10代のネット利用を追う

小学生の習い事としてのプログラミング、その狙いとは? CA Tech Kidsの夏休み体験キャンプをレポート

 小学生の間で新しい習い事として、プログラミングが流行中だ。安倍政権において、義務教育段階からのプログラミング教育推進が政府の成長戦略素案として盛り込まれるなど、今注目の分野でもある。

 「アルファベットも書けず、キーボードも打てない状態で来る子は多い。でも来ればできるし、はまるお子さんが多い。『学校をやめてここに通いたい、明日が待ちきれない』と言う参加者もいるほど」。小学生へのプログラミング教育を事業として行う株式会社CA Tech Kidsの代表取締役社長である上野朝大氏は語る。

 小学生における習い事としてのプログラミングは、どのように行われているのか。講座や参加者の声などをレポートし、プログラミング教育の現状について聞く。

集中力がすごい高学年組

 夏休みの間に3〜7日間単位で行われるのが「Tech Kids CAMP」。その後、継続して通う場合は「Tech Kids School」が用意されている。今回は、東京で行われた「Tech Kids CAMP SUMMER 2015」の様子をお伝えする。当日は、1〜2年向け3日間キャンプの最終日と、3〜6年向け3日間キャンプの初日の日だった。

 3〜6年向けキャンプの参加者は40名くらいおり、そのうち女子は5名程度。「Scratchゲーム開発コース」「iPhoneアプリ開発コース」「Webアプリ開発コース」「2Dゲーム開発コース」「3Dゲーム開発コース」「Minecraftコース」の6つから、事前に1つ選んで参加する。

 コースごとに5、6冊の「秘伝の書」と呼ばれる教科書が用意されており、それに沿って進めれば作品が完成する仕組み。分からない時にはメンターと呼ばれるスタッフを呼んで質問できる。作りながら、色やデザイン、動きや音などでオリジナリティを出していき、最終的には個性に富んださまざまなゲームやアプリができあがるようになっている。

 高学年組は、ランチタイムになっても食事をせずに開発している子ばかりで驚いた。時々、お互いの画面を見せ合って歓声が上がるほかは、ふざける様子もなく懸命にパソコンに向かっている。学校などでは少なからず分からない子、やる気がない子、隠れてほかのことをしている子が混じっているものだが、そのようなことは一切ない。

 初日と2日目は、グループごとの結束を固めるためのちょっとしたレクリエーションも用意されている。初日に行った「人間知恵の輪」は、まずグループ全員でバラバラに手を繋ぎ合い、その後、ルールに従って手をほどかずに1つの輪を作るというものだ。グループごとに制限時間内に何回できるかが競われ、上位グループから好きな色のTech Kids CAMPオリジナルポロシャツがもらえる。終了後、「仲間との協力の大切さ」を知るための取り組みだったことがメンターから伝えられた。「1人ではすごいことは成し遂げられない。人間知恵の輪と一緒で、仲間と協力することこそが大切」。

頑張って完成させた低学年組

 低学年組は、「Scratch」を使ったゲーム開発コースを受ける。Scratchとは、MITメディアラボが開発した子供向けプログラミング言語のこと。日本語にも対応しており、「○歩動かす」「××と△秒言う」「□がクリックされたとき」「もし〜なら〜でなければ」などの色分けされたパーツを組み合わせることでプログラミングが組めるため、子供でも分かりやすいのだ。

 1〜2年生なので、何かをする度に声が上がりさすがににぎやかだが、走り回る子や違うことをしている子はいない。上級生組に比べて女子が多く、10チーム・計50人ほどのうち、3チームは女子チームとなっていた。分からないことがあっても、きちんと手を挙げてメンターを呼び、懸命に質問している姿が見られる。ゲームができたら友達と見せ合い、感想を言い合っているのが楽しそうだ。「もう4つ作った」「私は3つ」と、どんどん新しいゲームを作って楽しんでいるようだ。

 発表で読む原稿を作成し、練習を行った後はいよいよ発表本番だ。発表は保護者と参加者、メンターが並ぶ前で行う。1人ずつ前に出て、ゲームの内容や工夫したことなどを原稿を見ながら説明する。ゲームをプレイする様子がスクリーンに映し出されるので、どんなゲームかが分かりやすい。どのゲームもプレイできるくらいにはできあがっている。同時にメンターから、発表者の開発への取り組みや評価する点などの講評もある。自分で考えて、「秘伝の書」にはないことを教わりながら作った子も多かったようだ。

 発表会で一番心配なのが、子供が飽きて話が聞けず、発表会が成り立たないことだ。ところが、メンターたちが子供の発表に対して「可愛い!」「色がきれい」「面白い!」などの良いリアクションをするので、発表会が十分に成り立っている。

 発表を見て気になったゲームを実際に体験できる「体験会」の時間も設けられている。保護者を呼んでプレイさせている子供も見られた。その後、3日間の行程を振り返るビデオが流れ、最後にメンターから講評の言葉と共に認定証が一人一人に手渡されて、全行程が終了した。

帰宅後も自主的にプログラミングする子も

 参加者や保護者たちに、参加した理由や感想を聞いてみた。

 参加した小2男子の父は、「テレビで(当キャンプの)特集していたのを見て、子供がプログラミングに興味を持った。遊ぶだけでなくゲームが作れるということで、違う視点が得られるかもしれないと思った」と言う。それまでは親のスマホやiPadを利用してゲームをしたり、動画を見る程度だったが、家でもプログラミングの続きをやりたいと言い出すくらいに楽しんでいるという。「思ったことを表現でき、1つの動きができるだけで達成感がありうれしいようだ。子供によって知識や能力に差があるが、教わりながら進められた。(プログラミングは)続けさせたいけれど遠いので悩む。自分も子供のころ、BASICなどをやっていたので、環境さえあれば続けさせてやりたい」。

 普段はiPadで動画を見たり、勉強アプリなどを利用している程度だったという小1男子の父は、「子供がプログラミングを気に入って、帰ってから家でも2時間ほどプログラムを改良していた」と感心していた。参加した理由は、子供がもともとパソコンが好きで、チラシでキャンプの存在を知ったためだ。「とても集中しており、飽きもせずテンションが高いまま。他の子たちも、もっと走り回ると思ったが、みんな集中している」と驚きを隠せない。周囲でもプログラミングを習っている子がおり、3年生くらいからやっている子が多いという。

 同じく参加者である小5男子の母は、「参加者がお昼ご飯も食べないで作り続けていることに驚いた。みんな目がキラキラしていて楽しそう。若い先生が多く、いい雰囲気で学校とは違う印象」と感想を述べる。「子供がPCを使ったものに興味があり、プログラミングをやってみたいというので、これからはITの時代だし、将来の可能性が広がるかと思い、調べて(当キャンプを)見つけた。体験会に参加して面白かったので参加した」。子供は普段はPCやスマホをいじり、ゲームは休憩時間などにやっている程度だったが、参加してみて良さを実感したという。「(プログラミングについて)子供に聞かれても自分は分からないので、習うことによって新しい発想が得られるようになるといいのでは」。

 参加者の小2男子は、「自分でゲームが作りたかった。敵を撃ってやっつけるゲームを作っている。楽しいからもっとやりたい」と回答。同じく小6男子は、「夏休みの自由研究にするために参加した。ゲームが好き。バランスゲームを作っている。ただゴールする以外の作り方もあるんだなと、新しい発想が思い付けてよかった」と答えていた。

やる気に火を付ける「キャンプ」、継続する「スクール」

株式会社CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏

 CA Tech Kidsは、上野氏によって2013年5月に設立された。株式会社サイバーエージェントの社内ベンチャーとして作った当時は、子供のネット利用やIT系の人材不足が社会問題化していた。そこで、「子供のころからプログラミングの面白さを知ることで、長期的に見てIT企業としてIT系人材不足に対する人材育成につながると考え、社会性事業(CSV事業)としてスタートした」(上野氏)と言う。プログラミング学習を通じて、子供たちには課題を見つけ、アイデアを思い付き、トライ&エラーを繰り返して実現する粘り強さを身に付けてほしいと考えている。

 2013年の夏に始まったTech Kids CAMP(テックキッズキャンプ:短期間で体験するプログラム)は今年で3年目だが、参加者はこの2年で10倍くらいに増えた。「ここ最近のプログラミング教育の認知度、社会的関心は高く、期待を上回る成長ぶり。子供たちの反応や学びの質・スピードも当初想定していた以上」と上野氏。

 Tech Kids School(テックキッズスクール:継続的に学習するプログラム)は2013年の秋から開始した。キャンプの参加者から「もっと続けたい」という声が予想以上に多かったため、当初より予定を前倒しして開講したのだ。スクールは12回でワンクールで、受講頻度を毎週と隔週から選べる。学習し、独自のプログラムを作り、発表まででワンクールとなる。スクールでは、3、4年間学べるくらいのカリキュラムを用意しているという(※Tech Kids Schoolのカリキュラムは2015年10月よりリニューアルする)。

 キャンプは、「プログラミングは楽しい、もっとやりたい」という最初のやる気に火を付ける場であり、スクールはやる気になった子供たちに学べる場を提供する場だ。「キャンプは実際にやってみることで興味関心を喚起することを大切にしており、理屈は後回し。一方、スクールは理屈や知識、技術も教える。キャンプで興味を持って、理屈を知りたいと思ったり、継続的に学習する意欲があるならスクールにというスタンス」。

 執筆時点で、Tech Kids CAMPは東京、横浜、千葉、大阪、京都、沖縄の6地域・8会場で行われている。料金(税別)は、3日間で3万9000円、5日間で6万3000円、7日間で8万8000円。自分のパソコンを持参する以外に、1000円でレンタルすることもできる。Tech Kids Schoolは東京、大阪、沖縄の3会場で行われている。1回120分の授業が月に4回で、月額1万9000〜2万3000円。パソコンのレンタルには別途2000円かかる。

参加者は普通の子たち、女の子も多い

 参加者にはゲーム好き、インターネット好きという子が多い。ただし、いわゆる“眼鏡っ子のパソコン少年”のような子たちばかりではない。「サッカーのユニフォーム姿で『試合が終わってから来た』と言っていた参加者もいる。世間のイメージとの乖離は大きいと思う」。ITに対する“オタク”“暗い”などのネガティブなイメージは払拭し、「プログラマーはクール」と思われるようにしたいという思いがあるという。

 参加者のうち、女子が約2割を占める。「パソコンは男子がやるものという昔の意識は徐々に減っているようだ」と上野氏は推測する。キャンプでは、技術レベルと同時に、男女別にグループを分けている。理由は、同性の方が打ち解けるスピードが早いためだ。「知らない人ばかりの中で知らないことを習うので、打ち解けられることが大切。不必要な緊張は与える必要はない」。期間が長くなるスクールでは男女とも一緒のグループとなる。参加する家庭は教育熱心で感度が高い家庭が多く、キャンプではほとんどの家庭が送り迎えに来るという。

 メンターは、プログラミングが得意な理系の学生や大学院生、教職課程の学生などがアルバイトで教えている。“子供好き”が大前提であり、子供と接し慣れているスタッフが多いことは保護者からも高評価を得ているという。「メンターは比較的子供と年が近いので、子供と近い目線、指導者的な目線の2つの視点で学習をサポートすることができる」。

消費する側から創造する側へ

 「プログラミングは自己表現の方法の1つ。消費する側から創造する側への発想の転換が必要では」と上野氏は主張する。ゲームは必ずしも遊ぶだけではなく、“お母さんにお願いして買うもの”でもない、というわけだ。

 「時間とともに子供たちが作るものが変わってくる」と上野氏は説明する。最初に作るゲームは、誰もクリアできない、いわゆる“無理ゲー”と呼ばれるような自己満足的な作品が多い。しかし、徐々に子供たちは、やりがいやバランスを考え、「みんなが楽しめるものを作りたい」と考えるようになる。そのうち技術の幅も広がり、誰かの役に立つものを作ったりするようになるという。「ITを使いこなす力は、これからの時代を生きる子供たちの大きな武器となるのでは」。

 用意している教材に関しては、「テキストの用意はしているが、テキストに書いてあることが正しい唯一解というわけではなく、1つの作り方にすぎない。そこからどう改造するかは子供次第。子供が自由に着想するためのたたき台として使ってほしい」と説明する。「今までの教育では、唯一解がある問題の解き方や、再生可能な知識の暗記ばかりを教えてきたが、これからの時代は教育も発想転換が必要になるのでは」(上野氏)。

 スクールに通う子供の中には、発想から自分で考えて作り、iPhoneアプリをApp Storeに出している小学生が何人も現れている。感情認識ロボット「Pepper」の制御や、ドローンのデモ飛行などを行った子、外部のコンテストで受賞した子も現れている。「小4で初めてプログラミングをしたという子たちがすでに成果を上げているので、小1からやっているという子が出てきたら今後どうなるのか楽しみ」。

裾野の拡大と開催地域の拡大が課題

 現在の課題についても聞いてみた。「子供にプログラミングを教えること自体、前例があまりないので、試行錯誤が多い」と上野氏は悩みを語る。一度作った教材でも、「これでは理解できない」と作り直すこともあれば、昔使えていた教科書が使えなくなることもある。今後、公教育でもプログラミング教育が始まると、学習者の裾野がさらに広がることが想定される。「裾野が広がるということは、学習者の層も多様化するということ。指導の仕方や教科書も必要に応じて変えていかねばならないと考えている」。

 徐々に競合他社も現れてきたが、「そもそも、裾野を広げなければビジネスとして成り立ちづらい。まだまだ新興の習い事なので、ビジネスとして洗練させ、市場も広げていく必要がある」。

 また、現在は大都市近郊でしか展開していない。地方との教育格差をなくし、どこでも教育機会が得られるようにしていきたいという思いもある。プログラミング教育の分野で公教育と比べて先行している民間企業として何ができるかと考え、学校への出張プログラミング教室や政策提言にも参加している。すでに出張プログラミング教室は公立・私立小学校で30回以上も行われている。

 「パソコンも使えないという子でも大丈夫。難しそうと思う人が多いだろうが、やってみたら絶対に楽しいはず。ゲームをするのと同じ感覚で作って遊んでほしい」と上野氏は呼び掛けた。

 小学生の子供たちは誰もが楽しんでプログラミングし、オリジナルのゲームを作り上げていた。消費ではなく創造という視点を与えることで、ただゲームばかりしてしまう子の視点を変えることができるのではないかと感じた。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)など著作多数。ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/ Twitterアカウント:@akiakatsuki