第343回:Windows 7でのWindows Live IDの活用
ホームグループとリモートメディアストリーミングを試す
マイクロソフトの次期OS「Windows 7」では、OSのユーザーアカウントにオンラインID「Windows Live ID」をリンクさせることが可能となっている。今回は、オンラインIDのリンクによって何ができるのかを検証した。
●ホームグループとメディアストリーミングで活用
Windows 7 |
製品候補版(RC版)の一般公開が開始され、その全貌がほぼ明らかになってきた「Windows 7」。パフォーマンスや安定性、互換性という意味でも、その完成度は高く、2009年内とも言われる正式リリースが待ち遠しいところだ。
個人的にはDTCP-IP対応の見送りは残念ではあるが(メーカー製PCなどでの対応はあり得るが、OSでは標準サポートしない)、手軽にファイル共有できる「ホームグループ」、AVCHDなどもトランスコードしながら、コンテンツのフォーマットやビットレートを気にせず、さまざまな機器にメディアを配信できる「メディアストリーミング」、極めて設定が楽になった無線LAN接続など、ネットワーク周りの強化が図られているあたりは非常に期待できるところだ。
このようなネットワーク関連の機能については、以前にも本コラムで取り上げたが、今回はRC版で強化された機能をいくつか紹介することにしたい。この中でも特に注目されるのが、Windows Live IDとの連携だ。
Windows 7では、ユーザーアカウントにオンラインID(現状はWindows Live IDのみ)をリンクさせることが可能になっている。これによって、ホームグループでのアクセス許可をWindows Live ID単位で設定したり、「リモートメディアストリーミング」と呼ばれるインターネット経由でのPCに保存したメディアファイルの再生が可能となっている。
これまで、「Windows Live Messenger」や「Windows Live Hotmail」などのオンラインサービスで利用してきたWindows Live IDが、Windows 7からはOSの機能とより密接に関係づけられたという印象だ。
●混在環境でのホームグループ
では、具体的にどのようなことが可能になるのかを見ていこう。まずは、ホームグループでのオンラインIDの活用について紹介したいが、その前にホームグループについて少々おさらいをしておきたい。
ホームグループに関しては、すでにいろいろな媒体で機能が紹介されているように、これまでユーザーアカウントに対する理解が必要だったLAN上でのファイル共有を、簡単なパスワード設定だけで利用できるようにした機能だ。
LAN上にある1台のPCでホームグループを作成後、このPCで生成されたパスワード(自分で設定することも可能)を他のPCに入力することで、手軽にセキュアなファイル共有環境が構築できるようになっている。
ホームグループの設定。ネットワーク上のPCで一意のパスワードを入力するだけで、ファイル共有を手軽に設定できる |
ちなみにWindows 7では、ホームグループをはじめ、ネットワーク機能のさまざまな部分でIPv6の利用が必須となっている。ネットワークアダプタのプロパティでIPv6を無効にしている場合、ホームグループにも参加できない。また、後述するリモートメディアストリーミングなどでもIPv6トンネリング技術「Teredo」を利用しているようだ。
ホームグループの利用にはIPv6が必須。意図的にプロトコルを無効にしたところエラーが発生した |
このホームグループ、確かに手軽で便利なのだが、問題はサポートするOSがWindows 7のみとなっている点だ。現状、無償で利用できるRC版であれば、手元にあるすべてのPCをWindows 7にアップデートすることも可能だが、正式リリース後はそうはいかない。どうしても、Windows Vistaなど、従来OSとの混在環境で利用せざるを得ないだろう。
それでは、Windows Vistaなどとの混在環境でホームグループを構成した場合に、どのような使い方になるのだろうか? 簡単にまとめたのが以下の図だ。
Windows7×2、Windows Vista×1、サーバーまたはNAS×1台という環境を想定した場合、まずホームグループを構成したWindows 7同士(PC2とPC3)は、アカウントなどに関係なくファイル共有が可能となる。
一方、同一LAN上のWindows Vistaを搭載したPCはどうかというと、これはWindows Vista側の設定次第でファイル共有できるかどうかが決まる。まず、パブリック共有を有効にし、パスワード保護共有を無効にすれば、Windows 7のエクスプローラー上の表示場所が「ホームグループ」ではなく「ネットワーク」になるものの、問題なくファイルを共有できる。
ただし、パスワード保護共有が有効になっている場合は、アクセスする側のPCのアカウントをWindows Vista上に登録するか、アクセス時に相手側のPCのアカウントで認証しないと共有フォルダにはアクセスできない。
これはNASを利用している場合も同様だ。NAS側でアクセス制限を特に設定していなければ、Windows 7のエクスプローラ上の「ネットワーク」からNASにアクセスできる。一方、ユーザーアカウントによるアクセス制限を設定している場合、もしくはWindows Home Serverなどを利用している場合は、Windows 7で利用しているアカウントをあらかじめ登録する必要がある。
従来OSとの混在環境の場合、Windows 7は同士はホームグループ、他のOSは従来のネットワークでと別々に利用することになる。管理やトラブル時の対応を考えると、従来の方式に統一するのも1つの手 |
つまり、ホームグループ以外のリソースへのアクセスは、従来のWorkgroupの考え方とまったく同じとなり、混在環境で利用する場合はユーザーアカウントを相互に登録するなどの工夫が必要になる。せっかく便利な機能なのだから、従来OS向けのアップデートモジュールなども提供して欲しいところだ。
なお、Windows 7ではホームグループでの共有は、フォルダではなくライブラリ単位での共有が可能だ。ただし、ライブラリにネットワーク上の他のPCの共有フォルダを追加している場合、同一ホームグループ上のWindows 7からこの共有フォルダにアクセスできるかは、アクセス先のPCにアクセス権があることが条件になる。
先ほど示した図で、PC2のライブラリに、PC1やHS1の共有フォルダを追加して利用していたとしよう。同じホームグループ上のPCであるPC3からライブラリを参照した際に、PC2のローカルフォルダに加えて、これらネットワーク上の共有フォルダにアクセスできるかは、アクセス元のPC3のユーザー(User3)が、PC1やHS1へのアクセスが許可されている必要がある。
もちろん、当たり前と言えば当たり前の話なのだが、Windows 7のホームグループの場合、ユーザーアカウントを意識する必要がなくなっただけに、混在環境では少々設定に戸惑う場合があるので注意したいところだ。
ホームグループではライブラリへのアクセスが可能。ただし、相手PCのライブラリにアクセス許可のないネットワーク共有フォルダが登録されている場合、ここにはアクセスできない(This Folder is unavailableと表示される) |
●ホームグループでのオンラインIDの活用
さて、本題に入ろう。冒頭で紹介したように、Windows 7ではアカウントにオンラインIDを関連付けできるようになっている。コントロールパネルのユーザーアカウントを開くと、左側のタスク一覧に「オンラインIDをリンク」という項目が表示される。
これを選択すると、追加可能なオンラインIDプロバイダーとして「Windows Live ID」が表示される(他のプロバイダーも今後増える予定)。リンク先のサイトを表示して、表示言語を日本語に変更してから「Windows Live ID サインイン アシスタント 6.5」をインストールすると、アカウントにWindows Live IDを関連付けすることができる。
Windows Live MessengerやWindows Live Hotmailなど、普段利用するWindows Live IDを登録してサインインすれば、Windows 7のログオンに利用しているアカウントに、登録したWindows Live IDが関連付けされるというわけだ。
(1)ユーザーアカウントの設定画面で左側のタスクから「オンラインIDをリンク」を選択 | (2)オンラインプロバイダーを追加する | (3)選択可能なプロバイダーは現時点でWindows Liveのみ |
(4)Windows Live IDサインインアシスタント6.5をインストール | (5)Windows Live IDを入力するとローカルアカウントと関連付けされる |
こうして関連づけしたWindows Live IDは、ホームグループ上でのアクセス許可設定で利用できるようになる。
ホームグループでは通常、グループ内の全ユーザーに対してアクセス許可の設定を行う。例えば、ドキュメントライブラリを右クリックして「共有」を選択すると、「なし」「ホームグループ(読み取り)」「ホームグループ(読み取り/書き込み)」から共有範囲sを選択できる。
これに対して、ユーザーアカウントにWindows Live IDをリンクさせると、共有設定で「特定のユーザー」を選択することにより、通常のユーザーアカウントに加えて、Windows Live IDにアクセス権を設定できるようになる。
例えば、家族それぞれが自分のWindows Live IDをユーザーアカウントにリンクした場合、お父さんのPCにある「写真」フォルダには全員がアクセスできるものの、「ドキュメント」フォルダは許可したお母さんのWindows Live IDのPCからしかアクセスできないという具合だ。
Windows Live IDに対してアクセス許可を与えることができる |
ポイントは、PCのローカルユーザーアカウントに関係なくアクセス許可が与えられ、パスワードも意識する必要がない点にある。従来、ユーザーアカウントによるアクセス許可する場合、相手が普段利用しているユーザーアカウントとパスワードを自分のPCに登録する必要があり、ネットワーク共有を設定した時点で、パスワードが相手に知られ、ローカルへのログオンも可能になっていた。
しかし、Windows Live IDを利用した本機能の場合、ローカルへのアカウント登録は必要ないため、このようなセキュリティ上の問題は一切発生しない。特定ユーザーにアクセス許可を与えたければ、一覧からその人が使っているWindows Live IDを選んで設定するだけで構わない(ホームグループ上には、リンク済みのWindows Live IDが一覧に自動的に表示される)。
もちろん、単一のWindows Live IDを、異なる複数のユーザーアカウントに関連付けすることもできる。例えば、デスクトップPCとノートPCの2台を1人で使っている場合、この両方に同じWindows Live IDを設定しておくことも可能だ。
この場合、ホームグループの共有フォルダに対するアクセス許可をWindows Live IDで設定しておけば、デスクトップとノートのローカルアカウントが異なる場合でも、アカウントの設定を意識せずに共有フォルダにアクセスできることになる。
つまり、これまでユーザーアカウントは、OSローカルへのログオンに使われる以外に、ネットワーク認証にも利用されていたのだが、これをWindows Live IDで代替えすることでネットワーク認証をより簡素化し、ローカルログオンの安全性も確保したことになる。
場合によっては、複数の認証方式によって、アクセス許可の管理が複雑になり、共有フォルダにアクセスできない場合の切り分けが難しくなる懸念もあるが、従来のユーザーアカウントによるアクセス制御も可能なため、用途による使い分けができるようになったのは歓迎すべきだろう。
なお、ホームグループのアクセス許可は、同じ設定が無条件に配下のサブフォルダにも適用される。思わぬ設定をしてしまわないように注意が必要だ。
●インターネット経由で自宅のPCのメディアをストリーム再生
続いて、リモートメディアストリーミングの応用について紹介しよう。Windows 7では、DLNA 1.5準拠のメディアサーバー機能を搭載しており、これをメディアストリーミングと呼んでいる。
メディアストリーミングは、これまでWindows Media PlayerにあったWindows Media Connectを拡張した機能と言ったところで、PCに保存している音楽や映像、写真などのメディアファイルをネットワーク経由で接続された他のPC(Windows Media Player)やDLNA準拠のメディアレシーバーで再生することができるようになっている。
Windows 7のメディアストリーミング。PC上のファイルをDLNA対応クライアントでネットワーク再生できる | メディアストリーミングのWindows Live ID連携イメージ |
この機能はホームグループとは関係なく利用可能で、ホームグループを構成していないPCでもメディアストリーミングのサーバー(WMPなどで有効化)、クライアントのどちらでも利用できるようになっている。また、ホームグループと併用することで、他のWindows Live IDにもメディアへのアクセス許可を与えられるようになっている。複数ユーザーでインターネットからメディアにアクセスしたい場合はホームグループの併用が必要だ。
メディアストリーミング機能もまた、Windows Live IDと連携することで機能を拡張できるようになっている。Windows Media Playerから「ストリーム」の「ホームメディアへのインターネットアクセス許可」を選択すると、同様にオンラインIDのリンクを設定できる。
すでに設定済みの場合は必要ないが、「Windows Live ID サインイン アシスタント 6.5」のインストールやWindows Live IDを登録して、アクセスを許可すれば設定は完了だ。
Windows Media Playerの「ストリーム」メニューから設定 | Windows Live IDをリンク済みの場合は許可するのみでOK。リンクしていない場合は、この画面から同様にサインインアシスタントのイストールとWindows Live IDの登録を実行する | Windows Live IDを利用して、インターネット経由でのアクセス設定も可能だ |
こうして設定したリモートメディアストリーミングは、Windows Live IDが設定された2台のPC同士をインターネットで接続することでメディアの共有を実現する機能だ。自宅のPCに「abcd@live.jp」などのWindows Live IDをリンクしてリモートメディアストリーミングを設定。同様に、ノートPCにも「efgh@live.jp」(ホームグループに参加していないPCの場合はサーバー側と同じ「abcd@live.jp」を設定)をリンクして外出先に持ち出すと、インターネットに接続できる環境であればどこからでもWindows Media Playerから自宅のPCのメディアファイルを参照できる。
もちろん、自宅側のPCを起動した状態にする必要はあるが(リモートメディアストリーミングを有効にするとスリープしない設定になる)、この機能は回線環境も自動的に考慮するようになっているのが特徴で、外出先のPCをイー・モバイルやUQ WiMAXなどで接続した場合でも、回線速度に合わせて映像サイズやビットレートを自動的に調整して再生できる。
試しに、AVCHD対応のビデオカメラで撮影した1920×1080/7Mbpsの映像をイー・モバイルの回線経由で再生してみたところ、300~600kbps前後で再生することができた。回線速度が遅いとサイズが小さく、画質も荒くなるが、スムーズさはある程度確保されるのでわりと使い勝手は良い印象だ。
自宅PCを常時起動させる必要があるため、実用的かと言われると難しいところだが、もしかすると、この機能によってテレビのそばに設置されるリビングPC的な使い方がされることを目指しているのかもしれない。
ちなみに、Windows Media Playerから接続の診断を実行すればわかるが、リモートメディアストリーミングは内部ポートに10245(および443)、外部ポートに448xx~449xxのポートを利用して通信している(コンポーネントにTeredoとあることからIPv6も利用している可能性もある)。通常はUPnPで自動的にルータのポートを開放するが、場合によっては、この値を確認して手動で設定することもできるだろう(セキュリティ対策ソフトのファイアウォール設定も同様)。
利用するポートなどは接続の診断から確認可能。通常はUPnPで設定可能だが、手動でルーターを構成する場合は、このポートをフォワードする |
●地味に便利なネットワークバックアップ
以上のように、今回はWindows 7のWindows Live IDの連携機能について紹介したが、もう1つ、地味ながらも便利な機能が搭載されているので紹介しておこう。それはネットワークバックアップのサポートだ。
Windows Vistaでは、ファイルバックアップのみネットワーク対応で、「Complete PC Backup」機能の利用はローカルのみに対応していた。これに対して、Windows 7ではシステムイメージとファイルの両方を、ネットワーク上のNASなどにバックアップ可能となっている。
システムイメージを含んだバックアップをネットワーク上に保存することができるようになった | もちろんリストアもネットワーク経由で可能 |
もちろん、リストアも可能で、OS起動時に「F8」を押して「コンピューターの修復(システム回復オプション)」を起動すれば、ここからネットワーク上のバックアップを参照してPCをリストアすることもできる。「F8」キーの場合、Windows 7からインストール時に自動的に作成されるようになったHDD上の100MBのシステムリカバリ領域から起動してリストアしていることになるが、HDD交換などに備えてリカバリDVDを作成することも可能だ。
このような機能は、これまでWindows Home Serverでも実現されていたが、OS標準でサポートされるようになったため(Ultimate/Professional/Enterpriseのみ)、NASなどを利用している環境でも手軽に実現できるようになった。もしかすると、地味ながらWindows 7で1番便利な機能は、実はこのネットワークバックアップかもしれない。
関連情報
2009/5/26 11:45
-ページの先頭へ-