イベントレポート
第20回東京国際ブックフェア
日本の電子書籍、普及の課題は「ディスカバラビリティ」
(2013/7/8 06:00)
7月3日から5日まで東京ビッグサイトで開催された「第17回国際電子出版EXPO」の3日目、eBooks専門セミナー「電子出版の未来」において、「マガジン航」編集人の仲俣暁生氏が「日本の電子書籍ビジネスに欠けているもの」について講演を行った。
電子書籍の問題は「探しにくい」こと
仲俣氏はまず、「なぜ日本では電子書籍が期待されたほどには普及しないのか?」というテーマに対し、これまで挙げられてきた問題点がピント外れなのではないかと指摘する。例えばよく挙げられる「コンテンツの数が足らない」とか「フォーマットがバラバラ」とか「デバイスが普及していない」といった理由は、もちろん少なからず要因としてはあるとしても、本質ではないのではないか? と問題提起する。
利用者視点から考えた時に、電子書籍の問題はまず「探しにくい」ことだという。例えば、仮に買いたい本が決まっていたとしても、タイトルや著者名でキーワード検索し、売っている電子書店を見つけても、フォーマットや所持デバイスの問題でそこでは買えないといった場合がある。つまり、「findability(見つけやすさ)」の問題だ。
最近は「横断検索」サービスを提供するところも出てきたので、以前に比べればまだマシになっているが、それでも根本的な問題解決にはなっていないという。それは、「この電子書籍を読もう」と思って検索をするのは一部の話題作品が中心で、何気なく立ち寄った書店の店頭で思いがけない本と出会うような買い方ができるわけではないからだ。また、これから電子書店の配信タイトルが増えていくほど、個々の本は今よりもっと埋没してしまう可能性が高くなるとも指摘する。
電子書籍の側に「discoverability(発見される能力)」が欠けている
4月に行われた「ロンドン・ブック・フェア」や、6月にニューヨークで行われた「ブック・エキスポ・米国」では、どちらも「discoverability(ディスカバラビリティ=発見される能力)」が重要なテーマとして取り上げられ議論されているという。日本より電子書籍市場が発展していると言われる米国や英国でも、この問題の絶対的処方箋が見つかっているわけではないのだ。
ディスカバラビリティとは、人が電子書籍を見つけられない(=買わない、読まない)のは、電子書籍の側に「発見される能力」が欠けているという考え方だ。これは電子書籍に限った話ではなく、ウェブサービス全般に言えることだという。存在を知らない人に発見してもらうという能力なので、一般的なキーワード検索で見つけられる可能性は極めて小さい。これが日本で電子書籍がビジネスとしてなかなか大きくなっていかない、大きな要因ではないかと仲俣氏は考えているそうだ。
例えば、書籍のメタデータ(周辺情報)をもっと整備することで、より効果的なネット検索対応が可能になるかもしれない。紙の書籍には巻末に解説が付いていても、権利処理の問題で電子化された時には削られていることが多い。しかし、解説を読んでから本を買うかどうかを決める人もいるのだから、解説を書籍のメタデータとしてネットへ公開するというのも手だろうと仲俣氏は提案する。
「読んだ人の評価や評判」も、ある意味でメタデータだ。Amazonが先日買収をした読者コミュニティの「Good Reads」には1600万人の利用者がおり、Amazonのカスタマレビューより何十倍も多く書評が付いている。日本にも「ブクログ」や「読書メーター」といった読者コミュニティがあるが、ほとんどの電子書店とは連携できていないのが現状だ。
つまり、日本の電子書籍ビジネスが本格的に着手すべきことは、人が本を「発見」しやすい環境を整備することだと仲俣氏は結論付ける。上図左は仲俣氏が表参道の駅で見つけた書籍の自販機だが、いまの日本の電子書店はこれにそっくりだと批判した。また、仲俣氏は最後に、街から書店が姿を消しつつあるいま、これは紙の書籍にも降り掛かってくる問題だと締めくくった。
【お詫びと訂正 11:45】
記事初出時、電子書籍の「発見される能力」を「ディスカバビリティ」と表記していましたが、正しくは「ディスカバラビリティ」です。お詫びして訂正いたします。