「小悪魔女子大生のサーバエンジニア」は絵を描くのが好きな女の子


 ファンシーなイラストが並んだブログ、よく見ると中身はDNSなどの仕組みについて、IP Anycastといったコアな話題にまで踏み込んだ解説。その名も「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」というブログが、Twitterを中心に6月ごろから話題になった。

 「実はオジサンが書いてるんじゃないの?」と疑う声もある中、ブログのドメインを持つ株式会社ディレクターズを訪れ、ブログを書いているaicoさんに会った。aicoさんはディレクターズ社のアルバイトで、実際のaicoさんは小悪魔というより、イラストの雰囲気どおりの小柄でふわっとした印象の女の子。さっそくaicoさんと、社長の加藤慶さんに話を聞いた。

テーマを振られると、自分で調べて書く

「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」の筆者aicoさん。都内の大学仏文科に通う3年生

 ブログはもちろんaicoさん本人が書いている。加藤さんがテーマを振ると、aicoさんがそれを自分で調べ、絵も自分で描いてスキャンし、文章を書いてブログに掲載する、という流れだ。

 といっても、aicoさんは実は元からサーバーやインターネットの技術に詳しいわけではない。都内の大学の仏文科に通う3年生で、ゼミでは美術史を学んでいる。「ブログはこれが初めて。mixiは、入ってるけど、入ってるだけみたいな……」という、どちらかというとITには縁の薄い生活を送ってきた。

 「でも自分でちゃんと調べてまとめちゃう。理解力が高いんですね」とは加藤さんの評だ。「DNSについても期待以上に深く調べているし、SSHの暗号化の仕組みについては私も参考になりました」。「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」のブログが公開されているサーバーは、実際に会社のサーバー上の仮想サーバーを渡されたもので、勉強用と公開用を兼ねて自分で構築と運用をしている。

 概念については自分で勉強できても、実際の設定やコマンドの操作などには経験が必要だ。それについては、会社のサーバーエンジニアの人達に教えてもらいながら進めている。エントリーを書き上がったときも、そのたびにサーバーエンジニア総出で確認している。「まわりを巻き込むのがうまい。このへんが小悪魔なんですよね」と、ブログのタイトルを名付けた加藤さんはいたずらっぽく笑う。

子供のころから絵が好き

愛用のペンはPILOTのHI-TEC

 aicoさんがアルバイトに来たのは、知り合いの紹介によるもの。加藤さんが最初「好きなことしてていいよ」と言ったところ、とりあえず絵を描いたのがブログを始めた直接のきっかけだ。現在は仕事としても、ウェブ用のアバターなどのイラストを描いている。

 絵はまず紙に手描きする。愛用のペンはPILOTのHI-TEC。描いたら自分でスキャンする。ブログの絵ではそのまま、仕事のイラストではスキャンした絵を下書きとしてIllustratorで清書する。

 子供のころから絵を描くのが好きで、周囲にも美大受験を勧められたものの、若さゆえか「言われたらかえって反発して受験しなかった。でも今は後悔している」とはにかむ。

 アルバイトを始めたのが2009年末で、ブログが2010年4月開始。6月にTwitterなどで話題になるとアクセスが急増し、1日7万5000ページビューが2日間続いた。仮想サーバーのリソース割り当てを増やしてなんとか対応し、最近では1日3000ページビューぐらいだという。加藤さんによると、「アクセスされているブラウザーは、Firefox、Chrome、IEの順で多く、明らかに技術者系の人がリピーターになってくれてるなと(笑)」とのことだ。

 「実生活は変わってないですね」とaicoさん。ブログは学校の仲間などには内緒で、「両親や、仲のいい子ぐらいにしか教えていない」という。ブログに技術的なコメントが来るとどう返答したらいいか戸惑ったりする。「村井純さん(とおぼしき人)からコメントをいただいちゃったり」。ブログを見て「若者とITについて話してほしい」という講演依頼もあったそうだ。

女性のサーバーエンジニアを増やしたい

株式会社ディレクターズ社長の加藤慶氏

 社長の加藤さんは、もともとライブドアで長らくサーバーエンジニアを勤め、独立した。その経験からの感想が「サーバーエンジニアにはとにかく女性が少ない」こと。「プログラマーの仕事は攻撃的なところもあるが、サーバーエンジニアの仕事は女性にも向いている」というのが持論だ。

 加藤さんによると、現在の一般的な保守エンジニアは必ずしも質が高くなく、サーバーやインターネットの中身を知らない人も担当していたりするという。「質の高いサポートには、むしろ、昔サーバーエンジニアをやっていたママさんエンジニアが復帰してきた方がいい」。そうした思いが「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」の企画につながった。

 ブログのテーマとしては、ウェブサーバーやDBサーバーなどはプログラマーの方が得意な分野と考え、あくまでインフラエンジニアの分野であるDNSサーバーなどにこだわる。「DNSはインターネットの根幹。失敗すると簡単にサイトにアクセスできなくすることができる」という考えだ。

 今後は、DNS以外についても「サーバーエンジニアが普通に扱うネタをひと通りやりたい」。年内ぐらいでネタを一巡させたいと考えているが、aicoさんの学校や就活のスケジュール次第だという。

 最後の一言として、加藤さんは「女性のインターンも募集しています」、aicoさんは「サーバーエンジニアのみなさん、大変ですが頑張ってください」とメッセージを送った。


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(高橋 正和)

2010/9/1 11:00