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ノキア、IoT時代に向けた事業戦略を発表、「データ自体に付加価値を与えて他社と差別化図る」

 ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社が25日、IoT事業についての戦略説明会を開催し、同社取締役IoT事業推進担当の西原政利氏とテクノロジー統括部長の柳橋達也氏が、ノキアのIoTサービス基盤「IMPACT」とその活用事例を紹介した。

 ノキアによると、日本における2020年のIoT市場は、約2兆5~6000億円規模になるという。自動車、製造業、スマートシティ、小売サービスなど各分野において、アプリケーション、分析、エンドユーザーサービスが占める割合は88.5%になると予測。今後も新たなプレーヤーやソリューション、収益源が出てくる可能性がある。西原氏は「各ユーザーの要求に応えられるようなIoT基盤をきちんと作らなければいけない。拡張性、柔軟性、堅牢性・信頼性を兼ね備えたIoT基盤を提供していきたい」と述べた。

 日本における事業展開としては、IoTサービス基盤「IMPACT」の国内提供開始、世界250社が加盟するIoT分野のコミュニティ「ng connect」プログラムの活動強化のほか、日本のIoT事業の開拓に投資することを挙げた。

日本におけるIoT市場(予測)。2020年には2兆5~6000億円規模になるという
従来、M2MやIoTを実現するための仕組みは、単一のデバイスのみがつながる垂直指向のサービスモデルとなっていた
ノキアでは単一データを複数のアプリケーションで活用するサービスの実施を目指す
ノキアのIoTプラットフォーム「IMPACT」
ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社取締役IoT事業推進担当の西原政利氏

 柳橋氏は、IMPACTの概要、活用事例を紹介。従来のM2M、IoTを支えるシステムの仕組みは、特定のアプリケーションやデバイスに密接に紐付いているため、似たようなサービスを作る際、同じような仕組みを新たに作る手間が発生する。また、コストがかかり、タイムトゥマーケットを行いにくい問題がある。柳橋氏は「これまではデバイスからデータを吸い上げること自体がゴールになっていた。IoTをより人間社会の発展のために進めていくにあたり、データ自体に付加価値を与えることが仕組みとして必要になる」という。

 デバイスから吸い上げたデータを特定のアプリケーションやサービスに特化するのではなく、複数のサービスに積極的に提供する展開が重要になると同社は提案する。そこで、アナリティクスやディープラーニングをサービス基盤側で用意し、データの共有化を行っていく。分析したデータの結果をデバイスやサービスに対して展開することで、データの価値を高めることができるとしている。

 IoTサービス基盤となるIMPACTには、アプリケーションの実行環境、データ収集・処理、デバイス管理、接続管理(CMP)、セキュリティの5つの機能を備える。また、NB-LTE-M、EC-GSM、5G/4G/3G/2G、LoRaなど多種多様なアクセスにも対応することを特徴としている。同社の考えるIoTサービス基盤の重要性とは、これらの要素から構成されており、包括的な機能をサービス基盤に持たせることで、他社サービスとの差別化を図っているという。

 サービス基盤としてデータを活用する例として、「Nokia Video Analytics」を挙げる。今後の監視カメラの設置台数増加に伴い、画像が埋もれ、重要な情報を見つけるのが困難になると考えられる。そこで、撮影された映像をセンサーのように扱う技術をサービス基盤側で用意する。

 ビデオフィードから人の進行方向、速度、密度を情報として得ることができ、もともと想定した振る舞いや過去数週間にわたって学習した振る舞いと比較することで、異常状態を検知することが可能になる。また、小売店に導入することで、顧客の流れを観察してマーケティングに活用するといった使い方も可能。「メリットは、画像をそのままアプリケーションのデベロッパー側に返すのではなく、プラットフォーム側で実行した解析結果を渡すこと」と述べる。

 セキュリティ面では同社が提供する「Nokia Net Guard」が活用できる。車のハッキングで遠隔制御が可能になった事例があるように、IoT時代におけるセキュリティはますます重視される傾向にある。Nokia Net Guardは、車の各デバイスのモニターが可能で、IMPACTとの連携により、不審なデータ通信状態を検知可能。その結果を数値としてフィードバックするようになっており、必要に応じて該当するデバイスをネットワークから切り離したり、ファームウェアの更新を実行することができる。

「Nokia Video Analytics」でビデオフォードから対象物の動き、速度、密度を取得
IoTセキュリティ対策として、「Nokia Net Guard」を提供。不審なデータ通信を検知して不具合を認定できる

 IMPACTを実際に導入した米国の通信事業者Verizon Telematics、ドイツの自動車会社メルセデス・ベンツでは、車のエンジンや窓の開閉などをスマートフォンで制御するサービスをIMPACTを介して実現している。また、メルセデスのITシステムに車の状態やドライバーの振る舞いの情報を提供する仕組みもある。これにより、車を直接持ち込まなくとも、ディーラーは車の状態をある程度把握するといったことができる。

 ドライバーの情報、運転の振る舞いをプロパティとしてサードパーティに再販するビジネスモデルも将来的には考えられるという。例えば、乗った距離に応じて料金が変わる保険プランがさらに進化し、ドライバーの乗り方(運転が荒い、丁寧など)に応じて料金が変わるようなことも技術的には可能になるという。

「IMPACT」を導入したVerizon Telematicsとメルセデス・ベンツの事例

 また、トライアル中ではあるが、ng connectを使った事例として、ニュージーランドのブロードバンドプロバイダーであるChorusの例を紹介。バスの待合所にブロードバンドコネクティビティを提供することで、待合所自体がIoTハブ、IoTイネーブラーになると考えられている。例えば、リアルタイムのバスの運行状況、ルートの検索などができるタッチパネルを設置し、ユーザーの使用状況など各情報を吸い上げることで、ピンポイントな広告をディスプレイに表示できる。また、モバイルバックホールとして利用するために、モバイルオペレーターがスモールセルを設置し、セルラーコネクティビティを提供しながら待合所所有者から接続料を徴収するといったビジネスモデルなど、さらなる収益をもたらすことができるとしている。

ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社テクノロジー統括部長の柳橋達也氏

 柳橋氏は、「IMPACTはすでに8万種類のデバイスに繋がっている。今後も、国内市場で積極的に展開していきたい」と意気込みを語った。