天国へのプロトコル

第13回

家族が亡くなった後で分かる「写真がない」悲劇、古い写真も確実に残す方法は?

事例:「自分が死んでも家族写真は家族に渡したい」

 都内で教育関連の仕事をしているKさん(50代、女性)は、2年前に46歳で亡くなった妹さんのお葬式でフォトコーナーを作れなかったことが今でも心残りだと言います。

 「妹の夫と一緒に写真を探したんですけど、結婚式以降は撮ったはずの写真がほとんど見つからなくて、不自然な並びになるからと断念しました。その後に見つかったものもありますが、大半は分からないままです」

 妹さんは結婚から数年経った2015年にスマホに乗り換えたのを機に、自らも写真を撮るようになったそうです。どちらかと言えば写真嫌いで、結婚前の写真も両親や友人が撮った紙焼きのもの(フィルムで撮影した写真)が中心でした。ただ、長女が誕生してからは娘と一緒に自撮りしたり、家族写真を自ら撮影したりすることも増えていたとか。

 ところが、スマホで撮影した写真は複数のクラウドサービスに分散してアップロードしているようで、Kさんたち家族は今も探しきれていないそうです。現在家族のもとにあるのは、結婚式の紙焼き写真一式と以前使っていたスマホに残されていたいくつかの写真、まれに夫さんが撮った家族写真のみとのこと。子供時代の写真は「実家を探せばたぶんある(けれど、そちらも探しきれていない)」という状況です。

 そのほか、妹さんの友人のSNSページで妹さんが一緒に写っている写真を見かけたことも。しかし、顔にはスタンプが貼られていました。「もとの写真を送ってもらえたら嬉しいんですけど、お願いできる距離感ではなく……。お葬式のときに頼めば良かったと後悔しています」

 本当はもっとたくさんの思い出を収めた写真があるはずなのに見つからない。そんな歯がゆい経験を経て、Kさんは「30年後か40年後か分からないけど、自分が死んだときには自分の写真を家族にきちんと渡せるようにしたい」と思うようになったそうです。

 そのためには、どうすればよいでしょうか?

前提:紙焼きの写真もデジタルの写真も“あふれる”

 この道の専門家にベストな方法を尋ねました。一般社団法人 写真整理協会の代表理事を務める浅川純子さん。撮って終わりにするのではなく、見て、整理して、残すという写真の生かし方を広めるために2018年に協会を立ち上げました。

写真整理協会 代表理事の浅川純子さん

 同協会の活動を通して感じている写真整理の需要には、大きく2つの山があるそうです。伴侶を亡くしたり介護施設に移ったりする際に過去の写真を片付けたくなるという年配の人の需要がひとつ。もうひとつは、万が一のときに備えて家のものや家族の持ち物を整理したいという思いからくる需要です。前者は発足時から根強く、後者はコロナ禍で在宅時間が延びたことをきっかけに目立つようになりました。世代は問わないものの、とくに子育てを経験した層が多いのだとか。

 「スマホで撮った写真が膨大になりすぎて、どうにかしたいと悩んでいる人は多いですね。2021年にGoogleフォトに無料で使える容量の上限がついたことも大きかったと思います。複数のアカウントを取得して分散管理するケースもみられます」(浅川さん、以下同)

 いずれも膨大な写真を何とかしたいという思いが背景にありますが、大きな違いがひとつあります。年配の人が多く抱えているのはアルバムに収納した紙焼きの写真が中心であり、子育て世代は基本的にスマホやデジカメで撮ったデジタル写真が対象という点です。

 紙焼きとデジタル。この2つの特性の違いを掴むことが写真整理の第一歩といえます。

対策:紙焼き写真をデジタル化するなら日付のみで整理する

 デジタルカメラが普及する2000年前後の時期までは紙焼き写真が当たり前でした。現像した写真のうち、大切に残しておきたいものをアルバムに貼り込んで、書斎やリビングの本棚で保管するのが一般的だったのではないでしょうか。

 そうして長年かけて積み上がった紙焼き写真の整理は、紙のまま残すか、デジタルで残すかという分岐を選ぶところから始めるのが良いそうです。

 「ご自身だけで楽しめばいいという場合は、紙焼きのままで厳選していくという作業が合理的だと思います。手元に置いておける量、施設に持ち込める量に収まるように、とにかく取捨選択していって数十冊を一冊にまとめるイメージですね。これをやると専門サービスに頼む場合も安く済みます」

 Kさんのように家族に渡すことを重視するなら、デジタルで残すのは有効な手段です。

 この作業で気をつけるべきは手間暇を極力省くことです。古いアルバムから写真を剥がして山にしてどんどん取り込んでいく。アルバムごとのタイトルや写真に映っている人物などには構わず取り込んでいくという要領です。

 「アルバム単位で取り込むことで大雑把な時系列が維持されるので、デジタルにした後に整理するのも簡単です。人物で分けたりタグを付けたりしようとすると作業の間に膨大な判断が必要になるので、ここは時系列だけ意識するほうがやりやすいと思います」

 手軽なのはスマホで撮影する方法でしょう。ただスマホのカメラで撮影するのでなく、Android/iOSの無料アプリ「フォトスキャン by Google フォト」のように、照明の反射や枠の歪みを補正する機能を備えたアプリを使えば、質と効率を両立して取り込めそうです。

 大量の写真があるなら、ドキュメントスキャナーがあると心強いでしょう。たとえばPFUの「ScanSnap iX600」なら600dpi相当の最高画質でもA4用紙で10枚/分、L版なら1枚数秒の速度で取り込めます。紙焼き写真の日付を自動で読み取って前後の写真のExifデータをまとめて編集する機能も備えているので、デジタル写真と合流しての管理もしやすくなります。

 購入以外でも、レンタルサービスを利用したり、コワーキングスペースに常備してある機器を使ったりする手があるので、近所の環境をチェックしてみましょう。

「ScanSnap iX1600」で紙焼き写真を取り込む
取り込んだ写真のExif情報をまとめて設定できる

 ただし、裏面にノリが付着したままではスムーズにいかないこともあるので、写真の状態によって複数の道具を使い分けるなど、柔軟なスタイルで臨むのがよいかもしれません。

対策:デジタルは「家族共有」と「仕事用」「自分用」で分ける

 デジタル写真の整理は、個々の写真の意味合いを考えて振り分ける作業が要になると説きます。

「家族共有の思い出の写真と、仕事用やメモ撮りのように実用目的で撮ったもの。あとは自分だけで楽しむもの。この3つを日頃から別々に保管する習慣を身につけることが大切です」

 シャッターを切るたびにフィルムを消耗する紙焼き写真と比べて、デジタル写真はメモリの空きさえあればいくらでも撮れる強みがあります。それゆえに、そのままの状態で保管してしまいがちです。

 しかし、写真を見る側の立場で考えると、家族みんなで楽しめるものと、仕事の資料として残しておいたもの、自分用のものはそれぞれまったく別ジャンルのはず。撮ったときの都合ではなく、見るときの都合に沿って整理する意識を持つことで、それぞれの写真を見返す機会も増えますし、いざ残そうと考えたときにもその対象がはっきり把握できるというわけです。

 紙焼き写真でも意味合いでの振り分けは重要ですが、撮影とアルバム収録の過程でかなり選別される傾向があります。デジタルはそうしたフィルタリングを経ずに数量が積み上がりやすいため、撮った後に自覚的に振り分けて管理する意識がとりわけ肝心なのです。

 過去の写真をまとめて仕分けするのは骨が折れますが、たった一度の作業です。後は日頃から振り分ける習慣さえ身につけたら楽に運用できるでしょう。毎回振り分けるのが面倒なら、週や月に1回整理する習慣をつけるのがお勧めとのこと。同協会でも毎月1日を写真整理の日としており、月イチでの整理を推奨しています。

 振り分け方法は、写真アプリ内でフォルダー分けするだけでも良いですし、クラウドサービスやPC、外付けHDD、NASなどに置き場所を決めて移動させる方法も有効です。ただ、家族で共有する思い出の写真はみんなが見られる環境に置いたほうが生かせるでしょう。そこで同協会がプッシュするのがバッファローの「おもいでばこ」です。

 「スマホやメモリカード、USB機器などから家族みんながアップロードできて、リビングのテレビにつないで一緒に観賞できる優れものです。みんなで思い出を共有している写真はやっぱりみんなで楽しむ環境に置くべきだと思うんですよね」

 おもいでばこは写真の取り込みから振り分け、鑑賞までをリモコンだけで操作できます。PCやスマホの操作が不得手な家族でも使いやすく、みんなの目につきやすい場所に置かれるため、分散や死蔵が起きにくいというわけです。

「おもいでばこ PD-2000-L」にスマホアプリから写真を転送。USBケーブルやメモリカード経由での取り込みもできる
リビングのテレビに繋げば、家族それぞれの共有写真を一元で視聴・管理できる

 なお、浅川さんはクラウドで管理する場合も一元管理を推奨していますが、複数のアカウントを使った管理方法も否定はしていません。

 「複数アカウントを使うのもそれぞれの状況を把握できているなら一つの方法だと思います。問題は『空きがなくなってきたら、とりあえずもう一個追加しよう』というふうに漫然と増やしてしまうこと。とにかく全体像が見えるかたちで持っていることが肝心です」

結論:媒体の垣根を超えて意味合いベースで整理したい

 浅川さんが言及する「全体像」には紙焼き写真も含まれます。実際、デジタルネイティブより上の世代ならどちらの写真も所有しているということが大半でしょう。

 どんな媒体で残る写真であっても、みんなで楽しめる思い出の写真は共有管理して、そのほかの写真は自分なりに管理する。そうした意味合いベースの振り分けをしたうえで、それぞれで見やすい環境が保たれれば、Kさんの妹さんのような悲劇は避けられるのではないかと思います。

 「写真は撮って終わり、加工してSNSにアップして終わりというものではなく、何十年先まで意味を残せるものです。その写真が自分にとってどういう存在なのかという原点に立ち返って管理してほしいと思います」

 なお、自力での整理が難しい場合は、近所の写真店に相談するのも有効だといいます。ネガフィルムが残っていればCDやDVDに焼き込むサービスを提供しているところもあり、状況に応じて最適な手法を手助けしてくれるでしょう。同協会も写真整理アドバイザーを育成しており、全国で相談依頼が増えているとのこと。手に負えない状況であれば、まずはプロの助言を受けてみるのもよいかもしれません。

今回のまとめ
  • 紙焼き写真は紙のままでの選別と、時系列を意識したデジタル化が合理的。
  • デジタル写真は「家族共有」と「仕事用」「自分用」で分けることが重要。
  • 最終的には紙焼きとデジタルではなく、意味合いベースで整理・習慣化するのがベター。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について10年以上取材を続けている筆者が、実例をベースに解説します。バックナンバーはこちらから

古田雄介

1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。 著書に『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)、『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版/伊勢田篤史氏との共著)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)など。 Twitterは@yskfuruta