清水理史の「イニシャルB」

最大1300Mbpsの無線LANルーター「バッファロー WZR-1750DHP」

ようやく認可されたIEEE 802.11ac対応機が登場!

 バッファローから次世代無線LAN規格IEEE802.11acのドラフトに対応した無線LANルーター「WZR-1750DHP」が発売された。従来の倍となる80MHz帯域によって、最大1300Mbpsにまで高められたパフォーマンスを実際に検証してみた。

スピード出荷

 「一体、いつなのか?」

 むしろメーカーの方がリリース時期に頭を悩ませていたと思われる11acが、ついに登場することになった。

 登場と言っても、IEEEによる規格自体の正式な策定は2013年末が予定されており、現状は策定予定のドラフト版であるIEEE 802.11ac(Draft)規格、以下ドラフト11ac――に準拠した製品となっており、正式なIEEE802.11ac製品ではない。

 とは言え、機能的には、ほぼ正式規格と同等と考えて良い仕様で、詳しくは後述するが、256QAMの採用、3ストリームMIMOに加え、使用帯域が従来の40MHz幅から80MHz幅へと拡張され、その最大速度は1300Mbpsと、ギガ越えをついに達成したことになる。有線LANの代替えという無線LANの長年の夢が、ようやく目の前に現れたわけだ。

バッファローのIEEE802.11ac(Draft)対応無線LANルーター「WZR-1750DHP」
正面
側面
背面

 それにしても、省令発表からの動きは実にスピーディだった。

 3月27日付けの官報(号外第63号)による省令改正で5GHz帯で80MHz、160MHz幅の利用が可能になってから、わずか数時間後、NECアクセステクニカとバッファロー、アイ・オー・データ機器から製品のリリースが案内され、さらにその翌々日、つまり3月29日には、バッファローのWZR-1750DHPが店頭に並び、我々消費者の手に入るようになった。

 筆者も3月28日に大手家電量販店のオンラインショッピングで2台まとめて購入し、3月29日には自宅で実際に稼働させることができた。官報の掲示からこんなに早く製品を使えるようになるとは思わなかっただけに、事前に準備を重ねてきたメーカーの努力を讃えたいところだ。

 なお、今回は購入から数日のみ、主要なテストをしたのみで記事を掲載しているため、すべての機能を網羅できていないうえ、継続的な安定性までは評価できていない。今のところ問題はなさそうだが、あくまでも速度中心の速報的なレビューであることをあらかじめお断りしておく。

80MHz幅化で速度を大幅向上

 IEEE802.11acの関連技術については、本コラムでも以前に何度か紹介しているが、簡単におさらいしておこう。

 今回、バッファローから登場したWZR-1750DHPに代表されるドラフト11ac機の最大の特徴は、最大1300Mbpsにまで高められた速度だ。現行の無線LAN製品の速度は、IEEE802.11nで最大450Mbps、一部IEEE802.11acの技術を取り入れたもので最大600Mbpsとなっているが、これが倍以上にまで高速化されたことになる。

 無線LANの速度は、主に、変調方式の多値化、伝送路の多重化、使用帯域幅の拡大の3つの要因によって拡張することができる。変調方式については、すでに11ac技術採用として発売済みとなっているWZR-D1100Hなどでも採用されているように、従来の64QAMから256QAMに多値化することによって、一度に多くのデータを搬送できる技術が採用されている。

 続いての伝送路の多重化とは、具体的にはMIMOの利用だ。MIMOによって、同一空間上で同一周波数の通信を複数同時に行なうことが可能となる。IEEE802.11acでは規格上は8ストリームまでのMIMOに対応するが、現状の製品では3ストリームと、従来のIEEE802.11nと同じ方式が採用されている。

 最後の周波数帯の拡大が、今回の最大の注目点だ。従来の無線LANでは、標準で20MHz、IEEE802.11nで40MHz幅の周波数帯域を通信に利用していたが、IEEE802.11acでは、この帯域が最大160MHzまで利用可能になる。現状の製品では、80MHz幅までの対応だが、これによって、一気に速度が倍以上になったというわけだ。

 このあたりは、よくトラックで荷物を運ぶ物流に例えられるが、要するに、256QAMでトラックの積載量を増やし、MIMOで1車線を走るトラックの台数を増やし、80MHz化で車線そのものを増やしたと考えるとわかりやすいだろう。

気になるパフォーマンスを計測

 今回取り上げるWZR-1750DHPは、ハードウェアやソフトウェアにも細かな改良が加えられているのだが、それは置いておいて、まずは気になるパフォーマンスから見ていこう。

 以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階に親機となるWZR-1750DHPを設置し、各階でFTPによる速度を計測したグラフだ。現状、ドラフト11acに対応する子機は、同じWZR-1750DHPをワイヤレスブリッジモード(WBモード)にしたものしか選択肢がないため、WZR-1750DHPを背面のスイッチでWBモードに切替えて利用している。また、比較対象として、最大600MbpsのWZR-D1100Hの結果も掲載している。

【表1】FTP転送速度
親機 子機 使用周波数帯・速度 - GET PUT
有線LAN - 1000BASE-T - 887.18 893.52
WZR-1750DHP WZR-1750DHP 5GHz(1300Mbps) 1F 190.69 500.37
2F 169.72 364.7
3F 154.25 283.29
Intel Advanced-N 6250AGN 5GHz(300Mbps) 1F 117.9 200.47
2F 82.68 119.59
3F 58.95 83.51
2.4GHz(300Mbps) 1F 90.12 148.57
2F 56.07 91.11
3F 54.18 67.95
WZR-D1100H WLI-H4-D600 5GHz(600Mbps) 1F 110.08 244.08
2F 94.16 147.84
3F 74 118.8
2.4GHz(450Mbps) 1F 76.16 112.24
2F 69.6 95.68
3F 34.64 34.4
Intel Advanced-N 6250AGN 5GHz(300Mbps) 1F 95.12 179.68
2F 73.68 105.84
3F 56.8 96.8
2.4GHz(300Mbps) 1F 75.52 111.28
2F 55.28 95.68
3F 38.32 78.72
  • クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • FTPサーバー:Synology 1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ1GB)
  • 100MBのZIPファイルを転送
  • 2.4GHz帯は標準で20MHz幅に設定されているため20/40MHz自動選択に変更して計測
FTP転送テスト

 まず、注目して欲しいのは有線LANとの比較だ。さすがに1000BASE-Tには及ばないものの、同一フロアとなる1階の計測で、PUTながら500Mbpsの速度をマークした。まさに圧巻と言って良いスピードだ。従来モデルのWZR-D1100Hと比べても倍の速度が実現できているので、まさに80MHz化の恩恵と言って良いだろう。

 また、3階の結果もすばらしい。3階におけるWZR-1750DHPのGET 154.25/PUT 283.29という結果は、WZR-D1100Hの1階の結果となるGET 110.08/PUT 244.08よりも高いのだ。3階でも実行で100Mbpsを越えるとなると、もはや大容量ファイルのコピーだろうが、ビデオ伝送だろうが、躊躇無く無線LAN経由で利用できる速度で、ほとんどの用途で帯域不足を感じることがなくなるほどだ。

 なぜ、ここまで長距離の伝送に強いのかは詳しく解析してみないとわからないが、WZR-1750DHPには、IEEE802.11acのオプション機能として位置づけられているビームフォーミングが搭載されている。この機能によって、長距離伝送でも、電波を拡散させることなく、通信相手に電波を集中させることが可能となっている。あくまでも予想でしかないが、この効果も現れているのではないかと考えられる。

 なお、筆者宅のテスト環境では、以前からPUTに比べてGETが遅い傾向が見られていたが、今回のテストでは、この差ががより一層大きくなってしまっている。今回のWZR-1750DHPだけでなく、他社製の製品でも同様の傾向が見られるので、おそらくサーバーとして利用しているSynologyのNASやプロトコルのFTP、クライアントPCの特性だと考えられるが、詳しい原因は不明だ。

 ただし、今回のテストでは2台のWZR-1750DHPを親機と子機の両方に利用しているため、見方を逆、つまりサーバー側をクライアントと考えれば、前掲のグラフのPUTをGETと読み替えることもできるため、高い方のPUTの値を無線伝送能力の上限値と考えても差し支えないだろう。

中継モードで利用してみる

 続いて、中継モードで利用した場合の速度を検証してみた。上記のテストでは、2台のWZR-1750DHPのうちの1台をWBモードに設定し、クライアントを有線LANで接続して計測したが、このWBモードでは無線ブリッジの機能も搭載しており、有線LANだけでなく、無線LANクライアントがWBモードのWZR-1750DHP経由で、親機に接続することも可能となっている。要するに、「子機--(無線)--WBモードWZR-1750DHP--(無線)--親機WZR-1750DHP」という構成だ。

【表2】中継モードFTP転送速度
親機 中継 使用周波数帯・速度 - GET PUT
WZR-1750DHP 5GHz-1000BASE-T中継 5GHz(1300Mbps) 1F 190.69 500.37
2F 169.72 364.7
3F 154.25 283.29
5GHz-2.4GHz中継 2.4GHz(300Mbps) 1F 58.98 91.11
2F 49.5 80.97
3F 56.07 90.06
5GHz-5GHz中継 5GHz(300Mbps) 1F 46.89 131.54
2F 47.73 114.55
3F 54.2 108.31
中継モードFTP転送速度

 結論から言うと、やはり無線to無線のブリッジは、無線to有線ブリッジと比べてかなり速度が落ちてしまうが、クライアントに無線LAN内蔵ノート(表1グラフの6250AGN)を利用した場合の結果と比べると、3階における2.4GHzのGET 54.18/PUT 67.95という結果を、GET 56.07/PUT 90.06にわずかながら改善することができる。

 より離れたり、障害物がある環境で、親機からの電波が直接届きにくいような環境では、ブリッジで中継した方が有利な場合もありそうだ。

 なお、この有線と無線のブリッジは共存させることができる。たとえば筆者宅であれば、2階にWBモードのWZR-1750DHPを設置し、テレビやレコーダーなどの映像伝送する可能性がある機器は有線ブリッジで接続しつつ、スマートフォンやタブレットなどを無線ブリッジで接続するという使い方ができる。

 もちろん、同時利用する機器が多くなれば、それだけ帯域は消費されるが、広さや高さがある環境では、ブリッジの利用を検討するといいだろう。

現状、1300Mbpsでの通信をするには、WZR-1750DHPを2台利用するしかない
背面のスイッチで片方をWBモードに切替えると中継機として利用できる

一新されたユーザーインターフェイス

 パフォーマンス以外の特徴としては、今回、ユーザーインターフェイスが一新された。設定画面にアクセスすると、シンプルなアイコンと必要最低限の情報が表示されたタイルが表示され、ここから主要な設定に直感的にアクセスすることができるようになった。各設定も画面が見やすくレイアウトされ、最低限の設定をしやすくなったと言える。

 もちろん、詳細設定画面を表示すれば、従来の設定画面に近いイメージで、より詳細な設定が可能なので、既存のユーザーでも設定に戸惑うことはないだろう。

 また、この設定は、スマートフォン用に最適化されたものも用意されており、スマートフォンからもほとんどの設定を自在に設定可能となった。スマートフォンからの接続も、AOSS2によって、ボタンを押す、「!AOSS-xxxxx」に接続、ブラウザから認証番号入力、接続設定完了と、アプリ不要で接続が可能になため、まさにPCレスで接続や設定ができる。

 バッファローの無線LAN機器ではゲスト用に簡単なWeb認証を備えたSSIDを設定することが可能だが、このゲストポートの有効・無効をスマートフォンの設定画面から、簡単に切替えることができるので、必要に応じて、手元から設定を変えるといった使い方が楽にできるようになった。

 AOSS2にしろ、スマートフォン用の設定画面にしろ、スマートフォンやタブレットでの利用を考慮した場合、その手軽さでも他をリードしている印象だ。

一新されたユーザーインターフェイス。シンプルで使いやすくなった
AOSS2を利用してアプリレスでiOSなどからもボタン設定が可能
スマートフォン向けの設定ページが用意され、必要な機能を手軽に変更しながら使うことが可能。PCレスでの運用も可能だ

USB3.0は若干物足りない

 このほかにも、本製品の特徴と言えるのは、背面に搭載されたUSBポートだろう。USBポートを搭載した無線LANルーターは、ほかにも存在するが、本製品にはUSB2.0×1に加え、新たにUSB3.0ポートがもう1つ追加されている。

 これにより、USB HDDを3.0で接続してNASとして利用しながら、USB 2.0のプリンタを接続して共有するといった使い方が可能となっている。デバイスサーバー機能も現状は実装されていないが、ファームウェアのアップデートで対応予定だ。

 ただし、USB3.0に関しては、まだ最適化が完璧とは言えない状況のようだ。USB3.0接続で1GBのDRAMキャッシュを搭載した同社製のHD-GD1.0U3を接続し、有線LAN接続したPCからCrystalDiskMark3.0.1cを実行したのが以下の結果だ。ローカル接続であれば、300〜400MB/sも実現可能なHDDであるが、本製品に接続した場合は26MB/sが限界となってしまった。

CrystalDiskMark3.0.1cの結果

 市販の低価格のNASでも、50MB/s前後でアクセスできることが珍しくないので、若干、物足りない印象だ。同社によると、今後のファームウェアアップデートで最適化していく予定とのことなので、今後に期待したいところだ。

 なお、本製品には、Webアクセスの機能が搭載されており、USB接続したHDDのデータをインターネットからパーソナルクラウド的に活用することも簡単にできるので、試してみるといいだろう。

背面にUSB2.0とUSB3.0のポートを1つずつ搭載。HDDをNASとして利用したり、プリントサーバーとして利用可能
今回は同社製のHD-GD1.0U3を接続。外出先からもアクセス可能

ライバルも見据えて検討したい

 以上、バッファローから登場したIEEE802.11ac(Draft)対応無線LANルーター「WZR-1750DHP」を実際に試してみたが、まだ完全に有線LANの代替えとまでは言えないものの、これまでの無線LANとは、まさに次元の違うすばらしいパフォーマンスの製品と言える。

 規格として正式策定前であること、PCなどのクライアントの対応がまだであること、価格が高いこと、この3点がネックになると思われるが、このまま何もなければ実質的にIEEE802.11acにほぼ準拠すると考えられるうえ、すでに発表されたGALAXY S4のようにIEEE802.11ac対応のスマートフォンやタブレットが登場予定であることを考えれば、予算さえ許せば、購入をおすすめしたい製品と言える。

 今回は紹介できなかったが、ゲームやビデオなどの通信カテゴリを選択して簡単にQoSを設定できるアドバンスドQoSなどの機能も搭載されている(ルーターモード時のみ有効)。機能的にもかなり豊富なので、価格的なメリットはあると言えそうだ。

 とは言え、ライバル製品の登場も今後予定されているため、その動向も気になるところだ。製品が入手出来次第、比較も含めて、検証していく予定なので、楽しみにしてほしい。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ