天国へのプロトコル
第35回
秘密のデータを墓場まで持っていく計画に、“プロ仕様SSD”が使えるらしい
2026年1月23日 06:30
「みえるSSD」にはプロ版がある
2025年11月、Nextorageは転送速度やドライブの健康状態などをリアルタイム表示する機能を備えたSSD、「みえるSSD NX-PFS1SE」シリーズをリリースしました。
Amazonや楽天市場で売られていますが、実はネット販売を行っていないプロ仕様の上位シリーズも同時期に投入しています。
そのシリーズ名は「プロフェッショナル セキュアSSD NX-PFS1PRO」。8TBと4TB、2TB、1TBがあり、いずれも価格は非公開となります。一般流通している標準シリーズの機能に加えて、ハードウェアによる自動暗号化や非接触ICカードによる認証機能などを備えており、年内には位置検出機能も実装される予定です。また、1.3mの落下試験や1万回のケーブル挿抜テスト、耐衝撃、耐振動テストをクリアしており、標準シリーズより過酷な状況でも安定して使える仕様になっています。秘匿性の高いデータを扱ったり、極地ロケなどの過酷な環境に持ち込んだりするのに心強いSSDといえるでしょう。
ただ、当連載としては(=デジタル遺品に特段の関心がある筆者としては)別の特徴に注目しています。すなわち、「このプロ仕様シリーズはデジタルデータを墓場まで持っていくのに使えるのではないか?」と。幸いにもNextorageから実機を借りることができたため、今回はこの点を検証したいと思います。
パスワードの時限機能=一定期間後のデータ消去が可能?
以前、当連載ではデータの自動消去機能を備えた外付けドライブキット「JIGEN CT-25-ERP」を紹介しました。保存したデータが消えるまでの期間を1日単位(最長9999日)で設定できる製品で、データを墓場まで持っていくという目的に打って付けのアイテムでした。しかし、残念ながら10年以上前に生産終了しています。
NX-PFS1PROがあれば同様のことができるかもしれません。このSSDはハードウェア暗号化機能でデータを守りつつ、解除方法を複数設けることで利便性を高めています。専用ソフトにより、ロックの解除を許可したICカードやアクセスポイントを最大20個登録できるほか、任意の文字列で解除するユーザーパスワードも同様に20個設定可能です。
ポイントは、これらの設定に1日~1096日までの有効日数がつけられるところです。
この機能により、プロジェクトの進行過程にあわせて、スタッフごとにアクセスできる期間を調整したり、特定の研究室のアクセスポイントを登録して期間限定でフリーパスにしたり、あるいは有効日数を自動更新モードにして、「1週間アクセスがなかったら無効に」といったりした運用ができるようになります。
そして、ここが重要です。全ての解除設定に有効日数を設けた上で、全ての有効日数が過ぎた場合は、暗号化を解除する術が完全に失われるのです。データそのものは残存しますが、ドライブにアクセスする手段がなくなり、SSDは“文鎮”と化します。
この状態はiPhoneが“文鎮化”する流れとよく似ています。
iPhoneはパスワードの10回連続ミスによって中身を初期化する機能を備えていますが、この機能を有効にせずに10回連続ミスをしても、パスワードが無効化されて端末にアクセスできなくなります。復帰するにはApple Account(旧Apple ID)などを入力して外部に残したバックアップから復元する手段しか残されていません。つまり、中身に触れられなくなる点においては、初期化するのとほぼ変わらない状況となります。
自分が死んで間もなくに、NX-PFS1PROが意図的に文鎮化するようにコントロールできれば、JIGENと同じような仕掛けが施せるのではないか、というわけです。
初期化もできない文鎮化
そこでNX-PFS1PROにユーザーパスワードを1つだけ設定し、ダミーデータを保存してみました。
有効日数を1日に設定し、専用ソフトを入れたPCから外した上で24時間放置。すると、PCに接続しても外付けドライブとして反応しなくなりました。専用ソフトも操作不能で、手出しできません。であるならばと、Windowsの「ディスクの管理」から初期化を試みてもエラーが返ってきました。初期化して再利用することもできません。墓場まで持っていく狙いならこれ以上はない状態といえるでしょう。
この機能を利用して現実的にこのSSDを利用するなら、次の3パターンが有効そうです。
- その①:有効日数を31日+自動更新モードにして、毎月必ずアクセスする習慣を続ける。
- その②:誕生日や大晦日などの記念日までの日数を数えて有効日数を設定し、以後は370日+自動更新の新規設定を加える。
- その③:3年後には消滅するデータとして割り切る。
①なら毎月一度はアクセスすることで、31日という有効日数が自動更新されます。普段から日常的に利用するなら使い勝手がよい手段といえます。もっと頻繁にアクセスするなら7日などに設定しても良さそうですが、日数が減るほどに長期出張や入院といった予期せぬ状況への対応力が低くなる点は注意が必要です。
②は年単位での運用になるので、数カ月に一度アクセスする程度の使い方にフィットしそうです。アクセス頻度が落ちると、設定したことを忘れてしまうリスクも上がる点は要注意です。「誕生日や大晦日に必ずアクセスする」とマイルールを設けて生涯の習慣にすることが重要といえます。閏年と数日間の猶予を考えて、有効日数は370日程度にするのが良いでしょう。
③は明確なデータに保存期間を決める方法です。パターン説明では、仮にNX-PFS1PROが設定できる最長設定期間の「3年後」=1096日としましたが、自分なりのXデーを定めるのも有効です。Xデーが来るまでは、新たなユーザーパスワードを追加するなどして期間を延長することもできます。ちなみに製品保証と国内サポート期間も購入から3年間となります。
なお、NX-PFS1PROもみえるSSDシリーズと同じように、100文字強のコメントを付与することもできます。ただし、プロ版は暗号化を解除した状態でないと表示されないので、暗号化を解く前の家族にメッセージを伝えるといった使い方には向きません。今回の意図で役に立てるなら、有効日数中にパスワードを突破されてしまった場合の、泣きの一言くらいでしょうか。
意図せず残り続けるデジタルデータはロングスパンで管理する
死後に誰にも見られたくないデータというのは、誰でも多少なりとも持っているのではないかと思います。2017年には下記のようなニュースもありました。
2015年に亡くなった英国の小説家テリー・プラチェットは、死後に未発表の作品が公開されることを恐れ、未完作品を保存しているHDDを破壊するようかねてから希望していました。願いは仲間に届き、彼の死の2年後、残されたHDDは仲間によってロードローラーで破壊されました。
- AFPBB News:英作家の未発表原稿入りHD、生前の希望に従いローラーで破壊
ロードローラーを借りなくても、日頃の運用次第で似た安心を得られる可能性は十分あります。有効期限つきの暗号化機能を備えたドライブがあれば、設定次第で死後のデータ処分が実現できる公算は大きいといえるでしょう。ただし、暗号資産や権利と債権関連の情報など、残される人にとっても重要なデータを墓場に持っていくことは御法度です。
法人向けで、今のところ一般販売はしていないNX-PFS1PROですが、メーカーに問い合わせれば個人での購入も不可能ではないそうです。また、将来的には同様の機能を備えた外付けSSDが生産される道もあるでしょう。何かしらの方法で開発陣にユーザーの声が届けば、その可能性は少しずつ大きくなるのではないかと思います。
| 今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。




