専門家が語る迷惑メール動向~偽装オプトインやゲリラ送信が横行


日本産業協会 電子商取引モニタリングセンター 迷惑メール調査グループ グループリーダーの平野理華氏

 電子メールのセキュリティ問題を専門に取り扱うイベント「Email Security Expo & Conference」で26日、「特商法改正後の動向 ~迷惑メール調査最前線からの報告~」と題した講演が行われた。財団法人 日本産業協会 電子商取引モニタリングセンター 迷惑メール調査グループの平野理華氏が登壇し、日本国内の迷惑メール最新動向を解説した。

OP25Bが成果を上げるも、“海外発”の傾向が鮮明に

 日本産業協会は、一般企業のお客様相談センター従業員などを対象とした資格制度「消費生活アドバイザー試験」の施行などを行う団体として知られる。また消費者庁から委託された「電子商取引モニタリング」に関する事業も大きな柱となっており、迷惑メールやネットオークションに関する調査・分析を継続的に実施している。

 平野氏が在籍する電子商取引モニタリングセンターでは、“ハニーポット”と呼ばれる調査用モニター機で迷惑メールを収集。2008年度は73万通を受信、点検したサイト数は20万件を超えた。また一般消費者から寄せられた情報提供は、メール通数にして126万通以上という。

 日本国内では現在、訪問販売やマルチ商法などに代表されるトラブルの多い取引手段を規制するために特定商取引法(特商法)が制定されている。電子商取引モニタリングセンターで収集した迷惑メールについても同法に基づいて検証。違反事例は消費者庁(9月までは経済産業省)へ報告され、関係機関と連携の上で行政処分を違反業者などに言い渡されるケースもある。

 2008年12月1日に改訂された特定商取引法では、あらかじめ請求や承諾のない広告メールの送信が規制する「オプトイン規制」が実施。違反業者への行政処分はこれまでに4回行われた。また今年12月1日からは規制が強化され、これまで除外されていた一部カテゴリの広告メールについても原則禁止になるという。

 調査用モニター機が実際に収集した迷惑メールを分析すると、そのほとんどが国内ではなく海外から送信されている現状が浮かび上がった。平野氏は「多くのISPが(迷惑メールの送信・拡散を防止する)OP25Bを導入したことで、国内から送信される迷惑メールは減少した。その効果はかなり大きかったようだ」と説明。2007年3月には海外発の迷惑メール件数が国内発の件数を超えた。

 このほか経済産業省からの行政処分がマスコミ報道されると、一時的に迷惑メールが減少する傾向も伺えるという。ただし迷惑メールの受信件数自体は減っていおらず、送信元が国内から海外へ完全にシフトしたにすぎないとも言えそうだ。

 またOP25B普及以降は、動的IPアドレスから大量のメールを送ることが困難になったため、必然的に固定IPアドレスを別途取得する必要がある。これを受け、迷惑メール送信業者は架空の個人名や企業名を名乗って固定IPアドレスを取得し、短期間で大量の迷惑メールを送信してその後すぐ解約、別のISPと契約し直してまた迷惑メールを送信する“渡り”が散見されるという。

 ただし固定IPアドレスは、利用者とISPの契約関係が明瞭なため迷惑メール送信業者の特定が容易でもある。電子商取引モニタリングセンターでもISPに随時通報を行っているため、悪質業者との契約解除に至るケースも増加。対策効果が着実に現れていることを平野氏も指摘している。

 海外を発信元とする迷惑メールは、日本語表記の場合その93.8%が出会い系勧誘。英語メールについては50.4%がバイアグラなどに代表される薬関連だという。また9月度に受信した6万7133通の迷惑メールのうち56.6%を中国、タイが12.5% フィリピンが8.6%を占めた。この3国を発信元とする迷惑メールは、95.7~99.2%が日本語表記だったという。


迷惑メールの受信傾向。時折落ち込みはあるものの、増加傾向は顕著迷惑メールの送信実態。OP25Bが一定の成果を上げているという

偽装オプトインメール、ゲリラ送信の具体的手口とは?

 2008年12月のオプトイン規制以降、日本国内の迷惑メール事情は変化があったのだろうか。平野氏はその例として「偽装オプトインメール」を挙げる。実際にはランダム送信されたメールにもかかわらず「メルマガ配信許諾をされたお客様に送っています」「プレゼントにご応募いただいた方へお知らせします」などと表記し、ユーザー側みずからオプトイン(承諾)したメールであることを偽装する内容の迷惑メールだ。

 通販業者のメールマガジンなどを正規に受信している一般ユーザーも多いため、場合によっては混同してメールを開き、本文内に書かれた配信解除用URLをクリックしてしまう可能性がある。しかしこのURLをクリックしても、実際には迷惑メール送り先の“カモ”として悪質業者側リストに登録されてしまう。平野氏も「悪質業者側も一度URLをクリックしたユーザーには(ゲリラ豪雨ならぬ)“ゲリラ送信”してくる」とその悪質さを強調する。

 平野氏は実例を挙げてゲリラ送信の手法を解説。「すでに迷惑メールで悩んでいるユーザーに対し、『いますぐ督促を止められる方法』といった表題のメールを送りつける例があった。裁判をちらつかせるメールなどに比べると優しい内容のため、お金を振り込んでしまうケースもあるようだ」

 また2006年ごろ問題化したワンクリック詐欺では、8~9万円前後の金銭を不当請求するケースが多かったのに対し、2009年現在は5000円前後に下がってきているという。「ハードルが低くなったため払ってしまう実情のようだが、5000円という金額は消費者被害として顕在化しにくい(通報されない)」と、問題の根深さを伺わせた。

 このほかにも多くなっているのが“逆エン(逆援助交際)”をうそぶくメールだ。女性から男性に対して金銭が支払われるかのような内容が記述されているが、実際には一般的な出会い系サイトへの誘導を促すに過ぎないという。出会い系サイトは誇大広告や虚偽記載に加え、さまざまな不当請求に応用される“温床”になってしまっており、平野氏は「そんな(に都合のいい)サイトはありません、ということを改めて男性に確認してほしい」と、大多数を占める男性聴講客に向けて苦笑混じりのメッセージを寄せた。

 一方、女性であっても訳もわからぬまま契約解除名目の金銭を支払ってしまうケースも多いという。平野氏は「払っても迷惑メールが止まることはなく、むしろ請求額がエスカレートする可能性が高い。仮に払ってしまった場合でも金額の多少にかかわらず国民生活センターなどに相談してほしい」と説明。正確な被害規模の把握が、迷惑メールを繰り返し送信する悪質業者排除のステップになると説明する。


「偽装オプトインメール」が増加傾向にあるメール配信解除URLが記述されているが実際にはダミー。“カモ”のリストに登録されるだけなので警戒しよう

被害を他者に押しつける“負の連鎖”を起こすな

 なお今後は「○○で儲ける方法」「パチンコ攻略法」をはじめとした「情報商材」への注意も必要という。「いわゆるノウハウ本、マニュアル本な内容がほとんどだが、一般的な書籍と比べて極めて高額でしかも返品しにくい。さらに記載事項自体が現実的でないケースがほとんど」と問題の実態を語る。

 さらにこれら商材で被った被害を少しでも軽減させたいという消費者心理を突いて、他者への転売やマルチ商法、アフィリエイトを誘う業者も少なくないという。「個人的に“ハンカチ落とし商法”と呼んでいるが、まさに負の連鎖」と警戒を呼びかけた。

 平野氏はまとめとして「『出会い系サイト運営会社による3億円脱税』報道がなされたこともあり、(迷惑メールをばらまくような)出会い系サイトが儲かるといった風潮が生まれつつあるようだ。迷惑メールの送信が“ハイリスクローリターン”になるようなモデルを構築しなければならない」とその方向性を例示。具体的にはISP間でのブラックリスト共有、国際的なルール制定の必要性を挙げた。

 一般ユーザーには向けては、「迷惑メールを開封しない(不用意にメール本文内のURLをクリックしない)」という原則を改めて強調。少額とはいえ不当な請求には金銭を拠出しない、被害の通報をきちんと行う重要性を語った。最後には「日本産業協会 電子商取引モニタリングセンターのWebサイトでも有益な情報を提供しているので、ぜひ活用してほしい」とアピールして講演を締めくくった。


PDF形式のファイルで高額な情報商材を販売する例。12月1日から規制対象となるため、動向に変化がありそうだ迷惑メールを“儲からない仕事”にすることが重要だ

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(森田 秀一)

2009/11/26 16:31