イベントレポート
Interop Tokyo 2014
アプリ開発も「爆速」でループを高速に回すことが必要、ヤフー村上氏
(2014/6/13 15:25)
「Interop Tokyo 2014」の併催イベントとして、アプリ開発に関する専門イベント「APPS JAPAN(アプリジャパン)」が新設された。10日には、Interop Tokyo 2014とAPPS JAPANの基調講演として、ヤフー株式会社でCMO(チーフモバイルオフィサー)を務める村上臣氏が登壇し、Yahoo! JAPANの「スマデバ(スマートデバイス)戦略」について語った。
「爆速」のアップデートで、1を10にするイノベーションを起こす
村上氏は、2012年4月にヤフーの経営陣が一新された際にCMOに就任。「普通はCMOというとマーケティングだが、市場環境が急速にスマートデバイス、スマートフォンやタブレットに大きくシフトしていく中で、今までやってきたことを変えるという象徴的な意味もあり」、チーフモバイルオフィサーという役職を設けたという。
体制変更とともに、ヤフーが掲げたのが「課題解決エンジン」というミッションだが、これはそれまでの「ライフエンジン」という言葉をよりわかりやすくしたものだと説明。一方で、最も大きく変えたところを象徴的に示す言葉が「爆速」で、「やっぱり今までのヤフーはちょっと遅くなったよね、大企業っぽいよね、というところを一気に変えたいというので、何かわかりやすい言葉はないかなということで思いついたのが爆速というフレーズ」だと説明した。
「爆速」というフレーズを重要視した理由については、「一番は市場環境が変わっていることで、我々はPCからスマデバに移行しなければいけないが、非常に変化のスピードが速い。インターネット自体がドッグイヤーと言われているが、PCのころに比べて体感で言えば3倍ぐらい速いんじゃないかという気がする」と説明。ヒットするアプリはあっという間に広がり、しかも相手はワールドワイドに存在するという状況であり、「今までやっていたような、日本の中で競合を見ながらやっていくのとは、まったく違うやり方に変わっていく。とにかく速くなければいけないということを念頭に置いている」とした。
そうした中で、ヤフーの社内では「!(ビックリ)なサービスを生み出す」ということを挙げており、ユーザーにとって便利なサービスであるとともに、驚きをもって受け入れられるようなサービスであることが重要だと説明。そうしたサービスを生み出すにはイノベーションが必要だが、イノベーションには「0を1にする」タイプのイノベーションと、「1を10にする」タイプのイノベーションがあり、「0を1にするのは起業家のような限られた人にしかできないが、1を10にすることはできる」として、そのために必要となるのが「爆速」だとした。
村上氏は、これからは特にアプリの世界では確実性よりもスピードが重要だとして、クリティカルなバグやセキュリティ事故につながるような問題についてはきちんと検証しなければいけないが、ある程度の形ができたら市場に投入してユーザーに直接問うことだ大事だと説明。当然、レビューなどでユーザーからの評価が低いこともあるが、それも貴重な意見として受け止めながら改善を続けていくという手法が重要だとした。
そのためには、「10倍挑戦、失敗を許容する文化」が大事だとして、「成功のためにはとにかく打数を増やすこと。誰かがホームランを打てば失敗分を回収できる」体制が必要だと説明。市場環境が急速に変化している状況では、慎重に検討を重ねてこれがベストだと判断しても、検討が終わったころには既にベストではなくなっているとして、それよりも検討は短くしてトライを繰り返していく方が成功に近付けるとした。
具体的な例としては、ライフログアプリ「僕の来た道」の開発過程を紹介。最初は、「スマホの位置を自動的に記録し続けたら面白そうだ」というアイデアから、GPSのログを記録し続け、地図上に軌跡を表示するだけのアプリとしてスタート。しかし、バッテリーの消費が激しいという問題があったことから、バッテリー消費問題の改善を図ったが、大きな改善はできなかったという。
ここで、GPSによる自動記録はあきらめ、基地局から得られる大まかな位置情報を記録し、テキストで日記的に表示するアプリに方向を転換。正確な位置情報の記録にこだわった開発者もいたが、バッテリーは十分に持つようになり、テキストで表現されることで新たな面白さも生まれ、結果として「GPSマニアのための高性能ロガー」から「ライフログ自動化ツール」に変わっていったとした。
村上氏は「アプリのユーザー体験はあっという間に減衰する」として、継続的なアップデートの重要性を強調。アプリはユーザーに飽きられるのも速く、アプリをリリースした時点を頂点としてユーザーのアプリへの関心は急速に低下していくというグラフを提示。このグラフを高く保つためには、ユーザーの反応を見ながら絶えずアップデートを続けていくループを回していくことが重要だとして、それを回すために必要な社内の体制こそが「爆速」だと説明。究極的には、ループがユーザーに見えないほど速くなり、常にアップデートが行われているような形が理想だと語った。
ワイモバイルについてもコメント、「機会があれば自ら通信事業を手掛けたい」
講演の冒頭では「今日はワイモバイルの話はしません」と語っていた村上氏だったが、講演の最後にはイー・アクセスの子会社化中止についてもコメント。「フィーチャーフォンの方がまだ日本には半数以上いるが、インターネットの会社のヤフーとしては、できるだけ多くの方にスマートフォンを持っていただいて、便利さを体感してほしい。今回は業務提携という形になったが、機会があれば自らが通信事業を手掛けたいという気持ちは我々の中にはある」と意欲を示した。
さらに、「これはソフトバンクモバイルを含めたグループ総力を挙げて取り組んでいくことでもあるが、電話だけ、端末だけ、アプリだけというのではなく、全体を通してお客様にどういう体験をしてもらえるか、それが何の役に立つのか、これを突き詰めていかないといけない。ワイモバイルでもそういう志を持ってやっていきたい」と語り、講演を締めくくった。