第346回:「Windows Live FrameIt」ベータ版を試す

フォトフレームは情報機器になり得るか?


 マイクロソフトからWindows Liveの新サービス「Windows Live FrameIt」ベータ版が開始された。各種オンラインサービスとフォトフレームを繋ぐサービスだが、果たしてその狙いはどこにあるのだろうか。

デジタルフォトフレームの将来性

 デジタルフォトフレームは、単なるデジタルの写真立てで終わるのか。それとも、デジタルサイネージ的な側面を備えた情報端末として成長するのか。今回の「Windows Live FrameIt」ベータ版のサービス開始で、デジタルフォトフレームの今後が楽しみになってきた。

 Windows Live FrameItは、ネットワーク機能を備えたデジタルフォトフレームと各種オンラインサービスを繋ぐ、一種のプラットフォームだ。デジタルカメラなどで撮影した写真を画面に表示できるデジタルフォトフレームの中には、無線LANなどのネットワーク機能を備えた製品が存在する。例えば、本コラムで以前に取り上げたソニーの「VGF-CP1」やバッファローの「PF-50WG」、マイアルバムの「ワイファイフォトフレーム」などがそうだ。

 これらの製品は、ネットワーク機能を利用して、LAN上のNASやPCなどに保存する写真に加え、Picasaウェブアルバムやフォト蔵、マイアルバムなどのオンラインサービスに保存した写真を表示できるようになっている。しかし、これらの機能は製品個別に実装されていたものになる。

 これに対して、Windows Live FrameItでは、SDKやLive.com上でのユーザーへのサービス窓口の提供など、デジタルフォトフレームからオンラインサービスを利用するためのさまざまなプラットフォームが提供されている。


Windows Liveの新サービスとして提供を開始したデジタルフォトフレームなど向けの情報サービス「Windows Live FrameIt」

 現状、このサービスに対応するデジタルフォトフレームは、ソニーの「VGF-CP1」とバッファローの「PF-50WG」のみとなっている。しかし、このような環境の充実によって、今後は他のベンダーでもネットワーク対応フォトフレームの開発や販促が容易になるはずだ。

 そうなれば、オンラインのサービスも、写真の表示だけでなく、天気、ニュース、電子チラシ……と情報サービスへと拡大し、デジタルフォトフレームの用途や設置場所などが広がる可能性もあるだろう。

用途を考慮した簡易な設定方法

 それでは、サービス内容について見ていこう。まずは対応機種だが、前述したように現状は、ソニーの「VGF-CP1」とバッファローの「PF-50WG」に限られる。2製品以外でも、RSS受信に対応していれば利用可能とされているが、RSSの文字情報しか表示されない場合などもあり、現状は上記2機種のみと考えるのが妥当だろう。

 今回は、ソニーのVGF-CP1を利用してテストしてみた。まずは、ファームウェアをWindows Live FrameIt対応の最新版(Ver.2.00.00.09032516)に更新する。最新ファームウェアはサポートページで配布されており、SDメモリなどに作成した「Update」フォルダにファームウェアを保存して読み込ませることで手軽にアップデートが可能だ。


サービスに対応するフォトフレームは2機種。このうちの今回はソニーの「VGF-CP1」を利用したSDカード経由でファームウェアをアップデート最新ファームウェア適用でWindows Live FrameItに対応。さらに「SHOUTcast」への対応で、インターネットラジオ受信も可能になった

 最新ファームウェアへのアップデートで、作成済みのフレーム(写真などを表示するための設定のようなもの)や設定情報の一部がクリアされてしまう点は残念だが、Windows Live FrameIt対応に加えて、インターネットラジオ「SHOUTcast」の利用にも対応する。場合によっては、SHOUTcastの利用目的だけでもアップデートする価値があるだろう。

 アップデートが完了すると、設定メニューからWindows Live FrameItへの接続設定が可能となる。通常、オンラインサービスを利用する場合、ユーザー名やメールアドレスなどをフォトフレームに登録するが、Windows Live FrameItの場合は「トークン」と呼ばれるコードを利用する。

 VGF-CP1から設定を開始すると、画面上に「UK5P-SNAG」のようなワンタイムのトークンが表示される。これをWindows Live FrameItのページに入力するとデバイスとして登録されるわけだ。


接続設定にはワンタイムのトークンを利用する機器側に表示されたトークンをFrameItのサイトに入力すると機器が登録される

 本サービスでは、離れた場所にいる家族、祖父母などにフォトフレームを贈り、写真をリモートから表示するという使い方が提案されている。この際、フォトフレーム側で接続にIDを入力する場合、家族とは言え、相手にIDとパスワードを伝える必要がある上、フォトフレーム側で文字入力をするという煩雑な操作を強いることになる。

 これに対して、Windows Live FrameItの方法であれば、電話などで相手からコードを聞き、こちら側で登録作業ができるので設定の手間がないというわけだ。

 ただし、今回利用したVGF-CP1の場合、機能が豊富なこともあり、サービスへの接続設定をしたあとの手順はなかなか難易度が高い。具体的には、情報メニューからWindows Live FrameItを選択し、画像などの表示設定がなされたコレクション(サーバー側で作成する)をいったん表示。これをフレームとしてフォトフレームのトップ画面に登録して、はじめて表示することが可能となる。

 Windows Live FrameIt自体の使い方はさほど難しくないのだが、肝心のフォトフレーム側の設定はハードウェアに依存する。もしも、実家の両親などにプレゼントするという使い方をするならば、ハードウェア自体の使い易さにも留意すべきだろう。


VGF-CP1では、内蔵メモリやDLNA、Samba、オンラインサービスなどのさまざまなソースを利用可能。これらのソースからフレームを作成することで写真の表示ができる仕様になっている

公開写真しか参照できない

各種サービスがソースと呼ばれるモジュールで提供される。これらのソースを好みに合わせて組み合わせてコレクションを作成。コレクションをフォトフレームに表示できる

 このように、フォトフレーム側でWindows Live FrameItが利用可能にしてしまえば、あとは何をどのように表示するかはサーバー側の設定次第だ。

 Windows Live FrameItでは、表示するサービスを「ソース」と呼び、このソースを組み合わせて「コレクション」を作成する。

 ソースには現状、FacebookやWindows Live フォト、Picasaウェブアルバム、フォト蔵、Photobucket、SmugMugなどの写真共有サービス、MSN産経ニュース、天気予報といった情報サイトなどの合計15のサービスが登録されている。

 例えば、Windows Live フォトに登録した写真を表示したいと思ったら、ソースにWindows Live フォトを追加後、設定で表示したいフォルダを選択すれば良い。Picasaウェブアルバムなど外部サービスでは、IDの登録が必要だが、同じWindows Liveのサービスであれば、サインインしているアカウントのフォルダがそのまま参照できる。

 ただし、Windows Live FrameItに登録できるのは、一般公開されている写真のみという点に注意が必要だ。Windows Live フォトであれば「全員(パブリック)」、Picasaウェブアルバムなら「一般公開」、フォト蔵なら「インターネットに公開する」と設定していないとWindows Live FrameItから参照できない。

 写真をインターネットに公開することに抵抗がない人がどれくらいいるのか疑問だが、少なくともプライベートな写真を表示するのには十分な注意が必要となる。

 このようにインターネットに公開されていないと表示できないフォトフレームというのは、実は少なくないのだが、今回利用したソニーのVGF-CP1などでは独自機能でPicasaウェブアルバムやフォト蔵を登録すれば、きちんと非公開設定になっているフォルダもフォトフレームで表示できるようになっている。

 従って、おじいちゃんやおばあちゃんにプレゼントして親孝行的な使い方をしたいのであれば、少なくとも現状ではWindows Live FrameItではなく、VGF-CP1の独自機能を使った方が良いだろう。


ソースで参照できるフォルダは公開設定されているもののみとなる。よって、表示したい写真はインターネットに公開しないと設定できないPicasaウェブアルバムやフォト蔵に関しては、非公開設定のフォルダも参照できるVGF-CP1の機能を使った方が便利

用途を変えれば面白い使い方も可能

 では、使い物にならないのかというとそうでもない。例えば、Windows Live FrameItのソースには、フォト蔵のピックアップ写真や週間ランキングを表示するためのソースが提供されている。また、これはなかなか面白い機能だと思うのだが、Windows Live Search用のソースが提供されており、「ハッブル 検索」などとキーワードを入力すると、その画像検索の結果をフォトフレームに表示できるようになっている。

 こういったパブリックな写真を表示するという用途にはなかなか便利だ。店舗などのディスプレイ用として、店の雰囲気に合ったキーワードで写真を表示するという使い方も考えられるだろう。一方、情報系としては現状、MSN産経ニュースや天気程度しかないが、一般的なRSSを登録して表示することも可能となっている。ニュースサイトやブログなどの最新記事を表示するという使い方も可能だ。

 ちなみに、ソースをいくつも登録している場合、これらの表示方法もカスタマイズできる。順番に表示することもできるし、ランダムに表示することも可能、さらに日付順に表示することなども可能だ。


Windows Live Searchのソースを利用して「ハッブル 画像」で検索。これはなかなか便利。深海関連もなかなか良い画像が表示されたソースはスケジュール設定が可能。時間や曜日などを指定できるほか、表示する期限も設定できるので、店舗などのディスプレイで期間限定のプロモーションをするといった使い方もできる

 面白いのは、個別のソースの表示タイミングを時間や曜日ごとに調整できる点だ。例えば、天気予報は朝7:00~10:00のみ表示。フォト蔵の週間ランキングは週に1回だけ表示。MSN産経ニュースは曜日、時間を問わず常に表示、といった具合だ。

 この使い方ができるのは、なかなか便利だ。というのも、いろいろな情報を表示しようと、ソースをガンガン追加してくと、1つのソースが表示されるまでにかなりの間が開いてしまう。例えば、朝に天気予報を見ようと思っても、タイミングを1度逃すと次に見られるのは1時間後だったりするわけだ。

 これに対して、時間帯によってよく見るソースを選択しておけば、このようなムダがなくなる上、時間帯によって表示されるコンテンツが変わるので飽きが来ない。フォトフレームというのは、1週間も使うと同じ写真に見飽きてしまうのだが、これならメリハリが効いて飽きない印象だ。


個人的にお気に入りの宇宙フォトフレームとして写真を表示中。SHOUTcastで音楽を再生しながら使うとなかなか良い天気予報を表示。「Windows Live FrameIt」のバナー部分は将来的に広告に使うのだろうかMSN産経ニュースでニュースも見られる

情報機器としての発展を期待

 このように、Windows Live FrameItは、個人的な写真を見るための使い方というよりは、パブリックな写真、情報などを表示するためのサービスとして使えば、なかなか面白いサービスと言える。

 現状は、写真とニュース程度だが、個人的には最新グッズや店舗、グルメ情報などを紹介するメディアとして使えば、雑誌とテレビの中間的な存在として、なかなか面白いのではないかと思える。最近では、美人時計のようなビジュアル的に面白いコンテンツが流行しているが、こういったコンテンツもフォトフレームのような常に情報が表示されている機器との相性がよさそうだ。

 果たして、広告的な内容のコンテンツが合間に挟まれるようになると、どうかとも思えるが、これはコンテンツの出来次第で成立しそうにも思える。いずれにせよ、ハードウェア自体が普及しないと、将来的なサービスの発展は難しそうだが、今回のWindows Live FrameItの登場で、プラットフォームと言うか、その下地は整いつつあると言える。今後の展開に大いに期待したいところだ。


関連情報

2009/6/16 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。