天国へのプロトコル
第38回
サブスク84社に調査、ユーザー没後の解約対応はなぜ後手に回るのか?
2026年7月24日 07:00
亡父のサブスク解約に4カ月を費やした女性
2026年に入って間もなくして実父が亡くなったAさん(40代/女性)から、こんな苦労話を聞きました。
「父親の遺品整理でもっとも大変だったのはサブスク契約の解除でした。毎月3社から合計8000円くらいの支払いが残っていて、クレジットカードに退会をお願いしても『債務(サブスク契約)の解除が先』の一点張り。支払い元の情報も教えてくれませんでしたから」
スマホもPCもパスワードがかかっていて触れられなかったとのことで、クレジットカードの支払いの履歴や生前のやりとりからどうにか3社の連絡先を突き止めて、各社との連絡を重ねることでようやく解約できたそうです。Aさん自身の仕事が忙しい時期と重なっていたこともあり、解決に至ったのはゴールデンウィークに入る直前だったといいます。
この話を聞いたとき、新鮮な驚きはありませんでした。故人のサブスク契約の解除に遺族が難儀する事例はコロナ禍の前から何度も耳にしてきたからです。「亡き家族のサブスク契約の未払いが原因で督促状が届いた」や「債務(=サブスク契約)がまだ残っていると言われてクレジットカードが止められなかった」といったトラブルは、デジタル遺品界隈における“あるある”事例で、下記のようなプロセスを強いられる遺族は少なくないようです。
- お金の流れからサブスク契約が継続していることを知り、
- クレジットカードの退会で解決を図るも上手くいかず、
- 個々の契約をどうにか突き止めて、時間をかけて解除にこぎ着ける。
数カ月かけてこの3段階を苦しみながら進み、ようやく手離れできたかも……となるわけです。金額は月額にして数千円~2万円程度。そこまで高額ではないケースが大半であるにもかかわらず、電気ガス水道などの支払いを止めるよりもはるかに大きな手間がかかった事例は枚挙に暇がありません。
とかく非効率と思えるタスクですが、なぜ何年も変わらないまま続いているのでしょうか。この疑問を解決するために、主要なサブスク会社とクレジットカード会社にメールアンケートの形で取材を申し込みました。
遺族は「サブスク会社に相談する」のが正解?
サブスクは動画配信やゲーム、オフィス、セキュリティ関連などデジタル環境で完結するサービスを提供する主要会社73社、クレジットカード会社も国内で展開している主要11社に打診。そのうちサブスク16社、クレジットカード6社から回答を取得しています。
まず尋ねたのは、会員死亡時に推奨する解除方法です。
サブスクの使用を止める方法は、契約を解除するのが基本ではありますが、契約を結んだ先がサービスを提供する企業とは限りません。たとえば動画配信サービスの契約窓口は、サービスの提供元だけではなく、スマホのアプリストアや通信キャリアショップ、自宅回線のプロバイダー、家電量販店など多岐にわたります。そのサービスをどこで契約して利用するようになったのか。契約者本人なら覚えているでしょうが、遺族が突き止めるのは相当困難です。
このため契約窓口を探すよりも、お金の流れを止める方法を選ぶ遺族も少なくありません。クレジットカードを退会したり、銀行口座を凍結したりすれば、それ以上の支払いは止まるだろうというわけです。ところが、先の事例にあるとおり、サブスクの支払い=債務が残った状態ではクレジットカードが退会できなかったり、退会や凍結ができても後から督促状が届いたりといったトラブルも多々報告されています(詳しくは本連載の第5回「謎の月額料金の引き落とし、どう止めたらいいの? ~故人のサブスクにまつわるトラブル解決方法」参照)。
では、どう対応することが求められているのでしょうか。サブスク会社の回答の大半を占めたのは、「サポート窓口に連絡して解約する」という方法でした。
通信キャリア大手が回答に添えた「(サブスク会社の)サポートに連絡いただくことがもっとも確実です。お手続きにあたり、死亡確認および本人確認書類の提出をお願いする場合がございます」とのコメントが象徴的です。契約窓口が異なる場合でも、サポートやヘルプページを通して少なくとも窓口の候補を絞ることはできるので、入り口としては「もっとも確実」であることは確かでしょう。
ただし、このアプローチをとる遺族は実際には多くはないようです。遺族からの相談が届く頻度を尋ねた設問では、会員数が数百万~1000万を超えるサービスであっても「年に数回」という回答が大半でした。
もっとも高頻度だったのは、ある動画配信サイトの「週2~3件、月1~15件程度」。多めに見積もって年間150件の遺族相談が届くとして、同サービスの会員数を母数とすると、年間で10万件中8~10件程度の割合となります。日本人の死亡率(10万人中の年間死亡者数)が1300を超える現状を考えるとあまりに小さな値であり、遺品整理の局面で遺族がとる一般的な行為とは言えないでしょう。
一方のクレジットカード会社に遺族から相談が届く頻度は、数千万の会員を有する大手で月間数百~数千件に及ぶとの回答を得ました。各社の会員数で10万件中の値を計算すると、年間数百ほどになります。それだけ高い頻度であれば一般的なアプローチとして浸透しているといえそうです。
以上のことを踏まえると、故人のサブスクサービスを止めようとするとき、遺族がサブスク会社に相談して解決を図るのは、もっとも確実性が高いにもかかわらず、一般的な方法になっているとはいえないでしょう。そもそも遺族の立場で個々のサブスク契約を見つけ出すのが困難ですし、個々に問い合わせをする手間も小さくありません。総合的にみて、現状ではシラミ潰しに実践するのが難しい面があるのも確かではあります。
督促は退潮傾向。でも、ゼロではない
となると、クレジットカードなどのお金の流れを絶つ手段をとる遺族のほうが圧倒的に多いと思われます(故人のスマホやPCからログインできて、いわば本人の代理として解約しているパターンも相当数ありそうですが、明確な判別が難しいため今回は割愛します)。先に述べたとおり途中で躓くこともあるアプローチですが、逆にいえばスムーズに事が進めばもっとも手っ取り早い方法であることは確かです。
そこで、自動引き落としでの支払いが止まった際の対応についてもサブスク会社に尋ねました。結果は下記のグラフのとおりです。
回答はバラけていますが、「督促状等を郵送する」だけは0件でした。一定のプロセスを経たうえで解約や無料プランに戻すのが一般的な流れで、積極的に回収に動く姿勢をとる企業はほとんど見られません。「クレジットカードなどで決済ができなかった場合は、メールでお知らせするなどした後、再決済を実施して決済できなければ、自動解約させていただいています」という朝日新聞(デジタル版)のコメントが象徴的です。
この回答は筆者の肌感覚とも一致します。筆者は別媒体も含めて数年に一度のペースでサブスク業界の横断調査を実施していますが、未払い状態の契約を深追いする企業は徐々に少なくなっていると感じています。深追いして回収するにはコストが見合わないことに加え、炎上リスクを警戒する向きも強まっていることが背景にあるようです。
クレジットカード会社に尋ねた「亡くなった会員のカードに関して、サブスク運営元から支払いの要望を受けることはありますか?」との設問でも、「ある」との回答はゼロでした。未払い金を請求するのは正当な行為ながら、積極的に回収には行かず、消極的な解決を図るのがトレンドになっているといえそうです。
しかし、冒頭で挙げたとおり、サブスク契約の未払いで督促状が届いたという事例は現在も発生しています。
要因はいくつか考えられます。ひとつは、退潮傾向にあるとはいえ、督促するサブスクサービスもゼロではないことです。アンケートの前段階として、各サービスのFAQやヘルプページから自動引き落としが滞った際の対応を調べたところ、未払いから自動解約までの費用を督促すると明記しているサービスは4件ありました。また、未払いから自動解約に至る前の意向確認メールで、手動の支払い方法を説明するサービスは少なからずあります。これが督促と解釈されることもありえるでしょう。
もうひとつは、サブスクサービス以外からの督促、具体的には契約窓口やクレジットカード会社側から督促されるケースもある点です。契約窓口が他のサービス(たとえば、固定通信回線の使用料)と合わせて、付加サービスとしてのサブスク料金を解約するまで請求する事例はしばしばみられます。
また、クレジットカード会社によっては、退会後でも債務が残っている場合は手動での支払いを求めることもあります。ある大手クレジットカード会社は「ご遺族より逝去のお申し出があれば、カード退会を受付いたします。ただし、カード退会後もお支払いが残っていれば、お支払い終了まで引落し、若しくは振込となる旨をご案内しております」といいます。とくに年額支払いでは、退会時に契約が見落とされることも多く、忘れたころに支払いの案内が届くということもよくあるそうです。
サブスクサービスに契約者からの対価が届くまでには、契約窓口やクレジットカード会社、あるいは銀行など、さまざまな企業が関わります。そのうちどこかが回収に動けば、サブスクが取り立てに動いたといった印象を生むのは無理からぬことです。業界全体では深追いを控える傾向にあるものの、ゼロにはなっていない。こうした事情が、「お金の流れを止めれば解決」とはいかない背景にあるようです。
死後の手順に変化なし。長期の対策は打つ手あり
以上を踏まえると、故人のサブスク契約の対応策は4年前の記事(前引用の第5回)とほぼ変わりません。
すなわち、遺族はできるだけサブスクサービスの現状を把握したうえで、①提供元や契約窓口に相談したり解約手続きを進めたりするのが安全です。
しかし、現状の把握には限界もあるので、クラウドサービスやレンタルサーバーなどに引き継ぐべき重要なファイルが残っていなさそうだと確信が持てたら、②お金の流れを絶つ手段も実施。そのうえで、年額契約などの漏れもありうるので、③1年ほどは督促などが届くことも意識しておくのが現実的な対応といえます。
とはいえ、今のままでは業界の仕組みもおそらくは変わりません。5年後、10年後に故人のサブスク契約が混乱を来さないようにするには、一人ひとりのアクションが重要だと思います。
アンケートの最後には、サブスク会社とクレジットカード会社の双方に「会員死亡時の対応指針は必要でしょうか?」との問いを設けました。結果は以下の通りです。
こちらの回答もバラけています。少なくとも、業界全体で変えるべき、あるいは現状を堅持すべきといった風潮はないようです。死後のサブスク契約についての指針はあったほうがよいかもしれないし、ないほうがいいかもしれないし、何ともいえない……。
ただし、先に述べたとおり、遺族の声はサブスク会社に「年に数回」程度しか届いていません。残されたサブスク契約の解除がどれだけ大変なのか、提供元にその声がほとんど届いていないのです。クレジットカード会社には一定数の声が届いていますが、伝統的に債務整理やライフラインの支払い等の問い合わせが多く、サブスク契約だけが突出しているわけではありません。つまるところ、故人が残したサブスク問題は埋もれているのが現状です。
これを変えるには、サブスク会社が推奨するように、各社のサポート窓口に相談するのが一番確実ではないかと思います。他の遺品整理もあるなかで、タスクを増やすのは大変ですが、無理のない範囲で問い合わせすれば、直近と将来から少しずつ不安が取り除けるのではないかと思います。
| 今回のまとめ |
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協力サービス・企業(実名許可の企業のみ/順不同)
故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから。










