第422回:絶妙なサイズの電子書籍端末
シャープ メディアタブレット「GALAPAGOS」


 シャープからメディアタブレットと名付けられた電子書籍端末「GALAPAGOS」が発売された。これまでのスマートフォンやタブとはひと味違った専用端末として、我々にどんな楽しみを与えてくれるのだろうか? 実際の端末とサービスを使ってみた。

本をあまり読まない人の期待が大きい?

 もしかすると、電子書籍は、あまり本を読まない人の方が注目度が高いのかもしれない。

 そう言う筆者も、実は、あまり本を読まない方で、時間に余裕があるときなどに本屋に立ち寄って話題の本を買ったり、新幹線での移動などのときのヒマつぶしに本を買う程度。

 1カ月に読む本は1~2冊ほどもあれば良い方で、今月のように、仕事に忙殺され、本屋に立ち寄るヒマさえないと、それこそまったく本を読まないなんてことも珍しくない。

 別に本が嫌いなわけではないので、買ってくれば仕事も自主キャンセルして読みふけるのだが、そうすると当然、仕事が滞るわけで、不安定な自由業としてはそれも怖い。まあ要するに、筆者の場合、日常の生活リズムの中に読書がうまく組み込まれていないわけだ。

 ではなぜ、そんな筆者が事前に予約までして「GALAPAGOS」を買ったのか?

 もちろん、仕事という大義名分もあるが、媒体や読み方が変われば、今までの読書のスタイルがもしかしたら変わるかもしれないという期待があったからだ。実際に使ってみて、どうだったのか? その結果を紹介しよう。

シャープの電子書籍端末「GALAPAGOS」。カラー液晶搭載の端末とオンラインで雑誌や書籍を購入できるサービスが一体化した製品

作り込まれたAndroid

 すでにいろいろな媒体でレビューが掲載されているので、ハードウェアの詳細などは簡単に済ませるが、GALAPAGOSはAndroid OSをベースに採用したメディアタブレットだ。ただし、シャープではAndroidと言うと、Androidアプリがすべて使えるような誤解を与えるということで、Linuxベースという言い方に変えている。

 GARAPAGOSは、10.8インチの液晶を搭載したホームモデルと5.5インチの液晶を搭載したモバイルモデルの2種類が存在するが、今回、筆者が購入したのは5.5インチのモバイルモデルとなる。

 どちらを選ぶかは、使い方にもよるが、筆者が本を読む場所は圧倒的に電車内が多いため、約幅92×奥行12.9×高さ167mm、重さ約220gと、少しでも小型で軽いモバイルモデルを選んだことになる。

 実際、このサイズ感は絶妙で、ポケットに入れるのには若干大きいものの、鞄に入れて持ち歩くことはまったく苦にならず、本当に文庫本の感覚で持ち歩くことができる。スマートフォンになれた身にとっては、一回り大きな液晶も見やすいうえ、つり革につかまりながら片手でホールドしても重さが気にならない。

サイズとしては新書より一回り小さい程度
鞄のポケットなどにすっぽり収まる本体下部のエッジ部分が斜めにカットされており、片手で持ったときに小指でホールドしやすい

 本体のデザインも実は結構実用的で、特に本体下部が斜めに切り込まれているラインは、片手で持ったときに小指をひっかけて本体をホールドするのにちょうど良くフィットするように仕上げてある。

 色はレッドとシルバーの2色がラインナップするが、筆者は長く使っても飽きないようにシルバーを選択した。地味すぎるかとも思ったが、実物は落ち着きがあって良い色だ。

 GALAPAGOSはAndroidベースではあるが、電子書籍として完全に作り込まれた設計になっている。このため、ウェブブラウザやTwitter、mixiなどの標準搭載アプリは利用可能だが、スマートフォンのように設定を変更したり、アプリを自由に追加することはできない仕様になっている。このあたりは、前回紹介したBIGLOBEのSmartiaと対照的な部分と言えるだろう。

利用には認証手続きが必要

 使い方も、通常のAndroid搭載スマートフォンとは、かなり違いがあるので、Androidとは別ものと考えた方がいいだろう。

 まずは初回の設定だが、購入後、最初にやらなければならないのは端末の登録作業だ。登録作業と言っても、ユーザー情報自体はオンラインで購入する際に登録済みのため、作業としてはオンラインでの認証のみとなる。

 端末下部に付属のmicroSDメモリーカードをセットし、電源を入れると登録画面が表示されるので、画面の指示に従って、まずはネットワークに接続する。本製品はAOSSとWPSによる無線LAN設定をサポートしているため、最近のアクセスポイントであれば、ほぼ自動的に接続設定が可能となっている。このあたりまで、きちんと作り込まれているのは大きなメリットだ。

本体下部のカバーを開けるとmicroSDカードスロットが姿を現す。ここにコンテンツが保存される
最初に無線LANに接続する。AOSSとWPSをサポートしているため設定は簡単。もちろん手動設定もできる初回に端末登録が必要。購入時に登録したユーザー情報にひもづけられたIDで認証する。IDは同梱の用紙に記載されている

 ネットワークに接続できたら、登録処理を続ける。前述したように、購入時に登録した情報を認証するだけとなるため、同梱されている設定情報の用紙に記載されているユーザー名とパスワードを入力してログインすれば完了だ。

 なお、文字入力は、標準で英数字は携帯電話方式、かなは五十音となっているが、もちろんqwertyのローマ字入力に変更することも可能だ。

 ちなみに、パスワードやログイン後に表示されるニックネームは、全製品共通となっているようだ。初期設定後、端末から変更できるので、必ず変更しておくことをおすすめする。

コンテンツを購入してみる

 初期設定が完了すると、ホーム画面の「ストア」からTSUTAYA GALAPAGOSにアクセス可能になり、クレジットカードを登録することで、実際に電子書籍を購入することができるようになる。

 このTSUTAYA GALAPAGOSは、なかなか工夫されたオンラインストアだ。どの地名も馴染みがないという人もいるかもしれないが、「丸の内のスクエア」、「白金のスクエア」、「神田のスクエア」と、ターゲットとするユーザー層ごとに地名をあしらったコーナーが用意されており、最新のコンテンツやおすすめのコンテンツが表示されるようになっている。

雑誌や書籍を購入できるオンラインストア「TSUTAYA GALAPAGOS」初回購入時にはカードの登録が必要

 あたかも、本屋を訪れているかのような感覚でコンテンツを探せるうえ、注目の本やおすすめの本がすぐにわかるので、なかなか便利だ。

 そもそもあまり本屋に足を運ばず、その扉を通っても、溢れかえる本の中から何を選んで良いのかがわからない筆者のようなタイプには、面白い(自分の好みの)本を探すことがまず大きなハードルとなる。

 しかし、このようなジャンル分けがされていると、そのときの気分などでサッとコーナーを選ぶことができるうえ、おすすめや売れ筋の本もひと目で判断できる。同社のサイトでは、GALAPAGOSのオンラインストアを「”本との新しい出会い”が広がる」と表現しているが、確かにそのための演出に工夫がされている印象だ。

 ただし、書籍に関しては、まだラインナップが少ないこともあり、サービス開始からしばらく経った今も、おすすめされるコンテンツがさほど代わり映えしていない。こういったジャンル分けやレコメンドが、利用者の心をくすぐる機能になるには、もう少し、時間がかかりそうだ。

 一方、雑誌や新聞に関しては、これとは対照的に、かなり豊富だ。たとえば、週刊エコノミスト、週間ダイヤモンド、週間東洋経済、日経ビジネスなどのビジネス誌がそろっているうえ、DIMEや日経トレンディ、サンデー毎日なども読むことができる。

 また、新聞も日経新聞、MainichiTimes、スポニチ、さらに西日本新聞なども購読できる。筆者は日経新聞の通常の印刷版と電子版の両方を購読しているのだが、電子版のアカウントを登録したところ、毎日、日経電子版がGALAPAGOSにプッシュ配信されるようになった。朝刊はリビングで紙で読むが、夕刊はGALAPAGOSで、気になる記事だけさっと流し読みしている。

日経電子版は朝刊と夕刊の時間に合わせて自動的にプッシュで配信される定期購読の新聞は本棚に積み上がっていくが、実際の紙と違っていくつあっても場所を取らない雑誌の定期購読も可能。ビジネス誌のラインナップが揃っているのが特長

 このプッシュで配信されるというしくみは、なかなか便利だ。新聞だけでなく雑誌もプッシュで配信してもらうことができるようになっており、定期的に読む新聞や雑誌を忘れずに手に入れることができる。

 定期購読は、読み終わった後に雑誌が部屋に積み上がっていくのが難点だが、電子版なら、苦もなく過去の分までストックしておくことができる。これで、複数の雑誌や新聞なども含めた全文検索ができればカンペキだったのだが、単純にストックできるだけでも、過去の資料に当たれるので便利だ。

 このように、GALAPAGOS、およびオンラインストアのTSUTAYA GALAPAGOSでは、本や雑誌、新聞といったメディアを、いかにユーザーの目に触れさせるかという工夫がなされている。このため、ユーザーはこれまでのようなコンテンツ選びに、さほど煩わされることがない。

 もちろん、本好きの人にとってみれば、コンテンツとの出会いを探すことが楽しみのひとつなのだろうが、それを苦に思うユーザー層も確実に存在する。言わば、筆者のような受動的デジタルコンテンツ愛好家にとって、待ちに待っていたチャネルなのだ。

GALAPAGOS STATIONでPCのデータも転送可能

 このように、ネットワークにさえ接続すれば、単体で電子書籍を楽しむことができるGALAPAGOSだが、12月20日からダウンロードが可能になった「GALAPAGOS STATION」というアプリケーションを利用することで、PCとの連携も可能になっている。

 GALAPAGOS STATIONを利用すると、本体で購入したコンテンツの一覧やそれぞれの書籍の評価などを管理したり、PCからTSUTAYA GALAPAGOSを利用して書籍を購入したり(PC上では閲覧不可。転送して利用する)、データをバックアップしたり、さらにはPC上のファイル(PDF、TXT、zbf、zbk、lvf、XMDF)をUSB経由で転送することが可能になる。

20日からダウンロードが可能になったPC用アプリケーション「GALAPAGOS STATION」

 注目は、やはりPCのファイルの転送だろう。最近では、自ら所有する書籍をスキャナで取り込んでいる人も少なくないようだが、こういったデータはもちろんのこと、身の回りにあるPDFなどの文書をまるごとGALAPAGOS上で管理することが可能になる。

 転送は簡単で、アプリケーションのインストール後、USBでGALAPAGOSを接続すると、自動的にGALAPAGOS Stationが起動する。「ブックシェルフ」タブを開いて、メニューからファイルを取り込むか、転送したいファイルをドラッグ後、同期を実行すればファイルが転送されるとういわけだ。

PC上のファイル(PDF、TXT、zbf、zbk、lvf、XMDF)をGALAPAGOS上に転送することができるXMDF出力用のプリンタドライバもインストールされるため、Webページやオフィス文書なども変換して転送可能
PCから転送したPDFファイルを表示したところ

 これにより、各種マニュアル、資料など、仕事や勉強に必要なデータものきなみGALAPAGOSで管理することが可能になる。文字ベースの文書の場合、ページ全体を表示した状態では、文字が小さくて読みにくいが、プレゼン資料など大きな文字が使われている場合はそのままでも十分に判読可能だ。

 GALAPAGOS Stationをインストールすると、XMDF形式でファイルを出力できるプリンタドライバも一緒にインストールされるため、ワードやExcelなどの非対応の形式の文書も、XMDF形式で印刷することで転送できる。

 Evernote的とも言えるが、かつて同社のZaurusで、キャプチャしたPCの画面をUSB経由で転送して持ち歩くことができたが、これに近いイメージと言えるだろう。

もっと「できる子」なのではないか

 というわけで、購入後、新聞や雑誌、小説、さらに仕事用のゲラなどを入れて使っていたのだが、率直に言うと、もう一歩の工夫が欲しかったと思える点も少なくない。

 まずは、バッテリー駆動時間だ。スペック上の駆動時間は約7時間となっているのだが、これは省電力モードを設定したときの値で、出荷時の設定(省電力モードオフ)の場合は4時間しか持たない。

 このため、休日などに、ちょっと長めに読書を楽しもうと思ってもバッテリーが持たない場合がある。たとえば、午後から読書を始めて2時間ほど読んで、ちょっと休憩して、夕方その続きを1時間ほど読む。寝る前にラストを楽しもうと思っても、このときにはすでにバッテリー残量が僅かとなってしまっている。

 そもそも、寝る前の読書というのにも向かない。バックライトのおかげで、暗い場所でも読書を楽しめるのは良いのだが、翌日使うことを考えると、充電してから眠りにつく必要がある。紙の本なら、極限まで眠気に耐え、本をパタリと閉じて、そのまま落ちるということもできるが、GALAPAGOSでは、暖かい布団から抜け出して、暗い中、手探りでminiUSBポートにケーブルを挿して充電しなければならない。これは正直ツライ。

 しかし、このバッテリーの問題は、前述したように「省電力モード」をオンにする、という簡単な設定だけで劇的に改善させることができる。

 寝る前の充電は必須だが、省電力モードをオンにすると、バッテリー駆動時間は確実に延び、丸一日使っても、バッテリーは余裕。先ほどの例のように、午後から読書を楽しんでも、寝る前も余裕で続きを読めるし、万が一、充電を忘れても、翌朝、しばらくの間は新聞を読んだり、電車の中で読書を楽しむ程度はできる。

 この「省電力モード」は非常に完成度が高い。たとえば、通常、無線LAN接続は常にオンになっているが、省電力モードを有効にすると、ホーム画面ではオンになるものの、本のページを表示すると自動的にオフになり、再びホームに戻ったり、ストアにアクセスしようとすると、自動的にオンになるようになっている。言わば、無線LANのアプリケーションレベルの電源制御だ。

標準では無効になっている「省電力モード」。これを有効にするだけでもかなりバッテリーの持ちが良くなる省電力モードを有効にすると、コンテンツを表示すると、右上のオレンジのランプが消え、自動的に無線LAN接続がオフになる

 もちろん、復帰時にアクセスポイントを探して接続するまでにラグがあるなど、若干のもたつきは感じられる。また、おそらくタッチパネルやCPUなどの機能も必要に応じて省電力モードに変更しているのだろう。省電力モードが有効になっていると、ページをめくる操作で、若干、タッチパネルの反応が悪くなる印象がある。

 しかしながら、せっかくバッテリー駆動時間を伸ばせるのに、なぜ、この機能を標準で有効にしないのだろうか? 文字通り、「やればできる子」なのに非常にもったいない。

 また、液晶も、もう一工夫あっても良かったのではないかと思える。確かに、キレイで見やすい液晶なのだが、やはり光沢があるため、反射や映り込みが気になる。雑誌のようなカラフルな映像の場合はさほど気にならないのだが、白地に黒文字のシンプルな小説のページでは、どうしても気になってしまうため、不自然な方向や持ち方を強いられたり、お気に入りの場所から撤退して、薄暗い場所へと移動せざるを得ない。

 フィルムの1枚も貼り付ければ、映り込みは改善できるが、この場合、液晶の鮮やかさが失われることになる。このあたりはどちらを重視するか悩みどころだ。

映り込みや反射が気になる反射防止用のフィルムを貼ってみた。若干、押さえられるが、これはこれでせっかくの鮮やかさが失われる印象

メディアを集約したい

 以上、シャープのGALAPAGOSを実際に使ってみたが、省電力モードの存在を知ってからは、悩みの種だったバッテリーの減りも押さえられ、新聞や小説を読むのになかなか重宝しているし、たまにメールやブラウザを使いたいときもサッと使えるため、毎日 便利に活用している。

 新聞のために、ほぼ毎日、電源を入れて画面を見るので、新しい本はないかと、本を日常的に探す機会も増えてきた。おかげで、話題になっているものの、レジに持って行くのがちょっと恥ずかしいと思っていた本も気兼ねなく買って読めるようになった。

 読んでおきたい資料なども、とりあえず突っ込んでおいて、電車の中や時間があるときに確認できるので、とても便利だ。

 GALAPAGOS自体は、1つのサービスとしては非常に完成度の高いものと言える。細かな点で気になることは確かにあるが、今後のサービスの発展を考慮しても、十分に実用的な電子書籍端末と言っていい。電子ペーパーを採用した電子書籍端末との対決軸で考えるというよりは、GALAPAGOSという名前の通り、独自の進化を遂げた電子書籍端末としてとらえるべき製品と言えそうだ。


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2010/12/27 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。