清水理史の「イニシャルB」

iPhone 5/5s/5cのWiFi速度を向上する

バッファロー「ビームフォーミングEX」を試す

 バッファローから発売されているIEEE 802.11ac対応の無線LANルーター「WZR-1750DHP2」に、「ビームフォーミングEX」対応の新ファームウェアが登場した。iPhone 5/5s/5cなどのビームフォーミング非対応端末の通信速度を向上する独自機能だ。その実力を検証してみた。

ビームフォーミングの効果をより多くの端末で

 スマートフォンでの利用を中心に無線LANルーターを選ぶのであれば、今回、バッファローから新ファームがリリースされた「WZR-1750DHP2」は1つの選択肢となりそうだ。

 WZR-1750DHP2は、以前に本コラムでレビューしたWZR-1750DHPの後継機種で、昨年末に発売された製品だ。スペック的には、1300MbpsのIEEE802.11ac、および450MbpsのIEEE802.11n/b/g対応と従来版のWZR-1750DHPと同等だが、CPUが高速化されるなど、リファインが施されている。

バッファローのIEEE802.11ac対応無線LANルーター「WZR-1750DHP2」
正面
側面
背面

 今回リリースされたのは、このWZR-1750DHP2向けの新ファーム「2.20」だ。無線LANルーターのファームウェアが更新されることは特に珍しいことではないが、今回の新ファームで新たに「ビームフォーミングEX」と呼ばれる新技術に対応したのがポイントだ。

 ビームフォーミングEXは、ビームフォーミングの拡張機能といったところだ。ビームフォーミングについては、前述したWZR-1750DHPにて過去に検証した記事で取り上げているので、詳しくはそちらも参照して欲しいが、簡単に説明すると、複数アンテナから発せられる電波の位相や振幅を細かく調整することで、指向性を持たせ、特定の端末に対して電波を集中させる機能だ。

 通常の無線LANは、機種やアンテナ配置の特性の違いはあるものの、基本的に全方向にまんべんなく電波を発信するのに対して、ビームフォーミングでは通信する端末を狙い撃ちすることで、従来方式では電波が届きにくかった離れた部屋などでの受信感度を向上させることができる。

 たとえるなら、これまで3人の人がそれぞれ別々の方角に向かって個別に大声を出していたのに対して、3人そろって同じ方角に向かって、声を揃えて、一斉に呼び声をあげているようなものと考えればわかりやすいだろう。

 ビームフォーミングは、遠距離での通信に非常に有効な機能だったが、利用するにはアクセスポイント、クライアント共に対応機器が必要なのが欠点だった。具体的には、Broadcom製のIEEE 802.11ac対応モジュールを搭載した製品が必要で、アクセスポイントではバッファローのWZR-1750シリーズ、AppleのAirMacシリーズ(11ac対応製品)、クライアントではAppleのMacbookシリーズ(11ac対応製品)、GALAXY S4/S5/Note3などのスマートフォンと限られていた。

 これに対して、今回、バッファローがWZR-1750DHP2に搭載したビームフォーミングEXは、iPhone 5/5s/5c、iPad、iPad mini、Nexus 7(2013年発売モデル)など、IEEE 802.11acに対応していない端末でも、ビームフォーミングと同様の効果を得られるようになっている。

 現状、対応が確認されている機器が限られているため(詳細はこちらを参照:http://buffalo.jp/product/wireless-lan/ap/beamforming/)、どうやら、あらゆる機器で効果があるわけではなさそうだが、従来のビームフォーミングよりも対応機種が増え、身近にその効果を体験できるようになったことになる。

 現状、無線LANの電波が届きにくいと悩んでいるユーザーにとっては、注目の機能と言えるだろう。

最新のファームウェア2.20でビームフォーミングEXを有効にできる

iPhone 5sで効果を図る

 それでは、実際の効果について検証していこう。

 今回、ビームフォーミングEXの効果を検証するために3台のクライアントを用意した。1台目は公式に対応が表明されているiPhone 5s。2台目はビームフォーミングに対応しているIEEE802.11ac対応機のGALAXY S5。3台目は対応明記されていないSurface Pro 2(Marvell)だ。それぞれ、iPerfによる下り(WZR-1750DHP2→端末方向)の速度を計測してみた。

iPhone 5s、GALAXY S5、Surface Pro2の3台の端末でテストしてみた

 まずは、iPhone 5sでのテスト結果だが、以下のグラフのようになった。今回のテストでは、計測時にバラツキが見られたため、複数回計測した際の低い値と高い値の両方を採用している。スマートフォンは手に持って計測したために位置が不安定だったこと、ビームフォーミングEXの効果が安定する前とその前で速度に若干の開きがあることを考慮している。

【表1:iPhone5s iPerfテスト】

ビームフォーミングEX最小最大
1FON79.599.5
OFF73.298
2FON41.871.7
OFF39.960.4
3FON19.730.7
OFF12.720.4

PC:Intel NUC DC3217IYE

  • クライアント:iPhone 5s
  • iPhone 5sでWiFiPerfサーバーを実行し、PC側でiperf -c [IP] -t10 -i1 -P3を実行

 結果を見ると、iPhoneでは確かに効果があると考えてよさそうだ。iPhone 5sは、IEEE802.11nシングルストリームの150Mbps対応となるため、1Fでは、ビームフォーミングEXオン時、オフ時のどちらともほぼ上限の値となっているが、2Fで約16%、3Fで50%ほどの速度向上を確認できた。

 やはり、距離が遠い方がビームフォーミングEXの効果が現れやすいと考えてよさそうだ。現状、iPhoneで十分な速度が得られていない環境では、試してみる価値があると言えそうだ。

ビームフォーミングvsビームフォーミングEX

 続いて、最大867MbpsのIEEE802.11acに対応したGALAXY S5でテストした。ビームフォーミング対応機を利用した場合、ビームフォーミングEXのオンとオフで効果に違いがあるのかを検証してみたわけだ。

【表2:GALAXY S5 iPerfテスト】

ビームフォーミングEX最小最大
1FON363395
OFF358387
2FON347364
OFF346369
3FON274322
OFF276331

PC:Intel NUC DC3217IYE

  • クライアント:GALAXY S5
  • GALAXY S5でiPerf for Androidを利用しiPerf -sを実行し、PC側でiperf -c [IP] -t10 -i1 -P3を実行

 結果は、ほぼ誤差と言っても良いが、若干、ビームフォーミングの方が良い結果となった。1Fでは、ビームフォーミングEXの値の方が高いが、2F、3Fでは、ビームフォーミングの値が上回っている。

 とは言え、値としてはさほど大きな差があるわけではないので、たとえばiPhone 5sとGALAXY S5が混在する環境であれば、ビームフォーミングEXをオンにして、iPhone 5sの速度のかさ上げを図った方が効率的と言える。オンにしたままでもビームフォーミング対応のGALAXY S5には、大きなデメリットとはならないので安心してよさそうだ。

Broadcom以外の無線LANモジュールではどうか?

 最後に、Surface Pro 2を利用して速度を計測してみた。この端末には、Marvell Avastar 350NというIEEE802.11n(2ストリームMIMOの最大300Mbps)対応の無線LANモジュールが採用されている。

 現状、この製品はバッファローのWebページには、ビームフォーミングEXの対応確認機種として掲載されていないうえ、Broadcom以外の無線LANモジュールを搭載しているため、ビームフォーミングEXの効果がどのように現れるのかが注目されるところだ。

【表3:Surface Pro 2 iPerfテスト】

ビームフォーミングEX最小最大
1FON122134
OFF128137
2FON124139
OFF125132
3FON79.6113
OFF73.298.3

PC:Intel NUC DC3217IYE

  • クライアント:Surface Pro 2
  • Surface Pro 2でiPerf -sを実行し、PC側でiperf -c [IP] -t10 -i1 -P3を実行

 結果を見ると、何とも判断しにくいところだ。2F、3Fの値を見れば、確かにビームフォーミングEXオン時の値の方が高いので、効果があると言っても良さそうだが、その差はわずかで、iPhone 5sのときのような大幅な速度向上とまでは言えない。

 現状、動作が確認されている端末以外では、対応状況がはっきりと確認できるまで、もう少し、様子を見てもよさそうだ。

iPhone 5/5s/5cユーザーは検討する価値あり

 以上、バッファローのWZR-1750DHP2に搭載されたビームフォーミングEXを実際に試してみたが、iPhone 5sなどの対応端末を利用した場合は、確かに大きな効果が得られることが確認できた。これらの端末を利用している場合は、購入する価値が十分にあると言えるだろう。

 それにしても、GALAXY S5の結果を見ればわかる通り、IEEE 802.11acのパフォーマンスは強烈だ。次期iPhoneはIEEE 802.11ac対応が噂されているので、根本的に無線LAN環境を改善するなら、クライアントも合わせてIEEE 802.11acへの移行を考えるべきだろう。

 その上で、どうしても残ってしまう11ac非対応端末をビームフォーミングEXで救う、というのが理想的なシナリオと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。