「World IPv6 Day」の実験結果は? Interopで国内ネット関係者が報告会


 千葉県の幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2011」最終日の10日、特別企画セッションとして、「World IPv6 Dayのインパクトとネットの現状と未来~World IPv6 Dayの速報と舞台裏を交え今後を大胆予測~」が行われた。World IPv6 Dayについては、事前に「一部のネットワークに不具合が発生する可能性がある」としてニュースになったこともあり、その結果に興味を持つ読者も多いのではないだろうか。

 このセッションは、財団法人インターネット協会(IAjapan)主幹研究員でもある株式会社ブロードバンドセキュリティの佐藤友治氏が司会を務め、金沢大学総合メディア基盤センターの北口善明氏、株式会社インテック先端技術研究所の廣海緑里氏、ネットワンシステムズ株式会社の花山寛氏、アラクサラネットワークス株式会社の新(あたらし)善文氏、NTT情報流通プラットフォーム研究所の藤崎智宏氏の各氏をパネリストとして行われた。

World IPv6 Dayとは何だったのか

 セッションは、佐藤氏によるWorld IPv6 Dayに関する話題の紹介からスタートした。そこではWorld IPv6 Dayが、米大手ICT/サービス提供企業が自社のサービスをIPv6に対応させ、それによる各種影響を全世界的に探ることにあったこと、発端は2010年9月ごろのGoogleからの提案にあり、その後、FacebookやYahoo!、Akamai Technologies、Limelight Networksといった米大手事業者が提唱し、最終的にISOCがまとめ役となり全世界的に実施することになったことなどが示された。

World IPv6 Dayは、協定世界時(UTC:Universal Time、Coordinated)時間で、2011年6月8日0時から24時間実施された。日本国内では午前9時からの開始となった

 World IPv6 Dayそのものは、ユーザーがサイトにアクセスする際にIPv6/IPv4のどちらでも利用できるようにしておき、そのアクセス結果を収集することを主な目的としている。技術的には、1つのFQDN(Fully Qualified Domain Name:完全修飾ドメイン名)に対してDNSがIPv4とIPv6のIPアドレスを応答するように設定し、アクセス先となるウェブサーバーをIPv6対応にしておく形を採る。後日そのログを集計・分析し、さまざまな知見を得るための材料とするわけだ。

 日本国内では、NECビッグローブが最初に参加表明を行い、その後、各所で自主的に参加表明が続いたことから、「日本でも積極的に参加すべきだ」という4組織(IPv6ディプロイメント委員会、IPv6普及・高度化推進協議会、ISOC日本支部、WIDEプロジェクト)が集まり、対応窓口を作ることになった。廣海氏の発表によれば、日本からの参加状況は、IPv6普及・高度化推進協議会に設置した窓口経由で表明したのが23サイト、IPv6対応済みサイトとして67ドメイン/60組織が登録。ISOC全体としては、434のサイトが参加表明、IPv6対応済みサイトとして67ドメインが登録されたということである。

壮大な実験は無事終了、その結果は?

 では、World IPv6 Dayの結果はどうだったか。佐藤氏によれば、「全体として、大きな問題は起きなかった」ということである。これは、各サービス事業者の窓口への問い合わせやアクセス状況からそのように判断できるということであった。

 観測結果については、北口氏から発表された。世界的に行われるイベントということで世界的な傾向を分析したこと、調査はAlexa Internetによるウェブサイトランキングを利用し、そこに登録されている上位1万サイトに対してどれだけ対応しているかや、死活監視(動作を別なサーバーから監視すること)も実施したことなどが示されている。

 それによると、開始前に徐々にIPv6に対応したサーバーの数が増加し、最大で265サイトが参加。終了時には大きく減ったが、恒常的なサービスとして継続するサイトも増加したこと、死活監視によって、DNSにIPv4射影アドレスやループバックアドレスといった誤った設定が行われているケースがあることなどが分かったという。これらは直近に判明した1つの成果であり、今後、分析が進むにつれ、さまざまな知見が得られることになるだろうとしている。

 日本と世界を比較すると、日本のユーザーが利用するサイトのIPv6対応数が全世界に比べて低い結果となった。ただし、これは登録数の比較のみの結果であるため、影響度を評価するために、ウェブサイトにおける重み付けを考慮した分析を検討しているということである。

これからのインターネットを考える

 World IPv6 Dayは、世界同時に行われた貴重なイベントであった。その点について、花山氏は「World IPv6 Dayは、1つの通過点である」として、さまざまな立場の人や組織が、いろいろなことを考えていることなどを述べた。

 ここで重要なのは、「教育」「技術」「ビジネス」という3点だろう。花山氏が述べるように、こうしたイベントを通じてさまざまな交流、技術や運用ノウハウといった知見の共有などを押し進めることは大切であり、そこから生まれる効果に期待したいところでもある。

 続く新氏は、IPv4ではインターネットを継続的に使い続けられないこと、そのために誰かが次のプロトコルを作らないといけないことを述べた。ただし、新氏自身「実用になるということは、実は非常に大変なこと」と言うように、製品として受け入れられるようにするためには多くの課題や試練を乗り越える必要がある。

 ちなみに新氏は、1998年から2003年までを、多様な種が爆発的に発生したカンブリア紀になぞらえ、一時期さまざまなものが生まれたが、その大多数が消えてしまったこと。そして、現在はIPv4アドレスの在庫枯渇という環境の変化に面しているという例えで、これまでの流れを説明した。花山氏も、ハイプサイクル(hype cycle:新技術の認知度や期待度が時間経過によってどのように変化するかを表した図)で同じようなことを述べている。

 パネリストの最後として、藤崎氏からは国内のIPv6に関する活動が紹介された。

World IPv6 Dayの意義を考える

 インターネットは、大きな変化のまっただ中にある。そうした中で行われた今回のWorld IPv6 Dayは、今後のインターネットをどうしていくかを方向付けるための重要な試金石なのかもしれない。最後に各パネリストから意見が述べられたが、印象的だったのは、新氏の言葉である。

 「この準備の過程で、スキルのあるSEに大きな負荷がかかったと聞いている。」「こうしたイベントを契機としていろいろな知識が共有され、当たり前のものとなっていくだろう。」

 インターネットは、非常に数多くの自律したネットワークから構成されている。そのため、それぞれのネットワークが協調して動作することが求められる。World IPv6 Dayのようなイベントは、単に社会的・技術的な実験というだけでなく、インターネットに関係する人々や組織を結び付ける役割も担っているのだということも忘れてはならない。

 なお、「W6D(World IPv6 Day)とIPv6ディプロイメント委員会」のページから「参加者アンケート」を行うことができる。読者の皆さまもぜひアンケートに答えていただきたいということである。


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(遠山 孝)

2011/6/13 19:37