第117回:アイ・オーの無線LANアクセスポイント「WN-APG/A」の
マルチSSID&QoSの実力はいかに?
アイ・オー・データ機器から、ハイグレードモデルに位置づけられる無線LANアクセスポイント「WN-APG/A」が登場した。この製品の最大の特徴は「マルチSSID」や「QoS」といった目新しい機能が搭載されている点だ。これらの機能によって、何ができるのか、早速、その実力を検証してみた。
●企業向け機能を搭載しながら低価格を実現
WN-APG/A |
今回、アイ・オー・データ機器から登場した「WN-APG/A」は、低価格ながら非常に多機能な製品だ。基本的には、IEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応した無線LANアクセスポイントだが、RADIUS認証/802.1Xといった企業向け製品に求められるセキュリティ機能を搭載(一般的なWEPやWPA-PSKにも対応)していたり、チャンネルの自動設定やSNMPによる管理機能、さらには別売りのPoEアダプタによるEthernet給電などにも対応している。これで標準価格が26,000円というのだから、お買得感は相当高い。
しかも、WN-APG/Aには、これまでの無線LAN製品には搭載されていなかった目新しい機能も搭載されている。具体的には、「マルチSSDI」と「QoS」という2つの機能だ。「マルチSSID」は、文字通り、複数のSSIDを登録できる機能だ。たとえば、「PCNET」と「AVNET」という2つのSSIDを登録すれば、クライアントから両方のSSIDを認識できるようになり、あたかも複数台のアクセスポイントが存在するかのように見える。IEEE 802.11a/b/g同時通信対応の製品でも、IEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gといったように、規格によって2つのSSIDを登録することができるが、WN-APG/Aでは、さらに多い最大4つまでのSSIDを登録可能なのが特徴だ。
具体的にどのように利用するかというと、前述したもうひとつの特徴である「QoS」と組み合わせて利用する。たとえば、先ほどの例のように「PCNET」と「AVNET」というSSIDを登録し、PCNETにはPCを接続し、インターネットに接続するためのネットワークとして、AVNETはブロードバンドテレビやネットワークビデオプレーヤーなどの映像伝送で利用するという用途による使い分けが可能となる。
マルチSSIDによって、複数のSSIDを登録可能。QoSを併用することで、SSIDごとに優先度を設定できる |
もちろん、これだけでは単に2つの無線LANネットワークが存在するだけだが、WN-APG/Aでは、QoSによって、それぞれのネットワークの優先度を設定できるようになっている。たとえば、WN-APG/Aの設定画面で、AVNET側の優先度を高く設定し、逆にPCNET側の優先度を低く設定する。すると、AVNET側のデータがPCNETよりも高い優先度で処理させるようになる。ブロードバンドテレビやネットワークビデオプレーヤーなどを接続するネットワークでは、映像伝送のための高い帯域や途切れのない伝送が要求されるが、この設定によって、これが実現できるというわけだ。
ブロードバンドテレビやネットワークビデオプレーヤーを使った映像配信などを利用する機会が徐々に増えてきていることを考えると、このような機能を持った無線LAN製品の登場は非常に歓迎すべきことだと言えるだろう。
●速度は一般的なレベル
それでは、マルチSSDIやQoSの効果を見るために実際にテストしてみよう。まずは単体のスループットだが、これはさほど速くはない。今回は、AV機器での利用を想定して、クライアントにWN-AG/CというEthernet接続タイプの子機を利用した影響もあるが、Super A/Gを利用した状態で、25~27Mbpsにとどまる結果となった。
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※サーバーにはPentium4 2.4GHz、RAM640Mを搭載したLinuxを使用(ProFTPd) ※クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用(コマンドプロンプトのFTP) ※暗号化なしで測定 |
参考として、NECアクセステクニカのAterm WR7800H+WL54TEという組み合わせの値も計測してみたが、こちらではSuper A/Gの利用で35Mbps前後を計測できている。実用上は問題のないレベルだが、若干遅いという印象だ。
なお、今回テストに利用した機器は開発中の製品ということもあり、暗号化設定時の動作が多少不安定だった。クライアントにWN-AG/Cを利用し、WEPやWPAによる暗号化を設定すると、大量のデータ伝送(FTPなど)の最中に通信が切断されるという現象が頻繁に発生した。このため、今回のテストは、すべて暗号化を無効にして計測してある。(編集部注:WN-AG/Cの最新ファームウェアでは、暗号化時の動作安定性向上が図られています。)
暗号化を設定しないと、しつこいくらいに警告が表示される。セキュリティに対するユーザーの意識を向上させようという意図と思われるが、残念ながら今回は正常に動作しなかった |
●QoSで優先度を設定する
続いて、本題のマルチSSID+QoSの環境での結果を見てみよう。まずは、AV機器の利用を想定したテストだ。2台のクライアントを用意し、SSID1とSSID2という2つのネットワークに別々に接続。SSID2に接続したPCで映像を再生(SONY VAIOのGigaPocketで8Mbpsのテレビを再生)しながら、SSID1に接続したPCでFTPによる速度を計測してみた。優先度(サービスレベル)は、テレビ再生側のSSID2がhighest固定で、FTP側のSSID1をhighest、high、normal、lowのそれぞれに変化させている。
なお、WN-APG/Aでは、QoSのスケジューリング方式として、「ストリクトプライオリティー(サービスレベルが高いトラフィックがすべて低いレベルのトラフィックよりも先に処理される)」と「階層化トークンバケット(HTB:事前に設定した割合に応じて帯域幅が割り当てられる)」という2つのモードが用意されているが、ここでは標準のストリクトプライオリティーを利用して計測した。
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※SSID1とSSID2の2つのSSIDを登録。QoSにはストリクトプライオリティーモードを使用 ※SSID2を802.11a、優先度highestに固定し、4/8Mbpsの映像を伝送したままSSID1のモードを変更してFTP計測 ※サーバーにはPentium4 2.4GHz、RAM640Mを搭載したLinuxを使用(ProFTPd) ※クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用(コマンドプロンプトのFTP) ※暗号化なしで測定 |
結果を見ると、確かにhighestに設定した映像側(SSID2)の帯域がきっちりと確保されていることがわかる。IEEE 802.11a同士の場合を見てみると、4Mbpsの映像を再生したときは、FTP側(SSID1)の速度は23Mbpsだが、映像のビットレートを8Mbpsに変更すると、その速度が19Mbpsにまで低下する。映像側(SSID2)をIEEE 802.11a、FTP側(SSID1)をIEEE 802.11gと規格を分けた場合も同様の結果で、もちろん、いずれの場合も映像の乱れはまったく発生しなかった。
ただし、このテストの場合、映像側(SSID2)のサービスレベルをhighestに固定されているため、FTP側(SSID1)でサービスレベルの違いによる速度差が見られなかった。一般的には、映像配信を行なうネットワークのサービスレベルを落とすことは考えられないが、一応、サービスレベルの違いによる速度差も検証してみることにする。
サービスレベルの違いによる速度差に関しては、映像を利用するとわかりにくいため、数値として表すことができるFTP同士で検証した。先ほどのテストと同様に、SSID1とSSID2の2つのSSIDを設定し、それぞれにクライアントを接続。今度は、さらにネットワーク上に2台のFTPサーバーを用意し、各クライアントから同時に20MbpsのZIPファイルを転送した。SSID1、SSID2のそれぞれのサービスレベルを変更しながら、測定した結果が以下の表だ。
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※SSID1とSSID2の2つのSSIDを登録。QoSにはストリクトプライオリティーを使用 ※2台のクライアントをそれぞれSSID1とSSID2の別々のSSIDに接続 ※2台のFTPサーバーを用意し、各クライアントを別々に接続 ※同時にFTP(20MBのZIPファイル)を実行し、速度を計測 |
なお、最初にお断りしておくが、SSID2側で利用したFTPサーバーはサーバーのスペックが低いため(PentiumIII 733MHz/256MB)、SSID1側に比べると全体的な速度が劣る結果となっている。このため、単純な速度ではなく、基準となる速度からどれくらい速度の低下が発生しているかを比較することにした。
まずは、表の下の部分であるIEEE 802.11aとIEEE 802.11gで規格を使い分けた場合だが、この場合、サービスレベルの違いによる速度差はほとんど見られなかった。いずれの場合も基準の速度となる単体利用時の70%程度の速度で通信できていた。
一方、SSID1、SSID2ともにIEEE 802.11aを利用した場合は、サービスレベルによる速度差が明確に現れた。たとえば、「SSID1=highest、SSID2=low」という組み合わせの場合、SSID1は基準の速度の86.6%の速度を実現できていたが、これとは逆の「SSID1=low、SSID2=highest」では37.4%の速度でしか通信できなくなった。QoSによって帯域が制御されている証だろう。
ちなみに、表中で802.11a同士における「highest-low」のSSID2の値が69.8%と比較的速いが(SSID1と同等なら30%前後となるはず)、これはSSID1の転送が先に終了してしまうために発生した現象だ。SSID1の転送が先に終了すると、SSID2に帯域が開放され、フルスピードでの転送が可能になる。このため、Normal時とほぼ同等の速度となったことになる。
この結果を見る限り、前述したように、AVネットワークとPCネットワークを分離したい場合などは、やはりマルチSSIDとQoSの利用が有効と言えるだろう。
●さらなる工夫を期待したい
このように、WN-APG/Aは、マルチSSIDとQoSによってユーザーのニーズに合わせたネットワークを柔軟に構築することができるというなかなか面白い存在の製品だ。ただし、1点、改善を望みたい部分がある。IEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gの明示的な使い分けができない点だ。
確かに、WN-APG/Aは、前述したマルチSSIDによって複数のSSIDを設定できる。しかし、各SSIDで個別に設定できるのは、QoSによる優先度(QoSモードの場合)と暗号化の設定のみで、規格は設定できない。つまり、一般的なIEEE 802.11a/b/g同時通信アクセスポイントのようにIEEE 802.11aとIEEE 802.11b/gのそれぞれに異なるSSIDを設定することができないのだ。
SSIDごとに規格を設定することができず、共通の設定となっている |
これは、ある意味、WN-APG/Aの特徴の1つなのかもしれない。というのは、同社のクライアント向け製品であるWN-AG/Cなどでは、IEEE 802.11a/b/gの規格設定をクライアント側で選択できるうえ、「AUTO」という項目が用意されており、最適な規格を自動的に選択できるからだ。実際、AUTOで利用してみると、最初にIEEE 802.11gで接続されたかと思うと、いつのまにかIEEE 802.11aに変更されていたりと、規格が自動的に切り替わるようになっている。
どういう基準で、どういうタイミングで規格を切替えているのかは不明だが、最適な規格を自動的に選ぶというのは実に面白い発想だ(データ伝送中などに切替えが発生すると通信が中断することになるが……)。
同社のEthernet接続型クライアント「WN-AG/C」の設定画面。「AUTO」という設定項目が用意されており、接続する規格を自動的に選択可能 |
ただし、この機能は同社以外のクライアントを利用している場合に大変困る。Windows XPのWireless Zero Configはもちろんのこと、他社製のユーティリティでも、規格の選択はアクセスポイント側で設定するのが普通であり、クライアント側はそれに自動追従する仕様になっている。
このため、他社製の無線LANカードを利用している場合などは、ユーザーの意図によって、規格を選択することができない。IEEE 802.11aのみ、IEEE 802.11gのみといった無線LANカードなら、別に困らないが、IEEE 802.11a/b/g準拠の無線LANカードの場合、たいていはIEEE 802.11aで接続されてしまい、IEEE 802.11gで接続することができない。AV系はIEEE 802.11aで、PC系はIEEE 802.11gでというように、規格によってネットワークを分離したい場合もあるので、ぜひともマルチSSIDの項目に、無線規格の項目も追加してもらいたいところだ。
Windows XP SP2からWN-APG/Aを参照した画面。もともとプライマリに設定したSSIDしか見えない仕様だが、IEEE 802.11a、IEEE 802.11b/gともに単一のSSIDとしてしか認識されない |
NECアクセステクニカのサテライトマネージャからは、各規格のSSIDを認識可能だが、名前が同じであるため、接続されるのは一方のみ。大抵はIEEE 802.11aで接続されてしまう |
さらに言うならば、ポートセパレータの機能もマルチSSIDと組み合わせて利用できるようにして欲しいところだ。WN-APG/Aには、無線クライアント同士の通信を禁止するポートセパレータという機能が搭載されているが、これも全体の共通設定としてしか利用できない。この機能をマルチSSIDと組み合わせて利用できれば、たとえばあるSSIDを訪れてきたお客さん用に開放するとか、ホットスポットのように不特定ユーザーに開放するといった使い方も可能となる。
せっかくマルチSSIDという他にはない機能を搭載しているのだから、単に無線LANネットワークを複数用意したり、QoSを利用できるだけなく、他にもさまざまな使い方を提案してほしいところだ。冒頭で紹介したWEPの件も含めて、今後の改善、さらなる進化を大いに期待したいところだ。
関連情報
2004/9/14 11:04
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