イベントレポート

DeNA創業者はなぜ学習アプリ「Quipper」をロンドンでローンチしたのか

Quipper日本代表の横井明文氏

 モバイル向けEラーニングの「Quipper」がついに日本に上陸する。まだ日本向けコンテンツは出していないが、年内にはトライアルも含め何らかのサービスを提供する見込みだ。

 QuipperはあのDeNAの共同創業者、渡辺雅之氏が2年前にロンドンで立ち上げたベンチャー企業。そのミッションは「Distributors of Wisdom」。モバイル技術を活用し、知識・知恵のダイナミックな流通革命を起こそうとしている。教育コンテンツをiPhoneやAndoroid端末のアプリに配信するプラットフォームを展開しており、アプリはすでに累計400万ダウンロードを達成し、5000のコース、20万の問題、2億の回答が集まるなど海外で盛んに使われている。

 現在ロンドンと日本を合わせて25名のスタッフを抱える。日本の拠点はこの2月にオープンしたばかりだ。日本オフィスの代表を務める横井明文氏も元DeNA。2008年にDeNAに入社し、内製ソーシャルゲームの立ち上げに参画した後、フリーランスを経てQuipperに加わった。

 そんな横井氏が、都内で今週開催された「Social Media Week 2013」に登壇。「Quipper〜ロンドンで日本人が生み出したモバイルe-learningプラットフォームが遂に日本上陸〜」という講演で、Quipperの現状や狙いを定めている市場についてプレゼンした。

 ところで、なぜ、ロンドンなんだろうか。シリコンバレーはよく聞くが、日本人が創業の地にロンドンを選ぶのは珍しいのではないか。

 実は当初から世界に向けたサービスを作りたいと考えていたQuipperにとって、ロンドンは当然の選択だったという。「ユーザーインターフェイス、ユーザーエクスペリエンスの部分で世界標準のサービスを作るためにはいろいろな国のメンバーが集まる混成チームを作るのが大事だった」と横井氏は語る。

 「ロンドンはユーロ圏内のビザが取りやすい。Quipperにはスペイン、リトアニアなど欧州各国のエンジニアがいる。ビザの取りやすさ、ヨーロッパの人材の獲得のしやすさを考慮してロンドンで事業を始めた」

教育は「細分化された巨大市場」

 Quipperが狙うマーケットは世界で20兆円市場と言われている教育市場。「世界的にもこの分野は注目されている。しかし標準的なプレイヤーはまだいない」と横井氏はみている。マーケットが細分化されているからだという。

 「SAT、GMAT、アーリーラーニングなどがヘッドのマーケットとして存在するが、それ以外は国別の地域性が強い。資格や中高のカリキュラムなどは国によって異なる。Quipperはこのミドルからテールの長い部分をカバーできるようなプラットフォームになりたい。例えば、ナイロビでのレストランの開き方や従業員の接客教育などのようなコンテンツもカバーするようなイメージ。」(横井氏)

書籍はAmazon、音楽はiTunes、映像はYouTube。Quipperは教育分野の標準的なプレイヤーを目指す
教育市場のロングテールを狙う

 学習ツールにスマートフォンを用いることで、“スナックサイズラーニング”と呼ばれる5〜10分の切れ目の時間で、個人に最適化されたコンテンツを場所と時間を選ばず効率的に学べるようになるという。

 Quipperプラットフォームにはいくつかの機能が標準搭載されている。ドリル式の学習、コンテンツを作成システム、アプリ内の課金システム、学習者の状況を親・チューターが把握できるモニタリングツール、先生への質問ツール、ユーザー同士が教え合うソーシャル機能、ゲーミフィケーション(学習で得たポイントによりアバター獲得、ユーザー間の競争)などだ。

 こうした機能を使って誰でも簡単に学習アプリが作れるような環境を、Quipperは整えようとしている。コンテンツホルダーや出版社、個人の先生が問題をQuipperに投稿すると、その問題がAPIを通じて、スマートフォンアプリに配信される。コンテンツの利用にあたっては都度課金や月額のサブスクリプションなど複数の手段から選択できる。

Quipperが備えるプラットフォームとしての基本機能
アプリはシンプルな選択肢型
学習管理を備え、間違えた問題を復習できる

Quipperは「公文式+ゲーミフィケーション・ソーシャル」

学習にソーシャル機能を組み合わせ、飽きさせないように

 Quipperの基本的な教育のメソッドは「ドリル式」。選択肢をひたすら選んでいく形式である。1回の学習単位の中に10問くらいの問題が用意されている。要する時間は3?4分。不正解だった問題は記録し、あとで繰り返し学習する。それが基本的な使い方だ。

 このようなドリル式を選んだ理由は、学力の定着に寄与しやすいからだという。「ストイックにドリル式の問題を解くのはつまらない、飽きると言われている。しかし一方で同じ手法を用いている『公文』は米国、ロンドンで受け入れられている。課題は単純で退屈なところをどうクリアするかだ。そのあたりをゲーミフィケーション、ソーシャル機能で補っていく。ドリル式のつまらなさを払拭すればブレイクできると思う」。

 Quipperはいまのところユーザーから高評価を得ていると言っていい。レビューでは5つ星が7割以上。平均点は4.7を維持している。「学習アプリの中ではかなり高い方だ。ドリル系のUIには自信を持っている」と横井氏は語る。これまでにフリーアンサーや過度のゲーミフィケーションを盛り込んだアプリも作ったが、ドリルが最もユーザーの伸び、評価ともに高かったという。

日本向けアプリを準備中

アジアでの取り組みはインドネシア、タイ、ベトナムなどの7カ国に絞った

 アジアでの展開は最終的に7カ国を選んだ。トライアルを実施し、感度の良かったタイからアプリを投入している。現在は無料で提供し、ユーザーベースを拡大中とのこと。

 日本向けコンテンツもまさにいま仕込んでいるところだ。「詳細は話せない」としたが、中高生向けの学習コンテンツを提供する見込みだという。複数の会社が参加できるプラットフォームを準備しており、「そう遠くない未来に提供できる」と語った。

 将来的には、Quipperで大学の単位を取れたり、入学試験が受けられるようなプラットフォームに育てたいと考えているそうだ。「カメラなどを使った本人認証などの方法を用いて、そういった領域にも入りたい。第三者のモニターの仕組みも親子だけでなくて、企業の総務が新卒向けにEラーニングを提供するなど。プラットフォームの基本機能を使って、いろいろなレイヤーにサービスを提供したい」。

 Quipperには2点の優位性があると横井氏は語る。教育の中でも「何かを教える」という分野は、良い先生が無料で講義を配信した瞬間にマーケットが萎む可能性があるという。しかし、Quipperはこうした動きとはむしろ協力関係を築けると考えている。コンテンツを届けるには専用のプラットフォームが必要になるためだ。特に国境を超えようとする際の標準化に壁が存在する。Quipperはそういった壁を取り払うための機能を強化しようとしている。

Quipperの優位性の1つはプラットフォーム戦略にある
そしてもう1つはモバイルに特化した点だ

 さらに、「モバイル特化のプレイヤーはまだ世界的 に見てもいない」と横井氏。API化とアプリストアへの対応などを済ませ、サービスをローンチしているところにQuipperの競争優位性があるという。「これでもう半年、1年くらいは競争は起きない。その間に標準化まで持ち込みたいと考えている」と話した。

 「Quipperはあくまでプラットフォーム。それを最大限生かして、日本にフィットしたサービスを提供したい。完成したらまたみなさんに紹介します」。なお、現在もアプリそのものはダウンロード可能だ。

(武田 京子)