第365回:“Windows 7 Server”としての実力は?
Windows 7のネットワーク機能を検証する


 ホームグループやメディア共有など、Windows 7の豊富なネットワーク機能を活用すれば、NASやサーバーのかわりとしても使えるのではないか。今回は、Windows 7をサーバーとして利用する方法と、そのパフォーマンスについて検証した。

ネットワーク機能をサーバーとして活用

nVidia IONベースの「Atom 330」搭載マシンに4GBメモリを装着し、64bit版のWindows 7 Ultimateをインストール。サーバーとしてどこまで利用できるかを検証した

 10月22日、マイクロソフトから新OS「Windows 7」がついに発売された。筆者も各種イベントに参加したが、驚くほどの盛況ぶりで、久しぶりの“お祭り”を楽しんだ。

 Windows 7が持つ機能に関しては、製品候補版(RC版)の段階で機能の一部を紹介したが、改めて利用してみると、やはりネットワーク関連の機能が充実している点に感心させられる。「ホームグループ」機能やDLNA 1.5に対応したメディア共有機能、「リモートメディアストリーミング」、ネットワーク共有へのバックアップなど、ここまで機能が充実していると、Windows 7はNASやサーバーの代わりとして使えるのではないかと感じるほどだ。

 そこで今回は、「Windows Server 2008 R2」の呼び名ではないが、Windows 7の「Windows 7 Server」としての実力を検証してみることにする。クライアントにインストールして利用するだけでなく、ファイルサーバーやメディアサーバー、テレビサーバー、ターミナルサーバー、ウェブサーバーなど、Windows 7をどこまで使えるかを実際に試してみた。

ファイルサーバーとして使う

 Windows 7は、家庭内や数人単位の小規模なオフィスであれば、NASやファイルサーバーの代わりとしても十分利用できる機能を持っている。Windows 7では、「ホームグループ」というファイル共有のために新たな仕組みが用意されており、ネットワークに接続した1台目のPCで「ホームグループ」を作成しておけば、Windows 7を搭載した2台目以降のPCからは事前に設定したパスワードを入力するだけで手軽にファイル共有が可能になっている。


ホームグループを利用すれば簡単な設定のみでファイルサーバーとして構成可能。パブリックフォルダ共有よりセキュアで、従来のワークグループよりも手軽だ

 仕組みとしては、隠しアカウントとして登録されている「homegroupuser$」をすべてのPCにアクセスするためのアカウントとして利用するので、共通のアカウントを使ったワークグループとも言える。従来OSのパブリックフォルダ共有に比べると高いセキュリティが実現できる上、ワークグループのパスワード保護共有によってアカウントデータベースをPC個別で管理するよりも手間がかからない。両方のちょうど中間的な機能と言ったところだろう。

 ホームグループ自体は、ネットワーク上に複数あるPCでファイルを共有することを目的にした機能だが、ホームグループに参加したPC1台を常に稼働させ、このPCのライブラリのみを他のPCから参照するようにすれば、NASやサーバーのようにWindows 7を利用することもできる。

 ホームグループは仕組みとして良くできているのだが、設定後の運用方法は従来のワークグループと同じとなる。このため、家庭での利用は問題ないが、小規模なオフィスなどで安易に運用すると、データが各PCに分散するようになり、バージョン管理やファイルの整合性がとれなくなる可能性もある。また、各PCのデータを公開すると、プライベートなデータを公開してしまう恐れもある。

 従って、ホームグループでファイル共有環境を構築するとしても、クライアント側のライブラリは公開せず、ネットワーク上にある1台のPCにデータを集中させ、NASやサーバーのように使う方が効率的というわけだ。

 Windows 7ではまた、アカウントにオンラインIDを関連付けることが可能となっており、普段利用する「Windows Live ID」にアクセス権を設定できるようになる。この方法のメリットは、ユーザー単位のアクセス権を利用可能にしながら、ローカルでのアカウントの管理が必要ない点にある(関連記事)。

 つまり、Windows 7をNASやサーバーの代わりとして利用した場合、初期設定や日常の管理業務を最小限に抑えながら、比較的、セキュアなファイル共有環境が構築できるというわけだ。


「Windows Live ID」をリンクさせるとホームグループで「Windows Live ID」に対してアクセス権を設定できる「Windows Live ID」を利用すれば、パスワードを管理者が管理する必要がなくなり、本当の意味でのアクセス制限ができる

 さすがに「Windows Server」ベースのファイルサーバーに比べると、パフォーマンスは劣る。特に複数ユーザーから同時にアクセスした場合の処理などは低くなりがちだ。このあたりは、低速なNASよりは有利だが、本職のサーバーOSにはかなわない。


サーバーにしたWindows 7(画面左)とWindows Home Server(画面右)のベンチマークテスト結果。1台のPC(ThinkPad X200 Core2duo P8400/RAM4GB/X-25M/Windows 7)から計測した値。Windows 7では特に4Kの値が低くなっている

2台のPCから同時にベンチマークを実行した、Windows 7(画面左)とWindows Home Server(画面右)の結果。同時アクセス時にはパフォーマンスが落ちる

 ただし、ボリュームシャドウコピー機能を利用することで、ファイルの過去バージョンを保管できたり、インデックスサービスによってクライアントからデータをシームレスに検索できるなど、使い勝手はなかなか良好だ。ひょっとしたら、AtomベースのPCにWindows 7をインストールし、パフォーマンスをバックグラウンドサービス優先に設定して利用した方が、低価格NASよりも利便性が高いかもしれない。


「システムの保護」を利用できるため、共有フォルダのデータを削除したとしても以前のバージョンから復元可能サーバーとして利用する場合はバックグラウンドサービス優先にしておくと若干パフォーマンスに有利

メディアサーバーとして使う

 NAS製品では標準機能とも言えるメディア共有機能だが、Windows 7でも手軽に利用可能になっている。

 ホームグループの設定で「デバイスとメディアの共有」を有効にすると、「DLNAガイドライン 1.5」に準拠したメディア共有機能が利用可能になる。これにより、PCのライブラリに保存した画像や映像、音声ファイルなどを、LAN経由で他のPCの「Windows Media Player」やDLNA対応のテレビやゲーム機などから再生可能になる。


ホームグループの設定でメディア共有を有効にすると、DLNA 1.5準拠のメディア共有機能が利用可能共有したメディアは、Windows Media Player 12やDLNA対応のテレビやゲーム機などから参照できる

 この機能も便利な反面、自分のPCに保存されているすべてのデータが公開されて果たして良いのか、と利用を躊躇してまう場合がある。友人などが写った写真など、家族と言えど、公開したくない写真などが保存されていることも少なくないだろう。

 もちろん、公開設定を変更したり、プライベートなデータと公開して問題ないデータをフォルダを分けて保存しておくなどの工夫をするのも手だが、それなら前述したファイルサーバーのようにネットワーク上の1台でのみメディア共有機能を有効にし、クライアント側では公開しない設定にしておいた方が効率的だろう。

 メディアサーバーとして設定したPCで、リモートメディアストリーミングを有効にし(Windows Live IDのリンクが必要)、NASやサーバーのように常時稼働させておけば、外出先から自宅のメディアにアクセスするという使い方も現実的になるだろう。

 なお、この場合は映像のトランスコードを想定して、グラフィック性能の高いPCをサーバーとして利用することをおすすめしたい。


リモートメディアストリーミングを有効にすると、インターネット経由で自宅のPCにアクセス可能。自宅側のPCが起動していないと意味がない機能なので、サーバーとしてセットアップしたWindows 7があると現実的

DTCP-IP配信も可能なテレビサーバーとして使う

 いつも視聴する番組を自動的に録画し、視聴したいときにネットワーク上のPCやゲーム機などで再生する。そんなテレビサーバーとしてもWindows 7は利用できる。

 Windows 7の発売と同時に、「Windows Media Center」に対応したテレビキャプチャ製品が登場した。こうした製品を利用すれば、「Windows Media Center」で地上デジタル放送やBS/110度CSデジタル放送の番組を手軽に録画することが可能になる。なお、「Windows Media Center」は、Windows 7のUltimate/Professional/Home Premiumのエディションで利用できる。

 もちろん、デジタル放送の場合、著作権保護されているため、そのままではネットワーク経由での再生はできない。しかし、例えばアイ・オー・データ機器のPCI Express接続型テレビキャプチャ「GV-MC7/VS」やUSB接続型の「GV-MC7/VZ」では、著作権保護技術「DTCP-IP」に対応したメディアサーバーソフト「DiXiM Media Server 3」をベースとした「Windows Media Center」用のプラグインが付属している。これを利用することで、録画したデジタル放送番組をネットワーク経由で配信・視聴することが可能になっている。

 これにより、デジオンの「DiXiM Digital TV」といったDTCP-IP対応のクライアントソフトに加え、DTCP-IPに対応した液晶テレビや「プレイステーション 3」などで、PCに録画したテレビ番組を気軽に視聴できるようになるわけだ。


アイ・オー・データ機器の「Windows Media Center」対応キャプチャ製品を利用すると、録画した番組をDiXiM Media Server 3経由でネットワーク配信可能。PC用のDTCP-IP対応ソフトやPS3などのゲーム機で録画番組を再生できる

 なお、「Windows Media Extender」として動作する「Xbox 360」を利用した場合、録画番組の視聴に加え、PCに接続したテレビチューナーを利用したテレビ番組のリアルタイム視聴にも対応する。「Xbox 360」を所有している場合には、「Windows Media Center」対応のテレビキャプチャ製品を選ぶ方が便利だろう。

 このように、Windows 7を搭載したPCをファイルサーバーやメディアサーバー、テレビサーバーとして常時稼働させておけば、深夜のテレビ番組なども自動的に録画しておくことが可能で、視聴したい際に手軽に録画番組を再生できる。ストレージ容量も必要に応じて手軽に増やせるので、HDDレコーダーのかわりにWindows 7を使うというのも、なかなか悪くはないかもしれない。

ダウンロードやMacからのリモートデスクトップ用サーバーとして

 Windows 7をサーバーとして利用する場合、忘れてはならないのが「リモートデスクトップ」の設定だ。もちろん、PCにキーボードやマウス、ディスプレイなどを接続して普通に利用してもかまわないが、サーバーとして利用するなら、これらを取り外し、あまり邪魔にならない場所にひっそりと設置することになるだろう。

 このため、ファイル共有のアクセス権設定を変更したり、「Windows Media Center」の番組表で番組録画するとなどの使い方をする場合、「リモートデスクトップ」からの接続が不可欠となる。

 もちろん、設定や管理以外の用途にも活用できる。例えば、最近のNASで搭載例が増えてきたダウンロードサーバーとしても利用できる。容量が大きく、時間がかかりそうなファイルをダウンロードする場合は、リモートデスクトップでサーバーとしてセットアップしたWindows 7のデスクトップに接続し、そこからファイルをダウンロードすれば良いだろう。


リモートデスクトップは管理だけでなく、ダウンロードやアプリケーションの利用といった目的にも活用できる

 また、ダウンロード先をパブリックのドキュメントなどに設定しておけば、ダウンロード終了後、他のPCからネットワーク経由でダウンロードしたファイルを参照するもできる。もちろん、BitTorrentなどのクライアントをインストールし、ダウンロードに利用することも可能だ。

 このほか、Windows 7以外のOSがインストールされたPCから、Windows 7のデスクトップやアプリケーションを利用するという使い方もできる。例えば、MacintoshからWindowsのアプリケーションを利用するために、リモートデスクトップでアクセスするというのも良いだろう。

バックアップサーバーとしても利用可能

 もちろん、Windows 7をインストールしたPCをバックアップに利用することもできる。Windows 7では、Professional以上のエディションでネットワークへのバックアップ機能がサポートされている。ここで言うネットワークとは、ホームグループで共有されたフォルダでも問題ないため、サーバーとして構成したWindows 7に対して、別のWindows 7からバックアップを実行できるというわけだ。

 当然、サーバーとして構成したWindows 7自身もこの機能を利用してバックアップを実行できる。このため、USB接続型のHDDに共有データなどを定期的にバックアップできるほか、ネットワーク上にある別のPCへバックアップを保存することも可能だ。

 システム全体のイメージもバックアップできるため、PCに万一不具合が発生した場合でも、OS起動時に選択できる回復メニューやバックアップ時に作成したリカバリ用メディアなどから起動し、ネットワーク上のバックアップを指定して復元することができる。この安心感は非常に大きいだろう。


Windows 7のバックアップ機能を利用し、そのバックアップ先としてホームグループ上のWindows 7を指定可能。バックアップサーバーとしてWindows 7を活用できるIISやFTPサーバーとしても動作させることはできる。ただし、あまり実用的ではないだろう

 このほか、あまり用途はないかもしれないが、「Windowsの機能の有効化または無効化」から、IISをインストールしたり、FTPサーバーとしてWindows 7を構成することもできる。

 ただし、これらの機能を利用する場合、ファイアウォールの構成が必要になるため、手軽にというわけにはいかない。ライセンスやパフォーマンスなどを考慮しても、これらのサーバーとして利用する場合は、別途サーバーOSを利用すべきだろう。

サーバーとしても活用可能。ただし、OSの混在環境時は要注意

 以上のようにWindows 7は、工夫次第で家庭内や小規模なオフィスでNASやサーバーの代わりとして十分に活用できるOSとなっている。発売されたばかりのOSなので、ライセンスを余分に持っている人はいないかもしれないが、場合によってはライセンスを1つ用意しておくのも便利だろう。

 なお、ホームグループ機能のようにWindows 7同士でしか利用できない機能もあるため、Windows 7以外のOSが混在する環境では結果的にワークグループを構成しなければならない場合もある。また、パフォーマンスに関しても、複数台からのアクセスが集中するようなケースではやはり本格的なサーバーOSにはかなわない。

 PCが5台以下なら何とか処理できそうだが、それ以上の場合は「Windows Home Server」などを併用し、「Windows Home Server」でカバーできないテレビサーバーなどのみをWindows 7に担当させるなどの使い分けをすると良さそうだ。


関連情報

2009/10/27 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。