「デジタル音楽はタダ」国民性の乱れと憂慮、レコ協・石坂会長


 “ダウンロード違法化”を盛り込んだ改正著作権法が2010年1月1日に施行されることを受け、日本レコード協会(RIAJ)の石坂敬一会長が18日、記者懇談会であいさつし、音楽の合法ダウンロード市場の形成に重点的に取り組むスタンスを示した。まずは著作権の啓発活動に取り組むとしており、すでに「守ろう大切な音楽を♪」と題したキャンペーンも展開している。

日本レコード協会の石坂敬一会長

 “ダウンロード違法化”とは、違法に配信されている音楽・映像を、違法と知りながらダウンロードすることを、私的使用目的であっても権利侵害とするもの。私的使用のための複製について規定した著作権法第30条の改正により盛り込まれた。この法改正について石坂会長は「長い間、レコード協会が宿願として目指していたもの。文化庁のたいへんな尽力と関係諸団体の協力を得て実現した」とコメントした。

 日本における音楽配信ビジネスの現状については、携帯電話向けの売り上げが圧倒的で、音楽配信ビジネス全体の約9割を占めていると説明。ところが、その一方で携帯電話向けに違法にアップロードされた音楽ファイルが問題になっており、RIAJが2008年に行った調査によると、携帯電話による違法音楽ファイルのダウンロード数は年間4億714万件に達するという。

 これは、正規の携帯電話向け音楽配信の3億2400万件を上回る規模となる。石坂会長は、「正規市場に対して126%の大きな市場が違法で形成されている。これを放置するわけにはいかない。音楽配信市場の健全な発展を阻害する要因を取り除き、何とか正しい市場形成を狙うことが協会の最重点施策の1つ」と強調した。

 石坂会長はまた、道義的・倫理的な側面でも啓発の必要性を訴えた。「CDという固形物を万引きすることは、おそらく多くの若者にとって悪いことだという認識が徹底しているのに対して、音楽ダウンロードは無形のものであるため、いともたやすく法律に違反したり、道義に反する行為に出る。CDは盗まないが、デジタル音楽はタダでもらっちゃう」と指摘。「これほど国民性が乱れるのを容認するのは、大げさに言えば歴史上初めて」と憂慮した。

“ダウンロード違法化”きっかけに、中高生へ著作権啓発を

 RIAJでは、今年3月に著作権啓発・違法配信対策のワーキングチームを発足。改正著作権法の施行のタイミングなどに合わせてキャンペーンを展開すべく準備を勧めてきた。

「守ろう大切な音楽を♪」キャンペーンポスター

 10月1日に開始した「守ろう大切な音楽を♪」キャンペーンは、1)著作権法第30条が改正された理由と、改正内容を理解してもらうこと、2)音楽創造サイクルの大切さを知ってもらうこと、3)正規音楽配信サイトを判別するための「エルマーク」の周知徹底――の3点が目的。携帯電話やインターネットを利用して音楽を楽しむ機会が多い中学生・高校生を主な対象としており、学校を通じて著作権啓発の標語やポスターを募集している。締め切りは12月11日。

 キャンペーンでは特設サイトを用意し、“ダウンロード違法化”の意味や、ユーザーが支払う対価がなければ新しい作品やアーティストが創出されないという、音楽創造のサイクルについて解説。RIAJでは、募集キャンペーンを通じて「中高生が著作権について考えてもらうよい機会になれば」と述べている。実際、中学・高校の現場では著作権教育に苦労しているところも多いようだが、キャンペーンに応募した学校の先生からは、子ども達に身近な音楽を通じて著作権について考えることができるとの声もあるという。

 12月6日には、新宿駅東口の新宿ステーションスクエアにおいてリアルイベントも開催する。改正著作権法第30条やエルマークについて説明するほか、著作権啓発のためのノベルティも配布する。また、レコード会社10社から10組のアーティストが参加し、著作権啓発のメッセージを発信するという。さらに、国際レコード産業連盟(IFPI)のジョン・ケネディ会長も駆け付け、石坂会長らとのトークセッションも予定している。

 なお、改正著作権法が施行され、“ダウンロード違法化”となった後も、違法ダウンロードを行った者への罰則は設けられていない。今後もアップロード者に対しては刑事告訴や損害賠償請求という手段をとっていく一方で、ダウンロード者に対しては、現段階では啓発キャンペーンを通じて訴求していくというスタンスだ。

 ただし、違法音楽配信サイトの利用者の中には、特定の作品を指定して違法アップロードを促すような書き込みをするなどの事例も見かけられるとしており、そうした悪質な違法ダウンロード者に対しては、同様に損害賠償請求も検討していくことになるという。


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(永沢 茂)

2009/11/18 19:50