第356回:RAID6と強力なリモート管理機能を搭載したNAS
アイ・オー・データ機器「LAN DISK XR」
アイ・オー・データ機器から企業向けの高性能NAS「LAN DISK XR」が登場した。RAID 6対応、高速な処理能力、設定画面の一新、「Wake On LAN」などと、あらゆる点が強化された製品だ。その実力を検証してみよう。
●ビジネスシーンに求められるNASとは
アイ・オー・データ機器のビジネス向けNAS「LAN DISK XR」。RAID 6やWOLに対応した高性能、高信頼性をうたう製品。価格は2TBモデルで10万380円 |
低価格化が進んだおかげで、家庭用の手軽なストレージととして、すっかりお馴染みとなったNAS。そんなNASを信頼性が求められる本格的なビジネスシーンで活用しようと言うのが、アイ・オー・データ機器が今回発表した「LAN DISK XR(HDL-XRシリーズ)」だ。
そもそもNAS自体、ビジネスシーンから登場し、中小・SOHO向けなどの環境で普及してきた製品だが、前述のように最近ではすっかり家庭用としても認識されつつある。このため、どちらかというと価格や手軽さが重視されるようになっている。
もちろん、それはそれで歓迎すべきなのだが、その一方で、家庭用を想定した手頃な製品がビジネスシーンでも使われることも多くなってきているようだ。
本来、ビジネスシーンでは、初期コストをある程度犠牲にしてでも、信頼性やパフォーマンス、管理のしやすさなどを重視しなければならない。導入コストを安く購入できたとしても、故障したときのリスク、日々のメンテナンスや管理などの運用面を考慮すると、その運用コストが初期コストを大きく上回る場合があるからだ。
それでは、ビジネスシーンに適したNASというのは、具体的にどのような製品なのだろうか。機能的な要件としては、大きく3つが挙げられるだろう。
(1)信頼性
故障やトラブルから大切なデータをいかに保護できるか
(2)パフォーマンス
複数ユーザーで利用することを前提とした性能であるか
(3)管理のしやすさ
日々のメンテナンスや管理業務をいかに軽減できるか
もちろん、家庭用のNASでもこれらの要件が求められるが、問題はそれがどれくらいのレベルで実現されており、その(ソリューションとしての)価値が、製品価格と見合うものかどうかという点にあるだろう。
そこで今回は、これらの要件が「LAN DISK XR」で満たされているのかどうかをチェックしていくことにしよう。
背面には排気ファンや電源、LANポート、USB、eSATAなどを備える | HDDは4台搭載可能。専用のカートリッジを利用して装着する |
●容量の犠牲に見合う信頼性を確保するRAID 6
まずは、信頼性をチェックしていこう。この面で最大の特徴となるのは何と言っても「RAID 6」に対応している点だろう。海外製のNASなどでは一部搭載されている場合もあるが、国内製品では、これまでにあまり見られなかった機能と言える。
RAID 6は、「RAID 5」を拡張したような機能だ。RAID 5の場合、例えば4台のHDDでデータを保存する場合、このうち3台のHDDに実データを分散して書き込み、残り1台にパリティを書き込むという動作を、それぞれのHDDでローテンションしながら実施する。これによって、HDDが1台故障した場合でも残りのHDDが持つ実データと、パリティからデータを復元できるようになっている。
そしてRAID 6は、このパリティを2つ利用する方式となる。上記の例と同様に4台のHDDを利用する場合、2台に実データを記録して、1台に「パリティP」、もう1台に「パリティQ」を書き込む。これによって、4台中2台のHDDが故障した場合でもデータを復元できるというわけだ。
RAID 6のしくみ。データと2つのパリティ(P,Q)をHDDに分散させて記録する。これにより同時に2台のHDDが故障してもデータを復旧できる |
1度にHDDが2台故障するというはあまり多いケースとも思えなかったのだが、アイ・オーによれば1台が故障し、そのリビルド中に、負荷などによって別の1台が故障するというケースがまれにあったそうだ。
NASのように、同一ロット、同一メーカーのHDDが採用されている場合、寿命は多少のずれがあるにせよ、ほぼ同一と考えるのが妥当だ。若干のタイムラグを持った複数台HDDの故障に対応するには、確かにRAID 6を採用するメリットが大きいだろう。
ただし、RAID 6にも欠点はある。もっとも大きなデメリットは容量が半減してしまう点だ。本製品の場合、4台のHDDが搭載されており、2TBモデルでは500GB×4という構成になっている。RAID 6を利用する場合、このうち2台をパリティで利用するため、実質的な容量は1TBに半減してしまうわけだ。
また、パフォーマンスも犠牲になる。データからパリティを計算し、書き込むという動作が2回必要になるため、書き込みのパフォーマンスはどうしても低下してしまう。このため、RAID 6が採用されるのは、HDDを6台以上搭載できる製品に多い。こうした製品であれば、より多くの容量をデータに確保できる上、パフォーマンスも分散させられるため、信頼性の向上が期待できるからだ。
むしろ、NASのようにHDDが4台のケースでは、「RAID 10」を採用するケースが多かった。RAID 10はストライプ+ミラーの構成だが、こちらも容量は半減するものの、パフォーマンスが若干有利だからだ。ただし、この場合は2台同時のHDDが故障した場合に耐えられるのは、各ミラーセットで1台ずつの場合に限られ、組み合わせによってはデータが消失する恐れがある。これに対して、RAID 6では組み合わせを問わず、2台までの故障に耐えられるというわけだ。
もちろん、RAIDがいくら高度になろうと完全に安心できるわけではないが、絶対に失っては困るというデータを扱うビジネスシーンにおいては、容量とパフォーマンスを犠牲にしても、RAID 6を利用価値はあると言えるだろう。
なお、本製品には、RAID 6以外にも信頼性を確保するための工夫がなされている。例えば、LANポートが2重化されている。ロードバランス機能などは実装されていないものの、2ポートともLANに接続しておけば、万が一のネットワーク関連のトラブルにも対応可能だ。
また、電源ユニットを新設計して高寿命化を図ったといい、背面ファンを外部から手軽に交換できるようにも工夫されている。信頼性という点では、あらゆる点にこだわりが見える製品と言えそうだ。
LANポートが2つ搭載される。1つのポートが故障してももう一方で運用可能 | ファンも取り外しが手軽にできるように工夫されている |
●最大32台のPCからのアクセスにも耐える高いパフォーマンス
続いて、パフォーマンスをチェックしていこう。海外製のNASをはじめ、最近では国内メーカーからもパフォーマンスを大きな特徴とする製品が増えてきているが、本製品もかなり高いパフォーマンスを実現している製品となっている。
アイ・オー製品には、ほぼ同じ筐体を採用した「HDL-GTRシリーズ」が存在するが、今回の製品では、1.2GHz駆動のCPUを採用することで、HDL-GTRシリーズと比べて読み込み速度で2.6倍、書き込み速度で2倍の高速化を実現。また、同時接続可能な推奨台数も従来の16台から32台へと倍増している。
そこで、ここでは他社製品も含めた簡単なベンチマークテストを実施した。クライアントには、富士通の「LOOX R/A70(Core 2 Duo L7100/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7RTM)」を利用し、1000BASE-Tの有線LANでNASと接続。FTPでの計測、およびネットワークドライブに共有フォルダを割り当てた状態で「CrystarlDiskMark 2.2」を使って計測したの以下のグラフだ(Windows Home ServerはAtom330/RAM2GB/WD5400rpm 1TB HDD/Gigabit NIC)。
FTP結果 |
CrystarlDiskMark2.2結果 |
今回試用したモデルは開発版ファームウェアを搭載しているほか、HDDも250GB×4というテスト向けの構成となっているため製品版と結果が異なる可能性があることをあらかじめ断っておくが、結果を見ると、かなり高いパフォーマンスが実現できていることがわかる。店頭で購入可能な市販のNASとしては、バッファローの「LS-XHLシリーズ」がかなり高いパフォーマンスを実現できているが、これに匹敵する上、Atomベースの「Windows Home Server」とも良い勝負結果になっている。
他の製品が冗長性なしの状態に対して、本製品ではRAID 6を採用しているため、書き込み速度が半分以下となってしまっている。しかし、逆に言えば、RAID 6を搭載しながらここまでパフォーマンスを実現できているのは高く評価できるポイントと言える。
続いて、同時接続時のパフォーマンスも計測してみた。本製品上に3つの共有フォルダを作成し、3台のPCにそれぞれの共有フォルダをネットワークドライブとして割り当て、1台のみ、2台同時、3台同時と、それぞれのケースで「CrystalDiskMark 2.2」を実行した。
(左から)1台のみ、2台同時、3台同時で実行 |
設定画面のデザインも一新され、表示レスポンスも高速化された |
さすがに3台同時に実行すると、パフォーマンスがかなり低下するが、2台までの結果はかなり高い。同時アクセスでも低価格のNAS以上のパフォーマンスが発揮できているので、例えばネットワーク上の1台のPCで何か大きなファイルをコピーしながら、他のPCで共有フォルダのファイルを編集するといった使い方でも十分可能だろう。
また、細かな点だが、これまでアイ・オー製品では設定画面の表示がかなり遅かった。設定画面自体はあまり頻繁に使うものではないので、実用上の問題はないのだが、本製品では表示速度もかなり高速化されている。インターフェイスのデザインも一新されており、そういった意味でもパフォーマンスが改善されていると言えるだろう。
●LAN経由で電源ON/OFFも可能な「LAN DISK Admin」
最後の「管理のしやすさ」という点だが、こちらに関してもかなり感心させられた。
何度も記載しているように、今回試用した製品は発売前の開発版となるため、ファームウェアやアプリケーションの機能が限定されているのだが、それでも付属の「LAN DISK Admin」と呼ばれるユーティリティを利用することで、かなり楽に、それも複数台のNASを管理できるようになっている。
「LAN DISK Admin」を起動し、検索を実行すると、ネットワーク上にある「LAN DISK XR」が一覧に表示される。その後、この一覧から管理対象の「LAN DISK XR」を選んでマウスを右クリックすれば、詳細情報の表示やIPアドレスの設定など、各種設定が可能となる。ここまでは、一般的なNAS用ユーティリティと同じだ。
面白いのは、「Wake On LAN(WOL)」機能と組み合わせてリモートから電源の管理ができる点だ。一覧に表示されている「LAN DISK XR」を選択し、「電源OFF」を選択すれば本体をシャットダウンできる。その後、「電源ON」を選択すればWOLによって電源を入れることができる。もちろん「再起動」も可能だ。
管理ツールのLAN DISK Admin。WOLを利用して電源の管理もリモートからできる |
これは非常に便利な機能だ。万が一、NASの電源を止めたり、再起動しなければならない場合でも、管理端末にインストールしたユーティリティから一元管理することができる。セグメントが分かれている場合などは、ルーティングの設定をしなければならない可能性もあるが、市販のブロードドバンドルータで分割したネットワークで簡易的にテストしてみたところ、電源ON以外の動作も問題なく確認できた。仕様に従ってきちんとネットワークを設定すれば、WAN経由での管理なども不可能ではないだろう。
また、このような管理に「グループ」を利用することも可能となっている。ネットワーク上にある複数の「LAN DISK XR」を利用部署などや用途、管理単位(ファイルサーバー用、バックアップ用などの分類)でグループ化して登録しておくと、そのグループ全体に対して、電源のON/OFF/再起動、さらにファームウェアの更新作業をすることができる。
複数台のNASを導入している場合、ファームウェアの更新などは1台ずつ手動で作業する必要なケースもあるが、本製品であれば、手元のPCから一括してアップデート可能だ。これなら、本製品をファイルサーバーとして利用するのはもちろんのこと、既存のサーバーのバックアップ用などに大量導入しても、管理に手間がかからないだろう。
画面では1台しかNASが存在しないが、複数台のNASをグループで管理可能。ファームウェアのアップデートもできる |
このほか、ビジネスシーンで利用すると便利な機能として、フォルダ単位でのクォータ設定が可能なほか、USBロックキーを利用した256bit AESによる暗号化にも対応している。また、USBやeSATAポートに接続したHDDへのバックアップで差分バックアップが選択できる点、UPS利用時の自動シャットダウン/自動再起動に対応するなど、細かな部分の使い勝手もかなり改善されている。
ユーティリティとしてまた、設定データをコピー・復元することで大量導入時に同一設定を複数台のLAN DISK XRに適用できる「LAN DISK Restore」、共有フォルダの更新状況を監視する「Sight On」なども添付される。
小さなオフィスが複数の場所に点在しているような場合や、いくつかの部署が存在する中規模のオフィスなどでは、管理という面でこれまでNASを導入しにくかった。しかし、本製品であればリモートからの一元管理も可能なので、こういった環境でも導入しやすいかもしれない。
現状のNASはハードウェアとして販売されることが多いが、本製品はどちらかというとソリューションとしての販売が期待される製品と言える。アイ・オーが用意する有料保守サービスの利用も可能なので、運用までを考慮してNASを導入したい場合は、検討してみるとも良いだろう。
関連情報
2009/8/25 11:00
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