第85回:ノイズ対策グッズで速度向上に挑戦
エレコムのスプリッタ「LD-ADSLSP3」の効果は?



 昨年末にも本コラムで取り上げたノイズ対策グッズを、再び別の製品でテストしてみることにした。今度は、パッケージに「リンクスピードもアップ!」としっかり記載されているエレコム製のノイズフィルタ内蔵スプリッタ「LD-ADSLSP3」だ。果たして、どれくらい速度が向上するのだろうか?





環境によっては深刻なノイズ問題

 1~2年ほど前、筆者は、片っ端からノイズ対策グッズを買い漁ってはテストしたことがあった。というのも、筆者が1年ほど前まで住んでいた場所は、ADSLにとってあまり良い環境とは言えなかったからだ。局からの線路長は2.7Kmで、伝送損失は39dB。ノイズや周辺の環境もあまり良くなかったらしく、当時、利用していた12Mbpsサービスの速度はリンクアップ速度で3,680kbpsしか出なかった。

 もちろん、3Mbps強の速度なら、実用上はまったく問題はない。しかし、まわりから「5Mbps出た」、「ウチは光で100Mbpsだ」などという声が聞こえてくると、これが実に悔しく、何とか速度を向上させたいと真剣に考えていたのだ。それこそノイズフィルタの類も多数購入したし、ケーブルをアルミホイルで巻いてみるなど、速度向上に効果があると言われるようなことは、ほとんど試してみたものだ。

 今回、本コラムで取り上げるエレコムのノイズフィルタ内蔵スプリッタ「LD-ADSLSP3」を見て、このような当時の四苦八苦ぶりを少し思い出してしまった。本製品は、基本的にはスプリッタなのだが、内部にノイズフィルタを搭載しており、ノイズ環境の改善を図っている。場合によってはリンクアップ速度も向上するようなので、当時の筆者のように、現在もADSL環境に悩みを持っているユーザーにとっては非常に期待できる製品だ。





ドキドキ感がたまらない

LD-ADSLSP3

 使い方は、普通のスプリッタと何ら変わらない。本体上部に「LINE」、下部に「MODEM」と「PHONE」の合計3つのコネクタが用意されているので、ここにモジュラーケーブルを接続するだけとなっている。

 以前、本コラムで取り上げたソニーの「TL-NDF20M」では、ダイヤルでノイズ対策をする周波数を選ぶことができたが、本製品にはそういった機能はない。ソニーの製品は特定の周波数に対するノイズ対策が目的だったのに対し、今回のエレコムの製品は特定のノイズのみへの対策が目的ではないからだろう。

 しかし、この手の製品というのは、つなぐときの緊張感というか、期待感というか、ドキドキするような感覚がたまらない。当初はそれほど速度は上がらないだろうと予想しつつも、もしかしたら大幅に環境が改善されるかもしれないという期待感があり、モデムの設定画面で早く速度を確かめたくてたまらなくなる。

 ほとんどの場合は当初の予想通り、速度はそれほど上がらないことが多いのだが、今回の製品を実際に使って、久しぶりにこういう感覚を味わった。





判断が微妙なその効果

 さて、実際の効果の程だが、これは効果があるともないとも判断しがたい。今回は、筆者宅で現在利用しているイー・アクセスのADSLプラスQ(40Mサービス)でテストしてみたが、以下の表のように若干の速度向上が見られた程度に過ぎなかった。

ラインモードフィルタ有無リンク速度インターリーブ
ディレイ(下り)
インターリーブ
デプス(下り)
線路損失
(下り)
ノイズマージン
(下り)
下り上り
AnnexI標準(フィルタなし)12,736kbps1,120kbps4ms3238dB4dB
フィルタあり12,800kbps1,152kbps4ms3238dB4dB
AnnexC標準(フィルタなし)9,312kbps1,120kbps4ms3240dB4dB
フィルタあり9,376kbps1,120kbps4ms3240dB4dB
※回線にはイー・アクセスのADSLプラスQを利用
※線路長は1.57km、伝送損失は28dB
LD-ADSLSP3装着時と非装着時の速度比較。極めてわずかながら速度の向上は見られたが、これをもって効果があるとは判断しにくい

 具体的には、ダブルスペクトラムのAnnexI、およびAnnexCのどちらでテストした場合でも、非装着時から64kbpsの速度向上となった。確かに速度は向上しているのだが、64kbpsという数値は誤差と呼べるような範囲だ。実際、数十kbps程度の速度の違いは、ADSLモデムを接続し直すことで表われることも多い。念のため、ADSLモデムをリセットして、複数回の接続を繰り返したが、速度が低下することはなかったものの、やはり大幅な速度向上も起きなかった。

 また、ビットマップも表示してみたが、こちらを見てもやはり大きな違いは見受けられなかった。AnnexI、AnnexCのそれぞれFEXT、NEXTともに、各周波数でのビット搭載量が増えている部分も認められるが、逆にビットが削られている周波数も存在する。このビットの増減が、果たしてLD-ADSLSP3の効果によって発生したものなのかどうかは、実に判断が微妙なところだ。


AnnexI接続時のビットマップ。黒い部分が標準のビットマップ。緑色の部分がLD-ADSLSP3を装着したときのビットマップ。FEXT、NEXTともほぼ同じ傾向を示す




環境次第では効果が期待できる可能性も

 このように、残念ながら筆者宅の環境では、LD-ADSLSP3の効果をほとんど確認することはできなかった。ただし、この結果は環境次第で変化する可能性も高い。

 というのは、今回、テストに利用した回線がイー・アクセスのADSLプラスQだからだ。以前にも本コラムで紹介したが、このサービスで提供されるADSLモデムはアナログ部分の性能が非常に高い。同じAnnexIで接続した場合でも、以前のADSLプラス2(24Mbpsサービス)で提供されていたモデムに比べて、各周波数で2~3ビットほど余計にビットを積み上げることができるようになっている。

 つまり、ADSLプラスQのようなサービスでは、もともとADSLモデムの性能やノイズ耐性が高いことから、ノイズフィルタの効果が表われにくいも考えられる。残念ながら、現在、筆者宅は40Mbpsサービス待ちで他の回線を解約している状態であり、これ以外の環境でテストすることができないのだが、もしかすると、他の回線(NTT東は基本的にイー・アクセスと同じ)であれば、もう少し効果が期待できる可能性もある。このあたりは、他事業者の40Mbps ADSLの開通を待って、再びテストしてみたいところだ。


関連情報

2004/1/13 10:52


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。