Googleブック検索の和解修正案で「根本的な問題は解決していない」


 日本ペンクラブと日本出版学会は18日、Googleブック検索訴訟に関する合同シンポジウムを開催した。

和解修正案までの経緯

日本ペンクラブの山田健太氏

 書籍をスキャンして全文検索サービスを提供するGoogleブック検索(Google Book Search)について、スキャン行為は著作権侵害だとして、米国の作家団体や出版社などがGoogleに対して起こした集団訴訟(クラスアクション)が、2008年10月に和解に向けて合意し、和解案が示された。

 この和解案では、「米国著作権を有するすべての人物が含まれる」とされていた。ベルヌ条約により加盟国で出版された書籍は米国でも著作権が発生するため、日本を含む世界各国の著作者も影響を受ける形となった。

 これに対して、日本ペンクラブでは2009年8月27日、和解案に対して米連邦地裁に異議申し立てを行うことを発表。和解案に対しては、日米間における法制度や法慣習、出版慣行の違いを考慮しておらず、日本刊行物の権利者保護も十分でなく、表現の自由の観点からしても疑義があると指摘し、和解案は拒絶されるべきであると訴えた。

 その後、国際ペンクラブなどの団体や、各国政府などからも和解案への反対意見が数多く表明されたことを受け、11月13日に和解の修正案が発表された。和解修正案では、米国、カナダ、英国、オーストラリアで出版された書籍のみが今回の和解の対象になるとされ、日本や欧州などは実質的に訴訟から除外される形となった。

訴訟が第3ラウンドに進む可能性も

齊藤康弘氏
城所岩夫氏

 日本ペンクラブ言論表現委員会委員長の山田健太氏は和解修正案について、「日本ペンクラブとしては、これまでの活動の成果ではあると位置付けているが、対象は狭まったものの根本的な問題は解決しておらず、まだまだ問題が多いと考えている」と説明。今回の和解が英語圏で成立してしまうと、今後こうしたやり方がスタンダード化して他の国に広まっていく恐れがあるとして、和解に対しては引き続き反対していく姿勢を示した。

 異議申し立てを担当した米国弁護士の齊藤康弘氏は、「この問題を聞いたとき、率直に言ってこれは著作権法違反で、これをフェアユースと言うのは厳しいだろうと思った。また、現在でもそう思っているが、独占禁止法にも確実に触れることになるというのが最初の印象だった」とコメントした。

 手続き的には、多数の被害者救済に使うのが本来の目的であるクラスアクションの仕組みを、合意の材料として利用している点や、関係者への通知が非常に不備がある点など、「あまりにも問題が多すぎる、荒っぽいやり方だ」と説明。あまりにも問題が多いため、逆にそれらをいちいち指摘していると「癇癪持ちがごちゃごちゃ言っているように聞こえてしまい、非常にやりづらい」として、「Googleはこれが通ればビジネスに道筋が立つし、弁護士にも巨額の報酬が入る。一方、権利者側は単に迷惑なだけで、この問題に対応しても一銭にもならない」という非対称性の問題もあるとした。

 同じく米国弁護士の城所岩夫氏は、和解案から和解修正案に至るまでの流れを説明。米政府は和解修正案に対して「和解集団への参加はオプトアウトではなくオプトインにすること」を求めていたが、修正案ではこの点は反映されていないなど、「意見は半分ぐらいしか反映されておらず、司法省が現在の和解修正案をそのまま了承するとは考えにくい」として、「訴訟は第3ラウンドに進む可能性は十分にある」と語った。

オプトインへの変更など、反映されていない指摘も多い和解修正案が承認されず、訴訟が第3ラウンドに進む可能性も

フェアユースか、違法行為か、判断しない曖昧な和解

三田誠広氏

 日本文藝家協会の三田誠広氏は、「日本では、国会図書館が所蔵書籍のデジタル化を進めるために、文化審議会で長い時間をかけて議論してきた。素朴な疑問として、米国では訴訟一つでこんなことが認められてしまうのかと思った」とコメント。「今回の和解は非常に曖昧な形の結論で、Googleの行為はフェアユースにあたるのか、それとも違法行為だけれども和解するのでいいということなのか、そういう判断は一切ない」として、「勝手にデジタルコピーされたということは、これからも向こうの勝手な判断で使われる可能性がある。日本の知的財産が勝手に米国で複製されたという問題を国も認識すべき。とにかく、これまで勝手にコピーしたものはすべて削除することを求めていきたい」と語った。

 山田氏は、和解修正案について2010年2月に行われる公聴会に向けて、スキャンデータの削除や、過去の無断スキャン行為についての対応、将来に渡って無断スキャンはしないという誓約、日本語など他の言語圏への対応などを引き続き求めていくと説明。また、「ある一国の企業が、デジタルデータをすべて管理するという気持ち悪さ、問題をもっと考えなければいけないのではないか。それはGoogleだけの問題ではなく、アーカイブを作る上での課題でもある」として、「これまで日本ペンクラブが活動してきたのは、これは表現の自由の問題であるという認識からで、それは今も変わっていない。放置してはおけない問題で、おかしいことはおかしいと言っていきたい」とコメントした。


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(三柳 英樹)

2009/12/21 14:57