グリー田中社長「犯罪をしても勝てばいい」は絶対許さない


 11月29日、技術系ブログ「TechChrunch Japan」が都内で大規模カンファレンス「TechCrunch Tokyo 2011」を開催した。グリー、Twitter、ドワンゴなどインターネット業界をリードする企業の経営者が登壇し、力強いメッセージを発信した。

司会進行を務めたTechCrunch Japan編集長の西田隆一氏(左)とグリー代表取締役社長田中良和氏

 1本目の基調講演はグリー代表取締役社長の田中良和氏。グリーは現在、ソーシャルゲームプラットフォーム「GREE」の海外展開を積極的に推進している最中で、田中氏も1カ月のうち1週間程度は米国の拠点で事業推進を指揮している。米国以外にブラジルやヨーロッパなども飛び回っているという。

 海外で新たにソーシャルゲームプラットフォームをゼロから立ち上げるのは非常に困難である。そのためグリーは2011年4月、すでに米国市場でソーシャルゲームプラットフォームを展開していた「OpenFeint」を買収し、海外展開の足がかりをつかんだ。これによりGREEとOpenFeintの合計ユーザー数は1億人を超えた。

 「この半年は両社の統合を進めている。会社の合併は大変と言われるが、我々はさらにクロスボーダー(国境を超えた統合)でもある。いまは会社をグローバル化することに時間を使っている。変えなければいけないことがたくさんある。例えば、名刺も英語版がないとそもそも米国でビジネスができない。GREEとOpenFeintのサービス統合も進めている。12月には新しい戦略を発表する予定だ。」

海外展開は「成功するかどうかではない、どれくらい成功するか」

 たとえば楽天はグローバル化に向けて、社内公用語を英語にするなどの大胆な策をとっている。それについて感想を求められると、田中氏は「外から見ると、あれはショック療法なんだと思う」と述べた。

 「日本で普通に働いていると、いつまでも日本企業から脱しない。『ここはそういう会社じゃないんだ』ということを社内に対して言うためにあのような制度にしているのでは。我々も、もし明日会社の本社機能が中国、米国に移ってもビジネスが回るような意識を持たなければいけない。グリーはいまは日本で収益を上げて、日本で働いている人が多い会社なので、日本企業というのを強みとし、最大限に活かしていく。だからといって未来永劫日本企業としてやっていくわけではない。それは変わることもあるという意識を持っている。」

 しかし、日本で成功を収めたGREE事業が、そのまま海外で成功するかどうかは未知数だ。世界市場では膨大な量のアプリがライバルとなる。その中で日本発のソーシャルゲームは勝ち残れるのだろうか。

 田中氏は「僕らが実際にやってみて、成功して証明するしかないと思っている」と言い切った。さらに、「成功するかしないかというよりも、成功するに決まっていると正直思っている。あとはどれくらい成功するかが問われている」と自信をのぞかせた。

 「僕らは10億ユーザーが使うサービスになることを目標としているから、2億ユーザーで終わったら、それは失敗だと思う。僕らのサービスは10億ユーザーを集められる可能性がある。その可能性を開花させられるのか、開花させられないかだ。我々は可能性を開花させることにチャレンジしている。」

 10億ユーザーは今後3~5年で達成する計画だ。10年後では遅いという。

 「10億人が使うサービスなんて世界にないと言われるが、今後はFacebookも、Twitterも、Zyngaも10億ユーザーまで増えるだろう。5年後には10億ユーザーを超えるサービスは5~10個出てくると思う。世界トップ10のネットサービスを作るなら10億ユーザーはいかなければダメ。5年後は1億人のユーザーがいるサービスなんて100個くらい出てくる。そこを目指してもしょうがない。目線が低い。世界で10番には入りたい。」

「10年後のネット業界のためにやっている」――DeNA提訴に至った信念

 国内市場に目を向けると、グリーは競合サービス「Mobage」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA)を11月21日に提訴したばかりだ。発端は6月。DeNAがソーシャルゲーム開発会社に対して、GREEにゲームを提供しないように圧力をかけたとして公正取引委員会から排除措置命令を受けたことがきっかけとなった。

 モバイルソーシャルゲーム市場は、「市場拡大のために一緒にがんばろう」などと気軽に言い合える業界では、もはやない。熾烈な競争が繰り広げられる成熟産業になったのではないか。

 田中氏はDeNAの問題に関しては語気を強くして以下のように訴えた。

 「世の中に成熟している産業はいっぱいある。でも年がら年中違法な行為が横行しているかというと、そんな産業は存在しない。僕はネット業界で夢を持つ仕事をしているし、ネットは世の中を変える仕事だからやっているという誇りがある。以前はみんなでこの業界を作っていこうという発想だった。犯罪を犯してでも勝てばいいという発想ではなかった。この業界も10~15年経つなかで、そういう牧歌的な時代から犯罪を犯してでも勝てばいいんだという人たちが横行する時代になってきたというのが僕の感想ではある。」

 「一番危惧するのは、僕の愛するネット業界が10年後にこんなふうになったら嫌だということ。たとえば10年後、僕がある会社で働いていたら、若い人がやって来て、『田中さん、こういう会社といま競争しているので、どんどん違法な行為をして勝ちましょう』と言ってくる。『なんで? 違法行為はまずくないか』って僕が言うと、『だって、昔DeNAという会社があって、違法なことをばんばんやってグリーに勝ったらしいんですよ。だからぼくらも違法行為をした方がいいじゃないですか』なんてことを言われる。そうしたら誰だって、『そうだね、グリーはそれで負けたしね。違法なことをした方がよかったよね』って答えるしかなくなる。」

 「いま違法行為を見過ごして、僕らの事業がマイナスになったら、将来そういう世の中になってしまうと思った。僕は日本をそういう世の中にしたくない。そんなのは絶対に許せない。そういう気持ちがあるから、ぜひ今回の件を通じて、違法行為はよくないことだと言いたい。違法行為は世の中のためによくないんだとみんなに思ってほしい。僕らはネットを通して世の中を変えるというスローガンを持って事業をやっているが、これ(DeNAへの提訴)が日本に対して僕ができるいいことだと思って、自信と誇りをもって関与している。」

 ソーシャルゲーム業界は、DeNAが球界参入を表明したことでも注目されている。球界で唯一、DeNAの参入に反対しているのは楽天だ。同社会長の三木谷浩氏はDeNAについて、「野球を通じて、子供たちに課金するゲームをプロモーションするのはいかがなものか」とコメントしたと報じられている。しかし、こうしたDeNAへの批判は、同じ事業を展開しているグリーにもそのまま当てはまるのではないか。

 こう問われると田中氏は、「その記事は読んでいないが、たぶんその発言には前後の文脈があると思う」と答えるにとどめた。


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(武田 京子)

2011/11/29 15:57