インタビュー

我々のNASは単なるストレージシステムではない――日本法人を設立したQNAP、CEOに話を聞く

 11月20日に製品発表会を行った、台湾のNASメーカーQNAP Systems。コンシューマー向け製品やプロダクション・企業向けのハイパフォーマンス製品を発表したほか、同社のNASに採用している独自OS「QTS」最新版の詳細を披露するなど、内容の濃いイベントとなった(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20151124_731858.html)。

 それに先立ち、QNAP製品の日本代理店の1つであるテックウインドにて、同社CEOのテディ・クオ(Teddy Kuo)氏にインタビューする機会を得た。高性能、高品質なNASを矢継ぎ早に投入してきている同社の日本市場に対する意気込み、今後の展開などを伺った。

台湾QNAP Systems CEOのテディ・クオ(Teddy Kuo)氏

より多くのユーザーに使ってもらうため、デュアルOS化

――そもそものお話からお聞かせください。まずは、なぜ日本市場に参入しようと考えたのか、そしてストレージシステム分野における日本市場の魅力とはどういったところにあるのでしょうか。

 日本は先進的な国で、我々にとっては非常に大切な市場です。IoT、インダストリー4.0といった動きが昨今日本でも活発になってきていますが、我々のQNAPのNAS製品は、それらに対していろいろなアプリ、機能を提供できるようになっていることを強調しておきたいと思います。

 また、この後の発表会でもお話ししますが、新しいQNAPのNASでは、独自OSのQTSだけでなく、Androidも搭載したデュアルOSとした製品もリリースするので、より多くの人、多くのパワーユーザー、多くの企業に使っていただけるだろうと考えています。

 そして日本市場は大変魅力的です。産業は全て自動化されており、例えば工場はもちろんサービスも自動化されているところがある。何もかも自動になっているうえに、あらゆる場所がネットにつながっている。QNAPのNASは、そういった自動化が進み、ネットワークにつながっている市場においては、大きな役割を果たすと信じています。アプリケーションやセンサーからネット上のクラウドまでの間で、我々の製品はゲートウェイやストレージとして機能するからです。

 また、そういった先進的な日本という国のユーザーには、我々QNAPのNAS製品は特に気に入ってもらえて、今後さらに活用していただけるのではないでしょうか。

――新たに発表する新製品の位置付けとその狙いについて教えてください。

 本日発表する主な製品3シリーズの中に、「TAS-168/268」と呼ぶ製品があります。これに従来のQTSとAndroidのデュアルOSが搭載されています。Androidはスマートフォンなどを中心にすでに市場で広く使われているOSですし、アプリストアであるGoogle Playには200万以上ものアプリが登録され、自由にダウンロードできます。つまり、QNAPのNASを使っていただける人を増やすというのがその狙いです。

 Androidを搭載したメリットは他にもいくつかあります。一般的なAndroidデバイスは、やはり容量的に足りていないと思うのです。スマートフォンだと多くが16GBや32GB、iPhoneであっても最大で128GBです。それに対してNASだと軽く2TBや4TB以上のストレージを搭載できるので、容量のうえではほとんど制限がないのと同じになります。

 さらにTAS-168/268にはHDMI端子が付いています。これまでのAndroidデバイスは、5インチからタブレットの12インチ程度までで、画面は小さいですよね。TAS-168/268はHDMIで60インチなどの大型ディスプレイに接続できるので、Androidのアプリやゲームを気軽に大画面で楽しめます。それに4K解像度にも対応しています。

QTSとAndroidのデュアルOS搭載NAS「TAS-168/268」
HDMI端子でディスプレイに接続できる

――ハードウェア面でも機能が増えてきましたが、これまでも独自OSのQTSは、何度もバージョンアップを重ねて多くの機能を盛り込んできました。QTSは、どういう考えの元に機能を追加・拡充してきたのでしょうか。

 QTSはLinuxカーネルベースのOSでして、専用のアプリとしてはせいぜい100個程度ですけれども、ユーザーをさらに増やしたい、より多くの人に使っていただきたい、ということを考えて、今回はTAS-168/268にAndroid OSを加えたデュアルOSとしたわけです。

 すでにエンタープライズ向けのNASには「Virtualization Station」という機能があります。この機能を利用することで、QTS以外に、WindowsなどのOSをNAS内に構築して、そこからNAS内のデータにアクセス可能ですが、こういった機能をはじめとして、とにかくより多くの人に使っていただくためにいろいろな機能を増やしてきています。今後はパワーユーザーやエンタープライズ向けのNASについても、デュアルOSにしていく方向になると思います。

――Androidを搭載するのが標準的になると、今後QTSはどのような位置付けになっていくのでしょうか。

各種ファイルを全文検索できる「Qsirch」

 QTSについては、主に2つの方向性で進めていきたいと考えています。1つは、エンターテイメント用途、すなわち一般ユーザー向けです。我々はこれまで一般ユーザーに対しては、「Qfile」や「Qphoto」といった、気軽に使ってもらえるユーティリティアプリを提供してきましたが、将来的にはエンターテイメントを意識したアプリ、例えばカラオケアプリを提供することも検討しています。カラオケボックスにわざわざ出かけることなく、自宅で楽しめるようにするものです。カラオケコンテンツは意外にストレージ容量が必要なのも、QNAPのNASで利用できるメリットになりえます。

 もう1つは、エンタープライズおよびIT分野向けです。エンタープライズやIT分野に対しては、データバックアップについてさらに進化させていきたいと考えています。現在は、バックアップしたデータに対して「Qsirch」というアプリがあり、簡単に素早く全文検索できるようになっています。すでに資料・データ管理の際に便利で使いやすいものになっていますが、さらに進化させることで、企業にとっては大きなメリットのある製品になるはずです。

IoT、ビッグデータを意識。日本法人を設立しサポート力も強化へ

物静かに話すクオ氏だが、日本のユーザーを増やしたいという強い意志がかいま見えた

――今のところ、どちらかというと国内ではコンシューマー向け製品の印象がやや強いQNAPですが、ビジネス・エンタープライズ向け製品については今後どのような動きがありそうでしょうか。

エンタープライズ向けの「TVS-ECx80U-SAS」

 QNAPは、コンシューマー向けの市場でかなり有名になってきました。が、実はコンシューマーよりも前に、エンタープライズ向けの方に力を注いできたんです。エンタープライズ向けの新しいNASとしては今日「TVS-ECx80U-SAS」を発表させていただきますが、それ以降の後継機種ではCPUを2個搭載するマルチプロセッサー化を進めていくことになります。

 法人ユーザーが高速にデータを保存でき、将来的にはビッグデータにも対応できるようなエンタープライズ向けNASを作っていくつもりです。マルチCPUのエンタープライズ向け製品は12月にリリースする予定です。

――NASベンダーは台湾だけでもいくつかのメーカーがあり、ユーザーからは違いが見えにくくなっている面もあります。QNAPとしてはどこを差別化ポイントとして訴求しているのですか。

 QNAPのNAS製品が他のメーカーと違うのは、搭載している標準OSのQTSがLinuxカーネルベースで、オープンソースであることです。オープンソースということは、誰でも使えるということ。そして、自由にアプリを作り、QTSに追加することが可能だということです。

 今後はIoT、ビッグデータに対して、商品をさらに進化させていきたい。QTSだけでなくUbuntu、Android、その他より多くのアプリが対応しているOSとコラボして展開していければ、と。こういった点は他のメーカーができないことであり、我々の存在意義であって、我々のNASに対するこだわりであると言えます。

――高機能、高性能は他社のNASでもアピールしています。それらに対してQNAPはどのあたりが特に優れているでしょうか。

 例えば台湾にある別のNASメーカーは、大変素晴らしいメーカーだとは思いますが、彼らの製品ラインアップはだいたい200ドル前後で、一般ユーザーにフォーカスしている印象が強いですね。それに対してQNAPは、パフォーマンス、OSの今後の展開、拡張性、サポート力、将来性なども含めて作っていますから、狙っているところが少し違います。我々のメインターゲットはパワーユーザーと企業。IntelのCeleronやAtomといった極めて信頼性の高いCPUを使い、高速で安定した動作を実現しているのが特徴です。

――競合となる日本の周辺機器メーカーと比べた場合の強みはどう訴えていきますか?

 日本のバッファロー、アイ・オー・データ機器、エレコムなども素晴らしいメーカーです。日本ブランドの製品は、品質的には安定していて、知名度も高い。我々としては、こういった日本メーカーに対抗するのではなく、日本市場で経験の長い彼らに学んでいきたいと考えています。

 おかげさまでQNAPは日本国内に日本法人を設立でき、支社を置くことになりました。10月にスタートし、5名でやっていますけれども、これからはますます日本市場に対してサポート力を強化していきます。これまで以上にテックウインドをはじめとする代理店をサポートしていくつもりです。

――他の国と比較して、日本の市場やユーザーには何か際立った特徴はありますか。

 QNAPのNASは世界中で販売していますが、日本のユーザーや企業が最も望んでいると思われるものは、その時点で一番新しく、最も高性能で安定した商品であることだと感じています。これまで以上に我々の技術を磨いていかなければ、と思っているところです。

組み込み機器が得意なグループ企業との連携も

――日本市場の今後の可能性についてはどう捉えていますか。

 我々QNAPのNASは単なるストレージシステムではありません。最初にお話しした通り、日本はものすごく先進的な国ですから、企業、産業など、多くの人にNASのデータ保存、バックアップや、それ以外の機能を存分に活用していただけるものと信じています。

 ちなみに、QNAPは台湾iEiグループの一員です。iEiは産業向け組み込み機器メーカーとして知られており、例えばPOS・キオスク端末や、産業向けのファクトリーオートメーション機器などの製造を行っています。日本にも長くさまざまな製品を提供してきました。

 スマートリテール、スマートファクトリー、スマートトランスポーテーション、スマートメディカルなど、あらゆる“スマート○○”について組み込み市場に供給してきましたから、それらと絡め、今後はNASに追加するIoTソリューションを日本に紹介していきたいですね。QNAPとiEiとの連携で日本市場に積極展開していきたいと思います。

――QNAPとしては、今後もあくまでもストレージシステムを中心に展開していくのですか。自前でストレージ自体を開発することは?

 HDD/SSDなどのストレージ製品は、参入・開発することはないと思います。それよりはむしろQTSのアプリを増やしたり、デュアルOSのようにOS間のコラボでアプリをどんどん拡充していくことの方が重要です。iEiとも連携して、QNAPのNASと組み込み製品をインテグレートしたような製品を日本市場に提供していくことも考えられますね。

 例えば今回発表する「TVS-871T」は、転送速度20Gbpsを実現するThunderbolt 2を搭載した製品で、インテルとアップルのソリューションを採用し、iSCSIにも対応していますが、このあたりは我々の組み込み機器に関する強みを活かして開発しています。

転送速度20GbpsのThunderbolt 2を搭載する「TVS-871T」
Thunderbolt 2、10ギガビットイーサネットポートをそれぞれ2ポート搭載する

――特定のHDD/SSDメーカーとパートナーシップを組んで製品開発を行うことは今後ありそうですか。

 我々はHDDメーカーのSeagateと連携しているイメージが強いかもしれませんが、今回発表する「TVS-ECx80U-SAS」のようなラックマウント型のエンタープライズ向け製品の領域に関しては、Seagateが強いんですよね。

 Seagateのストレージは、我々がこれまでテストしてきた中でも大変安定していてパフォーマンスも良いので、Seagateと手を組むというより、Seagateの高度な技術を選択させていただくという立場です。今後も特定のストレージメーカーと特別に連携するようなことはなく、どこのメーカーとも一緒にコラボしていければと考えています。

――ちなみにThunderbolt 3対応製品は発売する予定は?

 Thunderbolt 3対応製品については現在関係各社と話し合っており、必ずリリースします。すでに開発に取り組んでいるところです。

一刻も早くQTS 4.2へアップデートしてほしい

――一般ユーザーと中小企業がQNAPのNASを選ぶとしたら、どの製品がおすすめになるでしょう。

 NASを使ったことがない一般ユーザーでしたら、QTSになじむのにはやや時間がかかると思いますので、TAS-168/268がおすすめです。先述したようにQTSとAndroidのデュアルOSで、このNASについてはQTSの機能をかなりシンプルにしていることと、みなさん慣れているであろうAndroidをすぐに使えるので、活用しやすいはずです。

 中小企業向けですと、「TVS-x63シリーズ」になるかと思います。こちらはAMDのクアッドコアCPUを搭載していて、10ギガビットイーサネットカードを最初から内蔵しています。10ギガビット対応のおかげでネットワーク環境も快適になりますし、このシリーズは比較的お買い求めやすい価格帯ですから、多くの企業に受け入れていただけるのではないかと思います。

――ところでCEOご本人はNASをどんな風に使われていますか。

 最近毎日やっているのは、「Qsync」という機能を使ってPCのデータをクラウドにバックアップし、その後「Qsirch」で全文検索するという使い方です。Windowsの検索機能でPC内を検索するのはあまり効率的ではありませんが、QNAPで検索すると実に快適です。

――最後に、すでにQNAPのNASを使っているユーザーに対して何かメッセージがありましたら。

 ものすごく簡単な一言ですが、QTS 4.2に一刻も早くアップデートしてください(笑)。ユーザーから要望の多かったストレージイメージのスナップショット機能やGmailのバックアップ機能など、さまざまな新しい機能を導入しています。

 今後のQTSのアップデートに関しては、ハードウェアにも関わってくるところですが、目標としてはその機種の発売後5年以上を目安に提供していきます。組み込み機器の長い経験から考えて、5年以上は絶対、できれば7年間は保証したいというのが我々の方針です。

日沼 諭史