「リブログ」が生み出す巨大なチャンスとは、Tumblrの26歳創業者が来日


 180cm以上ありそうなすらりとした長身、顔は小さく、まるでモデルのような26歳。Tumblrの創業者兼CEOのDavid Karp氏は、そんな青年だった。2月13日から1週間にわたって開催されるイベント「Social Media Week」のために来日。14日の講演に登壇したDavid氏は冒頭、Tumblrの2つの重要な側面について話したいと切り出した。それはTumblrによって人々にもたらされる「無限の表現力」と「巨大なチャンス」についてだ。

TumblrのCEO、David Karp氏

Tumblrがサポートする「無限の表現力」

 David氏がTumblrのアイデアを思いついたのは2006年初めごろ。オンラインでコンテンツを公開するツールを作りたいと思っていたという。当時はオンラインにコンテンツを載せようとすると、簡単だが自由度が少ない方法と、自由度はあるが面倒な方法のどちらかを選ぶしかなかったとDavid氏は振り返った。

 簡単な方は例えば写真共有サイトの「Flickr」、140字以内のマイクロブログ「Twitter」などだ。いずれも手間をかけずに自分の持つ写真をアップしたり、考えていることを投稿したりできる。ただし、細かいレイアウトなどを自由に設定することはできない。簡単である代わりに一定の制限があった。

 それらの対極にあったのが、ユーザー側にある程度の裁量が与えられている代わりに操作が面倒な情報発信システム。つまりブログのことだ。例えばWordPressがいい例である。レイアウトや各種メディアの埋め込みも自由にでき、どんな種類のコンテンツも見せることができる広範なCMS(コンテンツマネジメントシステム)だ。だが何か投稿するたびに大掛かりな管理画面を開かなければいけない。「これでは使い勝手が悪い」とDavid氏は言う。

 「私たちがTumblrでやったのは、コンテンツの種類ごとにの7つボタンを並べたことだ。写真は写真のボタン、動画は動画のボタンを押せばすぐに投稿できるようにした。」

Tumblrの投稿画面にはコンテンツの種類によって7つのボタンが並ぶ

 このように簡単にコンテンツを投稿する仕組みを用意しながら、一方でレイアウトやデザインの自由度も確保したのがTumblrの優れたところだ。「Tumblrのユーザーページを見ると、同じデザインのものは1つもない」とDavid氏は語る。

 Tumblrユーザーの多くは好みのテーマやテンプレートを適用して、自分だけのマイページを作っている。他にもテキストの色、フォントを変更したり、レイアウトを自由に設定したりできる。プログラミングに通じていれば、既存のテンプレートを選ばなくても、自分でレイアウトをコーディングできるようになっている。

 「Twitter、YouTube、Facebook。どれもユーザーのページは同じ見た目だ。そこは変えようがない。でもTumblrなら表現の自由を開花させられるはずだ。写真や動画といったいろいろなコンテンツを扱うことができ、そしてそれらを自由にレイアウトできるというプレゼンテーション面。この点にTumblrの無限の表現性がある。」

リブログが生み出す「巨大なチャンス」

 「これから話す『チャンス』に関する話は、Tumblrをオープンした当初は考えていなかったことだ」とDavid氏は明かした。David氏は初期のTumblrをただの情報発信ツールとして位置付けていた。だが、「ある仕組み」を導入したことによって大きな可能性を見せ始めたという。それがTumblrの最も特徴的な機能、「リブログ」である。

 「自分たちも想像していなかったほど、Tumblrのネットワークが大きくなっていった。たくさんのクリエイターがコミュニティを作り、何かを表現したがっているユーザーが集まってきた。これはおもしろい現象だった。いまTumblrでは数百万のクリエイターが実際にコンテンツを作り、その周辺に数千万人のキュレーターがいる。そこに『リブログ』という仕組みを与えている。」

 リブログの仕組みを簡単に説明しよう。あるクリエイターがオリジナルのコンテンツをTumblrに投稿したとする。それを見たユーザーが「これいいな」「おもしろいな」「このコンテンツは自分のいまの気分そのものだ」などと感じたとする。そうしたらすかさず「リブログ」というボタンを押す。すると、そのコンテンツを自分のページ上にも表示できる。もちろん誰がオリジナルを投稿したかはわかるようになっている。流れてくるコンテンツをピックアップする行為、そうした簡易的なキュレーションをより手軽に行えるように、リブログという機能を作った。そうDavid氏は振り返った。

 「例えば、私のTumblrページに写真などのコンテンツを貼り付けておくと、見てくれるのはせいぜい友だち10人くらいだ。でもその10人がリブログすれば彼らのフォロワーにまで広がり、結果的に膨大な数の人たちに広まる可能性がある。音楽、写真、テキストなどメディアの種類を問わず、クリエイターは自分の知らない範囲のネットワークからフィードバックを得られる。Tumblrは寄稿先として非常に良いものだと思う。Tumblrの一番面白いところはその拡散性だ。」

リブログを通して拡散する仕組み

 Tumblrのネットワークの中心にはコンテンツの作り手であるクリエイターがいる。Tumblrに投稿されるオリジナルコンテンツはこの層によるものだ。その回りに数千万人のキュレーターがいる。これは作り手ではなくても何かを表現したいと思っている人たちだ。キュレーターたちがTumblr上に流れるコンテンツを取捨選択して、また拡散する。

 「キュレーターは、他人が作ったコンテンツをピックアップしていながらも、その組み合わせや見せ方、切り口などで自己を表現している。その表現をそのさらに外側の人たち、オーディエンス層が楽しんで眺めている」とDavid氏は言う。キュレーターがピックアップするのは、なにも高名なジャーナリストやレディ・ガガのようなアーティストのコンテンツばかりではない。一般の人たちが作ったコンテンツを集めて、その選択において自分を表現しているのだ。

Tumblrを使っているクリエイターとキュレーター

日本人がリブログ好きなのは知っている

 ここでTumblrのサイト規模について整理してみよう。David氏によれば、Tumblrは現在月間160億ページビュー(PV)、1億3000万人のユニークユーザー(UU)を集めているという。トラフィック規模の順位では米国内で15位、特にソーシャルメディアカテゴリでは3~4位あたりにつけているそうだ。

 サイト訪問者の約半数は米国だが、Davidは「今後2~3年かけてもっとグローバルなサービスにしたい」と考えている。現在はブラジルやオーストラリアの成長が著しく、近いうちに米国外からのアクセスが大部分になると見られる。

Tumblrの月間ユニークユーザーは1億3000万人

 Tumblrのユーザー層は多様だ。男女の割合に開きはなく、年齢も高校生からシニアまでまんべんなく散らばっている。160億あるPVのうち、7割がTumblrユーザーで、残り3割がビジターだという。つまりコアなユーザーが熱心に使っているということだ。

Tumblrのユーザー属性。幅広い層から支持されているのかわかる

 日本におけるPVは月間9400万。他の国々のPVが急成長しているため、世界市場に占める日本の存在感が小さくなりつつあるという。日本のTumblrで特徴的なのは、モバイルデバイスからのアクセスが33%を占めることだ。世界全体では20%とのことで、やはり日本はモバイル先進国というイメージをDavid氏も持っている。「日本のトラフィックが他の国々に比べて多少伸び悩んでいるのは、我々のモバイル対応の遅れのせいだと思っている。ここはテコ入れしたい」。

日本の著作権問題についても意識

 何かのコンテンツを友だちに共有したい、作ったものを誰かに見て欲しいという気持ちは皆にあるとDavid氏は語った。「日本だと初音ミクの現象が面白い。あれは日本人の中にある表現の気持ちのほとばしりだと思う」。

 講演の途中、David氏は会場から質問を募った。その中の1つに、「日本のTumblrコアユーザーはクリエイティブな発表の場というよりも、リブログが好きで使っている。だが著作権についてはどう考えているのか。法的な課題はどうクリアしていくのか。皆それを気にしている」というものがあった。David氏は以下のように回答した。

 「まず、日本のユーザーがリブログ好きなのは知っている。いくつかの方法があるだろう。もちろん我々がサービスをローカライズする際には、法的な観点も意識している。日本にどういう課題や規制があるのか、研究する必要があると思っている。米国では苦情があったり、著作権上問題があると指摘があったりする時点ですぐにそのコンテンツを削除している。また、Tumblrを使っている新進クリエイターたちは自分たちの作品、表現が広がることについて、迷惑というよりもビッグチャンスと捉えている。だが、もちろんこれは米国での話だ。国によって違ってくるだろうとは思っている。」

気になるビジネスモデルは?

 Tumblrをどのように収益化するかについては、絶対に聞かれるだろうとDavid氏も考えていたようである。「たぶんビジネスモデルは? って聞かれると思って、準備してきた」と打ち明けた。

 まず1つ目は160億PVの規模を生かした広告配信だ。これによりCPM(掲載1000回あたりの広告料金)で10セントの収益を得る。「GoogleのAdSenseと比較してもこれくらいは妥当だと思う。でもこのマネタイズは優先度としては低い。もう少し付加価値を付けて、ユーザーにより価値ある形でマネタイズしたいと考えている」。

 そうしてできたのが2つ目のマネタイズ策、「マーケットプレイス」である。iPhoneのApp Storeでアプリを買うような手軽さを見習ったという。「App StoreはAppleにも開発者にもきちんとお金が還元されるし、ユーザーも手ごろなお金でアプリが手に入る仕組みだ」とDavid氏は評価した。

 Tumblrのマーケットプレイスで売られているのは有料テンプレート。安いものは10ドルくらいからそろっている。日本円で約800円。その金額を払うだけで独自のTumblrのレイアウトが手に入る。この仕組みは開発者にもTumblrにもすでにある程度の収入をもたらしているそうだ。ユーザーもカスタマイズ性を手に入れられる。

 3つ目は「Highlights」という仕組みだ。これはユーザーの投稿そのものをプロモーションするという、ある種の広告商品である。ユーザーは1ドル支払えば、自分のTumblrへの投稿に赤い印を付けて目立たせることができる。目立った状態で友だちの目にも触れるので、リブログされて拡散しやすいというメリットがある。「ものすごく急激にオーディエンスを増やしたい、多くの認知を得たいというニーズに対応できる。それほど高いお金を出さなくても、Tumblr上でオーディエンスを形成できる仕組みになっている」。この取り組みは2月に始まったばかりだ。Tumblrのようなコアなユーザーを抱えるソーシャルメディアがどのようにマネタイズを実現するか。引き続き注目していきたい。


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(武田 京子)

2012/2/16 06:00