第239回:2.4GHz帯に加えて5GHz帯でもドラフト11nに対応
最新技術が詰め込まれたバッファロー「WZR-AMPG144NH」



 バッファローから無線LANルータの新製品「WZR-AMPG144NH/P」が発売された。従来の2.4GHz帯に加えて、5GHz帯でもドラフト11nに対応した点が特徴だ。早速その実力を検証してみよう。





圧巻のサイズとデザイン

WZR-AMPG144NH。標準価格は33,285円、セットモデルの「WZR-AMPG144NH/P」は42,210円

 ここ最近のバッファロー製品は、巨大なアンテナがトレードマークのようにすらなっているが、まさかここまで巨大化するとは思わなかったというのが一目見た感想だ。

 店頭で実物が展示されていたらぜひ一度見てほしいところだが、バッファローから発売された無線LANルータの新製品「WZR-AMPG144NH」のデザインは圧巻だ。本体サイズも法人向け製品かと思わせるほど大きいが、そのアンテナはヘリコプターの羽を思わせるような平たいデザインで、円形の台座から3方向に力強く伸びている。

 しかも、台座部分は取り外し可能となっており、本体を縦置きにした場合に上部に取り付けて利用できるだけでなく、本体を横置きにしたときに別の場所に置くことも可能となっている(ケーブルが短いので近くに限られる)。いやはや、率直な感想を言わせてもらえば、本当にアンテナが回転して、どこかに飛んでいってしまうのではないかと思わせるような印象だ。


WZR-AMPG144NH。本体サイズを缶コーヒーと比較アンテナは取り外し可能で、縦置きはもちろんのこと横置き時に取り外して別途配置することもできる

背面にはWAN×1、LAN×4、さらにルータ機能のON/OFFを切り替えるスイッチを搭載セットモデルに同梱のカード

 もちろん、その機能も外観に負けていない。ドラフト11n対応の無線LANルータだが、これまで一般的だった2.4GHz帯(IEEE 802.11g)での利用に加えて、5GHz帯(IEEE 802.11a)でのドラフト11nの利用にも対応。また、無線LANの設定方式として従来のAOSSと併用する形で、Wi-Fiアライアンス策定のWPSにも対応している。

 さらに、LANポートのギガビット対応、IPv6のサポート、無線LAN上のデータに優先順位を付けるQoS機能「WMM(WiFi Multimedia)」など、基本機能から相当にマニアックな機能まで、とにかくあらゆる機能が詰め込まれている。その外見、スペックともに、間違いなく、現時点で最強と言っていい製品だろう。


IPv6やWMMなど、これまでの無線LANルータでは見られなかった数々の機能を搭載。どこまで使うかは別にして、かなり高いレベルの機能が搭載された製品だ




難しいタイミングでの5GHz版ドラフト11n投入

 前述したように、この製品にはWPSやWMMといったほかの製品には見られない機能が搭載されているが、やはり最大の注目は5GHz帯版ドラフト11nが搭載されている点だろう。

 ほかならぬ筆者も、昨年来からずっと「5GHz帯で早く11n(もしくはMIMO)が使えるようにならないか……」と待ちわびていた1人だ。筆者宅の周辺ではアクセスポイントが次第に増えてきており、タイミングによっては無線LANのパフォーマンスが著しく低下することがある。一般的なインターネットの利用であればそれでも構わないのだが、VOD系のサービスを無線LANで利用しようとすると帯域が厳しいこともたびたびだ。

 よって、5GHz帯を使う今回のWZR-AMPG144NHの登場は本来歓迎したいところなのだが、登場のタイミングとしては少々早すぎる感もある。

 5GHz帯に関しては、1月末に総務省から5.6GHz帯のいわゆる「W56」開放が決定されたばかりだ。これまでドラフト11nの製品が2.4GHz帯のみだったのは、各メーカーがこの状況を見据えていたところも大きい。2005年のIEEE 802.11aの中心周波数変更、W53の追加などの経緯を考えると、フォームウェアのアップデートなどでW56に対応できる可能性が限りなく低い。そう考えると、通常は5GHz帯の新製品は今の段階では市場に投入しにくい。

 また、バンド幅の問題も気にかかる。現状の無線LANは20MHz幅の帯域を利用するが、海外などと同様に国内でも40MHz幅の利用が検討されており、総務省による意見募集が行なわれたばかりだ。海外製品との互換性、さらに実効100Mbpsを超えるような速度の実現には今後40MHz幅への対応も欠かせない。これも通常は新製品の投入を躊躇させるところだ。

 つまり、これら大きな変更が控えている状況を考えると、5GHz帯製品の投入自体がかなり挑戦的な試みであると言えるわけだ。もちろん、2.4GHz帯の限界でどうしても5GHz帯を使わざるを得ず、しかもMIMOによる高速な通信環境が欲しいというニーズはあるだろう。一般的なユーザーはもう少し状況を見てから製品を購入すべきだが、こういったニーズがある場合にはWZR-AMPG144NHは最適な製品だ。





パフォーマンスはかなり優秀

 というわけで、いつも通りのテストを筆者宅で行なってみた。間取りなどは過去の連載のイラストを参考にしていただきたいが、木造3階建ての1階にアクセスポイントを設置し、1F、2F、3Fの各フロアでFTPによる速度を計測したのが以下の表とグラフだ。

通信方式フロアgetput
2.4GHz ドラフト11n1F58.5Mbps65.6Mbps
2F50.0Mbps51.7Mbps
3F39.3Mbps36.4Mbps
5GHz ドラフト11n1F61.9Mbps63.5Mbps
2F41.2Mbps41.5Mbps
3F30.4Mbps30.1Mbps
IEEE 802.11g1F17.5Mbps20.2Mbps
2F15.8Mbps20.5Mbps
3F10.7Mbps17.8Mbps
※サーバーにはAthlon64 X2 3800+/RAM1GB/HDD160GB搭載PCを利用。OSはFedoraCore5、vsFTPd使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad T60(CoreDuo T400/RAM1.5GB/HDD160GB)、Windows XP SP2
※コマンドプロンプトからFTPによるPUT/GETを実行し、極端に高い値と低い値を除いた5回の平均を計測
※IEEE802.11gはWZR-AMPG144NH+Intel PRO/Wireless3945ABG
※アクセスポイントの高速モードは無効、11n/11gプロテクトモードは有効(標準設定)で計測
※AOSSによる接続でAESによる暗号化を設定して計測

測定結果のグラフ

 結果を見ると、かなり高いパフォーマンスが実現できていることがわかる。全体的に5GHz帯よりも2.4GHz帯のパフォーマンスが高く、さらにPUTの方が高い傾向が見られるが、同一フロア内の2.4GHz利用時で最大で65.6Mbps(PUT時)、5GHz帯利用時で63.5Mbpsを実現できている。また、2F(実質的に床1枚隔てた環境)でも50Mbps前後と速度の落ち込みはあまり見られず、さらに3F(床2枚とドア1枚を経由)でもで30Mbps後半の値を実現できた(いずれも2.4GHz時)。

 マンションなど、電波を通しにくい環境ではここまでの速度は期待できないかもしれないが、それでも現状発売されている無線LAN製品ではかなり高いパフォーマンスだ。個人的には5GHz帯のパフォーマンスがもう少し高いと嬉しいが、それでも十分に高い値が実現できている。冒頭で紹介した巨大なアンテナの威力を見せつけられた印象だ。

 また、現状のドラフト11n製品はカタログ上の速度が144Mbpsとされつつも、実質的には130Mbpsでしかリンクされないことがあったが、本製品はきちんと144.5Mbpsでリンクすることが確認できた(OFDMで冗長性を確保するためのガードインターバルの値が800nsから400nsに変更されている)。


付属のユーティリティではリンク速度が144.5Mbpsと表示される。ドラフト11nの標準仕様での速度は130Mbpsとなるため、オプション仕様となるGI=400が設定されていると思われる

 なお、今回のテストではクライアントのOSにWindows XP SP2を利用している。同梱されていた取扱説明書の注意書きによると、現状のWindows Vista用ドライバではAES利用時にスループットが30Mbps前後しか出ないと記載されている。実際にテストしてみたところ、GETではWindows XPとさほど変わらないパフォーマンスで通信できたが、確かにPUTの値が30Mbps前後と低かった。環境によって異なる可能性もあるが、Windows Vistaでの利用時は注意が必要だろう。


現状のドライバでは、Windows Vistaでは30Mbps前後の速度しか通信できないとの注意書きが同梱されていた。実際に試してみたところ、PUTの速度があまり芳しくない印象だ




WPSによる接続も可能だが……

 最後に使い勝手について紹介しておこう。本製品ではAOSSによる接続に加えて、WPSによる接続をサポートしているが、おそらくWPSによる接続はあまり使われないだろう。

 本体のボタンはAOSSとWPSの両方に利用できる(押せば両方のモードで待ち受ける)が、WPSによる接続はWindows Vista(クライアントマネージャV利用時)のみの対応となっている。また、Windows Vistaの環境でも接続方式の最初の選択肢としてAOSSが表示されるため、通常はこれを利用することになるだろう。

 PINコードによる方式もボタン方式による接続と比べると面倒で、クライアントで表示されたPINコードを有線接続のPCからアクセスポイントに入力するという手続きが必要になる。PINコードによる方式は、セキュリティを確保しようとすると有線接続のPCを使う必要があるのが面倒だ。


本体のボタンはAOSSとWPSプッシュボタン方式の両方で利用可能。ただし、現状WPSが利用できるのはWindows VistaでクライアントマネージャVを利用した場合のみに限られる

PINコード方式での設定も可能。クライアント側で表示されたPINコードを有線LANで接続されたPCからアクセスポイントの設定画面に入力するという方式

 将来的にWPSをサポートした機器が増えてくれば話は別だが、現状はやはりAOSSの手軽さに一日の長がある。もちろん、将来的に無線LANの接続方式が統一される必要はあるが、これだけ完成度の高い設定方式を備えていながら、Wi-FiアライアンスにWPSの認定を申請しなければならないというのは、メーカーにとってはなかなか酷な話だ。





性能は文句なし

 以上、バッファローのWZR-AMPG144NHを検証したが、価格がそれなりにすることもあり、その完成度は非常に高い。特に電波の到達範囲、パフォーマンスは非常に優秀だ。5GHz帯の問題もあるので、万人に薦められる製品ではないが、とにかく今一番速くて、電波が飛ぶ無線LANが欲しいというのであれば、その筆頭候補と考えて差し支えないだろう。

 ただ、ここまでの性能を見せられると、逆にの心配もしたくなってしまう。たとば、近所にWZR-AMPG144NHがあると、その影響を大きく受けてしまいそうだ。そういった意味でもW56のような周波数帯の拡大に期待したいところだが、今後は単に電波を飛ばすだけでなく、いかに干渉を避けるか、干渉を与えないかといった点もあらためて考える必要がありそうだ。


関連情報

2007/4/3 10:53


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。