天国へのプロトコル

第14回

10年前に実在した「俺が死んだらHDDの中身が消える」デバイス、開発陣を直撃!

事例:「俺が死んだらHDD、爆発しないかな」

 知り合いに「俺が死んだらHDD、爆発しないかな」と口癖のようにこぼすTさんという人がいます。だいたい冗談半分ですが、この種の相談をわりと真面目なトーンでされたことも何度かあります。死後に自分のHDDやSSDが自動でフォーマットされたらいいのに、と思っている人は少なくないのでしょう。

 しかし真剣に考えてみると、自分の脳や心臓と市販のデジタル機器を連動させる仕組みはありませんし、誰かに抹消を頼むとなると法的なリスクを負わせる可能性もあります。連載の第2回「『自分が死んだらHDDを破壊して』は本当に実行可能!? 頼む前に知っておくべきこと」でまとめたように、この願望を満たすハードルはなかなか高いように思います。

 ただこの問題ですが、破壊はできないまでも、自分が死んで間もなくしたらHDDやSSDの中身が空っぽになるなら、そう不安視する人はいなくなるのではないかという気もします。

 要は、自分が滅んだ後も秘密にしたいデータだけがずっと残るのが懸念事項なのだと思うのです。自分の消滅と秘密にしたいデータの消滅の時間差がそれほど出ない(と信じられる)状況であるなら、Tさんや多くの人はホッとするんじゃないかと。

 実は、それを実現する道具が10年前に売り出されています。その道具は、センチュリーの時限消去&暗号化HDDケース「JIGEN(CT-25-ERP)」。何を隠そう、筆者もこのアイテムでホッとした経験があります。

 今回はこの製品を使って、死後の安心を得る目的で実用性を探ってみたいと思います。

2013年4月に売り出された「JIGEN(CT-25-ERP)」

実践:ログイン期間が1~9999日空くと消滅するドライブ

 JIGENはSATA接続の2.5インチHDDやSSDが組み込める外付けケースで、PCとの接続はUSB 3.0となります。対応OSはWindows XP/Vista/7/8/10とIntel製CPUを使ったmac OS 10.6.8~などとなります。ただし、今回のレビューで試したWindows 11 Pro(64bit)環境でも動作しました。

 センチュリーの企画開発室が製造するオリジナルブランド「CENTECH」に属し、ドライバーレスで組み立てられるユーザーフレンドリーさを備えつつ、製品ページから専用アプリをダウンロードして内蔵ドライブを時限装置にできるのが特徴です。

ドライバーなしで2.5インチドライブが組み込める

 JEGENにストレージを組み込んでPCにつないだら、専用アプリを立ち上げてドライブの領域をセットアップします。1ドライブ構成にして全領域を時限化することもできますし、一部を時限化して残りを通常の外付けドライブにすることもできます。今回は後者の設定にしました。

ドライブごとに容量を決めて、時限化するなら「保護領域」にチェックを入れる

 時限化するドライブはパスワードを登録して暗号化します。ここで重要なのが「暗号化キー自動消去」の設定です。有効にすると、ドライブに一定期間アクセスがないと暗号化キーが消滅し、ドライブ内に保存したデータにアクセスできなくなります。期限は1~9999日(テスト用に分単位の設定も可能)から選べます。

「暗号化キー自動消去」の時限を設定する。ログインした後に「自動ロック」する設定も追加可能だ

 これでセットアップは完了です。時限化したドライブは専用アプリをクリックしてログインしないかぎり、エクスプローラーにも表示されません。そして、あらかじめ設定した時限が過ぎると、専用アプリ経由でもアクセス不能になり、データを取り出すことが不可能になるというわけです。ちなみに、暗号化はハードウェアで行っています。

専用アプリで時限ドライブ(Eドライブ)のロックを解除するところ
パスワードを入力すれば、通常の外付けドライブとして使えるようになる
期限が切れるとパスワードを入力しても「jigenドライブが失われました。」と表示される

 「誰にも見られたくない。けれど、自分が健在なときには失いたくない」データがあるなら、たとえば30日間アクセスしないと消える設定にすれば、保持と漏洩防止が無理なく共存できそうです。人によっては7日や3日の設定もありでしょう。

 また、「消すには惜しい気がするけど、将来使うか分からない」データがあれば、365日期限のドライブに保管しておいて、1年間寝かしておくといった使い方もできそうです。1台のJIGENで時限消去ドライブ以外に通常のドライブを2つまでが作れるので、役割分担して利用する方法も可能です。実際、私も時限消去ドライブと通常ドライブを設定して使っていました。

入手性:2019年に生産終了扱い。今後の復活は……?

 データ管理の選択肢を広げてくれるJIGENですが、残念なことに現在は入手困難となっています。2013年4月に初回約1000台が市場に出回ったのち、6年かけて完売となり、現在は販売終了製品となっています。わずかに残った市場在庫を探し回るしか手に入れる手段はありません。

JIGENの公式ページには「販売終了」の文字がある

 この状況は変わる可能性があるのか。そこが知りたくて、同社のCENTECHブランドのオリジナルメンバーであり、現在は特機開発部 特機開発課課長の石川恵寿さんにインタビューしました。

 そもそもJIGENは、「災害や事件事故に巻き込まれたときにHDDの中身が盗難に遭わないようにと、考えて開発しました」(石川さん、以下同)といいます。死後のデータ消去といった使い方は想定していなかったとのこと。

 リリースされてからコンスタントに売れたものの爆発的な伸びはなく、再生産のないまま終了しました。しかし、根強いニーズは現在もあって、数カ月に1回のペースながら問い合わせが届くといいます。

 今後の復活、あるいは後継製品を開発する可能性はゼロではないそうです。

「部品が調達できなくなったというわけではありませんし、暗号化の回路もUSBの系統の中にありますから、技術的にはNVMe M.2 SSD版を作るといったことも不可能ではありません。やはり需要がどれだけあるか、というところだと思います」

 2013年発売当初、JIGENの価格は4000円弱でした。全般的な値上がり傾向のある現在の値付けがどうなるかは分かりませんが、求める声が多く挙がれば、また家電量販店やPCパーツショップなどで時限消去装置が買えるようになるかもしれません。個人的にも、Tさんに「これを買えばいいですよ」と簡単に言える日が来たらいいなと思います。

今回のまとめ
  • 「俺が死んだらHDD、爆発しないかな」は、やっぱり無理。
  • ただし、時限消去機能を備えたHDDケースは10年前から出回っている。
  • 再生産や後継機の登場はユーザーからのニーズ次第。技術的には可能。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから

古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 著書に『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。 Twitterは@yskfuruta