第280回:USBキーを装着するだけで子供用PCに早変わり
バンダイ・バッファローの「ぱそこんキッズキー」



 USBにキーを装着するだけの操作で、子どものPC利用を手軽に制限できる製品が「ぱそこんキッズキー」だ。昨年末に新たに追加された新キャラクターのうち「たまごっちバージョン」を使用した。





使うのは誰か?

 たとえば、あるレストランのメニューに、栄養が豊富で低カロリーなど、しかも健康と安全に配慮した料理が掲載されていたとしよう。

 さて、あなたならこの料理を注文もしくは食べるだろうか? おそらく多くの人は「おいしければ頼む(食べる)」と答えるだろう。

 料理なら単純な話なのに、PCの世界ではどうしてこれほど単純な話が今までわからなかったのだろうか? バンダイとバッファローが共同開発した「ぱそこんキッズキー」を使ってみて、実際にそう感じた。

 子どもをPCやインターネットの危険から守ろうという議論は以前からさかんに行なわれており、フィルタリングソフトやフィルタリングサービスなど、そのための仕組みも数多く存在した。

 しかし、これらのソフトウェアやサービスをあらためて見てみると、保護者の視点で開発、提供されているものがほとんどであることがわかる。


 料理を食べるのは誰か、つまりはPCを利用するのは誰なのか。PCやインターネットの利用制限の対象となる子供の立場になって、いかにPCを楽しむか。そんな子供の気持ちをきちんと考えて作られたのが、この「ぱそこんキッズキー」だと感じた。





PCの利用時間や利用方法を制限

 「ぱそこんキッズキー」は、USBに装着して利用する、いわばPCの鍵だ。

 文字通りカギの形をしたUSB機器(50MBほどのUSBメモリ)をPCに接続すると、最初にPCを制限するためのソフトウェアがインストールされる。その後、PCにUSBキーを装着して起動すると(起動後に装着そてもOK)、子供が利用するモードに切り替わるようになっている。


カギのような形をしたUSB接続の「ぱそこんキッズキー」。ディズニーやドラえもんなども存在するが、今回は「たまごっちバージョン」を利用

PCのUSBポートに接続することで画面が切り替わり、子供用のPCに変身する

 仕組みとしては、Windowsのユーザーアカウントによる切り替えと専用アプリケーションによるUIの置き換えが行なわれる。アプリケーションのインストール時にWindowsに「ぱそこんキッズキー」というユーザーアカウントが新たに追加され、USBキーをトリガーとして新たなユーザーアカウントでログオンしたり、ユーザーを切り替えたりする。


専用のアプリケーションのインストールに加え、Windowsのユーザーの作成が行なわれる。これにより、既存環境に影響を与えることなく、大人モードと子どもモードを切り替え可能
USBキー装着状態でPCを起動するか、起動後にキーを装着すると子供モードとなる。専用のデスクトップがUIとして利用され、WindowsのUIは利用できない(Alt+TABなどの操作も禁止される)

 そして、追加したユーザーアカウントではUIが専用のアプリケーションに置き換えられているため、そのアプリケーションの制限内でしかPCを利用できないことになる。具体的には、以下のような制限が可能だ。

  • 有害サイトへの接続をブロック
     標準では専用ブラウザを利用して「Yahoo!きっず」、もしくはYahoo!キッズに登録されたカテゴリのサイトにしかアクセスできない


標準で接続可能なサイトはYahoo!きっずのみ。検索結果から移動した場合でも、有害と思われるコンテンツの表示は禁止される

  • 利用できるアプリケーションを制限
     保護者が許可しない限り、Windows上のアプリケーションは一切起動できない

Windowsと同様にスタートメニューが利用できるが、標準ではプログラムは登録されていない

  • 利用時間を制限
     一日の利用時間を1分~23時間59分まで設定可能。標準では1時間となっており、時間が来るとメッセージが表示されてPCを使えなくなる

利用時間が決められており、時間を過ぎると利用できなくなる

  • ログやデータを確認可能
     接続したサイトのURL、保存したマイドキュメントのデータを保護者が確認可能

保護者のアカウントでログオンすれば、アクセス先のURLや保存されたファイルなどを閲覧可能

 特筆すべきなのは、これらの設定が単にUSBキーを装着するだけで自動的に行なわれる点だ。面倒なアプリケーションのインストールも自動なら、Windowsのアカウント追加も自動、制限設定なども標準でなされている。この手軽さは、保護者としては歓迎したい。





楽しさを演出

 この製品でもっとも感心したのは、冒頭で紹介したように楽しさの演出がきちんとなされている点だ。

 まず、「カギをさす」という行為が子供にとっては面白いようだ。筆者宅には現在小学1年生の娘がいるが、カギをさすことでそれまで家族の共有だったPCがあたかも自分専用のように切り替わるのが何よりも嬉しいと言う。

 単純にWindowsにアカウントを作って切り替えても同じことができるが、アカウントの切り替えがカギをさすという行為に置き換わっているのがポイントだろう。

 そして、切り替わった画面がキャラクターの楽しいものであることも、子供の心を惹きつけている。現在、提供されているキャラクターは、2007年9月に発売されたディズニーの2種類と、昨年末に追加された「たまごっちバージョン」と「ドラえもんバージョン」となるため、このキャラクターと年齢層がマッチするかどうかという問題はあるが、壁紙やアイコンなどがキャラクターで埋めつくされたデスクトップは、味気ないWindowsのものとは全く異なる世界となっている。

 標準ではアプリケーションとして利用できるのは、ブラウザ、それも専用ブラウザのみとなっているため、基本的にはYahoo!きっずの情報を見るかゲームを楽しむかという使い方になるが、やはりゲームができるというのは子どもにとって楽しいものであり、このおかげでPCを「使いたい」という前向きな気持ちを抱かせるようだ。


Yahoo!きっずのゲームやマウス操作を覚えるためのゲーム形式のチュートリアルを利用可能。遊ぶという感覚でPCを始められる

 当初、果たして小学1年生に使えるのか? という懸念もあったが、最初にUSBキーのさし方とマウスの使い方(ゲーム形式で覚えられるアプリケーションが付属)、そして文字入力の仕方を教えたところ、試行錯誤しながらゲームやインターネットを自分で楽しめるようになっていた。子どもの順応力というのはすごいもので、このあたりは保護者が心配することはなさそうだ。


我が家のリビングには、こんな感じでカギがおいてあり、必要なときに子どもが自分で取り出して使う
使い方については心配ない。子どもの順応力の高さにより、マウス操作もすいすいとこなす

 おそらくフィルタリングソフトやWindowsの保護者機能で制限したPCというのは、子どもにとって「つまらないもの」でしかないはずだ。その点、機能をうまく制限しながら、子どもに「楽しい」と思わせているあたりに、非常に感心した。

 また、「伝言板」という機能もなかなかよくできている。これは文字通り伝言板の役割を果たす機能で、たとえば母親が子ども宛にメッセージを書いておくと、子どもがPCを使ったときにそのメッセージを確認できる。お互いにメッセージを書いておくことで、家族の間でのコミュニケーションが取れるわけだ。


伝言板を利用したコミュニケーションも可能。ちょっとした手紙のやりとりが親子でできる

 PCはともすると個人の世界にこもりがちになってしまうのではないかという心配があるが、このようなコミュニケーション機能が提供されているのも嬉しい限りだ。





年齢に合わせたカスタマイズも可能

 もちろん、標準のままでは利用する子どもの年齢によっては、物足りない場合があるかもしれないが、そのような場合は設定を変更することで対処できる。


保護者のアカウントにインストールされた設定ツールを利用することにより、子供モードの動作を設定可能。ただし、設定変更によってセキュリティレベルが変化するので要注意

 たとえば、標準ではメールソフトは利用できないが、保護者モード(通常のWindowsのデスクトップ)から設定ツールを利用して、メールソフトの利用を許可しておけば、子どもモードのアプリケーションの一覧にメールソフトが表示され、自分のアカウントでメールを使えるようになる。同様に、WordやExcelなどを追加してあげることも可能だ。

 インターネットに関しても、標準のブラウザではURLの入力ができないがこれを可能にすることもできる。また、そもそもブラウザ自体をIEに切り替えることも可能だ。

 もちろん、これらの設定を行なえば、制限レベルはかなり低下する。特にインターネットに関しては、ほぼ制限なしであらゆるサイトを利用できるようになってしまう。制限を解除するのは簡単だが、それによってどのような弊害があるのかは保護者がよく確認する必要があるだろう。


子どものスキルレベルや年齢によっては、メールソフトや通常のブラウザを利用させることも可能。ただし、セキュリティレベルは低下する

 なお、インターネット接続に関しては、別途、i-フィルターのようなフィルタリングソフトを併用することも可能だ。ぱそこんキッズキーはアカウントを個別に設定しているため、このアカウントに対してフィルタリングソフトの制限をかければ良いだろう。





自ら考えて行動するように

 我が家ではこの「ぱそこんキッズキー」を実際に数週間ほど利用してみたが、子どもは新しいおもちゃを手に入れたかのように実に楽しんで利用している。また、保護者としても、使いすぎや危険なサイトを訪れる心配がないので、安心してPCを使わせることができている。

 我が家で1つ大きな発見だったのは、娘が自ら利用時間の制限を考えてPCを使うようになったことだ。

 我が家では標準設定のまま利用させているため1日に1時間しかPCを利用できない。はじめのうち娘は、突然使えなくなることに文句を言っていたが、しばらくすると1時間しか使えないからゲームより先にアニメの次のあらすじを見ておこうとか、1日のうちのいつPCを使うべきか、たとえば宿題を済ませてからゆっくり使うとかいったように、自発的に考えてPCを使うようになってきた。これは大きな収穫だった。

 個人的には、安心して使えるメールソフト(送信相手のチェックなどもできるようなもの)やワープロソフトなども提供して欲しい。また、サイトもYahoo!きっずだけでなく、いくつか選べるようなると完璧だが、現状のままでもかなり完成度は高い製品だ。

 単純に子どもを制限するだけでなく、楽しさも与えているところは高く評価したい。子どものPC利用制限をするソリューションとしては、はじめて実用的なものに出会ったという印象だ。


関連情報

2008/2/5 11:01


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。