第357回:ビデオチャットをもっと手軽に
「Windows Live Video Message」と「Logicool Vid」
ロジクールから、無償で利用できるビデオチャットソフト「Logicool Vid」の提供が開始された。手軽さが特徴のビデオチャットサービスとしては、マイクロソフトの「Live Video Message」などもある。今回は、あらためてビデオチャットに注目してみよう。
●かつてのキラーからニッチへ
「Logicool Vid」に対応したロジクールのWebカメラ「C600」。直販サイトの価格は7980円で、ヘッドセット付きは8980円 |
映像を見ながら音声で会話を楽しむビデオチャットやテレビ電話。かつてはブロードバンド時代のキラーコンテンツとして期待されたが、現在はどうかと問われると少々答えに窮してしまう。
もちろん、さまざまなサービスが現在も提供されており、利用者も存在している。ビデオチャットは、「Windows Live Messenger」や「Skype」などのメッセンジャーサービスでお馴染みの機能でもあり、IP電話サービスではオプション機能としても提供されている。また、企業向けのビデオ会議などもその一種と言ってもいいだろう。
とは言え、その使われ方は主に海外とのやり取りであり、比較的用途が限定されたニッチなサービスとなりつつある。言わば、使う人は頻繁に使うが、そうでない人は無縁とという、利用者層がはっきりと分かれたサービスと言えるだろう。
その原因は、大きく2点が考えられる。1つは顔を見ながら会話をしたい相手やシーンが限られる点。離れて暮らす家族や恋人でもいれば話は別だが、そうでなければ声だけで十分、むしろメールで十分と考える人も少なくない。
もう1つは利用するための敷居が高いという点だろう。メッセンジャーなどを日常的に利用している人であれば1度くらいは使ったことがあるかもしれないが、そもそも「Windows Live Messengerって何? Skypeって何?」という人も少なくない。また、最近ではノートPCを中心に標準でWebカメラが搭載されることも多くなったが、まだまだWebカメラを持っていないという人もいるはずだ。
それでは、ビデオチャットやテレビ電話のようなWebカメラを利用したサービスが再び脚光を浴びるとすれば、どのようなケースが考えられるのだろうか。今回は興味深い2つのアプローチを紹介しよう。
●非同期コミュニケーションの「Windows Live Video Messages」
「ニーズの発掘」という視点で考えたときに興味深いのは、マイクロソフトが「Windows Live」の1サービスとして2008年12月に開始した「Windows Live Video Messages」だ。OSはWindows Vista/XPに対応する。
マイクロソフトの「Windows Live Video Messages」。Webカメラで撮影したミニ動画をメール送信できるサービスだ | 撮影した動画をメールアドレス宛に送信すると、サイト経由で相手が動画を再生できる |
「Windows Live Video Messages」は、カメラで撮影したビデオメッセージをメールで相手に送るサービスだ。動画メッセージの撮影は、「Windows Live Video Messages」ののWebサイトに加え、マイクロソフトのWebカメラ「LifeCamシリーズ」の利用者であればWindows用ガジェットからも録画できる。録画時間は最大2分間で、撮影後に相手のメールアドレス宛に送信すれば、サイト経由で動画を再生できるというものだ。
Webカメラを利用したサービスと言うと、どうしても「ライブ」、すなわち同期性を活かしたくなるが、このサービスは映像の送り手と受け手の間にタイムラグがある非同期のコミュニケーションと言える。
マイクロソフト製のWebカメラを利用している場合はデスクトップガジェットを利用して動画の撮影や送信、表示などができる |
最近のWebサービスは、Twitterのような“ゆるやかな”つながりが1つのトレンドになりつつあるが、このサービスも相手とのつながりを非同期という仕組みでゆるやかにしたものと言える。
相手の顔を見ながらの声によるリアルタイムコミュニケーションは、非常に密なものと言える。しかし、わざわざオンラインでリアルタイムに顔を見ながら会話をしているのに、会話が途切れようものなら、気まずささえ漂いかねない。
一方、ビデオメッセージという形態なら、こちらが伝えたいことを一方的に相手に伝えることができる。それも、音声や文字では説明しにくい内容、例えばモノや動作などを映像で明確に伝えることができるわけだ。
最近でもあるかわからないが、過去にテレビ番組で故郷の両親にビデオレターを送るという企画があったが、「Windows Live Video Messages」はこの企画を身近にしたようなサービスと言える。Webカメラの活用方法としては、なかなか面白い試みと言えそうだ。
●利用の手軽さで敷居を下げる「Logicoool Vid」
一方、用途はビデオチャットのままだが、その敷居をさらに下げようと言うのが、WebカメラなどのPC周辺機器ベンダーとして知られるロジクールの戦略だ。
ロジクールでは、同社のWebカメラを利用しているユーザー向けに「Logicool Vid(ロジクール ヴィッド)」と呼ばれるビデオチャットソフトの無償提供を7月に開始した。対応OSはWindows Vista/XPおよびMac OS X。
「Logicool Vid」に対応した「C600」の本体側面部 | 上部にはシャッターを備え、使用しない場合にはレンズを閉じておける |
無償という点では、前述した「Windows Live Messenger」や「Skype」なども同じだが、「Logicool Vid」が持つ最大の特徴は、その手軽さだ。
ロジクールのWebサイトから、ソフトをダウンロードしてインストールすると、PCに接続されているカメラを自動的で認識。その後、メールアドレスとパスワードを登録するだけで、すぐに利用できるようになっている。また、ソフト自体は、製品付属のユーティリティCDからもインストールできる。
Logicool Vidは、ロジクールのWebサイトから誰でもダウンロードできる。なお、同社製品ユーザーと、ユーザーから招待された場合は無償利用できるが、それ以外の場合は30日間限定で試用できる | アカウント登録も簡単。メールアドレスをユーザーIDとして利用する |
相手との通話も簡単で、まずは通話したい相手のメールアドレスを入力する。すると、そのメールアドレスがすでにユーザー登録されているかを自動的に検索し、登録されていれば友達として追加され通話が可能となる。
もし、ユーザー登録されていない場合はメールで「Logicool Vid」のダウンロードURLが送ることができる。この場合は、相手ユーザーにソフトをダウンロードしもらって、メールアドレスを登録すればビデオチャットが可能になるわけだ。
もちろん、相手側にもWebカメラが必要だが、他社製のカメラでも問題なく利用できる上、ロジクール製のWebカメラを利用しているユーザーから招待された場合は、「Logicool Vid」を期間制限なく利用できるようになっている。
友人のメールアドレスを登録すると、相手に「Logicool Vid」のダウンロード先が表示される | 相手が登録されれば通話準備OK |
つまり、ソフトの用意やアカウントの登録、Webカメラの利用という一連の流れが、1つのソフトで完結し、しかも文字チャットやそれ以外の高度な機能を省略しているため、操作に迷いようがないほどにシンプルな操作で使えるわけだ。
Webサイトでアカウントを登録し、ソフトをダウンロード。友人を登録してから、カメラとマイクをセットアップし、ようやく相手とビデオチャットができる……というような、これまで一般的だった流れを考えると、確かに手軽なサービスと言えるだろう。
Webカメラは低価格化が進んでおり、ロジクール製品の場合では1980円から購入できる点も、ビデオチャットの敷居を下げることに大きく貢献している。故郷の両親が孫と会話をするためにビデオチャットの環境を整えてたい場合でも、これであれば費用的にも、スキル的にも無理なくできそうだ。
トップ画面で通話したい相手を選ぶと呼び出しが表示される。もちろん、相手がPCやアプリケーションを起動していないと通話できない。この場合は「不在」と表示される | 通話画面も非常にシンプル。映像が大きく表示され、ボタン類も切断、最大化、自分の映像の表示/非表示くらいしかない |
●より手軽にビデオチャットを利用できる取り組みが進む
以上のように、Webカメラを活用したビデオチャットやテレビ電話の世界は、ビデオメッセージなどの用途の拡大と、より手軽に利用できる環境の提供という敷居を下げる試みが進んでいる。
このようなサービスは、ともするとレガシーなサービスと考えられがちだが、最近のWebサービスの中には、掲示板のような文字によるレガシーなコミュニケーションをリアルタイム化することで、その用途を拡大すると同時に、敷居を下げることで、流行しているものも数少なくない。
一般に普及するには、もう一段の工夫と話題作りが必要かもしれないが、文字から映像という流れを考えると、こういったサービスの発展系が話題になる日も遠くないのかもしれない。
関連情報
2009/9/1 11:00
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