439Mbpsとなかなかの好成績となった。

 現状、PCもスマートフォンも2ストリームMIMO対応で、MU-MIMO対応もなしという状況を考えると、実際の環境でここまで実力を発揮させることはできないことが多いが、その懐の深さが現れた結果と言えそうだ。

1F 2F 3F
ASRock G10 830 551 439

※サーバー:mac mini有線LAN接続
※クライアント:mac book air 11 2013(thunderbolt LAN)にASUS EA-AC87を接続

USBポートでファイル共有も可能

 続いて、USBポートを利用したファイル共有をテストしてみた。背面のUSBポートにUSBメモリやSSDを接続することで、G10を簡易NASとして利用することが可能となっており、写真や文書などのデータの保管や共有に利用することが可能だ。

 認識可能なフォーマットは明らかにされていないが、試しにFAT32、exFAT、NTFSのそれぞれでフォーマットしたストレージを接続してみたところ、すべて認識させることができた。

USBメモリやSSD、HDDなどを接続してNASとして利用可能

 有線LAN経由でのアクセス速度は、以下の通りで、シーケンシャルで50MB/s前後と、十分に実用的な値を占めている。最近では、エントリー向けの2ベイのNASの高性能化が進んでおり、100MB/sを超える場合もあるので、NASと正面から競合するとまでは言いがたいが、一般的なファイル共有やデータ保存用としては、まったく問題ないレベルと言えそうだ。

 ファイル共有だけでなく、メディアサーバーとして写真や動画を再生したり、ダウンロードエージェントという機能を有効にすると、専用のUIからTorrentファイルを指定してUSBストレージにファイルをダウンロードすることもできる。

 スマートフォンからのアクセスも可能になっており、AndroidやiOS向けに提供されている「ASRock Router app」をダウンロードすると、G10の設定や後述する家電のリモコン機能に加えて、ストレージへのアクセスも可能になる。

 保存済みのデータの表示やダウンロード、スマートフォンの写真のアップロードなどが可能だが、写真を自動的に同期させるような機能はない。

 また、外出先からの利用も可能となっており、特に何も設定しなくてもLTE経由でストレージにアクセスすることができるが、iPhone版はストレージアクセスのみWi-Fi接続が必要になる(通信容量の配慮。Android版はLTE経由でも可能)。iPhoneでは公衆無線LANや会社の無線LANなどを利用してアクセスする必要がありそうだ。

スマートフォン向けのアプリを利用すれば外出先からもストレージにアクセス可能
iPhone版ではストレージへのアクセスがWi-Fi経由に限られる(Android版はLTEでも可能)

赤外線で照明やエアコンをコントロール

 赤外線機能については、スマートフォンのアプリを利用して設定とコントロールを行う。

 前述した「ASRock Router app」で「IR Control」を選択すると、リストに登録先(5つまで登録可能)が表示される。登録先を選択後、「LEARN」をタップすると、G10本体のLEDが点灯するので、この間に背面のIRポートに、学習させたいリモコンを向けて操作をする。

 これでそのボタンの動作が登録され、以後、アプリから項目をタップすることで、リモコンと同じ操作がG10経由で実行できるわけだ。

アプリからLEARNでリモコンを学習させる
背面の赤外線ポートに向けてリモコンの操作を実行すると学習される

 リモコンによっては、なかなか反応しない場合もあるのだが、試しにAndroid向けのアプリを利用して、手元のリモコンをいくつか登録してみると、照明とエアコン、DVDレコーダーを登録することができた。

 実際に利用するには、G10の赤外線ポートを操作する機器の方向に向けておく必要があるが、リモコンと違って、スマートフォンはどの方向でも操作できるので、手元から部屋のさまざまな機器を手軽にコントロールすることが可能だ。

 もちろん、外出先からの制御も可能で、前述した通り、G10、アプリ、ともに何も設定しなくても、登録したリモコンを使って外出先から家電を操作したりすることができる。

 帰宅前に冷えきった部屋を暖めておこうと、駅を下りたらエアコンをオンにする、などといった使い方ができるのはとても便利だ。

学習させたリモコンは外出先からも利用可能

単体売りでもウケそうな「H2R」

 さて、続いては注目の「H2R」について見ていこう。H2Rは、ChromecastのようなHDMI接続の画面表示用ドングルと、有線LAN-無線LAN(IEEE 802.11n)のトラベルルーターを組み合わせた、いわば2in1ドングルといった製品だ。

本体上部に一体化されたH2R
脱着が可能。マグネット式になっており、途中まで入れるとスッと収まる
H2R。持ち運び用の袋も同梱される(USBケーブルやHDMI延長ケーブルも同梱)
HDMIでテレビに接続すると、接続情報や使い方などが表示される

 Chromecastよりも一回り大きく、どちらかというとHDMI直結の小型PCほどのサイズとなるが、それでも持ち運びには十分なサイズで、外出や旅行などに気軽に携帯できる製品となっている。

 使い方としては以下のようなケースが想定される。

・家庭用のテレビにスマートフォンの写真を表示
・スマートフォンの画面をテレビに表示してプレゼン
・YouTubeなどの動画を大画面のテレビで視聴
・PC画面をワイヤレスでテレビに表示
・ホテルの有線LANを無線LAN化してインターネット接続を共有

 いずれも既存の製品(ChromecastやApple TV、トラベルルーター)で実現できることではあるが、1台のデバイスで、いろいろな端末から、いろいろな機能を同時に使えることが本製品のメリットとなる。

 例えば、ホテルのテレビのHDMIポートに本製品を接続し、同時にインターネット接続用のLANケーブルも接続する。

 この状態で、PCとスマートフォンをH2Rに接続し、PCからは無線LAN接続でインターネットを利用しつつ、スマートフォンではYouTubeの動画をテレビに転送して大画面で見るといったようなことができる。

スマートフォンの画面をテレビに表示可能。写真や動画などの画面を個別に表示したり、スクリーンミラーリングで操作画面そのものも表示できる
iPhoneではAirPlayで表示可能。ミラーリングもできる
EZcastアプリを利用して画面を表示できる
Youtubeなどの動画も手軽に表示可能

 対応する規格も多く、Miracast、AirPlay、DLNA、EZplayに対応しているため、iPhoneからはAirPlayで、AndroidからはMiracastで、Windows Phone(にも対応!)からはEZplayでと、さまざまなデバイスから、さまざまな方法で利用することができる。

 Miracastに関しては、端末側が対応していなかったり、相性の問題でうまく表示できない場合もあるが、独自方式となるEZplayを利用すれば、端末側にアプリを利用するだけで写真などのコンテンツを手軽に表示できる。ミラーリングに関しては、すべての端末で可能とは限らないものの、写真や動画などの表示は可能だ。

 今回は、手元のiPhone 6/6s、GALAXY S4/S5、MADOSMA(Windows Phone 8.1)でテストしたが、MADSMAでミラーリングができなかっただけで、すべての端末からコンテンツや画面そのものを表示することができた。すべての端末で可能とは限らないが、かなり汎用性は高そうだ。

 当初はオマケ程度に考えていたH2Rだが、このデバイスはなかなか使い勝手が良さそうだ。外出先でPCやスマートフォンの画面を大画面で表示したり、ホテルの有線LANインターネットを共有したいという場合は、かなり有力な選択肢と言ってよさそうだ。

Windows Phoneにも対応。写真は、MADOSMAのカメラの映像をリアルタイムにテレビ側に写している様子

価格に納得できるか

 以上、ASRockのG10を実際にテストしてみたが、なかなか面白い製品だ。ところどころ甘い部分もあるが、何分、同社の初号機。今後、さらにファームウェアがブラッシュアップしていけば、改善が期待できそうだ。

 ただし、セキュリティへの配慮は、もう少し気を配ってほしかったポイントだ。管理者アカウントやファイル共有アカウントの扱いもそうだが、他社製のルーターの中には、セキュリティ対策ソフトベンダーやOpenDNSの活用などで、セキュリティアプライアンス的な方向性を持たせている製品も存在する。

 本製品もペアレンタルコントロール機能が搭載されてはいるが、MACアドレスで認識した端末のアクセス時間を制限できるにとどまっている。

 現状のゲーマー向け、というゲーマー自身に能動的に欲しいと思わせる工夫は評価できるが、ゲーマーの保護者が子供に安心して与えられるような製品であることも、今後は必要と言えそうだ。

 設定を意識しなくても使えるGaming Boostやアプリからのストレージアクセス、赤外線コントロールなど、ユーザーに難しい設定を強いることがないのはとてもよくできているので、もう一歩、セキュリティという観点で製品を磨き上げてくれれば完璧だった。

 3万円台後半という価格は、リーズナブルとは言えないが、H2RがChromecastやトラベルルーターの代わりとして機能することを考えると、トータルで考えれば、それだけの価値がある製品と言える。そう考えることができれば、お買い得な製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。