清水理史の「イニシャルB」
テレビを戦略的に「利用」する~Google Chromecastを試す
(2014/6/2 06:00)
GoogleのChromecastがついに日本でも発売された。動画などのコンテンツをストリーミングできるHDMI直結のドングルだ。過去に似たような端末はいくつか存在したが、Googleらしい特徴を持った製品と言える。その実力を検証してみた。
テレビ周りを見直すきっかけに
もう、ゲーム機でテレビのHDMI端子を消費するのはやめて、こちらを繋いでおこうか。
Chromecastは、こんなふうに、久しぶりにテレビ周りの環境を見直すきっかけになりそうなデバイスだ。
おそらく、多くのレビューがインターネット上に溢れかえると思われるので、ここでは概要について詳しく触れないが、製品自体は、HDMI端子に直結(アダプタも付属)するタイプのドングルだ。
内蔵する無線LANでネットワークに接続することが可能となっており、同一ネットワークに接続したスマートフォンからの指令によって、NTTドコモの「Dビデオ」や「YouTube」、「Google Play Movies」などの映像コンテンツ、PCで動作するChromeのタブを表示することができる。
こう説明すると、スマートフォンの画面をテレビに表示するスクリーンミラーリングか? と思われるかもしれないが、そうではない。あくまでもスマートフォンは、コンテンツの再生を指示するだけで、その指令を受け取ったChromecastが無線LAN経由でインターネットに接続してコンテンツを再生するというしくみとなっている。
設定も非常に簡単で、付属のACアダプタを接続後、テレビのHDMI端子に装着。画面の指示に従って、スマートフォンにChromecastアプリをダウンロード。アプリから自動的にネットワーク上のChromecastを認識するので、無線LANの接続設定を登録すれば完了となる。
テレビに表示できるコンテンツは、前述した対応アプリで提供されているものに限られるが、Youtubeなどのアプリ側でChromecastのボタンをタップして機器に接続後、コンテンツを再生すれば、そのコンテンツがChromecast経由でテレビで再生されるようになる。
目の衰えてきた筆者のように、スマートフォンの画面で字幕を読むのはちょっと……、と感じる人や、せっかくなら迫力の大画面と音声で映画を楽しみたい! などという人に便利なデバイスと言えるだろう。
ちなみに、確かにセットアップは簡単なのだが、少々、個人的には不満がある。
対応する無線LANが2.4GHz対のIEEE802.11b/g/nのみとなるのも個人的には残念でならないが、Chromecastに無線LAN接続の設定をすると、自動的にスマートフォンの接続先も2.4GHzの接続先に自動的に変更してくれるのは、まったくもって余計なお世話。
混雑した2.4GHz帯を避けて、ほとんどの機器を5GHz帯に移行中のこちらの身にもなってほしい。
しくみとしては、Chromecastとスマートフォンが同一ネットワーク上に存在すればいいのだから、Chromecastは2.4GHz、スマートフォンやPCは5GHzと別々に接続してもまったく問題ない。
初心者向けに、確実に接続できる方法を半ば強制するのが意図かと思われるが、こんなやり方はスマートではないので、ぜひ改善していただきたい。
テレビ視点とスマホ視点
というわけで、いったん接続してしまえば、できることは単純な機器なだけに、レビューと言っても個人的な感想になってしまうのだが、少々、お付き合いいただきたい。
この製品でポイントとなるのは、やはり操作性だろう。もちろん、操作自体は、前述したようにアプリからChromecastに接続し、コンテンツを再生する(順番は逆でもOK)だけだ。
このスマートフォンから指示して再生するというスタイルは、使ってみると、なかなか便利だ。
まず、テレビ視点で考えると、今までのSTBのように専用リモコンでの操作が必要ない。リモコンの数は増えないし、安っぽい作りのボタンの押し具合の悪さに辟易することもない。
中にはスマートフォンをリモコンとして使えるSTBもあるが、Chromecastは操作の主体はあくまでもスマートフォンだ。スマートフォンの画面を見ながらコンテンツを選び、再生をコントロールする。テレビ主体でスマートフォンで遠隔操作する既存のSTBよりも、直感的な操作が可能だ。
続いて、スマートフォン視点で考えると、大画面で映像を見られるのはもちろんメリットではあるが、それ以上に「ながら」ができるのが、すばらしい。
これまで、スマートフォン単体でYoutubeを見る、Dビデオを楽しむといった場合、当然、画面はコンテンツに占有されていた。単体の場合だけでなく、スクリーンミラーリングのようなしくみを使う場合も同様だ。スマートフォンはその瞬間動画専用マシンと化す。
しかし、Chromecastの場合、スマートフォンは、再生を指示さえすれば、後は何に使ってもかまわない。
メールをチェックしようが、地図を見ようが、LINEをしようが、ゲームを楽しもうが、まったくの自由となる。
もちろん、映画に集中したい、という人もいるだろう。しかし、多くのユーザーは、特にITデバイスで、複数のことを同時に楽しむという利用スタイルが身に付いている。Chromecastなら、これが現実にできる。画面を切替えながらの「エセながら」ではない。本当の同時進行の「ながら」だ。これができるのがChromecastの大きな特徴と言える。
こういった利用スタイルは、AppleのAirPlayに非常に近い。というか、AirPlayでYoutubeやiTunes Storeから購入したビデオを再生している場合とほぼ同じだ(ローカルに保存された動画は「ながら」は不可。また後述する無線LANをオフにするAirPlayは再生が停止される)。
写真や音楽を再生できないなど、機能的には劣る部分もあるが、AppleTVと同じようなことが、ようやくAndorid端末でも可能になったと考えていいだろう。
再接続で状態を再現できる
個人的な感想はここまでにして、少し、実験もしてみよう。
同一ネットワークであればChromecastとスマートフォンを2.4GHzと5GHzで使い分けることができるのは前述した通りだが、再生中にスマートフォンの接続先を切替えることはできるのだろうか?
試しに、Youtubeの動画を再生中に、スマートフォンで2.4GHz帯のSSIDから5GHz帯のSSDIにつなぎ替えてみたが、当然、Chromecast側には影響がなかった。前述した通り、スマートフォンからは再生の指示や一時停止、早送り/戻しなどの処理を必要に応じて伝えるだけなので、その時にChromecastとスマートフォンが通信できる状態であれば問題ないわけだ。
まれに5GHz接続時にChromecastを見失うことがあったが、その場合は一瞬2.4GHz側に接続して、再び5GHzに戻せば問題なかった。
では、無線LANを切断したらどうだろうか? 同様にYoutubeの動画を再生中に、スマートフォンの無線LANをオフにしてみた。
この場合も同様に再生は継続されるが、これはこれで少し困ったことになる。Chromecast側は再生の指示を投げっぱなしで放置されるため、そのまま映像が終わるまで再生を続けることになる。
再生を停止したい場合は、もう一度、スマートフォンからChromecastに接続して再生を停止するか、Chromecastの電源ケーブルを引き抜く必要がある。
ただ、この仕様は、使い方によっては便利だ。たとえば、テレビで映像を楽しんでいる途中で、席を外さなければならなくなったとする。このとき、スマートフォン側で映像を一時停止して、席を立ったとしよう。
Chromecastは、基本的に起動しっぱなしで、以前の状態をいつまでも維持するため、この間にスマートフォンが無線LANの圏外に移動したとしても、この状態が維持される。
このため、席に戻って、無線LANに接続。再び、YoutubeなどのアプリからChromecastに接続すると、Chromecast側の状態がスマートフォンにも反映される。つまり、席を外す前の一時停止したシーンから再生を再開できることになる。
このようなリレープレイは、スマートフォン主体の操作でも可能だ。たとえば、帰宅時の電車の中で映像を視聴し、駅に着いたところで一時停止。自宅に着いたら、無線LAN経由でChromecastに接続し、一時停止していたシーンからテレビで視聴を再開するということができる。こういった使い方ができるのは、なかなか便利だ。
PCからの利用もアリかもしれない
PCからの利用に関しては、Chromeと拡張機能によって実現される。ChromeでWebページを表示後、ツールバーのボタンをクリックすると、現在表示しているタブがテレビに表示される。
結構、遅延があるので、リアルタイム性が求められる利用には向いていないが、Office Onlineでプレゼンを開いてテレビに表示するといった使い方も不可能ではない。わざわざケーブルを接続しなくても、さっとWebページなどを表示できるので、会議室などに用意しておくと便利なのではないだろうか。
ちなみに、Chromecastは、基本的に新しい接続が優先される。たとえば、スマートフォンでYoutubeの映像を再生中に、PCのChromeからタブをキャストすると、映像が中断されPCのタブが表示される。
このため、もしかすると取り合いのような遊びに発展することもあるかもしれないが、会議室などで複数のユーザーで利用することも可能だ。
最近では、Webページを表示できれば、大抵のプレゼンで事足りるので、これを利用して会議をするといいうのも現実的かもしれない。
テレビを戦略的に利用する端末
以上、Chromecastを実際に使ってみたが、Googleらしく、戦略的にテレビを利用することをうまく考えたなぁ、という印象だ。
古い考え方では、テレビにインターネットの機能をプラスするというか、テレビの世界にネットの世界観を持ち込むという発想が強かったが、Chromecastの場合、主体はあくまでもスマートフォンであり、その周辺機器としてテレビを利用しているに過ぎない。
Apple TVの存在を考えれば、決して革新的なものとは言えないかもしれないが、リーズナブルな価格となるうえ、何よりAndroid端末で利用できるのがメリットとなる。
もちろん、単純に見てしまうと、スクリーンミラーリングができないうえ、表示できるコンテンツも限られるので、既存の製品と比べると見劣りする部分もあるが、使ってみると、「別に、これで良いじゃん」と納得できる。これで4200円(税別)なら悪くない投資と言えそうだ。
このほか、細かなところでは、やたら本体が熱くなるので、これからの季節が心配だったり、HDMI直結って本当にスマートか? かえって邪魔なのでは? と疑問に思わなくもない。しかし、あると便利なのは確かだ。
Chromecastの登場によって、YoutubeやDビデオ、ビデオパス(今後対応予定)の利用頻度は、少しは上がるのではないかと想像できる。コンテンツへの間口を広げるという意味でも意義のある製品と言えそうだ。