インタビュー

「ライトなラノベコンテスト」最優秀賞の倉下忠憲さんにインタビューしてみた

 ライブドアブログとimpress QuickBooksによる「ライトなラノベコンテスト」で最優秀賞を受賞した倉下忠憲さんに、受賞の喜びや、創作で大変だった点などについて、ハングアウトで話を伺ってみました。

 なお、「ライトなラノベコンテスト」からは受賞作品3作品を含む19作品の電子書籍化が決まり、5月15日発売になりました。倉下忠憲さんの最優秀賞受賞作品「アリスの物語」、特別賞を受賞した晴海まどかさんの「明日が雨でも晴れでも」、AKIBA PC Hotline!賞を受賞したマホさんの「小さな先輩と小旅行」は各148円、二次審査を通過した16作品は各99円です(価格は5月15日現在のKindleストア価格)。作品の一覧はこちら(http://qb.impress.jp/2014/llc0508/)をご参照ください。

プロットなしで書き始めた「アリスの物語」

── 最優秀賞、受賞おめでとうございます。いまの率直な気持ちをお聞かせ下さい

 ストレートに「嬉しい」というのは当然あるわけですけど、「驚いた」というか「え!? 俺でいいの?」みたいなのがありましたね、やっぱり。

「ライトなラノベコンテスト」で最優秀賞を受賞した倉下忠憲さん

── 「ライトなラノベコンテスト」が始まってすぐに、第1話を公開されています。元はどこかで書かれていたものなんですか?

 「R-style」という自分のブログで、第1話と第2話だけ公開してました。話の構想としてはもう少し続くだろうと考えていたんですが、いわゆる「締め切り」がないから続きを書くのが先延ばしになっていて。それを「おお、ちょうどこのコンテストに使えるじゃないか!」ということで、続きを書く形で採用したんです。

── なるほど、元々書かれていたのは第2話までなんですね。

 そうです。

── すると、第3話以降は、書きながら公開していったと。結構大変だったのでは。

 ブログ書きなので、2000字単位を書くこと自体は、それほど苦痛ではなかったです。ただ、この「ララノコン」の場合は連載なので……ブログの場合って、ひと記事ひと記事が別じゃないですか。でも、小説の場合は続きものなので、後にいくにつれて、話の構造展開が決まってきてしまって。主人公がこうやってるから、ここはこうせざるを得ない、みたいなのがあって。身動きが取れなくなってくる部分もありつつも、キャラクターが逆に活きだして、話が勝手に進むっていう面白さもありました。まあ、苦労したところと、面白かったところと、両方ありますね。

── プロットは元々あったんですよね?

 ……なかったんです(笑)

── ええ!? そうなんですか?

 ええ。毎回、白紙の状態からキーボードに向かって、前話の最後の数行を読んで、そこから「こんな話になるんではないか?」と思ってつらつらと書いていくという形を採ったので、ほんとにオチがどうなるか分からないまま書いてました。

── 凄いですね……プロットがないというのは、西尾維新さんの書き方と同じですね。

 だから、着地できるかどうかが不安なまま進めていて、なんとか着地できたという感じです。

── 通常、ライトノベルの読者層は中高生がメインだと言われていますが、読者層はどのあたりを想定しましたか?

 私は今年34才なんですけど、かなりのラノベ読みなんですよ。結構ラノベって、中高生だけではなく、おっさんも読んでるんですよね。ただまあ、読み手としては20〜25才くらいの若い男性をイメージしました。たぶんその辺りの年代がスマホにも親和性があるし、ラノベをちょいちょい買うくらいの財力もあるっていうようなイメージです。

メルマガはちょっとだけハードルが高い方がいい

── 私が倉下さんのブログ「R-style」を拝見するようになったのはわりと最近からだったので、フィクションも書かれるのは存じ上げていませんでした。

 案外、前から書いてるんですよ。「R-style」に載せるのはどちらかというと寓話的な、教訓を物語の形で伝えるような場合もあるんですけど。それ以前のブログでは、結構シュールな感じのショート・ショートとかをよく書いてましたね。

 あと、私のメルマガ「Weekly R-style Magazine 〜プロトタイプ・シンキング〜」でも「ライフハック×ライトノベル」という新しいジャンルを創出してやろうと思って、毎週連載の形で書いてるんです。だから、馴染みの人にはそれほど珍しい話ではないんですけど、まあ、ビジネス書しか読んでない人にとっては結構意外かなとは思いますね。

── すいません、メルマガは購読してませんでした。

 いや、もう、毎週凄まじい文字量が送られてくるので、読まないほうがいいと思いますよ(笑)。

── 有料メルマガを発行されている方の、1号あたりの文章量は凄いと聞きます。

 そうですね。そうでないと、たぶん購読してもらえないと思うんですよ。

── 逆にそれがハードルを高くしてしまっているような気もするのですが。

 でも、小売業的な考え方でいうと、客層が違うんですよね。ブログって間口が広くて「来てください」って感じですけど、有料メルマガはどちらかというともう少し私の方向性に関心を持ってくれる人に読んでもらいたいと。

 誰でもいいわけじゃないんです。そうじゃないと、フィードバックがうまく機能しないんですよ。私のことを知ってる人からの感想と、適当に見にきた人からの感想って、重みが違うんで。

 メルマガは、プロトタイプのコンテンツ、つまり、これから電子書籍や本にしたい企画を書く場所なので、関心と私とが重なる人に読んでもらえる方がありがたいんです。だから、実はハードルはちょっとだけ高い方がいいんです。

── あえて、ハードルがあってもいいと。

 そう考えてます。

藤井太洋氏の影響で書き始めた「アリスの物語」、藤井氏監修にびっくり

ライトなラノベコンテスト最優秀賞受賞作品「アリスの物語」表紙

── 最優秀賞を受賞された作品「アリスの物語」には、ぽよよんろっくさんによる表紙イラストと挿絵が付いて impress QuickBooks から電子書籍として発売されます。特別審査員および監修が藤井太洋さんというのが最終結果発表の時に初めて明かされ、ちょっとびっくりしました。

 いやー相当びっくりしました。実は、私が最初に自分のブログに『あるいはアリスの物語 第1話』を書いたのは2013年1月なんですが、藤井先生の「Gene Mapper」を読んだ影響なんですよ。

── うお、そうだったんですか!

 その前月に「Gene Mapper」を読んで「これ面白いやん!」と思って。ちょっとSFチックなショート・ショートをブログに書いてやろう! と思ったのがきっかけなんです。それをララノコンで完成させたら、監修が藤井先生って聞いて「うおっほーい!!」ってなりました。

── 藤井太洋さんから倉下さんに、いくつか「聞いてみて欲しい」と言われていることがあります。まず、監修のメモをもらって、率直なところどう思われましたか?

 率直なところ、感動しましたね。ものすごい密な書き込みをいただいて。そもそも、普通1人で小説書いてる人って、誰かに手を入れてもらうことなんてまず無いわけじゃないですか。プロの小説家じゃない限りは。監修を受けたことそのものが初めてだった上に、すごく丁寧な監修だったので、ほんとありがたいな、と思いました。

── 「note」に書かれた記事にも “今回、私が受けた監修は、「すぐれた教師」のものでした。” とか “ごくシンプルに言えば、クリエーターに対する敬意が隅々から感じられる監修でした。” といった言葉がありますね。

 私も以前はコンビニの店長をやっていて、ずっと人を教える立場にいたんで、人を教える難しさというのはある程度分かるんです。「俺がこう思うからこうしろ」と言うのは、簡単なんですよね。でもそれは、クリエイターとしての相手の個性を消すことになってしまう。手を引っ張って「あなただったらもっと高いところへ行けるよ」っていう示唆・導きを与えてくれるような……あの監修PDFを作るのは、相当時間かかっただろうなと思うんですよね。

── 藤井太洋さんって、編集者もできちゃうんですね。

 凄い方ですよね。

藤井太洋さんの監修メモ

── もう1つ藤井太洋さんから。監修メモを見て、どのように直していこうと思いましたか?

 1番大きな指摘が、SF作品であるにも関わらず、SFが弱いというのがありまして。まあ、私はSFを書いたこと自体が初めてなので、当然なんですけど。そこをしっかり描写していこうと思いました。もう1つ指摘頂いたのが、「アリスの物語」というタイトルにも関わらず、アリスがあまり前面に出てこない。それはもったいないな、と。

── なるほど。

 一人称視点で書いたので、どうしても「主人公の物語」になってしまっていて。直すときは、もう少し読後にアリスのことが印象に残るような作品に直そう、と思いました。

「月刊くらした」計画とは?

── ちょっと話は変わりますが、2014年度から「月刊くらした」計画ということで、毎月電子書籍を発売する計画を進められています。Blogを毎日更新され、メルマガを毎週配信され、紙の本の原稿も同時並行で執筆され、客観的に見てかなり大変なんじゃないだろうかと思うのですが。

 はい、大変です。ただ、これから電子書籍を作っていく上で、どこかで負荷をかけないといけないなと思っていて。紙の本は編集者さんとかが「紙の本とはこうあるべきだ」みたいなフォーマットを持っているわけじゃないですか。そこに沿っていけばある程度の売上が見込める、と。

 ところが電子書籍って、そういうフォーマットがまだぜんぜん無いわけで。描写が短いほうが好まれるのか、実は長いほうが好まれるのかって、全く分かってないままに本作りを進めなければならない、と。で、紙の本のやり方をなぞるのは違うと思うんですよ、個人的に。電子書籍は電子書籍なりの形でコンテンツ作りを進めていきたいので、この12カ月間の連作は全部違った形のコンテンツなり編集スタイルにしようと思ってるんですよ。

── おお、なるほど。

 それで、どれが受けるのか、どこが悪いのかというフィードバックを貰った上で「こういう方向に進もうかな」というのを得たいんで。で、それを3年とかのスパンでやってたら、環境が変わりすぎてしまうので、なるべく早いうちに方向性を見極めたいと思ってます。

── 読者層によっても違ってきますよね。例えば「ケータイ小説」をやってた「E★エブリスタ」って、「Kindleストア」とは全く読者層が異なりますよね。今では「スマホ小説」と言われてるんですけど、ワンセンテンスが短く、改行が多い文体が好まれているみたいです。

 なるほど。まあ、今のところ電子書籍を利用している人って、実は紙の本好きなんですよね。どちらかというと。つまり、本を大量に持ちたくないがゆえに電子書籍を買っている、という方なんですよ。

── 分かります。私もそうです。

 もう一方で、本は読まないけど、電子書籍という媒体なら読むかも、という人もいて。でもここはまだ薄いと思うんです。たぶん今後伸びていくのは、この層だと思うんですよ。ここに受けるコンテンツは何か、というのを私は知りたいんです。それが分かったら、紙の本と電子書籍が、一人の作家の中で住み分けられるかな、と思うんです。

── よりライトな方向に進むのかな、という感じはしますね。

 ありますね。画面がどうしても小さいんで、長い描写が好まれなかったりとか。例えば「憂鬱」みたいな難しい漢字は見づらいんで、全部ひらがなになるとか。ま、そういう感じにはシフトしていくでしょうね。

── 倉下さんご自身が「KDP」の本を書かれてますよね。そうやって、自分で作品を作って自分で出版している「インディペンデント」な作家へ向けて、一言エールをお願いします。

 何をやっても自由な場なんで、紙の本の常識には縛られない方がいいかな、と思います。将来的に紙の本の出版を狙っているんだったら別ですけど。例えば500人しか読者がいない作家だって、存在可能な世界なんで。そういう割り切り方も一つあるかなと。

 で、もう一つは、プロモーションをやりましょう、と。500人に読んでもらうためには、やっぱり知ってもらわなきゃいけないんで。書いただけで満足するのは、ちょっともったいないかな、という気がします。

── 最後に、ライブドアブログで読んでいただいた読者の方と、改稿された電子書籍版をこれから読まれる読者へ向けて一言お願いします。

 これが一番難しい質問だな(笑)。 えっと、面白い作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ読んでください。

── 本日はどうもありがとうございました。

倉下忠憲さん(の似顔絵)

【取材を終えて(鷹野 凌)】
 倉下忠憲さんの改稿版「アリスの物語」は、impress QuickBooks から本日発売です。藤井太洋さんによる監修メモを筆者サイトで公開中です。どのように改稿されたかをチェックしてみてください。

(鷹野 凌)