第349回:設定や干渉、無線LAN利用時の手間からの解放
アイ・オー「テレビコネクション WN-LA/C-S」
アイ・オー・データ機器から、家電製品などを無線LANに接続するためのコンバータ「WN-LA/C-S」が発売された。親機であるアクセスポイントと、子機のコンバータをセットにした製品だが、標準で接続設定が完了済み、無線LANが5GHz帯に設定済みという意欲的な製品だ。その実力を検証してみよう。
●多機能な無線LAN機器とは対極にあるシンプルさを追求した製品
バッファローの無線LANルータ「WZR-HP-G300NH」が何でもできる、高機能を追求した無線LAN製品だとすれば、まさにその対極にあたるシンプルさを追求した無線LAN製品が、アイ・オー・データ機器から発売された「WN-LA/C-S」だ。
アイ・オー・データ機器の「WN-LA/C-S」。IEEE 802.11a/b/g/nに対応したアクセスポイントとコンバータのセットモデル |
バッファローの「WZR-HP-G300NH」は以前、本コラムでも取り上げたが、比較的リーズナブルな価格でありながら、無線LANルータとしてだけでなく、NASやメディアサーバー機能に加え、外出先からアクセスするためのWebサーバーやVPNサーバー、そしてBitTorrentクライアントとしてと、とにかく非常に多機能な製品となっていた。このため、これ1台買えば、ユーザーは自分のニーズに合わせてどのような用途にも利用することができた。
これに対して、アイ・オー・データ機器の「WN-LA/C-S」は、逆に用途が限られている製品だ。もちろん、完全に用途が限られているわけではなく、一般的な無線LAN製品としても利用できるが、ネット対応テレビなどの家電製品を無線LANで接続して使用するのを主な用途と想定しており、「テレビコネクション」との愛称もつけられている。
「WN-LA/C-S」は、無線LANの親機(アクセスポイント)と子機(イーサネットコンバータ)がセットになった製品となっており、このうち親機をルータなどの既存の有線LAN製品に接続し、子機をネット対応テレビなどに接続して利用するようになっている。言わば有線LANのケーブルを代用するようなイメージだ。これで、有線LANにしか対応していない機器を無線LANで接続できるようになる。
つまり、WN-LA/C-Sは、ネット対応テレビのサービスを利用するために無線でテレビを繋ぐというように、何をどう繋ぐのかというゴールが非常にシンプルかつ明確なのだ。このあたりはルート(機能)をたくさん用意して、自由にゴールを目指してくださいというスタンスの「WZR-HP-G300NH」とまさに対極にあると言えるだろう。
左側が子機で、右側が親機。見た目はほとんど同じだが、よく見ると「TV」のロゴの隣のアイコンが異なる | 本体にはLANポート×2(100BASE-TX)を用意。左側のスイッチが5GHz/2.4GHzの切り替え用。標準では5GHzに設定される | スタンドが付属しており、普段はこのように立てて設置する |
●事前設定済みで、繋ぐだけですぐに使える
このように用途をある程度限定したことで、WN-LA/C-Sはゴールに最短距離でたどり着き、しかも後戻りする必要がないというメリットをユーザーにもたらすことに成功している。具体的には、設定の手間や電波の干渉といった、無線LANならではの問題があらかじめ対処済みとなっているのだ。
前述したように、WN-LA/C-Sはアクセスポイントとなる親機と、コンバータである子機のセット製品となっているが、この2つの機器間の無線設定は、出荷時に完了済みとなっている。もちろん、WPA2による暗号化が設定済みの状態でだ。このため、ユーザーは購入後、製品を箱から取り出し、親機をルータなどの既存LANに、子機をテレビなどの機器に繋ぐだけで、本製品を利用するための準備が完了する。
テレビに接続したところ。無線LANの設定は出荷時に完了しているので、繋ぐだけですぐに利用できる |
無線LANの設定は、ボタン設定の登場などで手軽にできるようになったが、それでも初めての場合はどういう順番で、どのタイミングでボタンを押せば良いのかなどを取扱説明書で確認しなければならない。
しかし、本製品であれば、箱から取り出して繋ぐだけで良い。親機と子機の見分け方、LANケーブルや電源のつなぎ方などは、さすがに取扱説明書を参照する必要があるが、実際の作業で迷うことはまずない。無線LANの設定がわからなくて時間を要したり、いろいろと悩むことなく、最短でゴールにたどり着けるというわけだ。
設定画面も用意されているが通常は利用しないだろう | WPSのプッシュボタン方式に対応。Windows 7などの対応クライアントを利用すればPCなどもボタン操作のみで設定可能だ | WPSのボタンは本体の側面に用意されている。押して設定を開始すると青いLEDが点灯する |
●5GHz帯の標準利用で干渉とさよなら
筆者宅周辺にある無線LANアクセスポイント。見通しの良い場所にいけば、楽に10台近くのアクセスポイントが発見されるが、そのすべてが2.4GHz帯を利用 |
このように、設定に対するユーザーの不安をあらかじめ取り除いてあるWN-LA/C-Sだが、もう1つ、干渉という無線LANならではの不安もあらかじめ取り除かれている。
WN-LA/C-Sは、IEEE 802.11a/b/g、およびIEEE 802.11n ドラフト2.0に対応しているが、標準では親機-子機間の接続に、このうちのIEEE 802.11a/n、つまり5GHz帯の電波を利用するように設定されている。
PCへの標準搭載や設定の簡易化、低価格化などによって無線LANは着実に普及しつつあるが、その一方で電波の干渉が問題になってきている。特に、IEEE 11b/g/nの2.4GHz帯は、家の周囲にいくつものアクセスポイントが存在することが珍しくなく、しかもデュアルチャネル対応製品が増えたことで、もはや干渉しない空きチャネルを探すことが至難の業となっている。
もちろん、干渉が発生したとしても、繋がらないということはまずない上、Webサイトを見るのに問題のない数Mbpsでの通信は可能なケースが多い。しかし、映像配信サービスの利用などとなると話は別だ。
WN-LA/C-Sが想定しているような使い方、つまりネット対応テレビでのアクトビラなどの映像配信サービスの利用、東芝の液晶テレビ「REGZA」などのNASへの録画や再生といった使い方では、実効で20Mbpsを超えるような速度を安定して利用できないと、映像をまともに再生できない。
2.4GHz帯が混雑している可能性があるのだったら、比較的空いている5GHz帯を利用するように設定して、干渉の問題を避けようというのがWN-LA/C-Sの狙いというわけだ。
実際、筆者宅では、この5GHz帯の利用が非常に効果的だ。筆者宅の場合、周囲に2.4GHz帯を利用する無線LANアクセスポイントが非常に多く、窓際などの見通しの良い場所では最大で10個近くの無線LANアクセスポイントが見つかる場合もある。
しかしながら、これらのアクセスポイントのうち、5GHz帯を利用しているアクセスポイントは何と1台も存在しない。2.4GHz帯の混雑がおかしく思えるほど5GHz帯は空いているのだ。
テストとして、WN-LA/C-Sの親機を木造3階建ての筆者宅1階に設置し、PCに子機を接続して速度を計測してみたのが以下のグラフだ。WN-LA/C-Sは標準ではIEEE 802.11a/nの20MHz幅設定となっているため、最大300Mbpsとなる40MHz幅にした場合も参考として掲載している。
150Mbps (20MHz幅) | 300Mbps (40MHz幅) | |||
get | put | get | put | |
1階 | 60.36Mbps | 68.25Mbps | 84.65Mbps | 83.12Mbps |
2階 | 41.9Mbps | 52.43Mbps | 40.03Mbps | 50.01Mbps |
3階 | 34.79Mbps | 47.99Mbps | 40.45Mbps | 48.32Mbps |
結果はまさに圧巻で、1番距離のある3階でも30Mbpsオーバーの速度が安定的に実現されている。有線LANのポートが100BASE-TXとなっている影響か40MHz幅にしてもさほど速度の向上は見られなかったが、いずれの場合も常に速度が安定しており、速度に大きなブレがない。
一方、2.4GHz帯を利用する場合、アクセスポイントの近くであれば数十Mbpsの速度も実現可能だが、離れると5Mbps以下、ひどい場合は数百kbpsにまで速度が落ち込むこともあるので、この安定感は非常に魅力的だ。
標準設定は20MHz幅。40MHz幅のデュアルチャネルに設定することも可能だが、さほど速度は変わらない |
試しに、東芝のREGZAを利用してNASに録画した地上デジタル放送の番組を再生してみたが、5GHz帯では有線LANと同じように違和感なく映像を再生できた。
映像再生などを無線LAN経由で利用する場合、以前から5GHz帯を利用すべきだと言われてはいたが、実際の無線LAN機器は標準設定が2.4GHz帯になっていることが多く、事実上、5GHz帯は有効活用されていなかった。このような状況をきちんと把握し、ユーザーが干渉で困ることがないよう、あらかじめ5GHz帯で利用できるように設定している点は高く評価したいところだ。
●ユーザーが快適に使えるように工夫されている
このようにWN-LA/C-Sは、接続や干渉など、ユーザーが困るであろう問題が想定され、それを回避するためのさまざまな工夫がなされた製品と言える。ユーザーがいかに快適に無線LANを使えるかが熟慮された極めて完成度の高い製品だ。
このため、ネット対応テレビなどの家電製品を無線LANで繋ぎたいという用途であれば、いわゆる「鉄板」と言っても過言ではない製品と言える。
ただし、想定外の使い方をしようとすると、ある程度の手間がかかることは覚悟しておくべきだ。PCやゲーム機を親機に接続することも可能だが、WPS対応機器(Windows 7やニンテンドーDSi)以外は手動設定が必要となる上、5GHz帯に対応しない機器(ゲーム機やネットブック)などを接続しようとすると2.4GHz帯に切り替えなければならない。
こうなると、WN-LA/C-Sならではの手間なし、干渉の心配なしという特徴も活かされない。従って、汎用的な使い方ではなく、ネット対応家電の接続というピンポイントな使い方をしたいときに選ぶ製品ということになるだろう。
このほか、LAN側の通信を監視して、無通信状態のときは無線LANをオフにして30%の消費電力をカットするなどの工夫もなされており、必要なときにしか通信しないという点も家電との組み合わせに非常に適している。
ゲーム機なども接続できるが、2.4GHzへの切り替えが必要 | 子機側ではLANポートの通信を監視して無線LANの電波をオンオフが可能。省電力にも配慮されている |
恐らく、現状ほとんどのユーザーが無線LANをすでに利用していると思われるが、本製品の特徴を考慮すると、このような既存の無線LANからの買い換えにはあまり向いていない。2.4GHz帯でも使えるが、その場合、メリットが活きないからだ。
このため、2.4GHz帯を利用した汎用的な使い方は既存の無線LAN機器にまかせ、WN-LA/C-Sは家電専用の機器として買い足して使うのが賢い選択といえる。テレビの買い換えのタイミングなどで、一緒に購入することを検討したい製品だ。
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2009/7/7 11:00
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