インタビュー

「復活愛は求めない」新生mixiはアプリで存在感示す〜川崎裕一取締役に聞く

 「FacebookやLINE対抗みたいな空気があり、それは外からも中からも感じた」。そう語るのは、2013年1月に株式会社ミクシィに入社し、6月25日に取締役に就任した川崎裕一氏。元はてなの副社長、その後はベンチャー企業「kamado」を立ち上げた経歴の持ち主は、入社当時の様子について「これはやめようと思った」と振り返る。

 かつては国内最大のSNSとして賑わった「mixi」だが、PCおよびスマートフォンで月に1回以上ログインするユーザーは、2012年8月の1470万人をピークに伸び悩んでいる状況。そんな中、ミクシィ創業者の笠原健治氏が6月25日に代表権のない会長に退き、執行役員を務める朝倉祐介氏が新社長に就任した。

 新生ミクシィの体制が発表された5月15日の決算会見で朝倉氏は、全社を挙げて「永久変革」に取り組むと宣言。mixiに関してはスマートフォン向け市場に本格参入し、アプリの本数を現在の2本から50本に増やすテコ入れ策が発表された。mixiはどこへ向かうのか? mixi事業を統括する川崎氏と、同社執行役員の廣木大地氏に話を聞いた。

ミクシィ取締役の川崎裕一氏(左)と執行役員の廣木大地氏

挽回のカギは「原点回帰」、FacebookやLINEを追いかける必要はない

 「ユーザーがmixiに対して求めているのは、FacebookやLINEのつながりではない」と感じたという川崎氏。社内的にも「両社の後追いではテンションが上がらない」と考え、改めて自社のミッション「全ての人に心地のよいつながりを」に立ち返ったところ、mixiが進むべく道が明確になったという。

 「Facebookはメールアドレス、LINEは電話帳をもとにつながっていて、どちらも既存の人間関係をウェブに持ち込んでいる。いわば、つながりを『強める』サービス。一方、mixiは知らない人であっても、コミュニティを通じて趣味や出身地が同じ人とつながれる。つながりを『作る』のが強み。それは翻るとミクシィのミッションでもある。」

 Facebookと異なり、匿名のIDで利用するmixiは「心地よいつながりを作りやすい」とも指摘する。「Facebookは実名ならではの『がんばってる感』が出てしまいがちだが、mixiは緩い感じでつながれる。日本の良い面の匿名文化は需要があるが供給がない状況。それを僕らはやればいいし、FacebookやLINEを追いかける必要はない」。

ミクシィが分析するmixi、Facebook、LINEの位置付け

SNS的な発想から脱却したアプリで「スマホのミクシィ」の存在感示す

 mixiの問題点については、日記や写真を投稿しなくなると足あとやコメントが付かず、まずますmixiを訪問しなくなる「負のスパイラル」に陥っていると分析。この連鎖を断ち切るのがアプリだと主張する。「かつてはmixiにアクセスしてマイミクとつながっていたが、今後やるべきはアプリをきっかけにつながりを作る世界」。

 新生ミクシィが注力するスマホアプリ。これまでは、mixiおよびmixiコミュニティの2本のアプリを公開しており、会員数は延べ1000万人を突破。利用率はスマホ向けブラウザー経由の1.6倍に上る。アプリ開発に注力するのは「成長の余地が大きく合理的」(川崎氏)と判断したためだ。

 それでは今後、どのようなアプリをリリースしていくのか。詳細は明らかにされなかったが、まずは個別の目的に合わせたアプリを提供し、mixi全体のトラフィックを拡大することを狙う。例えば、日記や写真、ゲーム、コミュニティなどのmixiの各機能を切り分け、「スマホならではの価値を加えたアプリ」を提供していく。

これまでのmixiとこれからのmixi

 mixiが唯一無二のSNSだった時代は、mixiのサイトに人が集まり、そこから日記や写真、ゲームなどが利用されていた。これに対して、「アプリ全盛の時代では全部入りの幕の内弁当アプリは流行らない」と川崎氏。総花的なSNSの発想を捨て、「日記なら最も書きやすく、書いたらつながりまくるアプリ」を出すという。

 mixi事業のユーザーサービス本部長を務める廣木氏は、「その人に確実に届くアプリ」を目指すと語る。「ユーザーは解決したい課題をもとにApp Storeでアプリを検索する。日記や写真、ゲーム、音楽などさまざまな課題を解決しつつも、ミクシィならではの1つの世界観に集約できれば」。

 mixi関連のスマホアプリとは別に、「mixiラボ」の名義で「なんじゃこれ」(川崎氏)というアプリをリリースするほか、SNS「mixi」にこだわらず、他社と連携したアプリも提供する予定。「アプリを50本リリースするころには『スマホのミクシイ』という存在感が出てくるだろう」。

「数字がすべて」のアプリ評価制度

 アプリを提供するにあたっては、ダウンロード数や継続利用率などの独自の指標に基き、アプリに対して「m1」「m2」「m3」のランク(m1が最高)を付与する評価制度を導入する。そのランクにより、プロモーションの実施やアプリの撤退を判断する。その判断は「数字以外は見ない」(川崎氏)。

 「例え撤退しても、チャレンジはものすごく重要な価値。撤退後の新たな挑戦は成功確率が上がる。社内でも失敗を恐れない起業家的な気質の人をどんどん押し上げたい。僕がよく言うのは、地雷を避ける方法は、逃げるか、地雷を踏んで前に進むか。『踏んで失敗するのは構わない』というマインドを浸透させていく。」

 収益面では、ユーザー課金型モデルを推し進める。具体的には、収益の柱になりつつあるゲーム課金を強化するとともに、「ちょっと便利な機能」を安価で提供していく。コミュニティや音楽、動画、占いといったアプリで月額課金やコンテンツ課金を行うことも視野に入れている。

スマホアプリの提供方法

社内がざわついた「アプリ25倍計画」を支える人材と技術

 アプリを現在の2本から50本へ増やすにあたっては、専門のエンジニアを4倍にするとともに、スマホアプリの開発基盤を構築する。エンジニアについては外部から募集するとともに、「スマホをやりたくても機会がなかった」という社員に声をかけ、すでに目標値を達成。同時に、「スマホアプリのお作法」を熟知する企画者も増員した。

 スマホアプリの開発基盤に関しては、今後開発する50本のアプリで共通して使用するライブラリにアクセスできる仕組みを構築する。これにより、新規のアプリを開発するときにも「有り物」が使えるため、開発のスピードが大幅に向上する見込みだ。「アプリを2週間でローンチできるようにするのが大命題」(廣木氏)。

 廣木氏によれば、一般的なスマホアプリは小規模なものでも、1カ月から2カ月程度の開発期間を要する。「短期間でプロトタイプを作るのが最近の傾向だが、それでも2週間というのは短い」。

スマホアプリ開発基盤のイメージ

別れた彼女と復縁しようとするな

 アプリを25倍にすると宣言した際には、社内が「ざわっとした」と振り返る川崎氏。「かつてケネディは演説で『私たちは月へ行くことを選択した』と言ったが、50本の目標も同じで、『出せるかどうか』ではなく『出す』ということ。ミクシィのエンジニアは本当に優秀でも『ざわっ』とさせる目標が必要。『mixiって、いい意味でやばくなってきたね』となれば」。

 川崎氏がミクシィに入社してから約半年、会社の空気が「暗くなくなってきた」という。「入社当初はすごく静かで、立ち話していると『イラッ』とされている感じもあった(笑)。それが今では、いろいろな場所でブレストをするようになったり、社内で『エイエイオー』と言ったり、今まではあり得ないことになっている」。

「かつてのミクシィではエイエイオーなんてあり得なかった」という(画像はミクシィ提供)

 アプリの目標ダウンロード数は掲げていないが、「過去にmixiに登録していない新規ユーザーが増える」と期待している。mixiと比較されるLINEのようなメッセンジャーアプリについては、「僕らしか作れないmixiの人間関係をベースとしたアプリであれば大いにやればいい。誰でも作れるようなことをやってもしょうがない」と語る。

 「社内でよく言うのは『別れた彼女と復縁しようとするな』ということ。ユーザーの課題も解決せずに、『mixiに戻ってきて』というのはおかしい。使ってもらううちに『あ、これ作ってるのミクシィなんだ』というアプリを作るべきだし、その利用者が偶然、『前の彼女』でも構わない。自分が成長して見返して復縁を迫られるようになろうよと。」

(増田 覚)