イベントレポート

「新人発掘イノベーション元年」2017年の編集者がすべきこと

ネット時代の編集者や出版社の価値は? 新人発掘と育成機能について敏腕編集者が対談

株式会社ストレートエッジ代表取締役の三木一馬氏(右)と株式会社集英社「JUMP j BOOKS」編集長の浅田貴典氏(左)

 特定非営利活動法人NEWVERYのトキワ荘プロジェクト/マンナビ編集部が1月25日、株式会社ストレートエッジ代表取締役の三木一馬氏と、株式会社集英社「JUMP j BOOKS」編集長の浅田貴典氏の対談イベント“「新人発掘イノベーション元年」2017年の編集者がすべきこと”を開催した。

“日本一のラノベ編集者”と“ギネス記録コミックの編集者”

 三木氏は「電撃文庫」の編集者として、鎌池和馬氏(『とある魔術の禁書目録』『ヘヴィーオブジェクト』ほか)、川原礫氏(『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』ほか)などを担当。出版社に雇われている身だと「会社か作家か」の選択を迫られたとき会社をとらざるを得ないことから、「作家や作品に寄り添いたい」とエージェント会社のストレートエッジを2016年に立ち上げた。

 浅田氏は「週刊少年ジャンプ」の編集者として、尾田栄一郎氏(『ONE PIECE』)、久保帯人氏(『ZOMBIE POWDER.』『BLEACH』)などを担当。ずっとマンガの編集者だったが、2014年からコミカライズやノベライズ、オリジナル小説などの書籍を出版する「JUMP j BOOKS」編集長を務めている。

 いわばこれは“日本一のラノベ編集者”と“ギネス記録コミックの編集者”の対談イベントだが、参加者は「マンナビ」クラウドファンディングの支援者とマンガ編集者など招待者限定。さまざまなテーマについて興味深い話が展開されたが、本稿では特に「ネット時代の新人発掘と育成」に絞ってレポートする。

ヒット作家をどうやって発掘してきたのか?

 そもそも二人はこれまで、ヒット作家をどうやって見つけ出してきたのか? 浅田氏は「数は力」だと断言する。「JUMP j BOOKS」が主催するジャンプ小説新人賞は、年3回締切と他社に比べてペースが速い。「枠を作ると人が集まる」というのだ。ただし「自由に書いて良い」賞だと、ジャンプっぽいファンタジーバトルが多くなってしまう傾向があるので、既存の小説賞に加え「ジャンプホラー小説賞」のようにテーマを明確にした新人賞も増やした。新人作家にしてみれば、どういうテーマで書けばよいか想像しやすく、その先の「売り方」も明確になり、一気通貫できるという。

日本ホラー小説大賞とジャンプホラー小説大賞のダブル受賞作家・坊木椎哉氏のデビュー作『この世で最後のデートをきみと』

 三木氏は、電撃小説大賞という膨大な応募数がある賞に「編集者としてあぐらをかいてきた」と謙遜するが、二次選考で落ちた作品からヒットを生み出してきた実績もある。『魔法科高校の劣等生』は「小説家になろう」投稿作からの書籍化。「2ちゃんねる」から発掘したこともある。ただ、アンテナを高くし、選球眼を養い、Twitterを検索して……というやり方は、「やるべきではあるが、チキンレースになる」「今後は新しい発掘方法を模索したい」という。

 いまは、作家によるセルフプロデュースが可能な時代。しかもネット上で少しでも話題になれば、すぐにいろんなところから声がかかる。ただし、それはあくまで話題になった「コンテンツ」に対してであり、「作家」に対してではないと三木氏は指摘する。2作目以降のことなど保証しない人たちが声をかけ、「デビュー」を成就させてしまうというのだ。

 作家にとっては、デビューすることより、デビュー後も作家活動を続けられることが重要。だからほんとうは「コンテンツ」ではなく「作家」で選ばなければならないはずなのに、目先の売上欲しさに「コンテンツ」の青田買いをするような状態になっている、と。そういうやり方を否定はしないが「好きではない」と三木氏。

三木一馬氏

 浅田氏は、小説はマンガに比べると作品を生み出す労力が少ないため、兼業で書いている人が多いと分析する。マンガでも、作画コストの低いエッセイなどは、小説と似たような状況。ところが、例えば三浦建太郎氏の『ベルセルク』のような、作画コストの高いマンガを兼業でやろうと思ったら、30ページ描くのに1年かかってしまうような状況に陥ってしまう。そういう作品や作家に対しては、誰かが才能を見込んで投資し続けなければならない、というのだ。

出版社には「ミツバチ機能」と「パトロン機能」がある

 浅田氏は、なぜ、いま、作家が出版社と仕事をすべきなのか?をずっと考え続けてきたそうだ。出版社に価値があるとすると、それは「ミツバチ機能」と「パトロン機能」だという。

 複数の作家を担当し、やり取りした言葉は、編集者のスキルとしてたまっていく。発表された作品に書かれていないが、制作の過程で込められた作家の意図を、打ち合わせで知ることが重要なのだ。新人賞で受賞まで至らなかった応募作を読むのも勉強になる。それを新人作家に伝えていくのが「ミツバチ機能」。

 売れた作品の利益を、原石の新人作家に投資するのが「パトロン機能」。例えば尾田栄一郎氏も上京してから『ONE PIECE』の連載を始めるまで、4年かかっており、その間、出版社から研究費が支給されていた。そういう機能が出版社の魅力なのだと、編集者はもっと自信を持つべきだと浅田氏。編集部ごとに強い部分はきっとある。そこを押し出していくべきだ。来てくれた新人作家たちと、真摯に向きあう編集者を揃えて、仕事をすることだ、と。

浅田貴典氏

 三木氏と浅田氏の二人には、「大ヒット作品を生み出した作家を新人時代から担当していた編集者」という共通点がある。逆に、出版社から飛び出しエージェントとしての活動を始めた三木氏と、出版社の中で尽力している浅田氏、という立場の違いもある。

 その二人が、新人の「発掘」はもちろんのこと、「育成」にももっと力を入れなければならないという共通見解を持っていることは、示唆に富んでいる。これからは、作家を選ぶのではなく、作家の伴走者として魅力を高め、作家に「選んでもらう」ようにすることが重要なのだろう。