第229回:USBメモリから起動してPCをNASに
オープンソースのNASシステム「FreeNAS」



 PCを手軽にNASとして利用できるオープンソースのNASシステム「FreeNAS」。USBメモリから起動できたり、ソフトウェアRAIDを手軽に構築できるなど、なかなか興味深い機能を備えている。インストール方法などを紹介しながら、実際の使い心地をレポートしよう。





余ったPCの活用に

 余ったハードディスクの活用方法として自作NASキットの人気が高まってきているが、まるごと1台PCが余った、もしくは1台分のパーツが余ったという場合は、そのPC自体をNASとして使ってしまうのも面白いだろう。もちろん、LinuxとSambaを使う方法もあるが、そんな時間と手間をかけなくても、今回紹介する「FreeNAS」を使えば簡単にPCをNAS化できる。

 FreeNASは、FreeBSD6をベースにしたオープンソースのNASシステムだ。NASとして利用するための機能に特化した設計になっており、CIFS(samba)、 FTP、NFS、SSH、RSYNC、AFPといったサービスの提供と、Webベースの設定画面を備えたシンプルなOSとなっている。

 最大の特徴は手軽に使える点にあるだろう。CD-Rベースで60MB強というわずかなサイズのファイルで構成されており、CD-Rでシステムを起動して運用することはもちろんのこと、USBメモリやCFカード、ハードディスクにシステムをインストールして運用することも可能となっている(USBメモリを利用した場合で30MB前後の容量)。

 設定も手軽で、ハードディスクのフォーマットや登録といった作業は必要になるものの、OSやサービスの設定は一切不要となっている。内容を消してしまってもかまわないPCがあれば、CD-Rから起動するだけで即座にNASとして利用可能だろう。





FreeNASをUSBメモリへインストール

 それでは実際の利用方法を紹介しよう。まずはFreeNASのページから「Downloads」のページにアクセスし、ISOイメージをダウンロードする。本コラムを執筆している時点の最新バージョンは0.68だ。ダウンロードした後は、CD-RにISOイメージを書き込んでおく。

 なお、はじめに断っておくが、FreeNASを利用することで既存のハードディスクのデータが削除される場合がある。オープンソースのソフトウェアでもあるので、実際の利用は自己責任で行なって欲しい。

 CD-Rの用意ができたら、これでPCを起動する。今回は、CPUにAMD Sempron 2600+、チップセットにVIA K8M800、RealTekチップ採用のPCI接続1000BASE-T、RAM512MB、SATA HDD 200GB×2という構成のPCを利用したが、96MB以上のメモリさえ確保できれば、場合によってはさらに低いスペックのPCでも動作させることができるだろう。

 CD-RでPCを起動するとOSが起動。各種サービスが実行され「FreeNAS console setup」というテキストベースのメニューが表示される。この状態で設定、および運用を行なうことも可能だが、CD-Rベースの場合、設定の保存などができないため、今回はUSBメモリにシステムをインストールして利用することにした。

 PCの起動時にUSBメモリ(バッファロー製256MBを使用)を装着して認識させておいてから、メニューの「7) Install on HD/CF/USB key」を選択。画面の指示に従って、インストール元のCD-Rとインストール先のUSBメモリを指定すれば、USBメモリにシステムがインストールされる。


FreeNASのメニュー画面。最低限の設定とシステムの起動やシャットダウンなどが行なえる。USBメモリで起動したい場合は、あらかじめインストールを行なう

 インストールが完了したら、USBメモリでPCを起動できるようにBIOSの設定を変更する。今回利用したPCの場合、USBメモリがUSB-HDDとして認識されるので、ハードディスクの起動順番の項目でUSBメモリを選択するだけで起動できた。起動時間が若干速くなるかと期待したが、実際にはCD-Rとさほど変わらない印象だ。





ネットワークの設定とハードディスクの登録

 USBメモリでFreeNASを起動すると、前述したテキストベースのセットアップアップメニューが再び表示されるので、ここから本格的な設定を始める。

 まずはネットワークの設定だ。FreeNASでは標準で「192.168.1.250」というIPアドレスが設定されている。このままの設定で良ければ設定は不要だが、そうではない場合は自宅のLAN環境に合わせて設定を変更しておこう。メニューの「2)Set IP Address」を選択して、DHCP、もしくは固定でIPアドレスを設定しておく。

 テキストベースの設定が必要なのはここまでだ。IPアドレスさえ設定できれば、あとはブラウザからの設定が可能となる。IPアドレスを指定してFreeNASの設定ページにアクセスすると、ユーザー名とパスワードの入力が求められる。標準では「admin/freenas」でアクセス可能だが、設定画面アクセス後にパスワードを変更しておくことをお勧めする。

 設定画面はすべて英語で、「System」「Interfaces」「Disks」「Service」「Access」「Status」「Diagnostics」など非常に多くの項目が並んでいるが、最低限必要な設定は「Disks」と「Service」の2つだけだ。

 まずは「Disks」の「Management」でPCに装着されているハードディスクを登録する。今回はSATAのハードディスクを2台利用したソフトウェアRAID0(ストライプ)を構成する例を紹介しよう。

 なお、RAIDの場合、同容量のハードディスク2台以上が必要となるため、FreeNASのシステムをハードディスクにインストールしている場合は3台以上のハードディスクが必要となる。2台でRAIDを構成したい場合は、今回の例のようにUSBメモリなどにシステムをインストールしておこう。

 Management画面で追加ボタンをクリックし、PCに装着されたハードディスクを選択して追加する。追加が完了したら、「Format」タブでファイルシステムに「Software RAID:gvinum」を選択し、ハードディスクのフォーマットを行なう。この作業をRAIDのメンバにするハードディスクすべてで実行する。


まずはPCに装着されているハードディスクをFreeNASに登録する。今回は2台のハーディスクを利用してソフトウェアRAID(ストライプ)を構築してみた

 ハードディスクの準備が完了したら、ソフトウェアRAIDの構成を行なう。メニューから「Software RAID」を選択。今回はストライプで構成するため「Geom Vinum」タブをクリックしてボリュームを作成する。追加ボタンをクリックすると、先ほどフォーマットした2台のハードディスクが表示されるので、これをメンバとして選択し、RAIDのタイプや名称を設定する。その後、「Format RAID」タブで作成したボリュームをフォーマット(UFS)しておこう。


FreeNASに登録したハードディスクをRAIDのメンバとして登録する。RAID0/1/5のいずれかを選択してハードディスクを登録。フォーマットしておく

 ボリュームの設定が完了したら、これをマウントする。メニューの「Mount Point」を選択し、追加ボタンをクリック。Diskに作成したRAIDボリュームを、Partitionに「Sorware RAID-gvinum」、File systemに「UFS」を選択。最後に「Share Name」に共有フォルダとして利用したいフォルダ名を入力して追加する。これでハードディスクがフォルダとして利用可能になる。


構成したRAIDのハードディスクをマウントする。「Share Name」が共有フォルダとしてクライアントから参照できる名前になるので、よく考えて設定しよう




CIFSを有効にすればNASとして利用可能

 ここまで準備できたら、最後の設定を行なう。Service項目にある「CIFS」をクリックし、「Enable」チェックボックスにチェックを付けて設定を保存する。これでサービスが起動し、先ほど登録したハードディスクが共有フォルダとして利用可能となる。

 直後はブラウズできない可能性もあるので、試しにLAN上のPCから「\\サーバ名\共有名」でアクセスしてみると良いだろう。共有フォルダが表示され、ファイルの読み書きができるはずだ。日本語のファイル名の読み書きも問題なくでき、Mac OS Xからも文字化けなどなく共有フォルダにアクセスできた。


最後にCIFSを有効にすればPCをNASとして利用可能に。LAN上のPCから問題なくアクセスできた

 パフォーマンスも良好で、FTPサービスを有効にして速度を計測してみたところ、GETで200Mbps前後の速度を実現できた。パフォーマンスは利用するPCのスペック、ハードディスクの構成などによって異なるが、実用性は非常に高いと言えるだろう。

 なお、CIFSの設定はワークグループ名を登録する程度でほかの設定は基本的に不要だが、場合によっては認証方法を変更すると良いだろう。標準では「Anonymous」で誰でも共有フォルダにアクセス可能となっているが、これをローカルユーザーによる認証、もしくはドメインによる認証に変更できる。ローカルユーザーによる認証にした場合は、設定画面の「Access」にある「Users and Group」でグループとユーザーを登録しておく必要がある。

 また、CIFSの設定では、「Recycle Bin」を有効にすることも可能だ。これを設定することで共有フォルダで削除したファイルが一旦ごみ箱へと入るようになる。大切なデータを保存する場合は有効にしておくと良いだろう。


間違ってファイルを削除した場合でもごみ箱に保存されるようになるため便利




手軽だがまだまだ改善の余地あり

 このように、比較的手軽にNASを構築できるFreeNASだが、今回紹介したCIFS以外にも、FTPサーバー、NFSサーバー、RSYNCサーバーなど、さまざまなサーバーとして利用することも可能だ。

 ただし、手軽に使える一方で、凝った使い方には不向きな面もある。SSHによる接続が可能なため、自分で設定ファイルを変更するという使い方は可能なのだが、設定画面を使いながらもう少し凝った使い方をしたいというニーズには対応できない。

 具体的には、共有フォルダの設定が柔軟性に欠ける印象で、設定画面を利用した設定では、1台のハードディスク領域を1つの共有フォルダとしてしか扱えない。たとえば、今回利用したPCでは200GBのハードディスク2台で合計400GBの容量が利用できるわけだが、FreeNASでは、この領域を1つの共有フォルダとしてしか利用できない。もしも、複数の共有フォルダを使いたい場合は、その分だけハードディスクを個別に用意しなければならないことになる。

 また、現状はアクセス権の設定にも対応していない。前述したCIFSの認証設定でローカルユーザーやドメインによるユーザー認証は可能だが、これはあくまでもFreeNASにアクセスするための認証であり、たとえばユーザーごとにアクセスできる共有フォルダを個別に制限するといったことはできない。このため、現状のFreeNASは、あまり多くの共有フォルダを必要とせず、アクセス権の制御も必要ない、ホームユーザー向けのものと言える。このほかNTFSフォーマットのディスクは読み込み専用になるといった点も使いにくい印象だ。

 しかしながら、現状の不満点の多くは、単に設定画面とスクリプトを用意すれば済むだけの話とも言えるので、今後のバージョンアップによって機能は拡大されていくと考えられる。今後、どこまで発展していくのかが非常に楽しみなプロジェクトだ。


関連情報

2007/1/23 10:53


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。