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品川女子学院のプログラミング教育、狙いはビジネスプランを具現化する実践力

「Progate」が初のプログラミング特別講座でバックアップ

 その日の授業が終わった夕方、数十台のノートPCが設置された品川女子学院内のセミナールームに集まったのは、17名の生徒たち。「Swiftもくもく会」と名付けられたプログラミング学習の特別講座がスタートした――。

 中高一貫女子校である品川女子学院(東京都品川区)が、オンラインプログラミング学習サービスの「Progate」と共同で、高等部1年生を対象としたプログラミング特別講座を実施している。数年前からIT教育やプログラミング教育をカリキュラムに取り入れている同校の狙いは、単なるプログラミングの知識やコーディングスキルの向上だけでなく、ビジネスアイデアを形にする実践力を身に付けさせることだ。

中学1年で「Scratch」、高校1年で「Swift」のカリキュラム

 特別講座は2月14日と18日の2回に分けて実施。オンラインプログラミング学習サービスを提供するProgateの仕組みを利用し、Progateのスタッフが直接生徒と対話しながら学習する。前半の20分ほどはProgateの会社説明に充てられたが、その後の1時間余りは生徒たちがひたすらノートPCに向かい、それぞれの課題をまさに「もくもく」とこなしていく。

オンラインプログラミング学習サービス「Progate」の説明を聞く生徒たち

 品川女子学院は2016年度、中等部1年生に「Scratch」を用いたビジュアルプログラミング学習を、高等部1年生に「Swift」によるプログラミング学習を、それぞれカリキュラムとして用意している。今回の特別講座は、そのカリキュラムの中で使用しているProgateによるオンライン学習を、自主的に進めたいと希望する生徒を集めて開かれた。授業外で実施するのは、高等部では通常のプログラミング授業が1年生の3学期に7時間しか確保できないというのが大きな理由。担当教諭の竹内啓悟氏は、「何か1つのアプリを作るのには授業だけでは足りない」と話す。

高等部1年生が学んでいる言語は主にSwift。生徒によっては“おまけ”のRuby on Railsまで進んでいる

 同校では数年前からIT・プログラミング教育に力を入れてきた。前年の2015年度はHTML/CSSコーディングをテーマにしており、今回の2016年度はアプリ開発言語のSwiftを選択。過去にはObjective-Cを授業で教えたこともあったが「惨憺たる結果だった」と竹内氏は振り返る。「環境構築だけで非常に時間がかかってしまう」のが難点だったようだ。しかし、Progateはすべての学習がオンライン上で行なえるため、プログラミングに必要な環境構築の手間を省ける。本格的なプログラミング言語であるSwiftの学習を、スムーズに授業に取り入れることが可能になった。

ひたすら「もくもく」とレッスンを進める生徒たち
生徒によってもちろん進度にも差はあるが、当日は自分で目標を宣言し、マイペースで学習していた

プログラミング教育は、ビジネスプラン作成のカリキュラムとセットで

 品川女子学院がプログラミング教育を重視する理由は、プログラミングスキルを身に付けさせたい、ということだけでない。同校が生徒全員に与えている「ビジネスプランを作成する」カリキュラムとセットにすることで、そのアイデアをより具体的な形に落とし込めるようにするためだ。アプリやウェブサービスも自らの手で開発できれば、アイデアをアイデアだけに止めることなく、場合によってはそのままビジネスとして成り立たせることも可能だろう。

 実際に、自らが考えたアプリ/サービスを一般のビジネスコンテストに応募して賞を獲得したり、大学進学後に創業を検討したりする生徒も現れてきている。授業では生徒によって進度・理解度に差はどうしても出てくるものの、どの生徒もプログラミングの授業を受ける様子はいたって真剣で、「拒絶することもなく、ちゃんとやっている」と竹内氏。Progateによるプログラミング学習は順調に成果を上げつつあり、「2017年度からは中等部1年生からSwiftをやりたい」と意気込む。また、一般のエンジニアを招いて生徒と合同の「もくもく会」の開催も視野に入れているという。

Progateのスタッフが時折アドバイス。和やかな雰囲気の中、あっという間に下校時間となった
セミナールームのPCの画面すべてを同時に監視できるようにしている
担当教諭のPCでは、Progateにおける生徒1人1人の学習進度をチェック可能

「前はオブシー、最近はSwift」と話す生徒、マイPC持ち込みで「Ruby on Rails」のレッスン

 特別講座を受講した生徒の1人は、「プログラミングが好きだし、楽しい」と声を弾ませた。以前から機械に興味があったという彼女は、3年前からPCを本格的に使い始め、その後、PCやプログラミングが将来必ず役立つものになると親を説得し、マイPCをゲット。中高生向けのプログラミングスクールなどにも積極的に参加して、スマートフォンアプリコンテスト「アプリ甲子園」では決勝進出を果たしたという。

マイPCも持ち込んで、当日はRuby on Railsのレッスンに取り組んでいた生徒。将来はエンジニアを目指したいという

 「前はオブシー(Objective-C)を使っていたけど、最近はSwiftを使っている」と話す、完璧な“テック系”女子高生。Progateのレッスン進度は、今回の特別講座の参加者の中で最も進んでいる。とはいえ、バレンタインデーだった取材日の前日には「クッキーを焼いた」と笑い、普通の女子高生らしい一面ものぞかせた。

 将来は情報系学科のある大学に進学し、「技術を磨いてエンジニアになりたい」とすでに目標を定めている。「プログラミングが仕事で必要とされる機会はこれからどんどん増えていくと思う。自分の好きなプログラミングを仕事に活かせることに、すごく可能性を感じています」と目を輝かせた。

プログラミングの進化に、教育が取り残されることがないように

 今回の特別講座を受け持ったProgateは、Swiftを含む11言語に対応するプログラミング学習用コンテンツを提供しており、会員数は現在約12万人。オンラインコンテンツは、一般ユーザー向けには各レッスンコースの初級のみ無料で、それ以降は月額980円(税込)で利用できる。教育機関向けのプランは2016年末から提供を開始したばかりだが、すでに全国10校が導入しているという。

 教育機関向けのプランでは、2言語まで自由に選択して生徒に学ばせることができる機能制限版として無償提供している。今回のようなリアルイベントの特別講座は初めての試みだが、これも無償開催。Progate CEOの加藤將倫氏は、「将来のユーザー増につながる」ことも見越したCSR的な活動と位置付けている。

 2020年の小学校におけるプログラミング教育必修化の流れも念頭に、「プログラミングを取り巻く環境は今後、大きく変わっていく。プログラミングの進化は速く、それに教育が取り残されることのないよう全国の中学・高校にProgateによるプログラミング教育を広めたい」と語った。

東京大学の在学生が立ち上げたProgate。そのCEOを務める加藤將倫氏