第295回:IEEE 802.11a/b/g対応ながらリーズナブルな価格設定に
バッファローのIEEE 802.11n対応無線LANルータ「WZR-AGL300NH」



 バッファローから、IEEE 802.11nドラフト2.0に準拠した無線LANルータとUSB接続型の子機が発売された。IEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応しながら、リーズナブルな価格が設定されたモデルだ。その実力を検証した。





ようやく同時利用がお買い得な価格に

WZR-AGL300NH

 「ドラフト」という冠がなかなか取れないため、心理的には購入しにくい状況が続いている11n対応無線LANルータだが、機能的、そして価格的にはそろそろ購入を考えても良い時期になりつつつあるようだ。

 IEEE 802.11aの拡張された周波数帯域、40MHz幅の利用など、法的あるいは技術的な面も落ち着きつつあることに加え、何より価格が手ごろになってきた。

 これまでの11n対応無線LANルータは、普及モデルはIEEE 802.11g(2.4GHz帯)対応、もしくはIEEE 802.11g(2.4GHz)とIEEE 802.11a(5GHz帯)の切替式というのが一般的で、同時利用モデルは価格が高く手が出しにくかった。

 しかし、今年になって、本コラムでも取り上げたコレガの低価格モデル「CG-WLBARAGND-P」が発売され、そして今回バッファローからIEEE 802.11a/b/g同時利用対応の11nドラフト2.0対応製品「WZR-AGL300NH」が登場した。

 これまで、同社の11n対応同時利用モデル(WZR-AMPG300NH/P)は実売で36,000円前後だったが、今回のWZR-AGL300NHは実売で17,800円前後と、半額程度にまで価格が下げられている。もちろん、この価格は子機が付属しない単体モデルだが、今回新たに発売されたUSB接続の無線LANアダプタ「WLI-UC-AG300N」の実売も1万円前後であり、価格的に入手しやすくなったのは事実だろう。

 PCとゲーム機といったように複数の機器を接続する場合、帯域やセキュリティ設定の使い分けなどを考えても、同時利用の方が何かと都合が良い。これから購入するなら、やはり同時利用モデルを選びたいところだ。


IEEE 802.11a/b/gの同時利用が可能な11n対応無線LANルータ「WZR-AGL300NH」
付属のスタンドを利用することで縦置きでも利用できる




40MHz幅の利用はツールでの設定が必要

 実際の製品について見ていこう。筐体は従来から販売されていたIEEE 802.11b/g準拠の11nドラフト2.0対応製品「WZR2-G300N/P」と同じデザインを採用している。サイズ的には決して小さくはないが、比較的スリムでアンテナも側面に3本搭載されており、すっきりとまとめられている印象だ。

 一方、子機の「WLI-UC-AG300N」は、IEEE 802.11a/b/gに準拠した11nドラフト2.0対応製品だが、筐体としては従来製品(WLI-UC-G300N)と同じで、通常のUSB子機より若干大きめのサイズとなる。なお、パッケージには角度や向きを調節できるフレキシブルケーブルが同梱されているので、ノートPCなどでも他の機器と干渉せずに装着でき、デスクトップPCなどでも手軽に利用できるだろう。


IEEE 802.11a/b/gに準拠した11nドラフト2.0対応USB子機「WLI-UC-AG300N」

 設定に関しては、従来製品と同様よくできている。付属のCD-ROMをPCにセットすると接続や設定などがナビゲーションされ、基本的に画面の指示に従ってドライバやアプリケーションのインストール、子機接続などの設定が行なえる。

 アクセスポイントとの接続に関してもボタン設定が可能となっており、WPSもしくはAOSSによって、暗号化を含めた接続設定がワンタッチで完了する。インターネット接続もはじめてブラウザを起動した再に自動的に設定画面が表示されるので、ユーザーIDなどを設定するだけと簡単だ。


ケーブル類の接続から、クライアントの接続、インターネット接続のセットアップまで手軽に設定できる

 このあたりは、各社製品ともあまり目新しい進化はないのだが、熟成された分、より迷わずに設定できるように工夫されており、初心者でも安心して使えるだろう。

 ただし、唯一注意したいのが速度の設定だ。これはバッファロー製の11nドラフト2.0対応製品に共通した特徴だが、標準では11nの場合でも20MHz幅しか利用しない設定になっており、設定直後は130Mbpsでの接続となっている(本来は144Mbpsでリンクするはずだがテストした限りでは130Mbpsでしか接続できなかった)。

 では、パッケージで謳われている300Mbpsで接続するにはどうすれば良いのかというと、クライアントアプリケーションと一緒にインストールされた「AirStation倍速設定ツール」を利用する。アプリケーションを起動して40MHz幅に設定することで、ようやく本来の実力を発揮できるというわけだ。


標準では20MHz幅での設定となっているため、40MHz幅の300Mbpsで通信するには付属の「Airstation倍速設定ツール」での設定が必要

 これは、40MHz幅の場合、電波の干渉や出力の関係で必ずしもパフォーマンスが出るとは限らないという配慮によるものだ。設定自体は手軽にできるので、実際の環境でパフォーマンスを比較しながら、40MHz幅と20MHz幅のどちらを使うかを決めると良いだろう。

 なお、前述の通り筆者宅では20MHz幅の場合でも130Mbpsでしかリンクせず、その関係もあって40MHz幅では270Mbpsでしかリンクさせることができなかった。おそらくガードインターバルの設定が関係しているはずだが、それらしい設定が見あたらなかっため、後述するテストでは270Mbpsを上限としたテストであることをあらかじめお断りしておく。


倍速設定ツール利用前(左)と利用後(右)の通信速度。130Mbpsから270Mbpsに向上していることがわかる。本来はシングルで144Mbps、デュアルで300Mbpsでの通信が可能だが、設定の影響か今回は最大速度でリンクできなかった




パフォーマンスは十分、専用子機で使いたい

 パフォーマンスだが、結果としては悪くない印象だ。木造3階建ての筆者宅1階にアクセスポイントを設置し、同一フロア、2階、3階の各部屋でFTPによる速度を計測したのが以下のグラフだ。


使用機器フロアGETPUT
WZR-AGL300NH
+WLI-UC-AG300N
1F85.2Mbps89.2Mbps
2F56.9Mbps66.2Mbps
3F47.7Mbps34.5Mbps
WZR-AGL300NH
+4965AGN
1F39.2Mbps64.4Mbps
2F30.7Mbps43.5Mbps
3F13.6Mbps16.1Mbps
※サーバーにはAMD Sempron 2600+、RAM2GB、HDD400GB、Windows Home Server搭載機を使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad X61、Intel Core2Duo T7500、RAM4GB(3GB)、HDD120GB、Windows Vista搭載機を使用
※IISのFTPサーバーを利用し、コマンドラインからFTPによる転送を実行。安定通信時の5回の値を平均

 WZR-AGL300NHとWLI-UC-AG300Nの組み合わせで利用した場合、同一フロアで最大89.2Mbps(PUT時)、もっとも環境が悪い3階での計測でも最大47.7Mbps(GET時)で通信できた。比較対象として、WZR-AGL300NHにノートPC内蔵無線LAN(ThinkPad X61、Intel PRO/Wireless 4965AGN)で接続した場合の値も掲載しているが、4965AGNは20MHz幅(ただし144Mbpsで通信可能)にしか対応していないこともあり、かなりの差がついた。やはり専用子機で利用したいところだ。

 ただし、今回のテストではフレキシブルケーブルに子機を接続して利用したが、この場合、子機の位置や角度によって、パフォーマンスがかなり異なる傾向がある。実際に家庭で利用する場合は、ユーティリティでリンク速度などを見ながら、角度をうまく調節して利用することをお勧めしたい。

 なお、WZR-AGL300NHはIEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応しているが、11nに関してはいずれかの排他利用となる。標準では「11a/n(300M)&11g(54M)」というモードで動作しており、40MHz幅を利用した11nモードはIEEE 802.11a(5GHz帯)でのみ有効になり、2.4GHz帯は54Mbpsの通信となる。

 設定によって、「11b/g/n(300M)」として2.4GHz帯で11nを利用したり、「11a/n(300M)」のみに切り替えることもできるが、同時利用というメリットを活かすなら標準モードでの利用が妥当だろう。


設定によって11nのモードを切り替え可能。40MHz幅は11aの場合、J52/W52/W53で利用可能

 以上、バッファローの新しい無線LANルータ「WZR-AGL300NH」を利用したが、価格も安価になってきており、パフォーマンスもしっかりと出るので、お買い得感は高い製品と言える。11a/nはPCで、11b/gはゲーム機でと使い分けることも手軽にできるので、これから無線LAN製品を購入する場合の選択肢としては、なかなか良さそうだ。


関連情報

2008/6/3 10:57


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。