記事検索
インタビュー

汎用JP導入から10年、JPRSの次なるミッションはgTLD〜東田幸樹社長に聞く


株式会社日本レジストリサービス代表取締役社長の東田幸樹氏

 日本のccTLDであるJPドメイン名の管理運営事業者(レジストリ)として、2000年12月に設立された株式会社日本レジストリサービス(JPRS)。そのJPRSの設立の大きな目的の1つだった“汎用JPドメイン名”の登録サービスが開始されてから、ちょうど10年が経過した(商標登録者や既存JPドメイン名登録者などからの先行登録受け付けが2001年2月、先願による一般からの登録受け付けが5月開始)。

 それまでのJPドメイン名は、法人向けの「co.jp」、任意団体向けの「or.jp」、ネットワーク事業者向けの「ne.jp」などの属性型、あるいは都道府県・市町村などの地域型というように種類が分かれており、それぞれ登録可能な組織の要件が決まっていた。対して汎用JPドメイン名は、こうした種別のない「.jp」だけのシンプルなドメイン名だ。登録要件も緩和されており、例えば1組織1ドメイン名という制限がある「co.jp」と比べると、はるかに登録しやすいドメイン名となっている。

 実際のところ、JPドメイン名全体の累計登録数は、2001年2月の24万件から、2011年2月には120万件へと増加し、このうちの3分の2を占めているのが汎用JPドメイン名だ。

 そんな汎用JPドメイン名の登録サービスから10周年を迎えたJPRSが今年2月に開始したのが、「.com」「.net」などのgTLDの取次サービスだ。直接エンドユーザー向けに登録サービスを提供するものではなく、JPドメイン名の登録サービスを手がける「指定事業者」向けに卸売りするサービスだが、gTLDといえばいわばJPとは競合にあるものだ。

 gTLD取次サービス開始について、「これから我々がやっていくべきことは何か考え、積極的に行動していこうとしているのが現在のJPRS」と、同社代表取締役社長の東田幸樹氏は語る。これまでの10年間の事業の評価や今年度の事業の方向性について話を聞いた。

120万件のJPドメイン名は「DNSの信頼性や安定性の証」

――JPRS設立後の10年間で、JPドメイン名の累計登録数が5倍に増加した。この実績について、ご自身ではどう評価しているか。

東田氏:先進国のccTLDの中では少ないと言う人もいるが、率直にユーザーから支持されているとうれしく思っている。ドメイン名はその登録目的として(転売目的も含めて)いろいろあるが、JPは、本当に使う人に登録してもらいたいという思想がJPNICの時代からあった。きちんと使っていただくドメイン名としての120万件だと考えると感慨深い。

 安くすればもっと登録されるのではないかとの指摘もあるが、料金、信頼性、安定性――そのバランスどうとっていくかが重要。JPは正直、登録料が安いわけではない。高い中でこれだけ使ってもらえていることは、120万件という数も誇りだが、これはDNSの信頼性や安定性の証だろう。料金だけだったら「.com」や「.net」を使うと思う。しかし、そうではない方も多い。企業、特に上場企業は「co.jp」をかなり信頼していただいている。

 10年前に汎用JPを開始した当時は、汎用JPが伸びるに従い、属性型は徐々に使われなくなるのではないかという見方もあったが、属性型の現在の登録数は合計40万件。当時の2倍になっており、減ってはいない。特に「co.jp」は今でも1組織1ドメイン名という縛りを堅持しながら、堅調に増えている。

 安定性については、JP DNSは当初、セカンダリサーバーを含め東京にしか拠点がなかった。その後、大阪にも設置したのを皮切りに、現在は海外を含め26拠点にまで拡大した。

 DNSの運用コストは、DNSそのものの利用に課金してまかなっているわけではない。ドメイン名登録料・更新料から捻出するモデルであり、ざっくり言えばJPの運用資金=ドメイン数×単価。

 ところがJPRS設立当初、国内で登録されるドメイン名の数は、JPとgTLDで1対10ぐらいの開きがあった。このままJPドメイン名が使われないものになってしまえば、インターネットの発展とともに重要性を増し続けているJP DNSの安定運用が立ちゆかなくなるとJPNICの当時の理事が考え、新たに汎用JPというものを開始することにしたという背景がある。その後、実際に汎用JPがスタートし、日本で使われるドメイン名におけるJPのシェアが4、5年前には一時、55%ぐらいにまで拡大した。

 最近はJPとgTLDで4対6程度。個人の利用でgTLDが増えてきているようだ。やはり個人では料金が重視されているのだと思う。現在、汎用JPの卸値は2250円で、「.com」の約3倍。では、JPの料金を3分の1にすれば登録数が3倍に伸びるかというと、比例するわけではないことが過去の事例からわかっている。スイスと韓国で値下げした結果は、料金を半額にしても登録数は2倍にはならなかった。「.com」の卸値は、世界中の人々が使っており、登録数が9000万件もあるからこそ可能な料金。もちろんJPRSも料金を下げる努力はしていく方向で、今後のさらなる課題と考えている。

JPドメイン名の登録数の推移

――DNSの安定運用のためのコストと説明されても、目に見えないだけに、この料金差はなかなか納得しがたい。

東田氏:単に安くすればいいのであれば、(gTLDのレジストリである)VeriSignが世界中に設置している拠点にJP DNSもアウトソーシングすればいい。gTLDの9000万件に、JPの120万件を入れてもらえれば、ボリュームの中で安く運用できる。しかし、果たしてそれでいいのか?

 さらに言えば、中国に拠点を置けばかなり安く運用できる。太い回線を引き、データセンターを置き、サポートもアウトソーシングする。しかし私は、JPは日本のドメイン名だと思う気持ちが強いため、何か起きた時のためにも、データセンターにしてもソフトウェア開発にしても、JPの運用は国内の事業者とともにやっていきたい。今やインターネットは学術や趣味の世界を超え、さらに商業的な意味あいも超え、生活のインフラになりつつある。こうしたインフラを攻撃されるリスクも考える必要がある。

 現在、海外にもJP DNSの拠点を置いているが、あくまでもコピーとして置いているもので、基幹となる部分はすべて国内にある。国内の拠点は、今後もしっかりと維持していかなければと思う。

gTLD取次サービスは「日本のインターネットのため、国益にも」

――JPRSは今年2月、ICANN公認レジストラとして、gTLDを指定事業者向けに卸売りする取次サービスを始めた。JPのレジストリであるJPRSがなぜ?

東田氏:JPRSの企業理念は「ネットワークの基盤を支える企業として、インターネットの発展に寄与し、人と社会の豊かな未来を築くことに貢献すること」。我々は会社設立時、どういう事業を展開していくべきか考え、定款の中で項目としてまとめた。JPRSの初めのミッションはJPのレジストリとしての役割だったが、JPRSの定款は、JPRSがJPドメイン名以外でもインターネット社会の発展に貢献できるようになっている。

 ただし、gTLDの取次サービスを開始するに至ったのは、定款に書いてあったからというわけではない。10年という節目だからでもない。JPRSの指定事業者からgTLDの購入先について困っているとの声が聞こえるようになっていた中で、JP以外にも事業を拡大できる余裕ができてきたことなどの条件が整ったからだ。

gTLD取次サービス

――JPRSがやらなくとも、日本にはすでにGMOインターネットやファーストサーバ、PSI-Japan、ライブドア、インターリンクなど、ICANN公認レジストラは何社もあるが。

東田氏:ICANNが公表しているデータによると、国内のICANN公認レジストラが管理しているgTLDは合計110万件。これらは、日本の事業者が登録したgTLDとみなしていい。

 一方で、日本の事業者であっても、Melbourne ITやeNom、Key-Systemsなど海外のICANN公認レジストラからgTLDを購入しているところが大手事業者を中心にあり、約150万件に上ると推計している。

 すなわち、日本の事業者が登録したgTLDが全部で約260万件あるうち、国内レジストラで登録されたものは4割にとどまっており、残り6割は海外レジストラで登録された計算だ。

 なぜ、日本の事業者が国内レジストラを使わないのか? 国内レジストラの多くは、gTLDのレジストラとしての事業だけでなく、ホスティングサービスも展開している。一方で指定事業者もホスティングサービスなどを提供しており、その一環としてドメイン名登録サービスを用意していることが多い。ドメイン名を登録するということは、登録者である顧客の名前や連絡先など、ある意味、自社の顧客情報をレジストラに渡すということ。すなわち、ホスティングサービスの競合相手からドメイン名を購入したくはないということで、不本意ながらわざわざ海外レジストラを使っているわけだ。

 それでも大手事業者ならば英語が堪能な専任スタッフを配置し、海外レジストラと直接やりとりできるかもしれない。しかし、650社あるJPRSの指定事業者はそうした大手ばかりではない。ホスティングサービスを手がけていないような、JPRSのような中立的な国内企業がgTLDのレジストラをやってくれれば……という指定事業者からの声も実際にいただいていた。

――仮にニーズがあるとして、なぜJPRSがやるのか? 純粋なレジストラの国内企業を求める指定事業者が大手を含めているのなら、自分たちでレジストラの共同会社を立ち上げればいい。

東田氏:彼ら指定事業者同士も、やはりホスティングサービスで競争している関係のため、なかなか共同で、という話にもならないようだ。それに考えてみれば、JPRSの株主には、NTTコミュニケーションズやKDDI、IIJ、日立、ソニーなどの指定事業者が入っている。中立的なレジストラの共同会社というのであれば、新たに立ち上げなくとも、JPRSがすでにあるではないか、と。

 それに日本は最近、元気がない。ここはJPRSが挑戦するところかなと思った。JPRSがgTLDのレジストラになれば、海外レジストラに登録されている150万件のうち何割かはJPRSに来てくれるはずだ。日本で使うgTLDは日本のレジストラが管理するほうが日本のインターネットのためにもなり、国益にもなる。特に今後、数千種類とも言われる新gTLDが導入される見込みだ。それを海外レジストラから買うというのはどうかと思う。

 もちろん既存の国内レジストラでは、自分の顧客がJPRSに行ってしまうのではないかと心配していることと思う。しかし、JPRSとしてはターゲットにしているところが違う。すでに国内レジストラを利用している方々に来ていただくというよりは、現在、海外レジストラを使っている指定事業者にこそ使ってほしい。

 また、JPRSのgTLD取次サービスでは、指定事業者への卸値も「とにかく安く」というわけにはいかない。既存の国内レジストラでは「.com」「.net」を920円で登録できるところもあるが、とてもではないがその料金ではJPRSは競争にならない。ただし、JPRSではgTLDの取次サービスについても、JPドメイン同様の“JPRS品質”を保持する。JPドメイン名で高い評価をいただいている充実したサポートと柔軟な対応、そしてもちろんサービスをトラブルなく安定して提供すること。この品質で料金に納得していただける指定事業者にご利用いただきたい。

直販サービス「JPDirect」縮小の背景、直近では新規登録が月に2、3件

 JPドメイン名は通常、レジストリであるJPRSから指定事業者に卸され、エンドユーザーは指定事業者を通じて購入(登録)するかたちをとっているが、JPRSからの直販サービス「JPDirect」も提供してきた。gTLD取次サービス開始と並んで、JPRSにおける今年の動きで注目されるのが、このJPDirectでの新規登録受け付けの打ち切りだ。

JPDirect

――中立であるはずのレジストリが直販もやるというのは確かに不公平な印象はあるが、エンドユーザーの中には(ホスティングサービスなどを展開している指定事業者からではなく)ドメイン名だけを純粋に買いたいというニーズもあるのでは?

東田氏:JPDirectは指定事業者と比べると登録料が高い。それでも、どうしても直販でなければという事情がある顧客もいることはわかってはいる。しかし、この10年間の推移を見ると、JPDirectでの新規登録はかなり減っている。そもそも、ドメイン名登録だけでビジネスを展開するということは少なく、ホスティングサービスや接続回線などと組み合わせて販売するのが通常だ。

 JPRSがそうしたサービスを充実させていくというのであれば、JPRSにも直販サービスがあったほうがいいのだろうが、JPDirectはそういうことが目的ではない。かつてJPNIC時代、学術系や政府系の人は全部自分たちでネットワークやサーバーを運用していた。そうした方がドメイン名登録サービスだけを使いたいということで、JPDirectを利用されている場合が多い。

 また、どのドメイン名がどの指定事業者の管理下なのか明確にする「管理事業者制度」をJPRSが整備した当初、ドメイン名登録者が自身で管理しているつもりのものや、どの指定事業者とも関係がなくなっているものがあった。そうした方の受け皿として、JPDirectがあったという歴史的経緯もある。

 しかし、最近では大学なども業者からサービスを買ってネットワークを運営しており、JPRSが直販をやらないと困るような人は少なくなった。あるいは、指定事業者を利用するようになったり、自分で運用するのをやめた方など、どんどん数は減ってきている。

 JPRS設立当初、JP全体の登録数は24万件で、そのうち指定事業者に関連付けられなかった5万件がJPDirectの管理となった。しかし、直近では月に2、3件の新規登録がある程度。解約か、指定事業者変更で外に出て行く人のほうが圧倒的に多い。また、JP全体の登録数が120万件に増加した今では相対的にJPDirectのシェアも低下しており、現在は2%程度。10年前に比べて登録者の皆様に管理指定事業者制度が周知され、JPRSが直接エンドユーザーにサービスを提供しなければならない状況も少なくなってきたことから、新規の受け付けを終了することにした。これにより、エンドユーザーに対して、JPRSと指定事業者の役割をより明確にすることができるものと考えている。

――将来的には、既存顧客の更新も打ち切るのか。

東田氏:今の段階では、打ち切るのは新規の顧客の受け付けのみだ。本当に困っている人のための駆け込み寺的な側面もあるため、レジストリの機能の1つとして残さなければならない部分もあると思っている。

 例えば、事情があって指定事業者を変更しようとした際、指定事業者と登録者がトラブルになることもある。別の指定事業者にすぐに移ることができればいいのだが、SSLなど利用しているサービスもあって、一時的に避難したいというニーズが今でもある。そういう場合は一時的に受け入れなければいけないと思っており、指定事業者と相談しながら受け入れる機能がある。

 新規顧客が新たにJPドメイン名を登録する際は、すべて指定事業者経由とする一方、今現在JPDirectの顧客となっている方を今後どうするかというのは、なるべくご迷惑をかけない形をこれから数年の課題として検討していかなければならない。

「.日本」は「.jp」と完全に一致したドメイン名として提供

――新たに日本語ccTLDの「.日本」が導入されることになっている。JPRSは「.日本」のレジストリ候補事業者として選定された。「.日本」はどのようなccTLDになるのか。既存の「.jp」との違いなどは?

東田氏:「.日本」のレジストリの候補事業者として選定されたことは、JPRSが提案した「.日本」のサービス方針や、JPRSのこれまでの実績が評価されたものと考えており、うれしく思っている。

 JPRSが提案する「.日本」のサービスは、簡単に言えば、利用したい人が利用でき、利用したくない人には負担を強いることのないサービスだ。「.日本」の導入については、意味的に同じである「.jp」との並存による混乱を懸念する声が大きかったため、全く別のccTLDとして導入するのではなく、「.jp」と完全に一致したドメイン名としてサービスを提供する。具体的には、「○○○.jp」というドメイン名の登録者だけが、同じ文字列の「○○○.日本」というドメイン名を登録できる仕組み。これにより、インターネットユーザーには「○○○.jp」と「○○○.日本」の登録者が同一というわかりやすさを提供する。

 一方、「○○○.jp」の登録者は、「○○○.日本」というドメイン名を利用しない場合でも、第三者によって登録されることがないため、(スクワッティングなどに対する)防衛的な目的で登録だけしておくといった負担が強いられることもない。

――総務省などが当初見込んでいたよりもサービス開始が遅れているようだが、今後のスケジュールは?

東田氏:JPRSは現状、レジストリ候補事業者として選定された、という段階。今後の予定については、選定を行った日本インターネットドメイン名協議会などの関係者が諸々の検討・調整を進めているようだ。JPRSとしては回答できる立場にはない。ICANNとの契約手続きが進められるようになるなど、状況が進展したら、サービス開始への見通しなどをお伝えしたい。

「JPRSでなければできない仕事」積極的に

――最後に、今年度の事業や今後の方向性などについて、メッセージを。

東田氏:我々の会社は、先に述べたような企業理念のもと、ネットワーク基盤を支えているという自負がある。どういう事業を展開すればインターネットの発展に寄与できるのかを常に考えており、日本のインターネットが健全に、上手に発展していくことに関しては積極的に取り組んでいきたい。とはいっても、携帯電話キャリアに手を挙げるとか、Androidサイトを立ち上げるとか、クーポンサイトに参入するとか、そういうことではなく、JPRSでなければできない仕事がある。

 JPRSはこの10年間でJPの価値とブランドイメージを作ってきたが、今後は、その上にさらに他のgTLDなども含めた、ドメイン名全体を通したインターネット発展への貢献をしていきたい。

 特に、今後数年は新gTLDの登場などもある。GMOインターネットさんが「.shop」、インターリンクさんが「.earth」や「.site」などの申請を表明されているが、JPRSがこのようなgTLDを取り次ぎ、指定事業者を通して日本国内に提供するということでもお役に立てるのではないだろうか。

 それらが日本のインターネット社会に役立つものとなるよう、そしてJPRSがgTLDの取り扱いを始めてよかったと思われるようなサービスにしていきたい。

――ありがとうございました。


関連情報


(永沢 茂)

2011/5/19 06:00