10代のネット利用を追う

小学校の授業で「LINEワークショップ」実施――コミュニケーションに正解はないこと、児童に伝える

 文教大学付属小学校(東京都大田区)で3月上旬、6年生の学活の授業1時間を使って「LINEワークショップ」が行われた。何を目的とした、どんなワークショップなのか? 授業の様子とともに、ワークショップを実施した学校の意図などをレポートする。

コミュニケーション=お互いを理解する時に必要なもの

LINE株式会社政策企画室の高橋誠氏

 ワークショップのテーマは「『楽しいコミュニケーション』を考えよう!」というもの。講師は、LINE株式会社政策企画室の高橋誠氏。授業は机を班の形にしてスタートした。

 クラスの児童約35名のうち、LINEを使用したことのある割合は4割強というところ。一方、LINEに登場するキャラクターについては、コニーやムーンなどのメインキャラクターだけではなく、ジェシカ、レナードのような脇役まで知っている子が多く驚かされる。

 なお、文教大学付属小学校では携帯電話やスマートフォンの持ち込みは禁止しており、保護者と連絡を取るためのキッズケータイのみ許可している。一方、家では利用していたり、塾に持って行っている子はいる。

 ワークショップでまず考えたのは、「『コミュニケーション』っていつ必要?」という質問だ。高橋氏が「子供に人気の辛い料理の定番と言えば?」という質問をすると、「カレーライス」が9割という結果。「キムチ」「麻婆豆腐」などもわずかにいた。

 次は「夜遅い時間と言えば何時から?」という質問。結果はバラバラで、11時、12時がそれぞれ10人程度、残りは8時、9時、10時、2時が若干名ずつ。

 これを受けて高橋氏は、「お互いの考えが違う場合に、お互いの考えを理解しようとする時、コミュニケーションが必要となる」とまとめた。

言われて嫌な言葉は人によって異なる

 次に「クラスメイトに言われて嫌な言葉はどれ?」というテーマで、5枚のカードが配られた。カードにはそれぞれ「おとなしいね」「個性的だね」「まじめだね」「おもしろいね」「マイペースだね」という言葉が書かれている。子供たちは言われて嫌なものを上から順に並べていった。「絶対に嫌」と「それほどでもない」の間を空けるというルールだ。

 結果は見事にバラバラになった。「絶対に嫌」なものとして「個性的だね」が約20人、「おとなしいね」が約10人、「まじめだね」と「マイペースだね」が若干名おり、「おもしろいね」は誰もいない。

 逆に「『個性的だね』と言われたらうれしい」という児童もいた。「人と違っていると認められたようでうれしいから」と述べたが、嫌という児童は「人と違っていると差別されたようで嫌だから」と回答。

 「同じ言葉でも人によって感じ方が違う。相手の嫌な言葉は自分の嫌な言葉と同じではない。」(高橋氏)

 さらに内容は、文字だけのコミュニケーションにも入り込んでいく。「まじめだね」というLINEのトークを、文字だけの場合とスタンプありの場合で比較し、どちらがうれしいか聞いた。すると大半の30人ほどの児童はスタンプありの方を選んだが、文字のみの方がいいという児童もいた。理由は「ちゃんと言っているみたいだから」で、逆にスタンプ付きの「まじめだね」に対しては「スタンプにいらっときた」との回答だ。

 「いいイメージでスタンプを付けたのに伝わらないこともあるんだね。」(高橋氏)

されて嫌なことも人によって異なる

 次は「すぐに返信がない」「なかなか会話が終わらない」「知らないところで自分の話題が出ている」「自分が一緒に写っている写真を公開される」「話をしている時にケータイ・スマホを触っている」という文章が書かれた5枚のカードが配られた。同様に嫌な順番に並べさせるものだが、結果はやはりバラバラになった。

 「知らないところで自分の話題が出ている」を「絶対に嫌」としたのは約20人、「自分が一緒に写っている写真を公開される」が7人ほど、「話をしている時にケータイ・スマホを触っている」「なかなか会話が終わらない」が若干名で、「すぐに返信がない」は誰もいなかった。

 「自分が一緒に写っている写真を公開される」が嫌なのは女子に多く、「変顔しているのを勝手に公開されたくない」という。一方、「話をしている時にケータイ・スマホを触っている」が嫌という児童は、「お母さんに話しかけてもスマホをいじっていて返事をしてくれないから」と答えていた。

 「嫌がることも人によって違う。表情を見ないと分からない相手がどう感じるのかを考えながら伝えよう。」(高橋氏)

 最後に高橋氏は、「塾の友達にあなたの写真を見せたいんだけどいい?」という依頼がLINEで来た時にどうやって断るかというテーマを出した。「ただ『嫌だよ』では相手が傷ついてしまう。なるべく傷つけないようにうまく断るにはどうしたらいいだろう」という条件付きだ。

 「知らない人には写真を見せたくないからごめんね」と嫌な理由を述べる、「なんで写真を見せることになったの? 考えておきます」と、理由を聞いた上で話をそらしてごまかす、「ダメよ、ダメダメ」と面白く返してその場をなごませる――など、児童たちはさまざまな回答をひねり出していた。

 「答は1つではない。コミュニケーションには正解はない。」(高橋氏)

 授業終了後、感想を聞いてみた。LINEを利用しているという女子児童は、「人によって意見や感じ方が違うことが実感できた。LINEは相手の顔が見えないから、考えて送らなきゃと思った」と言う。LINEは利用していないという男子児童は、「これから使う時に覚えておいたら、いい気持ちで伝えられそうだ」と話していた。

中学で問題が起きる前に

 LINEワークショップは、学校が申し込むことで、LINE株式会社が無料で講師を派遣してくれるものだ。文教大学付属小学校でワークショップが行われたのは、卒業式を間近に控えた時期。6年生の担任を務める同校教諭で広報担当の田中宏一氏は「6年生が卒業するまでに体験させたいということで来てもらった」という。

 もともとは付属中学校の生徒指導の教員が、小学校の教員を対象に講習会を開いたことがきっかけだ。その際、中学では、その場にいない子の悪口をLINEを使って言ったり、無視するなどのいじめ問題が起きていることを知った。同時にLINEワークショップの存在を知り、早速申し込んだという。

 「本校ではないが、万引き写真を投稿して炎上した事件もあると聞く。子供たちが興味半分で写真を撮って紹介してしまったら大変なことになる。『みんなが持ってるから』という軽い気持ちで始めると大変なことになる」と田中氏は危ぐする。

 ワークショップ受講後の感想を聞くと、「嫌だと思う順番が我々が思ったのと違ったり、子供たちの感じ方の違いを感じた」という。「子供たちがけんかになる原因の大半は『そんなつもりで言ってないのに』というもの。口でも問題になるのに、文字ならもっと問題になることがよく分かった」。

文教大学付属小学校教諭で広報担当の田中宏一氏
文教大学付属小学校校長の島野歩氏

 同校校長の島野歩氏は、「口で言われるより、文字として送られてきた言葉の方が強いということを感じてもらいたい」と考えてワークショップを実施したと説明する。「今回、子供たちはあのような順番にしたが、1年後はまた違う順番を選ぶだろう。『すぐに返信がない』が嫌という児童が少なかったのは、まだLINEを使っている児童がそれほどいないから。実際に使ってみたらもっと順位が上がってくると思う」と感想を述べた。

 なお、同校では5年生でも同じワークショップを実施したが、反応が全く違ったという。例えば、6年生は「個性的だね」を嫌という児童が多かったが、5年生では「おとなしいね」が多かった。カードに書かれた5つの言葉も、いい意味・悪い意味どちらともとれるものばかりのため、人によってまったく違う反応が出るというわけだ。高橋氏によれば、5つの言葉になるまでにはさまざまな紆余曲折があったという。「今回もさまざまな課題が見つかった。今後もさらに改良を加えていく」としている。

申し込みが多い「LINEワークショップ」、学校向けに教材だけの提供も

 LINEワークショップは、2014年5月にスタートした。LINE株式会社では前年の2013年、「ネットの安心安全利用」についての講演を130回ほど実施しているが、そこで各地の学校を回った結果、児童・生徒たちには自ら考えるワークショップが必要だと考えて始めたという。静岡大学の塩田真吾氏(教育学部学校教育講座講師)と共同で教材の開発から取り組んでいる。

「LINEワークショップ」のウェブサイト

 ワークショップは小学5・6年生および中学生向けとして設定されており、小学生向けと中学生向けで設問の難易度を変えている。ワークショップの申し込みは小学校・中学校共に同じくらいあるという。「小学、中学の差はあまり感じない。むしろ小学生の方がデジタルネイティブでよく分かっていると感じることもある」と高橋氏。

 現在、ワークショップのスタッフは高橋氏を含め4名。今後、増員の予定があるとしているが、申し込みが全国から寄せられており、日程が合わずに辞退したケースもあるくらいだという。

 そこでLINE株式会社では、学校の教員が同様のワークショップを実施できるよう、教材や教員用ガイドブックの提供も行っている。教材の内容は基本的に、公開紹介した高橋氏らLINEのスタッフによる出張授業と同じだ。また、ワークショップの対象外である高校生、教員、PTA向けには、同様のテーマの講演というかたちで対応している。

 子供たちには「自分がされて嫌なことは人にもしてはいけない」と指導するものだ。しかし今回のテーマは、「嫌なことは人によって違う」という、より高度なコミュニケーションにつながる内容だったと思う。問題がこれで解決するというわけではないが、少なくとも相手を気遣うことができるようになるという可能性を感じた。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/