Yahoo! JAPANの興味関心連動型広告、利用が1万社を突破


 ヤフーは22日、「インタレストマッチフォーラム~進化し続けるインターネット広告 興味関心連動型広告の全てがわかる~」を東京・六本木のグランドハイアット東京にて開催した。このフォーラムは、ヤフーと旧オーバーチュアが開発した興味関心連動型広告「インタレストマッチ」の現状および将来の展望について解説するためのイベント。会場には企業の広告担当者やマーケティング担当者が数多く訪れた。

広告の未来を考える上での3つの課題

ジャーナリストの佐々木俊尚氏

 フォーラムでは、最初にジャーナリストの佐々木俊尚氏が登場し、「広告テクノロジはどこへ向かうのか」と題してテクノロジ広告の可能性と展望を解説した。佐々木氏はこれからのインターネット広告の課題として「ターゲティング」「リコメンデーション」「セレンディピティ」の3つを挙げた。

 まず、インターネット広告は1990年代末から進化し始めてから最近まで、広告がいかにそれを必要とする人にきちんと流れたかが大きな課題だったと前置きした上で、これを実現するために検索連動型広告やコンテンツマッチ、そしてインタレストマッチに至る流れが起きたと語った。さらに最近はそれに加えて、ユーザー側が積極的に行動しなくてもシステムがユーザーに情報を送り届けるリコメンデーションが課題となってきていると語った。

 では、ターゲティングとリコメンデーションがきちんと行われればそれでOKかというと、「実はそうではない」と佐々木氏は続ける。「この2つだけでは、ユーザーが興味を持っている情報は配信されるが、ユーザーが潜在的に消費する可能性のあるものの情報が送り届けられない。そこで必要となるのがセレンディピティ(幸運と偶然に出会う力)。今のインターネットはセレンディピティが生まれにくい仕組みになってしまっている。これを乗り越えるアーキテクチャやメディアのあり方が必要になってくるだろう」と、今後の方向性について語った。

クリエイティビティが復権する可能性

 さらに、「ターゲティングとリコメンデーション、セレンディピティの3つを高度化して進化させていくことが、今後5年ないし10年間のインターネット広告の課題になってくるのではないか」と語り、3つの要素を高度化させるための方法として、「アルゴリズム」と「ソーシャルグラフ」の2つを挙げた。

 「アルゴリズムとは、コンピュータシステムの計算によって適確な広告をユーザーに配信する仕組みのことで、実はこれこそがインタレストマッチを含んだ大きな広告の分野の1つになっている」とした上で、最近注目されている“ライフログ”を紹介した。

 「ライフログは顧客のあらゆる行動履歴を収集して、それを元に顧客が何を求めているのかを計算して調べてみようという試み。インタレストマッチは、Webの履歴やユーザーの属性を元に広告を配信しているという意味では、ライフログ広告の1つの進化形といえる」。さらに、ほかにも毎日の体重や血圧のデータから健康情報を提供したりするなど、ライフログを使った広告の可能性にも触れた。

 また、「ライフログ社会では、好むと好まざるにかかわらず、我々の人間関係や個人の行動がどんどんシステムの中で構造化されて可視化されていく。この状況を逆手にとって、いかにうまく社会に役立てるかを考えることが大切だ」とした上で、「これによって広告のあり方も大きく変わってくる」と語った。

 広告の変化の一例としては、Google「ストリートビュー」などの「リアル空間サービス」を挙げた。さらに、米国のWebサイト「earthmine」や、iPhoneアプリの「セカイカメラ」のような風景写真にタグを付けるサービスを紹介し、このようなAR(拡張現実)サービスが将来的には広告ビジネスに発展して、さらにライフログとも結び付く可能性もあると語った。


「earthmine」の画面「セカイカメラ」の画面

 ソーシャルグラフについては、mixiの「マイミク」を例に挙げ、このような人間関係に沿った情報を流すことで、ユーザーに適確に情報を届けられる可能性を指摘。さらに、「食べログ」や「クックパッド」などのクチコミサイトを紹介した上で、インフルエンサーとフォロワーとの人間関係が情報の強い経路となり、広告の中心地になるのではないかという可能性を紹介した。

 そして、将来的なターゲティングの可能性については、「アルゴリズムとソーシャルグラフが少しずつ融合していって、新しいパラダイムを生み出していくのではないか」との展望を示し、それを実現するのは膨大な計算をこなせるクラウドだと語った。

 最後に、セレンディピティを解決するためにはクリエイティビティの力が必要であり、現在のインターネット広告では広告代理店が持つ優れたクリエイティビティが忘れ去られているが、5年後から10年後にかけては、クリエイティビティが復権してくる可能性が十分にあると語った。そして「広告はマッチングも大事だが、クリエイティビティが生み出す商品の“物語性”も大事であり、これをテクノロジ広告にどのように組み合わせていくかが今後の大きな課題になる」と締めくくった。

利用者数と平均広告表示回数が大台を突破

ヤフー代表取締役社長の井上雅博氏

 続いて、ヤフー代表取締役社長の井上雅博氏が登場して、「インタレストマッチが創る未来」と題して講演した。井上氏は、今後のインターネットにおける重要な変化として、「利用時間の拡大」と「技術革新によるパーソナライズ化」を挙げ、「インタレストマッチはこれらの課題に対するヤフーの答えの1つ」と語る。

 さらに、ヤフーにおけるページビューの内訳のグラフを示し、ユーザーの総利用時間に占める割合は、検索ページビューが40億PVに対して、閲覧ページビューは380億PVと9割を占めていると説明した。「インタレストマッチの基本的な考え方は、ユーザーやスポンサーから高い評価を得ている検索広告のメリットを、閲覧ページにも持ってきたということで、『なぜユーザーが今そのページを閲覧しているのか』を推しはかりながら、それに一番近い広告を提示できる」と解説した上で、検索連動広告「スポンサードサーチ」が顕在ニーズをとらえるのに対して、インタレストマッチはユーザーの潜在ニーズを喚起させるものであるとアピールした。

 インタレストマッチの特徴としては、豊富な配信トラフィックとマッチング技術、そして性別や年代、地域などで対象を絞り込むターゲティング技術の3点を挙げ、検索連動広告とともに展開することで効果が最大化するという。特にマッチング技術については、コンテンツのマッチングの精度向上に加えて直前の検索履歴や過去の閲覧履歴も組み合わせることで、ユーザーにとって価値のある広告が表示可能になったとした。

 さらに、インタレストマッチは2009年9月末に利用が1万社を突破し、月平均の広告表示回数も1000億回を超えたと発表。1インターネットユーザーに対して月平均1500回広告を届けている計算になると語った。広告効果としては、獲得単価が「スポンサードサーチ」の4分の3とお得であることと、これから最低12倍の成長余地があるとアピール。また、「今後はインタレストマッチの広告が増えていくことで、それとともにユーザーに届けられる情報の精度も上がっていくことだろう」と語った。

 最後に、インタレストマッチの未来として、「生活者の興味をとらえる新技術の追加や、既存技術の性能向上によってマッチング技術をさらに進化させていくとともに、提供ツールのユーザビリティの向上や、ヤフーのさまざまなサービスに連携した良質なビジネスソリューションの提供、サポート体制の拡充など、より利用しやすい環境を提供していく」と抱負を語った。


インタレストマッチの位置づけについて解説急激に増加しつつある利用者数

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(碓氷 貫)

2009/10/23 13:01