清水理史の「イニシャルB」
Core iか、Atomか、それともARMか? Windows 8搭載タブレットを比較
(2012/12/11 06:00)
Windows 8搭載のタブレットを買うなら、どのプラットフォームを選ぶべきなのか? 発売が若干遅れていた富士通のARROWS Tab Wi-Fi QH55/J(Atom Z2760搭載)を入手できたので、Core i5搭載のVAIO Duo 11、Tegra 3搭載のASUS Vivo Tabと性能を比較してみた。
イイトコ取りになるか?
当初、10月下旬発売予定だった富士通のWindows 8搭載タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」が、11月下旬にようやく発売になった。
10.1型液晶搭載で重量574gと、AndroidやiOS搭載タブレットに7インチの製品が登場してきたことを考えると、ちょっと大きめかなぁ、という印象はあるが、個人的には、フル機能のWindows 8搭載で、軽くて、リーズナブルなタブレットとして、CloverTrail搭載タブレットに期待していただけに、待望の製品だ。
これで、以前に購入したCore i搭載のVAIO Duo 11、Tegra 3搭載のASUS Vivo Tab RTと、3つのプラットフォームのWindows 8搭載機を揃えることができたので、各製品を比較してみることにしよう。果たして、Clover Trailタブレットはイイトコ取りができる理想的な製品となっているのだろうか?
スペックを比較
まずは、3製品のスペックを比較してみよう。主なスペックをまとめたのが以下の表だ。
富士通 ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J | ソニー VAIO Duo 11 SVD11219CJB | ASUS Vivo Tab RT TF600 | |
---|---|---|---|
実売価格 | 99800円*1 | 137800円 | 59800円 |
ディスプレイ | 10.1型 1366×768 | 11.6型 1920×1080 | 10.1型 1366×768 |
カメラ | 前面200万画素/背面800万画素 | 前面207万画素/背面207万画素 | 前面200万画素/背面800万画素 |
キーボード | - | スライド式 | ドッキング(オプション) |
重量 | 574g | 1305g | 525g |
バッテリー駆動時間 | 10.5時間 | 7時間 | 9時間 |
OS | Windows 8 32bit | Windows 8 64bit | Windows RT |
CPU | Atom Z2760 | Core i5 3317U | Tegra 3 |
1.5/1.8GHz | 1.7/2.6GHz | 1.4GHz(4コア時1.3GHz) | |
2コア/4スレッド | 2コア/4スレッド | 4コア | |
メモリ | 2GB | 4GB | 2GB |
ストレージ | 64GB SSD | 128GB | 32GB |
グラフィック | PowerVR SGX 545 | Intel HD Graphics 4000 | GeForce ULP |
Wi-Fi | IEEE802.11n/a/b/g | IEEE802.11n/b/g | IEEE802.11n/b/g |
Bluetooth | Bluetooth v4.0 | Bluetooth v4.0 | Bluetooth v4.0 |
WAN | - | WiMAX | - |
センサー | GPS/加速度/地磁気/ジャイロ | GPS/加速度/地磁気/ジャイロ | GPS/加速度/地磁気/ジャイロ |
NFC | - | ○ | ○ |
インターフェイス | microUSB×1/microSD/オーディオ*2 | HDMI/USB3.0×2/SD | microHDMI/USB(要変換)/microSD/オーディオ |
*1 同社WEB MARTのカスタムモデルは68816円から購入可能
*2 HDMI出力はオプションの変換ケーブルを利用すれば可
こうして並べて見ると、もう3万円ずつ、いや2万円、せめて1万円でもいいから、値段が下がってくれると、AndroidやiOS搭載タブレットとのシェア争いが、もっと面白くなったんじゃないかなぁ、とも思えるのだが、まあ、それは置いておいたとして、10万円以上のCore i搭載Ultrabook、10万円以下のAtom搭載タブ、5万円前後のARM搭載RTタブと、うまく棲み分けができている印象だ。
タブレットとして見ると、Windows RT搭載製品がやはりリーズナブルで買いやすいのだが、Windows RTは、機能的な制限があり、これまでの「Windows」搭載機、もしくは「パソコン」的な感覚で購入すると、ちょっと違うという印象を受ける場合がある。
具体的には、ソフトウェアの互換性だ。従来のWindows上で実行可能だった、いわゆるexe形式のプログラムは動作させることができない。Microsoft Officeがプリインストールされているため(現状はRP版)、文書の作成やプレゼンなどには十分使えるのだが、たとえばExcelのマクロが動かないなど、機能的な制限もある。
個人的には、SkydriveとOneNoteを組み合わせて、取材時のメモマシンに使うかとも思ったのだが、RT版OneNoteで音声録音できないなど、やりたいことができないなど、機能制限がひっかかるシーンもいくつかあった。
そこで、待っていたのがAtom搭載機だったわけだ。重量やバッテリー駆動時間はRT搭載機並でありながら、フル機能のWindows 8を搭載し、さまざまな用途への利用が期待できる。
スペック的には、HDMI出力とUSB接続のために、変換ケーブル(HDMIはオプションで別途購入が必要)を持ち歩かなければならないなど、個人的にはあまり好みではない点もあるのだが、防水だったり、クレードルを利用して簡単に充電できるなど、なかなか個性的な製品と言える。
価格も、同社の直販サイトでクーポンなどを併用して購入すると、納期はかかるものの、68816円から購入可能とリーズナブルなので、選択肢として検討する価値はありそうだ。
バッテリー駆動時間をチェック
続いて、性能面を比較していこう。今回もWindows ADKに含まれるWindowsアセスメントコンソールを使って、各種ベンチマークを実行してみた。
最初は駆動時間だ。カタログスペック上は、ARRWOS Tab Wi-Fi QH55/J(以下ARROWS Tab)が10.5時間、VAIO Duo 11が7時間、Vivo Tabが9時間となっているが、アセスメントコンソールのBattery Run Downによって充電容量100%から5%になるまでの時間は、ARROWS Tabが825分(約13時間45分)、VAIO Duo 11が323分(5時間23分)、Vivo Tabが806分(13時間26分)となった。
ARMプラットフォームのWindows RT機であるVivo Tabの方がバッテリー駆動時間が長そうなイメージがあるかもしれないが、アセスメントコンソールから判断できるバッテリーの設計容量は、ARROWS Tabが30192mWh、Vivo Tabが25012mWhとなっており、ARROWS Tabの方がバッテリー容量が大きいことがわかる。
逆に言えば、RT機方がエネルギー効率は高いということにもなるが、本体重量はARROWS Tabが574g、Vivo Tabが525gと、約50gしか差がないことを考えると、重量増を抑えつつ、長時間駆動を実現している点は評価したいところだ。
なお、先進的なユーザーによる検証によると(詳しくは「ふぃおの至高のデジライフ」http://fiomina.blog.fc2.com/blog-entry-34.htmlを参照)、ARROWS Tab Wi-Fiでは、バッテリー駆動時のCPUリミッタが設定されており、AC駆動時の半分のクロックでしか動作しない設定になっており、この制限を外すことも可能となっている。
試しに、このリミッタを外した状態で、同じくBattery Run Downを実行してみたのが、以下の結果だ。Battery Run Downでも、動画再生を実行するが、さほどCPUに負荷がかからないためか、同じく100%→5%までの時間は820分と、さほどバッテリー動作時間は変化なかった。
もちろん、使い方によっては駆動時間が少なくなる可能性はあるが、この設定によってバッテリー動作時のもたつきなどが解消されるので、試してみる価値はありそうだ。
ちなみに、Windows RT機のVivo Tabでも、同様にpowercfg /qを実行して、CPUのリミッターが設定されているかどうかを確認してみたが、こちらはバッテリー駆動時でも100%のクロックで動作する設定となっていた。
ARROWS Tab固有の設定なのか、Atom搭載機に共通する設定なのかは判断できないので、今後、さらに別の製品などでの検証が必要と言えそうだ。
若干の余裕があるパフォーマンス
パフォーマンスについては、さすがにCore iシリーズほどの性能は期待できないが、ARMプラットフォームよりは余裕があり、省電力性能だけでなく、実用性がしっかりと抑えられている印象だ。
以下は、アセスメントコンソールのWindows UI Performanceの結果だ。デスクトップとスタート画面の切り替えのフレームレートや遅延は、3つのプラットフォームともほぼ同等と言えるが、検索が関わる操作については、若干、ARROWS Tabの方がVivo Tabよりも優秀だ。特に、すべての検索結果を取得する時間に関しては、Vivo Tabが2308msと遅延が大きくなっているのに対して、ARROWS Tabは463msと、アセスメントコンソールで許容範囲に設定されている値に収まっている。
Windows 8は、スタート画面などのUIのパフォーマンスがかなり高いレベルでチューニングされているため、どのプラットフォームで利用しても快適さに大きな違いはないのだが、このような検索など、何らかの処理が必要になってくるシーンでは、やはりCPUの性能が効いてくる印象だ。
同様の結果は、File HandlingやPhoto handlingの結果にも現れている。ファイルコピーのスループットはARROWS Tabが22.501MB/sであるのに対して、Vivo Tabは10.569MB/s。写真のトリミング時間も、ARROWS Tabが12.9msで、Vivo Tabが27.4msと、若干ではあるがスコアが良い。
WinSATの結果を見てみると、CPUやストレージのスコアはほぼ同等で、むしろ若干ながらVivo Tabの方がスコアは上なのだが、メモリの帯域幅は、ARROWS Tabが3426MB/s、Vivo Tabが1058MB/sと大きく差がついており、ここがさまざまなシーンで効いていると考えられる。
ただし、ARMプラットフォームに比べてアドバンテージがあると言っても、Core iシリーズと比べたときの差は埋めようがなく、特に以下のようなIEのHTML5のテストは、実用性という点を考えても、かなり厳しい結果となった。
たとえば、Fishbowlのテストでは、Vivo Tabの魚1匹で9fpsという結果よりはマシだが、同じく1匹でも24fpsとなった。Vivo TabもIEから直接Fishbowlを実行すると、1匹で20fps前後は描画できるので、値の差こそあれ、どちらも厳しい結果であることは確かだ。
この現象は、MineSweeperなどのアプリでもはっきりと目にすることができる。MineSweeperをデイリーモードなどでクリアすると、コインが得られるアニメーションが表示されるのだが、このコインの表示は、ARROWS TabもVivo Tabも、コマ送りのようにしか表示できない。
テスト結果を見れば、Core i > Atom > ARMという図式が成り立つものの、実際には「Atom ≧ ARM」といった印象で、Core iとの間には越えることが出来ない大きな壁があるのは確かだ。
なお、ストレージの性能が高くないのも、Atom、ARM両プラットフォームに共通だ。Windows RTでは動作しないので、今回はARROWS Tabでしか実行していないが、Crystal Disk Mark 3.0.1cの結果も以下の通り、あまり高い値とは言えないところだ。
DTCP-IP対応アプリも使えるが・・・・・・
このように、サイズやバッテリー駆動時間はほぼ同等の2プラットフォームだが、やはりOSの違いや性能面を考えると、価格が高いだけのアドバンテージはあると考えてよさそうだ。
また、ARROWS Tabという個別の製品に限って言えば、大手PCメーカー製品ならではの特徴もあると言えそうだ。デスクトップにずらりと並べられたショートカットアイコンや数々の常駐ユーティリティの良し悪しは別としても、プリインストールアプリが豊富だったり、タッチ用にUIをカスタマイズできるツールが付属するなど、Windows 8の標準機能+アルファの使い方ができる。
中でも、もっとも大きいのは、DTCP-IP対応のアプリの存在だ。「My Cloudビデオ+」というアプリが標準で提供されるため、nasneやレコーダーで録画したテレビ番組をネットワーク経由で再生することが可能となっている。防水対応なので、お風呂で録画番組を楽しむという使い方も可能だ。DTCP-IP対応の数少ないWindows 8タブレットという意味では、貴重な存在だ。
ただし、アプリの完成度という点では、改善の余地がありそうだ。出荷時にアプリの開発が間に合わなかったためだろうか、利用には、標準搭載の「My Cloudビデオ」をアップデート後、「My Cloudビデオ+」を新規インストール、「My Cloudビデオ」をアンインストール」し、さらに「My Cloudビデオ用フィルタードライバー」をインストールするという複雑な手順が必要となる。
また、起動やネットワーク上のコンテンツのサーチが遅いうえ、同じタイトルが複数リストアップされてしまうといった現象も見られた。再生を開始してしまえば、映像はスムーズに表示されるうえ、早送りなどもスピーディにできるので、文句はないのだが、再生するコンテンツを選ぶまでの操作が、とにかくダルい。
DTCP-IP対応のDLNA関連アプリは、Andoridでは手軽に入手できるようになってきているうえ、互換性や操作性も改善されつつあるので、このようなもともとPCの文化であったアプリで後手を踏んでいるのは、残念としか言いようがない。
このほか、無線LAN機器のチャネルの設定によっては、Bluetooth対応のキーボードとマウスを併用した際に、マウスカーソルが移動してしまう現象も見られた。2.4GHzではなく、5GHzのアクセスポイントに接続し直すと、即座に改善されるので、おそらく干渉が発生しているだろう。無線は5GHzで使うのが無難と言えそうだ。
値段が許せばATOMの選択が有利
以上、富士通のARROWS Tab Wi-Fi QH55/Jを手に入れた機会に、他の製品、特にWindows RT搭載のASUS Vivo Tab RT TF600との比較をしてみた。アプリ面で、もう少し、改善の余地はあるものの、Atom搭載のWindows 8が予想以上に実用的であり、バッテリー駆動時間が長いことに感心した。
店頭モデルで9万円という価格は高い印象があるが、Windows RT搭載機に対してのアドバンテージは確実にあるので、個人的には、この投資を惜しまないことをオススメしたい。
ただし、アセスメントコンソールのIEの結果やアプリの動作を見ると、やはりCore iシリーズとの差は大きいと言える。PCの代わりとして、タブレットを選ぶというのは、まだもう少し様子を見た方が良いように思える。あくまでも、ビューワー的な利用を前提としたモバイル用の端末として考えた方がいいだろう。