インタビュー

“ベンチャー企業”に対する社会の認識を変えられるか? JEITAが「ベンチャー賞」を手掛ける意味

 すでにニュースで報じたとおり、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)は3月16日、第2回「JEITAベンチャー賞」の結果を発表し、7社を表彰している。

 今回は、JEITAベンチャー賞で審査委員会の委員長を務める荒川泰彦氏(東京大学 生産技術研究所 教授)に、第2回を表彰しての感想や、JEITAがベンチャー賞を設けた意義などについて話を聞いた。

JEITAベンチャー賞 審査委員会 委員長 荒川泰彦氏(東京大学 生産技術研究所 教授)

大学で生まれた技術によるベンチャーが目立った

――JEITAベンチャー賞について、あらためて紹介をお願いします。

荒川氏:
 創業15年以内の中小企業基本法に該当する企業を、ベンチャー企業として表彰しているのが、JEITAのベンチャー賞です。選考にあたっては、成長性、先導性、社会への波及効果の3つの観点に重点を置いています。

 それに加えて実績もある程度考慮しますが、ベンチャーですので、実績にこだわりすぎると将来のポテンシャルを見誤るということもあり、先ほどの3つの観点を重要視しています。

 第1回には、非常にすばらしいベンチャー企業が集まったため、第2回の今回はどうかと少し心配していました。しかし、審査してみると今回もレベルが大変高い企業が集まってくれました。

第2回のJEITAベンチャー賞は7社が受賞した

――受賞したベンチャー企業には傾向があるのでしょうか

荒川氏:
 今回は、技術ソリューションの企業と、材料などのハードウェアの企業がバランスよく選定されたのではないかと思います。

 パターンとしては、大学や大企業から巣立ったベンチャーが目立った結果となりました。

 まず、大学での研究を基盤としたベンチャー企業がいくつかあります。今回でいうと、有機EL素子の株式会社Kyuluxや、酸化ガリウム半導体の株式会社FLOSFIAなどが該当します。こうした材料系は、大学の基盤技術がベースになることが多いと思います。少しスタイルは違いますが、高速画像処理技術の株式会社エクスビジョンも、学生がアイデアを出してそれを形にするという、研究室から出た企業です。

 また、ドローンのエアロセンス株式会社は、ソニーに勤めていた人がスピンアウトして設立した企業で、ソニーの支援を受けています(編集注:ソニーと株式会社ZMPの合弁会社)。こうした大企業のスピンアウト型のベンチャーもあります。

 今回、いよいよ日本でも、とがった分野ではベンチャー企業がけん引して発展するのではないか、ベンチャーが要になって産業としての革新的な技術が生まれてくるのではないか、という印象を持ちました。

――審査にあたって、大学発のベンチャーを意識して選んだということはありますか?

荒川氏:
 いえ、審査では意識していません。ベンチャーとしての革新性などを評価した結果です。その結果を見ると大学発が目立ったと後から思いました。

 米国では、大学の学生を起業するというスタイルが進んでいます。今回の結果を見て、いよいよ米国型の起業スタイルが日本でも始まろうとしているのではないか、という印象を持ちました。

 最近の大学では研究資金も投入されるようになり、シーズ段階までの研究開発は大学がやりやすくなっています。ただ、そこは研究室や先生のキャラクターにもよりますね。今回受賞した企業のもとになった研究室はむしろ特殊なほうで、もともと製品化に視点を置いて研究しています。

 すべての研究室がベンチャー志向である必要はなく、学術的に深いことを研究するか、産業的に大きいことを研究するか、どちらかだと思います。中途半端になるのはダメです。

 安定して基礎研究をできるのは大学という認識が強まって、シームレスな産学連携が強まっているのではないかと思います。そのときに、研究者とビジネス化するパートナーのコラボレーションが重要になっているのではないかという印象も持っています。

日本でもベンチャーの成功事例を

――大企業も「共創」を打ち出してくるようになってきました。その1つとして、下請けではなく対等なパートナーとしてベンチャーが注目されてきています。

荒川氏:
 どうしても大企業の中では意思決定が遅く、他社と組むのもなにかと大変です。しかし外に出れば、とがった企業同士で手を組みやすくなりますし、その意思決定も即決でできます。

 下請けというと大企業から見て下という形ですが、ベンチャーはそうではなく、大会社と対等なパートナーという認識が増えています。そうなれば若者もベンチャーに行くようになるでしょう。

 今までは学生本人がチャレンジしようとしても、母親が(心配して)反対するというケースがありました。母親の認識が変われば、社会も変わるのではないでしょうか(笑)。そのためにも、JEITAベンチャー賞の意義があると思います。

――特に米国では、独自の技術を持ったベンチャーが大企業のM&Aを受けるケースも多いですね。

荒川氏:
 米国ではそうした話がたくさんあります。ベンチャー賞では、日本でもそれが現実に起こる可能性を感じさせる企業が集まりました。大変楽しみです。5年後ぐらいにキャッチアップして、何%ぐらい成功したとか調査できると面白いかもしれません(笑)。

――米国ではITの先進企業がベンチャーから生まれていく成功例が多く語られますが、日本ではまだ多くありません。

荒川氏:
 まさにそうですね。成功事例が本格的に出てくれば、いろいろ後につながるものがあると思います。成功例を見て若い人が、起業してみようかといった機運が出てくるのではないか。そうすれば大学も変わってくると思います。

――起業の資金は集めやすくなっているでしょうか。

荒川氏:
 今はそれなりに資金は集めやすくなっているのではないかと思います。ソリューション系では起業しやすくなっていると思います。また、材料系の場合は、大学の施設を使えるのが資金的に有利です。

 支援する側も変わらないといけません。(ベンチャー)キャピタリストとしては、それなりの資金を持ったところが求められるでしょうかね。10億円しか資金がなく、それを10社に投資すると1社1億円ですから、大したことはできない。しかし100億円あって、1社10億円なら、それなりのことができるでしょう。

 また極端な話、100社に10億円投資して99社がダメでも、残りの1社が1000億円以上稼げばもうかるわけです。そこで得た資金をまた投資に回して、循環していく。こうした投資家には、個人が向いています。例えば銀行系では、失敗ができないのでやりづらい。米国ではそれができる投資家が個人で大勢いますし、日本でもそのようなキャピタリストが求められてくるのではないでしょうか。

産業をけん引するベンチャーを表彰

――そもそもJEITAがベンチャー賞を始めた理由を教えてください。

荒川氏:
 2つあると思います。1つは、従来の大企業も大事ですが、また違う形も必要になってきていること、それを推進する社会的使命がJEITAにはあるということです。もう1つは、JEITAの会員を増やそうと(笑)。

 いろいろ業界が発展する中で、ベンチャーが日本の産業技術の形態を変えるものとなっています。そうした産業をけん引するベンチャーを表彰するのがJEITAベンチャー賞です。

 1980年代の、まだ日本電子工業振興協会(JEIDA)だったころは、半導体が強い時代でした。このころは米国のやっていることを見て、それを追いかけていればよかった。護送船団方式で、「みんなでいっしょにこの山に登れば安心」という時代でした。

 しかし、そういう時代は終焉しました。どの山を登ればいいかが問題となり、アジアとも競争する立場になりました。そうなると大企業1社の垂直統合では限界があり、社外と連携して先鋭部隊を作ることが必要になっています。その対象として、研究開発の多様性を持たせるために、ベンチャーへの期待が大きくなっています。

――JEITAが主催の1つとなっているCEATEC Japanも、IoT中心に方向を変えました。今後、ベンチャーと大企業の共創によるIoTが盛り上がるでしょうか。

荒川氏:
 その可能性はあると思います。ただし、IoTは参入しやすいと思われていますが、全員が成功するわけではありません。技術と同時にビジネスモデルも考える必要があります。しかも、1つのビジネスモデルではなく、いろいろな試みが必要というのは、ベンチャーのビジネスも研究も同じことが言えます。

 ただし、臨機応変にアプローチを変えて成功する場合もありますが、反対に1つのことをやり続けて成功する場合もある。そのあたりはセンスと運、能力のすべてがそろっているところが強いでしょうね。

――最後に、次回に向けてコメントをお願いします。

荒川氏:
 JEITAベンチャー賞の名前が知られて、もっと応募が増えればと思います(編集注:応募は他社による推薦となります)。応募が増えることで、より可能性を感じさせるベンチャー企業が推薦されるのが望ましい。また、まだ少し偏りがあると思っています。例えば、AI(人工知能)関連はまだ少ない。推薦の母体も多様性が増えるのが望ましい。

 そうしたことを楽しみに、次回を迎えたいと思います。