イベントレポート
Japan IT Week 春 2013
ビッグデータが変えるインターネット広告の未来、ヤフー宮坂社長講演
(2013/5/10 16:49)
東京ビッグサイトで開催された「Japan IT Week 春 2013」内の「第7回Web&モバイルマーケティングEXPO」で10日、ヤフー株式会社代表取締役社長の宮坂学氏による「マーケティングはビッグデータの夢を見るか?」と題した特別講演が行われた。
宮坂氏は、インターネットの登場はマーケティングに大きな変化をもたらしたが、さらにマーケティングを大きく変える可能性があるのがビッグデータだと説明。「マーケティングにおいて、もしタイムマシンがあって未来を見ることができればどれほど楽なことかと思うが、ビッグデータがあれば将来がわかる可能性が出てきた」として、米大統領選挙において数理モデル予想に基づく勝敗予想がとても正確だったことや、英国でスマートメーターによる電力需要予測が成果を挙げているといった、ビッグデータが将来の予想に有効であるという例を紹介した。
Yahoo! JAPANにおいては、月間ページビュー数が約507億、1日のユニークブラウザー数が5600万に達する膨大なデータがあり、「1つ1つのクリックやタップにそれぞれお客様の意思があり、それが蓄積される。これを活用すれば、もっといろいろなことがわかるのでは」という観点で、昨年から様々な分析を行っているとして、いくつかのデータを紹介した。
まず、例として挙げたのが「景気」と「検索キーワード」の関係で、Yahoo! JAPANに寄せられる年間約75億種類の検索キーワードの中から、毎日一定数以上検索される約60万種のキーワードを抽出し、この中から内閣府が発表する景気動向指数の増減と相関が高い196のキーワードを抽出。ヤフーではこれを基にして算出した指数を「Yahoo! JAPAN景気指数」として公表している。
3月分の景気指数では、4月16日発表のヤフーが91.9、5月9日発表の内閣府が93.3(速報値)となった。ヤフーの指数は内閣府より1カ月前に発表するが、2つの指数の差は最大1.51、平均0.51の間に収まっており、ビッグデータから景気動向をいち早く知ることができるとした。
また、2012年に行われた衆議院議員選挙と検索キーワードの関係でも、検索量と比例区の得票数の間や、SNS投稿量と小選挙区の得票数の間に高い相関関係があったことや、候補者名と一緒に検索される「第2キーワード」では、当選議員は「街頭演説」、落選議員は「画像」が第2キーワードとなっている場合が多かったことを紹介した。
宮坂氏はこうした事例から、結果に相関関係の高い過去の行動を抽出してモデル化することで、様々な事象について高い精度で未来予測ができると説明。ヤフーが提供している幅広いサービスのデータを利用すれば、たとえば「最近ファミリーカーを購入した」というユーザー層のデータから、購入直前、3カ月前、6カ月前にどのような行動をしていたかを抽出することで、それぞれのタイミングでどこにファミリーカーの広告を出すのが効果的かがわかることになり、こうしたビッグデータの広告出稿への活用は、今後のマーケティングにおいて考えるべきテーマだとした。
宮坂氏は、「インターネットのマーケティングの歴史は、最初はバナー広告のように同じものを多数の人に見せるマス媒体の手法の移植から始まり、次の時代にはパーソナライズされた広告手法への関心が高まったが、ターゲットが細分化されることで広告としては効率が悪くなるという問題があった」として、今後はビッグデータを使うことで「パーソナルだけれどもマス、より多くの人に適切な広告が配信できるようになるだろう」と語った。
一方で、「そこまでユーザーの未来を企業が知ってもいいのか」という問いについては考えなければいけないとして、ヤフーとしてはテクノロジーの光の部分についてはもちろん使っていきたいが、影の部分についても目をつぶることなくきちんと対処していくと説明。「最終的にはビッグデータは誰のものかという話になると思うが、ヤフーとしてはビッグデータは企業や政府のものではなく、個人のものだと考えている。Yahoo! JAPANの月間580億ページビューはそれぞれがユーザーの意思であり、我々はユーザーからデータをお預かりしているという立場だ」として、ビッグデータでマーケティングの夢を見る、恩恵を受けるのはあくまでもユーザーであるべきだとした。
宮坂氏は、「これからも、ビッグデータを巡るいろいろな議論があると思うが、Yahoo! JAPANは企業と生活者の良き橋渡しになれるような、ビッグデータをユーザーの生活をより前進させるものとして使っていく、そういう会社になっていきたい。Yahoo! JAPANは課題解決エンジンというスローガンを掲げているが、ビッグデータを使って消費者の生活課題を解決したい、よりよい消費社会を作る課題を解決したいと考えている」と語り、講演を締めくくった。