第64回:Yahoo! BB 26M速攻レビュー
~ダブルスペクトラムの効果はいかに?~
各事業者が続々と正式サービスを開始した20Mbps超ADSL。筆者宅にも、その先陣を切ってYahoo! BB 26Mが開通した。果たしてダブルスペクトラムの効果はどれほどのものなのだろうか? 早速、その実力を評価してみよう。
●ついにスタートした20Mbps超ADSL
6月中旬から末にかけて、各事業者から続々と発表された20Mbps超ADSL。TTCでのスペクトラム適合性確認、NTTの接続約款変更を経て、ようやくサービス開始にこぎ着けることになった。すでにNTT西日本とNTT東日本、そしてYahoo! BBが正式サービスを開始している。
そんな20Mbps超ADSLが、ついに筆者宅にも開通することになった。と言っても既存の12Mbpsサービスからの乗り換えではない。NTT東日本のように、12Mbpsから20Mbps超への乗り換えを新規と同時に提供する事業者も存在するが、今回のYahoo! BBに加え、イー・アクセスなどの事業者は既存ユーザーの乗り換え開始を約1カ月後に設定している。このため、最速で導入するため、筆者は6月の時点で12Mサービスを解約し、26Mサービスにあらためて加入したわけだ。
なお、多くの事業者で乗り換えが1カ月後に予定されているのには、2つの理由が推測できる。ひとつは申し込み処理などの事務的な問題だ。新規と乗り換えを同時にスタートすると、申し込みが殺到した場合に処理しきれなくなってしまう。もうひとつは、既存のユーザーに対して、フィールドデータを提示したいという理由だろう。今回の20Mbps超ADSLは、主に近距離向けのサービスとなる。一般的には線路長が2km以内、伝送損失が25dB以内でないと効果は期待できない。条件によっては、既存の12Mbpsサービスと比べて明確なメリットがない可能性もある。このため、新規ユーザーをベースにフィールドデータを集め、それをきちんとユーザーに提示してから、乗り換えるかどうかの判断をしてもらいたいということを考えている可能性もあるだろう。
●ダブルスペクトラムの効果は?
前置きが長くなったが、それでは実際にYahoo! BB 26Mの効果について見ていこう。結論から言えば、筆者宅に限って言えば、ほとんど速度の向上は見られなかった。
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Yahoo! BB 26Mと12M、および他社12Mbps ADSLサービスとの速度比較。既存の12Mサービスと比べてもほとんど速度向上は見られなかった |
上記の表に示すように、12Mサービスの時点では実効速度で約6.8Mpbsであったが、若干の誤差はあるものの、26Mサービスでも同じ値となった。同社のモデムではリンク速度を表示することができないのだが、おそらく以前と同様に8Mbps前後でリンクしているものと思われる。26Mというサービス名称を考えるとかなり拍子抜けだ。
なお、筆者宅の線路情報だが、NTTの線路情報によると、線路長は1.57kmとなっており、伝送損失は28dBとなっている。1.57kmという線路長から考えれば、リンク速度で12Mbps前後、実効速度でも10Mbps前後は期待できるのだが、そうならないのには28dBという伝送損失が影響していると思われる。28dBの伝送損失と言えば、線路長で考えれば2km前後の場合とほぼ同じ値だ。これによって、以前の12Mbpsとほとんど速度が変わらなかったと考えられる。逆に考えれば、筆者宅よりも線路長が長いケースでも、伝送損失で同レベルであれば、12Mbpsサービスからの速度向上が期待できる可能性がある。20Mbps超ADSLを導入する際のひとつの目安になれば幸いだ。
ただし、今回のYahoo! BB 26Mに限らず、20Mbps超ADSL全般に関しては、伝送損失だけで効果を判断できないケースもある。なぜなら、TTCのスペクトラム適合性確認で、オーバーラップ方式を採用するダブルスペクトラム(G.992.5 AnnexA OLおよびG.992.1 AnnexI DBM OL)には、2.5kmまでという線路長制限が規定されているからだ。このため、いくら伝送損失が良いケースであっても、線路長が2.5kmを超える場合は(実質的には2.5kmを多少超える可能性もある)、これらの方式では接続されないことになる。
実際に、2.5km以内と2.5km以上で、どのように方式を切替えるのかは、どの事業者からも正式に発表されていないが、Yahoo! BBの場合であれば、おそらく2.5km以内でオーバーラップ+ダブルスペクトラムのG.992.5 AnnexA、2.5km以上では既存の12Mbpsと同じG.992.1 AnnexAになるのではないかと推測される。ADSLモデム側で線路長を判断し、自動的に接続方式を切替えるのだろう。つまり、26Mサービスで契約している場合であっても、線路長によっては、必ずしもダブルスペクトラムが利用されるとは限らず、実質的な方式は12Mbpsサービスと変わらない可能性もあるのだ。
なお、これは線路長制限が加えられていないノンオーバーラップ方式のG.992.1 AnnexIでも変わりはない。こちらも、ダブルスペクトラムの効果が期待できない距離を境に、G.992.1 AnnexIと既存の12Mbpsサービスと同じG.992.1 AnnexCを切替えることになる。
ちなみに、事業者によっては、線路長が2km以上の場合や伝送損失が高い場合であっても、モデムの性能向上やトレリスコーディングの採用(NTT東西、イー・アクセスは12Mで採用済みのためこの上積みは期待できない)による速度の向上は期待できるとしている。しかし、筆者宅に限って言えば、この効果も見られなかった。20Mbps超ADSLの効果が発揮できるかどうかは、かなり環境に左右されると言えそうだ。
●無線LAN対応も市販カードは利用不可
さて、今回のYahoo! BB 26Mでは、モデムのスタイルが一新された点もポイントのひとつとなっている。従来の黒一色、横置きのタイプから、スタイリッシュな縦置きタイプのモデムに変更された。回線との接続方式は従来と同様で、モジュラージャックからの回線を「モジュラージャック」端子に接続し、「パソコン」端子にPCを、「電話器」端子にBB Phone用の電話機をつなぐだけと非常にシンプルだ。スプリッターやIP電話機能が内蔵されているうえ、各ポートが色分けされているなど(ケーブルも色分けされている)、ユーザーに面倒な配線作業をさせないあたりは高く評価できる。同梱されているマニュアルやマニュアルビデオもかなり丁寧で完成度は高い。他事業者もこのような接続形態を見習うべきだろう。
新型となる「Yahoo! BB トリオモデム26M」 | 12M用から比べるとだいぶデザインが良くなった。接続などもわかりやすく、使いやすさとしては合格点だ |
また、このモデムは無線LANに対応している点もポイントとなる。本体上部にPCカードスロットが用意されており、「無線LANパック」(月額990円)を契約することで送られてくる無線LANカードを装着することで無線対応となる。ただし、現状、対応する無線LANの規格は802.11bのみとなっており、802.11gに関しては対応は発表されていない。モデムの細かな仕様も不明なため、CardBusに対応しているかどうかもわからないが、今のところは802.11bで使うしかなさそうだ。
なお、試しに、手持ちのいくつかの無線LANカードを装着してみたが、残念ながら認識されなかった。対応する無線LANカードが限られているのか、無線LANパックで提供されるモデムとファームウェアが異なるのかはわからないが、現状、どうしてもモデム側で無線LANを使いたい場合は、やはり「無線LANパック」を契約するしかなさそうだ。
本体上部に用意された無線LANカード用のカードスロット。試した限りでは市販の無線LANカードは認識されなかった |
●フィールドデータの公開を待つべき
このように、Yahoo! BB 26Mをいち早く体験してみたわけだが、残念ながら26Mサービスの恩恵を受けることはできなかった。当然のことながら、前述した速度などは筆者宅に限られたケースであり、場合によっては効果があるケースも考えられるが、実質的には線路長や伝送損失などの条件が相当良くないと、効果は期待できないと言えそうだ。個人的には、乗り換えに限らず、新規の場合でも、今後、提示されるであろうフィールドデータの結果を見てから、実際に申し込むかどうかを判断すべだと考える。
また、もしも26Mの恩恵が受けられるとしても、本当に、それほど高い速度が必要なのかという点も十分検討すべきだ。万が一、20Mbps超ADSLによって、数Mbpsほどの速度向上が見られたとしても、体感速度的には以前の12Mbpsとさほど変わりない可能性もある。それこそ、速度計測サイトでも訪れない限り、速度が向上したかどうかもわからないかもしれないほどだ。今後、より高い速度が要求されるコンテンツなどが登場しない限り、さほど高い下りの速度は必要ないのかもしれない。
であれば、個人的には、下りよりも上りの速度が向上してくれるほうがありがたいと感じる。それが良い悪いは別にしても、P2Pアプリケーションなどの普及状況を考えると、上りの帯域は今後重要になってくる。下り最大50Mbpsなどという規格の話も聞かれるADSLだが、そろそろコンテンツ側を意識した進化、もしくはコンテンツも含めた進化が必要とされるのかもしれない。
関連情報
2003/7/22 11:48
-ページの先頭へ-