天国へのプロトコル

第37回

亡くなった大切な人のXアカウントを保持する唯一の方法――264アカウントの「再利用」を調べて分かったこと

休眠アカウントの再利用を促す「X Handle Marketplace」

 2025年10月、Xは「Handle Marketplace」というサービスを公開しました。プレミアムプラス会員とプレミアムビジネスフルアクセス会員に向けて、長らく使われなくなったハンドルネーム(ユーザー名とも。以降「ネーム」と呼びます)を提供するものです。

「X Handle Marketplace」のページ。対象会員でなくても検索はかけられる

 Xではネームとして、@以下に連なる文字列を任意につけられます(筆者の場合は@yskfuruta)が、それは重複がない場合に限られます。「Twitter」としてサービスが始まったのは2006年7月。ほぼ20年の歴史があり、登録数は数10億に及びます。よくある文字列はほぼ使用済みと考えるのが妥当でしょう。

 ただ、使用済みネームのなかには使われずに放置されたものも少なからずあります。Handle Marketplaceはそうした休眠ネームの再配布を促す狙いで作られました。

 対象会員の使いたいネームが休眠中だった場合、「優先ユーザー名」とカテゴライズされる一般的な文字列なら、通常7日以内に審査されて無料で提供されます。「Happy」や「Bill」といった一般的な単語だったり、文字数が少なかったりするネームは「レアユーザー名」と区別され、より慎重な審査がなされます。2500ドルから100万ドル以上の価格が設定される場合もあるとのことです。

非アクティブを認定されたネームの画面。対象会員ならリクエスト画面に進める
レアユーザー名の場合は、対象会員であっても別のプロセスを経る必要がある

 このX Handle Marketplaceですが、ひとつ懸念があります。対象としている休眠ネームには、故人が残していったもの、残された家族や友人、ファンが大切にしているものも含まれるのではないか、と。

 ネームの使用権が他の人に移ると、元の持ち主が残した投稿などは消失してしまいます。Xの構造上、何年も墓標のように大切にしてきた故人のXがある日アクセス不能になって、数日後には縁もゆかりもない別人のものに――ということもあり得るように思えます。

 実際のところはどうなのか。同社に問い合わせても期日までに回答をもらえませんでした。そこで、私物のデータベースから故人が残した264のXアカウントを抽出し、個別にX Handle Marketplaceにかけることで判定基準を探ってみました。

アクティブなネームの結果画面。この画面が出れば消滅の心配はない

10年以上動きがなくても、アクティブ判定は可能

 故人のXアカウントの状況とネームのアクティブ判定をすべて確認したところ、次のような傾向が分かりました。

  1. 1年以内に投稿やリポストがあるアカウントは、すべてアクティブ判定
  2. 1年以上更新がないアカウントでも、アクティブ判定されるケースがある
  3. 凍結中のアカウントでもリクエスト可能で、判定基準は変わらない
  4. 1年以内に他のユーザーからレスやリポストされたアカウントでも、非アクティブ判定されるケースがある

 上記の(1)の結果から、Xは放置認定を1年間に定めているのではないかと思われます。ただし、一見放置されているように見える(2)の状況でもアクティブ認定されるものもあるので、投稿やリポストだけがアクティブ判定の基準ではないことが分かります。

 たとえば、脳腫瘍により21歳の若さで亡くなったアイドルの丸山夏鈴さんのアカウント(https://x.com/karin_maruyama)は、亡くなった2015年5月以降に新たなアクションはありません。11年以上静止しています。しかし、ネーム「karin_maruyama」の判定はアクティブでした。

丸山夏鈴さんのXページ。最終更新は2015年5月24日
「karin_maruyama」で検索すると「このユーザー名は利用できません」と判定され、Grokにより近い文字列の候補が挙げられた

 その背景には、夏鈴さんの母である「チェリかめ」さん(@cherryyukarin)の長年のサポートがあります。夏鈴さんのXアカウントは静止した現在も、チェリかめさんが変わらず管理しているのです。実情について尋ねたところ、「時々Xから送られてくる電話番号照会に答えています。それと、通知を見たりフォローしている方の更新をスクロールしたりして、時々ログインしています」と回答してくれました。

 ログインした履歴があれば、表面上の変化がなくても非アクティブとは見なされないようです。実際、初期調査で「リクエスト可能」と判定されていたアカウントが、遺族によるログインの直後に「このユーザー名は利用できません」判定に切り替わった事例もありました。

 1年に1度ログインすること。これが非アクティブ判定を防ぐ確実な方法といえます。

 ただ、この方法は(3)の凍結状態では実践が難しく、遺族がIDとパスワードを把握していない(あるいはログインしたままの端末を保持していない)場合も使えません。

 そうなると、他者としてレスやリポスト、DMを送るといった働きかけをするしかなさそうです。しかし、(4)にある通り、そうしたアクションは判定に何ら寄与しないようです。

 故人のXアカウントが現存しているけれどログインする手段はない場合、残念ながら、打てる手は残されていないと考えるべきでしょう。ログイン手段を失ったネーム、そしてそこに紐付いた個人のXページや投稿は、いつ消滅するか分からないのだ、と。

これまでで一番穏やかな休眠処理ムーブ

 休眠アカウントの処分や再利用について、XはTwitter時代からずっと意欲を燃やしていました。

 2019年11月には、突如「休眠アカウントは2週間以内にログインしないと抹消する」とアナウンスし、世界中から猛批判を浴びて即座に撤回しています。その3年後には、買収したイーロン・マスクが、休眠アカウントの一斉削除を示唆して「まもなく15億のネームスペースを開放する」と投稿し、同じように反感を買った過去があります(※その後しばらくのうちに実行に移された様子はなし)。

 休眠アカウントは乗っ取りなどの温床になりやすく、冒頭に挙げたとおり、魅力的な文字列を消耗する困った面があります。しかし、そのなかには、故人の追悼の場として使われているアカウントや、かつて存在した組織やプロジェクトのアカウントも含まれます。それらも十把一絡げに削除されるのは、やはり受け入れがたいと感じる人が多かったのでしょう。

 そうした過去の反応と比べると、「X Handle Marketplace」はかなり穏やかに受け入れられたように感じられます。すべてを一括して削除するような仕組みではなく、ピンポイントで個別に判断する設計にしたのが不安感の刺激を防いだ面はあるでしょう。実際、半年以上提供が続いていても、世界中から異論を唱える大きな声は聞こえてきません。

 他のSNSもXと似た“ネーム問題”を抱えています。こうした穏やかな方法で、放置されたアカウントが処理されていくケースはX以外でも増えていくかもしれません。そうしたなかで故人(や将来故人となる自分)のアカウントを守るなら、どうすればよいのか。

 確実に言えるのは、IDとパスワードの共有が益々重要になりそうということです。SNSによっては家族であってもアカウントの共有を認めないルールを採用している場合もあります。しかし、「故人の痕跡をそのままのかたちで残す」という自由をいかなる状況でも維持するなら、遺品であるアカウントのコントロール権を手元に残しておくほど確実な方法はありません。

 故人(本人)が共有を望まないのであれば無理強いすべきではないでしょう。しかし、そうでないのなら、先々を見据えて選択肢を手元に残す手を打つのが有効ではないかと思います。

今回のまとめ
  • 故人のXアカウントを保持するなら、1年に1回はログインすること。
  • ログインできないXネーム=Xアカウントは守ることができない。
  • 「X Handle Marketplace」はXの休眠アカウント対策として受け入れられたとみていい。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから

古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 近著に『それ、死後もお宝ですか?(集英社インターナショナル)』、『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)』など。「スマホのスペアキー」の発案者。Xは@yskfuruta