清水理史の「イニシャルB」
QTSとAndroidのデュアルシステムNAS Google Playも使えるQNAP「TAS-168」
(2015/11/9 06:00)
QNAPから登場したTAS-168は、裏方としてのNASに、リビングの主役を狙うSTBやタブレット端末の役割を一体化させた画期的な製品だ。1台のハードウェアで、NAS向けのOSとなるQTSとスマートフォンで採用されているAndroidが同時に動作することで、2つの役割を見事に融合させている。その実力を検証してみた。
欲望を詰め込んだNAS
長年、この手の製品を見続けていると、「こんな機能があればもっといいのに」と感じることが結構ある。
例えば、テレビに接続するメディアプレーヤー兼ストレージのような製品。デジカメやスマホの写真・動画を取り込んで、手軽にテレビで見られるのはいいが、どうせならネットワーク経由でアクセスしたいし、ネット上のさまざまなサービスも使えるようになればうれしい――。
例えば、テレビに内蔵されているネットワーク機能。映像配信サービスなどが使えるのはうれしいが、どうせならもっといろいろなサービスに対応したり、対応するサービスを増やせるようにしてほしい――。
例えば、STB……。いや、キリがないのでやめておこう。
もちろん、利用者が使いやすい製品を追求するなら、シンプルであることは何にも増して重要なことだ。操作が単純でわかりやすいし、用途もはっきりする。余計な機能の実装に時間と手間がかからなければ、それだけ利便性の追求にリソースを割くこともできる。
が、人の欲というのはキリがないもので、大抵は要求がエスカレートしていく。たとえ、そのスペックの利用頻度が高くなくても、何かと比べて多機能だったり、高性能であることは購入者の満足感につながりやすいわけだ。
そう考えると、今回、QNAPから登場した「TAS-168」は、ある意味で理想を追求したデバイスと言える。
一見、シンプルなNASのように見えるが、2つのOSが同居する複雑な内部構成となっており、時にはNASとして、時にはメディアプレーヤーとして、時にはオンラインサービス用STBとして、時にはゲーム機として、時にはメールやスケジュール管理用端末として……と、いろいろな側面を持つ複雑な製品となっている。
具体的に何ができるのか? その実態に迫ってみよう。
ARMベースのNASに2つのOSが同居
まずは、外観からチェックしていこう。本体は、ちょっと厚めの辞書といった感じのサイズ(高さ187.7×幅60×奥行き125mm)で、NASとしてはコンパクトな設計の製品だ。デザインもシンプルで、白を基調にフロントのラインと上下に黒いカバーがあしらわれており、あまりNASらしくない見た目になっている。
インターフェイスは、フロントにSDカードリーダーとUSB 3.0、電源ボタン、動作状況を示すLEDが配置され、背面にはUSB 2.0×4、HDMI、Gigabit対応のLANポート×1、電源コネクタが配置される。
CPUは、デュアルコアのARMv7(1.1GHz)となっており、同社のNASのラインナップで言うところのTS-131(ARMv7 1.2GHz)と同クラスとなっている。このクラスの製品では、通常、メモリは512MBとなるのが相場だが、本製品は2GBもの大容量のメモリを搭載しているのがポイントだ。
先にも少し触れたように、本製品にはQNAPならでのNAS用OS「QTS(4.2)」に加え、スマートフォンやタブレットなどで採用されているAndroid(4.4.4)が搭載されている。
同居の詳細なしくみは、独自技術としか公表されていないが、同社のWebに掲載されている図を見ると、何らかの仮想化のしくみを利用して、同一ハードウェア上で2つのOSを稼働させていると推測される。
このしくみを支えるために、2GBという異例に大きなメモリが搭載されているというわけだ。
実際に使ってみると、QTS上の「Android Station」という機能からAndroidの起動/停止を制御できるうえ、QTSを再起動するとAndroid側も再起動する(Androidの再起動は単独で可能)ので、どうやらQTS側がホスト的な役割を担っているようだ。
似たように2つのOSが同居する製品には、Huaweiの「honor cube」があるが、honor cubeはSTB側とルーター側で異なるチップセットを搭載する物理的なニコイチ製品だったのに対して、こちらはハードウェアは共有する形となっているのが違いだ。
このしくみは大変興味深い。これまで、1台の機器にさまざまな機能を搭載しようとすれば、それだけソフトウェアが複雑にならざるを得なかったが、仮想的な環境であれば、それぞれを個別に設計して、あとはネットワークなどで連携させるだけで済む。
ハードウェアのキャパシティが許せば、さらに多くのOSを同居させることさえ可能だし、カスタマイズしたAndroid部分を入れ替えながら、通信事業者や放送事業者向けにOEM供給することだって手軽にできる。
QNAPは、このしくみによって、単純なストレージから、より広い世界へとビジネスの幅を広げる可能性もありそうだ。
NAS側のセットアップは不要
セットアップは、これまでのQNAPのNAS以上に手軽だ。というのも、今回の製品はHDD内蔵タイプ(試用した製品は2TB)となっているため、従来製品のようにHDDの初期化やQTSのインストールなどの作業が必要ないためだ。ネットワークに接続し、起動しさえすればNASとして、すぐに利用できるので、初期設定が必要になるのはAndroid側のみとなる。
同居するAndroidは、HDMIから画面が出力される仕様となっており、設定するにはHDMI接続可能なディスプレイやテレビ、画面を操作するためのマウスとキーボードが必要になる。
マウスやキーボードは、汎用的なPC向けの製品を利用可能で、Logicoolのマウスなどワイヤレス方式の製品も問題なく利用できる。ただし、現状は、Bluetoothやタッチパネルなどのドライバーは実装されないため、残念ながらこれらを入力装置として利用することはできない。
Androidのセットアップは、スマートフォンやタブレットで見慣れたものと同じだ。Googleアカウントを登録し、バックアップや位置情報の許可を設定するだけでかまわない。
これで、ログイン画面が表示されるので、出荷時設定された管理者アカウントとパスワードを入力すれば、Androidを操作できるようになる。
アプリを利用してNASにアクセス
前述したように、ネットワーク上のPCからは通常のNASと同じようにエクスプローラーや同社が提供する「Qfinder Pro(動画アップロード時のPC上でのトランスコードにも対応)」を利用するが、Androidからも同様にネットワーク経由でNASにアクセスする。
QNAPでは、スマートフォン向けのアプリとしてQfileやQphoto、Qvideoなどのアプリを提供しているが、これらを同社独自の「Qmarket」、もしくは通常の「Playストア」からインストールすると、「127.0.0.1」というローカルあてでNASにアクセスできるようになる。
これにより、PCやスマートフォンからNASに写真や動画を保存しておき、リビングのテレビで保存したメディアを再生するという使い方が簡単にできる。Androidの画面を操作することが可能なリモコンも同梱されているので、ソファなどでリラックスした状態で写真を眺めたりするのに適している。
動画に関しても、Qvideo経由で4K動画を再生することもできるため(H.265ハードウェアデコード対応)、保存容量を気にすることなく動画を保存したり、ネットワーク帯域を気にすることなくスムーズに高画質の動画を再生することも可能だ。
もちろん、Playストアを利用することで、通常のAndroidアプリやコンテンツを利用することも可能だ。ゲームをインストールしてプレイしたり、FacebookなどのSNSアプリを使えるようにしたり、Google Videoから映画をレンタルしたりと、通常のスマートフォンやタブレットと同じ感覚で利用できる。
ただ、すべてのアプリが正常に動作するわけではない。例えば、「Hulu」ではHDMIが見つからないというエラーが表示され、TV SideViewでは無線LAN接続をチェックするためネットワーク上のnasneが検出できなかった(nasne ACCESSはOK)。
ほとんどのアプリは快適に利用できるが、ハードウェア回りをシビアにチェックするようなアプリは、場合によっては動作しない可能性があるので気にとどめておいた方がよさそうだ。
また、Androidの画面を表示する前に、Android StationにNASのアカウントでログインするが、Android側がマルチアカウントに対応していないため、複数ユーザーによる使い分けはできない。家族で利用する場合などは、プライバシーを配慮する必要のない共有のアカウントでセットアップしておくといいだろう。
NAS側の機能をチェック
一方、NAS側の機能だが、基本的には通常のQNAPの製品と同等と考えて差し支えない。ユーザーを追加してアクセス制限を設定したり、Macとファイル共有したり、FTPを有効にすることなども可能だ。
App Centerを利用してNASにアプリを追加できる点も同じだが、利用できるアプリの数は少ない。標準でインストールされているPhoto StationやMusic Stationなどに加えてインストール可能なアプリは、外出先からのアクセスを容易に設定する「CloudLink」、ハードウェアなどの診断を実行できる「Diagnostic Tool」、Youtubeなどのクラウドサービスから動画をダウンロードするための「HappyGet 2」、Google DriveとDropboxからデータを同期するための「Cloud Drive Sync」のみとなる。
通常のQNAPのNASでは、サーバー系のアプリなどが豊富に提供されているが、本製品では提供されない。「TwonkyMedia」など一部のアプリは、同社のWebページ(https://www.qnap.com/i/jp/app_center/)からダウンロードすることで、手動でインストールできるが、すべてではない点に注意が必要だ。
おそらく、今後、検証や開発が進めば、対応アプリも増えてくると考えられるが、現時点では、ほかのモデルとまったく同じとは言えないところだ。
パフォーマンスについても、若干、控えめな印象だ。リードは100MB/sクラスとなるためかなり高速だが、ライトは30MB/s前後とあまり高くない。実際の用途を考えると、すでに保存されたデータを複数の機器から再生するという用途となるため、あまり問題にならないが、この点もほかのモデルとの違いと言えそうだ。
メディアの保存、整理、再生のすべてを一台で
以上、QNAPから新たに登場したTAS-168を実際に使ってみたが、QTSとAndroidが共存するシステム的な面白さだけでなく、きちんと実用性も兼ね備えた製品と言える。
実際、テレビの横に設定しておけば、撮影した写真や動画をデジタルカメラやビデオから直接取り込んだり(設定すれば前面USBからボタン一発で取り込み可能)、スマートフォンからQphotoを使って自動的に写真をアップロードしたりして、簡単に保存できる。
保存したメディアは、PCからPhotoStationを使って整理したり、エクスプローラーから直接ファイルを操作することができる。
そして、これらのメディアをリモコンを使って、リビングなどのテレビで簡単に再生することができるだけでなく、オンラインサービスの動画を楽しんだり、レコーダーなどと連携させてテレビを楽しむことなどもできる。休日に、子供と一緒にゲームを楽しんだり、教育向けのアプリを使って遊びながら勉強するといった使い方にも適している。
まだ荒削りな部分もあるが、将来的な発展も大いに期待できる面白いデバイスと言えそうだ。