清水理史の「イニシャルB」
eSATAで拡張できる企業向けNAS「Synology DS713+」
小さなボディに詰め込まれた高性能と高拡張性
(2014/5/26 06:00)
Synologyの「DS713+」は、コンパクトな見かけからは想像できない高い性能と拡張性を備えたNASだ。以前に本コラムでレビューした4ベイのDS414と比較しながら、その実力を検証してみよう。
2ベイだけど高性能
サイズがコンパクトで、搭載できるHDDも2台まで。一見しただけでは、「ホーム向けの入門用か?」と思われてしまいがちな製品が、今回取り上げるSynologyのDiskStation DS713+だ。
通常、NASは、搭載されるベイの数が多いほど、高性能になるのが一般的で、利用可能なストレージ容量が少なく、RAIDの構成もミラーリングのRAID1しか構成できない2ベイモデルは、廉価なCPUを搭載したローエンドモデルであることが多い。
しかし、DS713+は、2ベイながら高性能なCPUや拡張ユニット用のeSATAポートを搭載しており、その中身は企業向けの上位モデルに匹敵する性能を備えている。これにより、データ容量はさほど多くないものの同時接続数が多い環境などで高いパフォーマンスを発揮できるほか、将来的な企業規模の拡大が見込まれる環境のスタートアップ用として最適な製品となっている。
では、具体的にどのような点が高性能なのか、4ベイモデルのDS414と比較しながら、その実力に迫ってみよう。
高性能CPUを搭載
まずは、スペックを見ていこう。以下は、ハードウェアの主な仕様を表にまとめたものだ。比較対象として、同じ小規模/中規模企業向けに分類される4ベイモデルのDS412+、家庭/ビジネスワークグループ向けの4ベイモデルDS414のスペックも掲載している。
機種名 | DS713+ | DS414 | DS412+ |
おもな想定用途 | 小規模/中規模企業 | 家庭/ワークグループ | 小規模/中規模企業 |
CPU | Intel Atom 2.13GHz | Marvell Armada XP 1.33GHz | Intel Atom 2.13GHz |
RAM | 1GB | 1GB | 1GB |
ベイ | 2 | 4 | 4 |
最大容量 | 5TB×2=10TB | 5TB×4=20TB | 5TB×4=20TB |
拡張ユニット対応 | ○(最大7ベイ) | - | △(独立ボリューム) |
ホットスワップ | ○ | ○ | ○ |
USB2.0 | 1 | 1 | 1 |
USB3.0 | 2 | 2 | 2 |
eSATA | 1 | - | 1 |
サイズ(高さ×幅×奥行き) | 157×103.5×232mm | 165×203×233.2mm | 157×340×233mm |
重量 | 1.69kg | 2.02kg | 5.21 |
LAN | Gigabit×2 | Gigabit×2 | Gigabit×2 |
ファン | 92mm×92mm×1 | 92mm×92mm×2 | 120mm×120mm×2 |
消費電力(アクセス時) | 30.72W | 39.35W | 75.19W |
まず、注目したいのは家庭向けモデルであるDS414とのCPUの違いだ。DS414が1.33GHzのMarvell Armada XP(デュアルコア)を搭載しているのに対して、企業向けモデルとなるDS713+とDS412+は2.13GHz駆動のIntel Atom(デュアルコア)を搭載している。
このCPUは8ベイモデルのDS1813+、12ベイモデルのDS2413+など上位モデルとも共通で非常に強力なものとなっている。パフォーマンスについて詳しくは後述するが、これにより複数端末からの同時アクセス時などでも高いパフォーマンスを維持したり、仮想環境での利用も可能となっている。
また、DS414には搭載されていないeSATAポートを搭載しているのも、DS713+の特徴となっている。
前述した通り、DS713+は2ベイモデルとなっているため、標準では搭載できるストレージの最大容量も、対応できるRAIDの構成も限られている。しかし、eSATAを利用して、別売りの拡張ユニット(5ベイのDX513など)を接続することで、容易に容量を拡張することが可能となっている。
eSATAポート自体は、DS412+にも搭載されているが、DS412+は拡張ユニットの機能にフルに対応しておらず、接続した拡張ユニットのストレージを独立ボリュームとしてしか扱うことができない。これに対して、DS713+は拡張ユニットを内蔵ベイと同等に扱うことが可能となっており、内蔵の2ベイで構成済みのボリュームを拡張ユニットに装着したHDDによって拡張することが可能となっているのがポイントだ。
たとえば、2TB×2のRAID1(使用可能2TB)で運用開始後、DX513を利用して、4TBのHDDを2台追加(RAID5相当で使用可能8TB)するといったことができる。これでも、まだ3ベイは残っているので、将来的に必要ならさらに容量を追加することが可能となっている。
つまり、後からの拡張が難しいパフォーマンスは最初からしっかりと確保しておき、容量については企業規模や用途によって後から拡張できるというのが、DS713+のメリットというわけだ。
目に見えないパフォーマンスにも注目
続いて、パフォーマンスを検証してみた。以下の画面は、LAN上のPC(1000BASE-T接続)からNAS上の共有フォルダーを対象にCrystalDiskMark3.0.3aを実行したときのスクリーンショットだ。比較対象として、前回レビュー時に計測したDS414での値も掲載しておく。
DS713+はRAID1相当、DS414はRAID5相当(HDD4台)という違いがあるため、その影響もありそうだが、ランダムリードで若干DS414の方が高速なものの、シーケンシャルのリードライト、ランダムのライトではDS713+が優秀な結果となった。
もちろん、CPUのアドバンテージを考えれば物足りないが、シーケンシャルの値は800Mbpsを超えており、もはや有線LAN限界に近い値となっているため、単体のPCからでは、その差をうまく計測することができなかった。
DS713+の真の実力を発揮させるためには、背面にあるGigabit対応のLANポートを2つ併用したり、複数のクライアントから同時にアクセスを発生させるような環境が必要と言えそうだ。
実際、スペックシートを注意深く見てみると、こういった複数アクセス時の性能の違いを確認することができる。以下は、ソフトウェア上の同時接続数の違いだ。ファイル共有やアプリケーションでの接続数の上限をピックアップしてある。
DS713+ | DS414 | DS412+ | |
共有フォルダー同期の最大数 | 8 | 4 | 8 |
CIFS/FTP/AFP最大同時アクセス数 | 512 | 256 | 512 |
同時ファイル転送最大数 | 512 | 256 | 512 |
同時ファイルダウンロード数 | 80 | 50 | 80 |
VPN Server最大接続数 | 20 | 15 | 20 |
DS713+およびDS412+は、同時接続数や同時転送数などで、ほぼ倍のキャパシティを備えている。これは、単純に、より多くのユーザーで利用できるということだけでなく、複数ユーザーで同時にアクセスした際でも十分なパフォーマンスを確保できるという証でもある。
このほか、CPUの違いは、Webサーバーやデータベースなど多数のアプリを導入し、複数の用途にNASを利用した際、ビデオストリーミング用に動画のエンコードした際などにも影響してくるので、使い込むほどにDS713+のメリットが活きてくるはずだ。
中央管理や仮想環境にも対応
機能面では、全製品に共通のファームウェアであるDSM5.0を採用していることから、基本的には同じだが、「DSxxx+」と末尾に「+」が付く、企業向けのシリーズならではの特徴がいくつかある。
まずは、前回、DS414のレビュー時にも触れた中央管理機能(CMS:Central Management System)が利用できる点だ。DS414では、この機能が利用できないが、DS713+は対応しているため、DS713+の設定画面からネットワーク上の他のSynology製NASを一元管理することができる。
将来的に各地に支店を展開する予定があるスタートアップ企業などでは、DS713+を本部に導入しておくことで、将来的な地方展開も楽になることは確実だ。
続いては、High Availabilityの機能だ。DS713+など企業向けモデルを複数台利用し、クラスターを構成することで、万が一、1台に障害が発生した際でも他方に機能を引き継ぐことで運用を継続させることができる。これも大きなメリットと言えるだろう。
最後は、仮想環境への対応だ。DS713+は、VMware vSphere 4、VMware vSphere 5 with VAAI、Windwos Server 2008、Windwos Server 2012、Citrix Readyといった仮想環境の互換性が確保されており、これらのストレージとして安心して利用することが可能だ。
いずれも中規模以上の環境で必要とされる機能だが、これらがリーズナブルな2ベイのNASで利用可能になっているのは、やはり大きな魅力だ。
中小企業の強い味方
以上、SynologyのDiskStation DS713+を実際に使ってみたが、コンパクトな外観からは想像できないほど高性能なNASだ。
中小企業でも無理なく導入することができるうえ、将来的に事業規模が拡大したり、仮想環境での利用が必要になった場合でも、無理なく拡張していくことができる製品となっている。法人向けの「+」の型番は伊達じゃないという印象だ。
これからNASの導入を検討している企業や古くなったファイルサーバーのリプレイスを検討している場合は、選択肢の1つとして検討してみるといいだろう。