イベントレポート

G空間EXPO2014

Ingressの中の人も来た! 今回の「ジオメディアサミット」はゲームがテーマ

 11月13〜15日に東京・お台場の日本科学未来館で開催された「G空間EXPO2014」。同イベントでは展示のほかにさまざまな企業や組織による講演やシンポジウムが開催されるが、その1つとして、位置情報をテーマとしたフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」が開催された。ジオメディアサミットは2008年に有志により始まったイベントで、位置情報業界の関係者が集まる場として知られている。

 今回のジオメディアサミットのテーマは「ゲーム×ジオ」。ジオデータを使ったゲームに関する発表が4つ行われ、話題の位置情報ゲーム「Ingress(イングレス)」を開発したGoogle社内スタートアップ「Niantic Labs」の川島優志氏も登壇した。

Niantic Labsの川島優志氏

2周年を迎える「Ingress」、エージェントが動いた総距離は1億km

 川島氏は講演の中で、開発チームがIngressを創り出す上で指針にした“4つの原則”について説明した。

 「1つめは『世界が舞台』です。Googleが持つ技術を最大限に活かすことによって、世界中の歴史的な場所や芸術作品などが、プレイヤーにとってゲームの舞台となります。2つめは『動いて遊ぶ』。Ingressをプレイするには外に出て、リアルな世界と接触しなければなりません。我々はIngressをきっかけに、人々が外に出て運動することが良いことだと考えています。3つめは『新しい視点から街を見ること』。私たちが訪れてもらいたいのは“物語が隠された場所”です。今まで気付かなかった地域のすばらしい場所や歴史が隠されている場所など、ゲームを通してローカルなコミュニティにかかわってほしいと考えています。4つめは『現実世界の友情を作る』。Ingressはプレイヤー同士のコミュニケーションが発生しますが、従来のゲームと違うのは、現実世界でのやりとりが発生することです。我々自身もこの意味を正しく理解していなくて、それがどれだけすばらしいものであるかということを、提供していく中で学びました。」

現実世界でコミュニケーションが発生するIngress

 Ingressはもうすぐ2周年を迎える。川島氏によると、これまでIngressエージェントが動いた総距離は1億km(地球2500周分)に上り、ポータルを訪れた回数は1億7000万回で、800万以上のインストールが行われた。さらに、300万以上のSNSフォロワーと5000以上のローカルGoogle+グループ、600万以上のポータル申請が行われたという。

 川島氏はさらに、世界中のIngresエージェントによるさまざまな事例を紹介。国際的な共同作戦が行われた例として、東南アジアの海を覆い尽くすために16カ国・約160人以上のプレイヤーが協力したプロジェクト「Operation Matahari」や、太平洋を巨大フィールドで覆った日本と米国による共同作戦「Epic Operations」、イスラエルとレバノンの作戦「Operation Arc Light」などがある。さらに、陣地を使ったアート(Field Art)が世界中で展開されていることも紹介。英国で島を覆い尽くすほどの大きさのユニオンジャックの模様を作ったり、ウクライナにおいて、ふだんは戦っている2つの陣営が協力して「STOP WAR」という文字を地上に描いたりした事例などだ。

 このほか、最近Ingressに実装された「Missions」という機能も紹介。Missionsは、エージェント自身がポータルを選んで、そこを巡るツアーを作れる機能で、これをゲームでクリアするとバッジが手に入るという。

Epic Operations
Field Art
Missions

 「私たちは当初、ユーザーは自分たちの知っている友人と一緒に遊ぶと思っていたのですが、『会ったことのない人と会いたい』という人が多く、そのためミートアップのサポートを始めました」と川島氏。最初は小さな集まりだったのが、どんどん巨大化して、現在はゲームのストーリーに影響を及ぼすような大きなイベントに発展し、現在までに世界で5万人以上が参加しているという。

 日本でも東京や京都で開催されており、今年5月には宮城県の石巻でも開催され、100人以上のエージェントが参加した。この時は地震や津波で失われた建物をIngressの中でポータルとして蘇らせた。

 また、Googleが運営しているイベントではなく、各地でいろいろな自治体が町おこしにIngressを使いたいということで、最近では岩手県庁がIngressイベントを企画した。このイベントでは作ってほしいポータルを探すというコンセプトで、多くの人が岩手県に集まってポータルを申請したという。

 イベントについては、12月13日にも東京で大きなイベント「Darsana TOKYO」の開催を予定している。

 「このイベントはIngress史上最大のイベントになるのではないかと思います。現時点で3000人近くの参加が見込まれていて、まだ募集期間があるので、さらにもっと増えてしまうのではないかと思われます。興味のある方は今から始めても間に合いますので、ぜひ参加してほしいです。」

OSMからゲーム用3Dモデルをリアルタイム生成する「シマダシステム」

 このほか、フリーランスで科学展示の企画設計を行っているプランナーの島田卓也氏による講演も行われた。島田氏は日本科学未来館で空間情報科学をテーマにした「アナグラのうた〜消えた博士と残された装置」の制作者の1人で、その時に知り合ったゲームクリエーターたちとともに「ゲーム菩薩グループ」というグループを結成。OpenStreetMap(OSM)の地図データから3Dモデルを作る「シマダシステム」を開発し、そこから「水没都市」というゲームが生まれた。「水没都市」は海底に沈んだ新宿を舞台にしたゲームで、Oculas Riftを使うことにより高い没入感を味わえる。新宿の3D地図にはOSMのデータを読み込んでリアルタイムに生成している。

島田卓也氏
水没した新宿の3D地図

 「シマダシステムは、実地理情報からゲームに必要な3Dモデルをリアルタイムに生成する仕組みで、ゲーム開発環境のUnityと組み合わせることにより、ゲーム開発者は実地理情報を使ったゲームを簡単に作ることができます。OSMのデータは点(Node)と線(Way)のデータで構成されており、これらの点と線にはタグという属性値が付いています。シマダシステムはこれをもとに、Nodeにモデルを置く『NodeObject』、エリアを平面や立体にする『BasicMesh』、道路などに幅を付けて平面や立体にする『RibbonMesh』、エリア内にモデルを置く『BasicPlanter』という4種類のモデル化が可能で、属性をもとにテクスチャーを指定して3D地図を生成する仕組みになっています。」

 現在の課題としては、場所によって地図情報の充実度に差が大きいことや、国や地域ごとにタグの付け方に差があること、見た目のディテールの情報が乏しいこと、処理負荷が高いことなどを挙げた。

4種類でモデル化

 OSMを使ったゲームに期待することとしては、島田氏は次のように語った。

 「OSMの地図データが充実するほどゲームが面白くなるため、プレイヤーがよりゲームを楽しむためにOSMに情報を入れてゆくというサイクルが起きる可能性があります。また、安心して冒険できるのがゲームの良さですが、実地理情報を舞台にすることで、ゲームプレイそのものに自分の立場や社会的な関係が色濃く反映されてしまうようなことが起こる可能性もあります。さらに、どんなルールで作られたゲームをユーザーが面白いと思うのかを模索することで、それが社会のシミュレーションにつながるかもしれません。そういう意味で、今後はオープンなデータを使ったゲームがいといとと出てくるといいな、と思っています。」

地図会社2社・インクリメントPとゼンリンによる講演も

 さらに、地図会社のインクリメントP株式会社と株式会社ゼンリンによる発表も行われた。

 インクリメントPからは、位置情報ゲームの開発を担当している北谷尚大氏が登壇した。同社が2014年にリリースした2つのiOSゲーム「ドライブにゃん賊団 by MapFan(ドラにゃん)」と「はい!こちらネコ屋台です。by MapFan(こちネコ)」の運営を担当している北谷氏は、「弊社は、ユーザー様に安全に、迷わずに目的地へ着いてほしいという思いで活動していますが、ただたどり着けばいいというわけではなく、“楽しく”着いてほしいと思っています。つまり、着くまでの経過も大事ということで位置ゲームを作り始めました」と、インクリメントPがゲームを開発する理由を説明。クルマの運転者向けのゲーム「ドラにゃん」はすでに終了してしまったが、場所ごとにチェックインして素材を集め、商品を作って屋台で売るカジュアルゲーム「こちネコ」については順調であることを報告した。

北谷尚大氏

 北谷氏はこちネコでこだわった点として、「地図」「移動」「ログ」の3点を挙げた。

 「普通の人は、目的が無ければ地図を見ないと思うのですが、やはり弊社は地図会社であるので、多くの人にそれを見てもらいたいという思いがあります。そこで、iOS標準のMapKitの地図に加えて、弊社が最近提供開始した地図API『MapFan API』を利用しています。もう1つのこだわりは、移動しなくても楽しめるけど、実際にユーザーが移動することによって貴重な素材が多く集まるロジックになっていることです。3つめは、今までユーザーがチェックインした場所がログとして残ること。ふだん自分が生活しているエリアでも、住所として書き起こすことで新しい発見があって楽しめます。」

 北谷氏は、「今後も地図とエンタメの融合を続けて、地図に興味がない人でも眺めたく、触りたくなる地図を追求します」と締めくくった。

iOS標準地図(左)とMapFan APIによる地図(右)

 ゼンリンからは田中淳也氏(ICT事業部)が登壇。ゼンリンは、カーナビ向けに構築した3D都市モデルデータを汎用の3DフォーマットであるFBX形式で提供開始し、そのサンプルとして秋葉原を再現した3D都市モデルデータ「Japanese Otaku City」をUnityアセットストアにて無償公開している。田中氏は、公開から2カ月たった今、さまざまなゲームで使用事例が増えていることを紹介し、今後はゲーム以外にも防災や都市計画、ヘルスケア、土木・建築、広告などさまざまな分野に展開すると説明した。

 さらに、ゼンリンと協力してゲームを開発している株式会社ポケット・クエリーズ代表取締役の佐々木宣彦氏が登壇し、3D都市モデルを使ったさまざまなゲームの事例を紹介。G空間EXPOの展示会に出展したOculus RiftおよびGamePad(XboxOne Controller)を使ったデモゲームのほか、Leap Motionを使って手の傾きを検出し、画面内のクアッドコプターを操作するというゲームや、小型クアッドコプターを手に持って傾けることにより画面を操作する事例なども紹介。また、Kinectと「Japanese Otaku City」を使って秋葉原の街中を歩き回るコンテンツも紹介し、ヘルスケア系のソリューションにつなげていく計画などについても説明した。

 締めくくりとして佐々木氏は、「ゲームシステムのロジックを作ることも大変ですが、一番大変でコストがかかるのは3Dの空間モデルの作成です。ゼンリンさんのデータを使えば、それをポンと入れて飾り付けを行うだけですぐに使えるので、みなさんにもぜひ使ってほしい」と語った。

田中淳也氏
Kinectを利用したコンテンツ
東京駅駅前を舞台にしたコンテンツ

 今回発表した4者はそれぞれ立ち位置は異なるものの、いずれも位置情報や地図を利用したゲームの最新事例として興味深い。特にIngressについては、近く東京での大規模なイベントが控えているだけに要注目だ。ジオメディアサミットでは過去にも何度かゲームに関する発表が行われたことがあるが、Ingressをはじめとした新たなゲームの登場により、これまでとは違った「ジオ×ゲーム」の状況が生まれつつあるようだ。

(片岡 義明)